2話 討伐依頼
追記:文末の・・・を……に変更しました。
おっさんに言われたとおりギルドの中で待っていると、カウンターの奥からおっさんが現れた。
「おう待たせたな。こっちに来い」
おっさんに促されるまま、カウンター横にある階段を上って2階にあがる。よくよく考えたら2階に上がるの初めてだ。
「なんだ、キョロキョロして。2階に上がるのは初めてか?」
「うん、今のところ用も無かったから……」
「そうか、2階には会議室がある。基本的に金さえ払えば誰でも借りられる」
「え、部屋借りるのに金がかかるんですか?」
「当たり前だろ。冒険者ギルドだって慈善事業じゃないんだ」
そうなんだろうけど……俺マジで貧乏だからな。未だにアサギに借りた金を1ゼムすら返してない。渋い顔をする俺を見ておっさんが笑った。
「心配すんな。訓練カリキュラムの一環だから、今日はギルド持ちだ」
あからさまにホッとする俺を見て、おっさんが呆れた顔をする。
「そんなに金が無いのか?」
「無いどころか借金があります」
「おいおい、いくらその日暮らしの冒険者だからって借金はいかんぞ。
ちゃんと返せるのか?」
「胴元がアサギなんで、まだどうにか……」
「なんだ、お前アサギの尻に敷かれてるだけじゃなく頭も上がらんのか」
「しようがないでしょ、採取だけじゃやってけないっす」
「……まあ、それもそうか」
おっさんとしても採取だけしか受けさせない現状が貧乏に繋がっていると理解してくれたのか、それ以上は何も言わなかった。
「おっと、この部屋だ」
1つのドアの前で足を止めたおっさんは鍵を開けて中に入る。
「適当に座ってくれ」
おっさんに言われるまま中に入る。中は学校の教室半分くらいの小さな部屋だった。机が1つに椅子が4つ。壁際に水差しとコップがいくつか置いてある。とりあえず、一番近い椅子に腰を下ろす。おっさんは向かいの席に座った。
「さて、色々と話があるんだが……その前にお前から何かないか?
訓練を始めてから1か月だ、何か聞きたいこともあるだろう」
何かって……ああ、この機会だからステータスの伸び悩みについて聞いてみるか。
「じゃあ1つだけ。訓練始めた頃よりもステータスの伸びが悪いんだけど、これって何か理由があるんですか?」
するとおっさんがニヤッと笑った。どうやら聞いてほしいことを聞いたようだ。
「そろそろだとは思ってたが、やっぱり伸び難くなっていたか」
「これってどういうことなんですか?」
「ステータスにレベルって項目があるだろう?お前、これがなんだかわかるか?」
確かにレベルの項目がある。初めは1だったみたいだけど、俺の場合森の中でゴブリンを倒していたから最初から3になっていた。
「レベルが上がると、ステータスにボーナスみたいのがあるのかと思ってました」
「なんでそう思ったんだ?」
そりゃ地球のRPGではそうだから……とは言えないよな。
「なんとなく?レベルが上がったらボーナスもらえたらいいなって……」
「そんな都合がいいわけがあるか。レベルってのはな、器なんだよ」
「器……ですか?」
「ああ、冒険者の中にも知らないやつは結構いるがな。レベルを上げないまま鍛錬をし続けても、どこかで頭打ちになる。当然ステータスの伸びも悪くなる」
「ああ、そういうことなんですか」
つまりレベルを上げずに練習ばっかりやっても、一定以上には強くなれないってことだ。
「どうやったらレベルが上がるんですか?」
「レベルを上げるには実戦経験が必要になる。実戦に勝る経験はないからな。
実戦でレベルを上げて、練習で反芻する。そして、それを実戦で試す。このサイクルができて初めて人は強くなる」
まあ理に適ってると言えるか。地球でも練習はあくまで本番の為のもので、練習だけしてても本番で力を出せなければ意味がない。
「じゃあ、このままダッジさんから訓練を受けても俺はこれ以上強くなれないじゃないですか」
「今までのお前は、そもそものステータスが低過ぎた。そんな状態じゃ実戦に放り出してもすぐ死んでしまっただろうよ。こうやって下地を作った今だからこそ……」
「実戦ってことですか……」
「そこでお前には依頼を受けてもらう」
「じゃあ、やっと討伐依頼を受けられるんですね!」
やっとだ、ヤバイなワクワクが止まらない。
「ところで、しばらくオレと訓練してお前はどんな拳闘士になりたいと思った?」
なんだ突然。どんな拳闘士になりたいか?そんなこと考えたこともなかった。
「どんな拳闘士って……どんなのがあるんですか?」
「そこからか……。まあ、これは拳闘士に限った話じゃないんだが、例えば同じ剣士でもスタイルってものがある」
そう言われれば理解できた。つまりタンク型かアタッカー型か、それも重装備でゴリゴリ行くのか俊敏に相手を翻弄するのか。確かにスタイルは重要だな。
「さっきの模擬戦で感じたのは、俺はカウンターを狙っていきたいです。それも相手に捕まることなく、隙を伺ってズドン……みたいな?」
「ああ、だいたいわかった。なら、お前にはこの依頼を受けてもらう」
そう言っておっさんは1つの依頼書を机の上に置いた。
「一角兎の素材を集める依頼?」
「そうだ。この一角兎ってのは魔物の中では弱い部類なんだが、用心深くてなかなか見つからない。見つけたとしても、素早くて倒すのが難しいんだ」
「……つまり?」
「かぁ!ここまで言ってもわからんのか」
「すいません、知能2っすから……」
おっさんから視線を逸らす。しばらく俺のことを睨んでいたけど、やがてでっかい溜息をついた。ごめんね、バカで。
「つまり、この一角兎を捕まえるためには相応の瞬発力が必要ってことだ。そうじゃなきゃ拳闘士じゃ近づくこともできん」
「ああ……ああ、そういう事!」
この依頼を受ければ訓練と同時に実戦経験も積めるって事か。
「なら、そう言ってくださいよ」
「お前が予想以上にバカだっただけだ」
「すんません、バカで」
「まあいい、これからも午前中は採取の依頼を受けろ。同時にこれからは、一角兎の素材集めの依頼を受けるんだ。いいか、これ以外の討伐は受けるなよ?」
「え、採取も受けないとダメですか?」
「ダメって訳じゃないが、最初は一角兎なんか捕まえられんぞ。
今以上に貧乏になってもいいのか?」
「……採取も受けます」
みんな貧乏が悪いんだ……。
「採取の合間に見つけた一角兎を倒せばいい。どうせ、そんな簡単に一角兎は見つからんから、効率良く狩りをすることだ」
「わかりました」
「ただし!捕まえられても、られなくても午後には今まで通りギルドの訓練場で訓練をするからな?すっぽかせば……どうなるかわかるな?」
その視線に、俺はブンブンと首を縦に振った。
とは言え、やっと討伐の依頼が受けられるんだ。俺はそのことが嬉しくて舞い上がっていた……その後におっさんが注意点を言っていたのに、まったく耳に入ってこないくらいに。




