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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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51話 アレクを探せ

玄関から建物に入って、まず目についたのは傷ついたテーブルや壁だった。恐らく、中に入ってからも激しい戦闘があったんだと思う。だけど、ここにはアレクもガーゴイルの姿もない。


「そんなに大きな建物じゃない。ここに居ないって事は、上の階か?」


入る前に見たのは、3階建てのそこそこ大きな建物だった。恐らく、宿屋か何かだったんだろう。今俺がいる場所は、食堂だったのか大きめのテーブルが壊されて散乱していた。


「羊の夢枕亭以外は、ウドベラの宿屋しか知らないけど多分宿屋の作りなんてそんなに変わるものじゃないだろう。だとすると1階は食堂にキッチン、後はリネン室とかだろう。2階は客室と従業員の為の部屋。3階はグレードの高い部屋って所か。音が聞こえてこないって事は、3階にいるのかもしれない」


注意しながらキッチンへの扉を潜る。元々なのか、ドアは無かった。中に入ると、鉄錆の臭いが充満していた。


「まさか……」


アレクがやられたのか?そんな不吉なイメージが頭に浮かんできた。頭を振って、不吉なイメージを払い落とす。大丈夫、あいつはそんな簡単に死んだりしない。中央にある大きなテーブル、恐らく調理台なんだろう。その死角を確認するため、少しずつ中に入っていく。調理台を回り込むように足を進めると、その陰から人の足が見えた。その足は投げ出され、力が入っているようには見えない。


「……マジでフラグ回収なんて、止めてくれよ」


更に進むと、床に黒くなりかけた血溜まりがあった。そこまで行けば、ある程度全貌が見えてくる。


「アレク……じゃなかった。だけど、この人は……」


俺の眼に飛び込んできたのは、ガタイの良い中年くらいの男性が床に座って事切れている姿だった。恐らくは、ここの宿屋の料理人。ミリアムさんの事を考えると、ひょっとしたら宿屋の経営者だったのかもしれない。


致命傷は、肩口から脇腹まで伸びた爪痕。恐らくガーゴイルがやったんだろう。


「助けられなかったか……。ゴメンなおじさん、後で戻ってきたら供養するよ」


亡くなった人には悪いけど、今は生きている人間を優先しよう。ここにはガーゴイルがいなかったので、食堂に戻る。そして入り口から見て左手に上への階段を見つけた。


「上は……暗くて良く見えないな。音が聞こえてこないから、近くには居ないと思うけど」


2階に上がるため、ゆっくりと階段に足を乗せる。


ギシッ


見た目からしても、建ててから結構経っていると思ったけど、その見た目通り結構古い建物みたいだ。体重をかけると、階段から軋んだ音が響く。近くに敵がいれば、この音で気付かれそうだ。更に注意しながら、一歩一歩階段を上っていく。2階まで後数段という所で、頭が2階の床を超えた。2階は暗く、物音もしない。


「……この階には、誰もいないのか?」


ゆっくり残りの階段を上って、2階の床を踏みしめた。3階への階段は、別の場所にあるらしく2階を調べる必要があるようだ。


「全ての客室を調べたいけど、まずは集音で中の音だけ確認して先に進もう」


階段を上がり切った場所から、左右にドアが並んでいる。さて、どっちに行こうか。右を見て、左を見て……まずは左側から見ていくことにする。特に理由は無いんだけど、左右で迷った場合は左からって言うのが俺のマイルール。


「部屋数は、左に……3。右も同じと考えると、1フロアに6部屋か。結構大きいな。羊の夢枕亭は1フロアに4部屋だったから、ここは羊の夢枕亭よりも良い宿屋だったのかもしれない」


ドアに耳を付けて、集音で中の音を、気配感知で生物の気配の確認をする。今調べた部屋には、誰もいないみたいだ。そして、1つ1つの部屋で同じ確認を行い、左側の客室には誰も居ない事を確認した。ついでに階段も無かったので、恐らく右側にあるんだろう。


1階への階段の所まで戻ってきた。同じ要領で右側の客室を調べる。2つ目の部屋までは何もなかったけど、3つ目の部屋で異変があった。異変があったと言うか、部屋のドアが壊されていて、中が丸見えになっていた。そして、部屋の中には……。


「……ガーゴイル。胸に穴が開いてて、完全に破壊されてるな。アレクがやったのか?」


部屋の中には、1体のガーゴイルの死骸が転がっていた。どうやらアレクが戦闘して、ここで1体を倒したみたいだ。その結果に少しだけ安堵して、先に進むことにする。3部屋目の更に先に、左側に通路が折れ曲がっていて、その先に上にいく階段が見えた。


「階段は見つかったな。だけど、ここまで近づいても物音がしないのが気になる。ひょっとして、戦闘はもう終わったのか?」


そうだったとしたら、アレクはどうなったのか?一抹の不安を覚えつつ、階段を注意しながら上がっていく。3階の床よりも頭が上に出たことで、3階全体も見渡せるようになった。このフロアも、他のフロア同様に薄暗く視界が悪い。注意して階段を上り切って、3階に到着した。


「構造は2階と同じか……さて、アレクとガーゴイルはどこにいるのか」


極力音を鳴らさないように歩きながら、目に着いた客室のドアに近づく。ドアに耳を付けて集音で屋内の音を拾う。更に気配感知で中の様子を探ってみるけど、やっぱり何もヒットしない。諦めて左側に歩いて行こうとすると、廊下に大きな痕跡を見つけた。


「壁に傷が……これは剣で斬りつけた痕か?って事は、アレクはここでガーゴイルとの戦闘になったんだな」


壁の傷痕に手を添える。そこから更に奥に目を凝らすと、2つ先のドアが廊下転がっていた。戦闘状態のまま、部屋の中に入ったのか。音は聞こえないし、気配も感じない。すでにその部屋には誰もいないようだけど、確認だけはしておきたい。


ドアの横に身体を添わせて、首から先だけで部屋の中を確認する。そこは激しい戦闘の痕と……。


「ガーゴイル……それに、折れた剣。これは、アレクの剣か」


まずい、恐らくアレクはここでの戦闘中に唯一の武器である剣を壊してしまったんだ。見ればテーブルや椅子、壁に至るまで爪痕や剣の斬撃痕が付いている。余程激しい戦闘だったんだろう。


「こっちのガーゴイルは頭が無い。こいつを倒して戦闘が終了したのか……それとも、他のガーゴイルに追いつめられて別の場所に行ったのか」


アレクを追いかけていったガーゴイルの数は、はっきり覚えていない。ただ、ここまでで2体の死骸しか見てないので、まだ残っている可能性の方が高い。そう思った瞬間、ゾクリとした感覚が身体を這い上がっていく。ここで武器を失ったアレク、3階に上がっても物音1つしない事から戦闘は終わっている。この2つから導き出される答えは……。


「やばい、悠長に調べてる場合じゃない!」


部屋にアレクが居ない事は確実なので、この部屋の事は後回しにする。2階と同じ構造と考えると、右側にも3部屋あると思われる。アレクは、間違いなくそのどこかにいるだろう。俺は、右側の部屋の方に向かって駆けだした。


「アレク……頼むから、生きててくれよ」


2階への階段を超えて、残り3部屋を視界に入れる。1部屋目は、扉も閉まってて普通に見える。奥の2部屋目と3部屋目は、どちらもドアが吹き飛んでいた。焦る気持ちを落ち着けて、1部屋目のドアの前を通る。横目で見ると、扉や壁に大きな爪痕が付いていた。さっきの部屋で武器を失って、ここまで逃げて来てガーゴイルに攻撃されたのか?歩を進めて、2部屋目に近づく。扉の無くなった部屋の入り口から中を覗く。ここも激しい戦闘があったのか、嵐が通り過ぎたかのような酷い有様だ。


「……ここにはアレクも、ガーゴイルもいない。となると、どっちも隣の部屋か」


部屋を出て、最後の部屋に向かう。部屋の入り口から中を覗くと、そこはVIPルームなのか今までの部屋とは大きさも間取りも違っていた。部屋の入り口からすぐに部屋がある訳ではなく、廊下があって3つの扉が見える。ゆっくりと中に入って、1つ1つの扉を確認する。一番手前にあった扉は、奥に向かって開かれていて中の様子が見えた。そこは、小さな部屋で誰も居ない事が一目瞭然だった。


「ここにはいない。他に行こう……」


部屋を出て、2つ目の扉に近づく。集音で音を拾うと、扉の中から微かに音が聞こえた。ここに来て、初めての生きた音。一気に戦闘態勢に入って、ゆっくりと扉を開く。


ギィイィィィ……


部屋の入り口から、警戒して中に入る。1歩、2歩、3歩目を出すタイミングで中から何かが飛び出してきた。


「ギギャギャァァァ!」


ガーゴイル!咄嗟に身体を開いて、飛びかかってきたガーゴイルをやり過ごす。身体のすぐ横を、石でできた爪が通り過ぎていった。


「っと、危ねえ……。奇襲とは、石の知能で良く考えたものだ!」


すれ違い様に、身体を捻ってガーゴイルの頸椎に肘を叩き込む。


ガキィ!


頭と胴体が切り離される。胴体はその場に、頭は数m飛んで壁にぶつかって止まった。他に敵は……。


「…………なしか」


警戒を解かないまま、中の様子を伺う。幸い、それ以上の敵は出てこなかったので、軽く部屋の中を調べて外に出た。今の部屋は、軽い軽食を作ったりするための部屋みたいだ。


「後は、この部屋だけだ……」


廊下から一番離れた場所にあった扉。それは2枚の扉で構成された、観音開きの扉だった。見たところ、手前に引けば扉が開きそうだ。アレクの身が心配だから、躊躇することなく扉を引いて開ける。


ガチャ……キィイィィィ……


中に気配はしない。様子を見てみるけど、さっきみたいに突然襲い掛かられるって事は無かった。部屋の中に入ると、そこはリビングになっていて、ゆったり座れるソファに高価そうな家具。そのどれもが、ひっくり返されていたりで、ここも嵐が過ぎ去った後のように見える。


「多分、アレクはここのどこかにいる」


もう他に探すところはない。広いリビングを警戒しながら探し回る。すると、酒場のカウンターのような場所の裏に1体、外に面した壁の側い1体のガーゴイルがいた。見た感じ、特に大きい損傷もしないまま動かなくなっているガーゴイル。どちらも、すでに倒された後なのか動かない。


「これで、アレクを追いかけたガーゴイルは全部か?でも、肝心のアレクが見つからないな。あいつ、一体どこに……」


考え事をしていると、突然死んだと思ってたガーゴイルが襲い掛かってきた。


「ギャギャァ!」


足元を狙った爪攻撃。それを軽くジャンプして躱す。そのまま、床を這いつくばっているガーゴイル目掛けて落下。


「ギギャギャ!?」


ゴキリ!


騒ぐガーゴイルにプレスを決めて、身動きできないようにする。その上で、頭部分を殴り飛ばす。すぐに立ち上がって、周りの警戒をする。こいつら1体ずつなら、大した脅威にはならない。だけど……。


「魔物が死んだフリをするなんて……」


そこまで知能が高いようには見えなかった。だけど、今回のは間違いなく死んだフリだ。まさか、魔物がそんな頭脳戦を仕掛けてくるなんて。それよりも、ガーゴイルは後1体いたはずだ。最初に見つけたカウンターの裏側にいたガーゴイルを調べる。魔物が死んだフリをした以上、確認しないと確実に死んでいるのかの判断がつかない。


一気に身体をカウンターの裏まで滑り込ませて、死んでいたガーゴイルを調べる。良かった、胸の周りに開いた穴が致命傷だったのか。念のため、頭と胴体を分離させて確実に死んでいることを確認する。


「他に部屋は無い。だったら、アレクはどこにいったんだ?」


改めて部屋を見回す。ここに来るまでにも調査しているんだ、他にめぼしい物も見つからない。完全に手詰まり状態だな。一度VIPルームを出て、さっき調べなかった部屋を調べる。


「こうなったら、根競べだな。絶対に見つけ出してやる!」


ここじゃ無かったら、本当に目星がなくなる。是非とも、ここでアレクを見つけたい。


さっきは気付かなかったけど、他と違って扉の傷がやけに目立つ。ひょっとしたら、中に逃げ込んだアレクを捕まえるために、扉を執拗に攻撃して壊そうとした……なんてことは無いだろうか。中にアレクがいる事を期待して、扉のノブに手をかけてゆっくりと押し開……けない。


「あれ、鍵掛かってんのか?」


これは、本当に中にアレクがいるかもしれない。


「アレク!中にいるのか?俺だ、ホクトだ。助けに来たぞ!」


中にいるであろうアレクに向かって声をかける。しばらく待ってみるけど、中からの応答はない。まさか、中で力尽きてるなんて事無いだろうな。


「アレク返事しろ!……くそっ、今から扉を蹴破るから離れてろよ!」


扉から少し離れて、助走距離を取る。そして、ドアに向かって


「ブルース・キィーーーック!!!」


勢いのついた強烈な蹴りによって、部屋の扉は粉々に砕け散った。ごめんなさい、宿屋の人。だけど、今は人命救助優先なんで許して下さい。勢い余って蹴りのまま部屋の中に入る。扉の方を見ると、開かないように簡単なバリケードを張っていたみたいだ。ブルース・キックは、そんな家具ごと粉砕したみたいだ。気を取り直して、気になる場所を調べ尽そう。


間取りはVIPルームには劣るものの、他の客室よりは豪華な作りになっている。入ってすぐはリビングになっていた。リビングからは3つの扉が目に入る。他にも3部屋あるみたいだ。リビングを一通り調べたら、他の部屋を調べてみよう。まずはソファの裏や、テーブルの下を調べる。当然、そんな所にアレクはいなかった。


「そうすると、やっぱり他の部屋か……」


一番手前のドアを開けて中に入る。そこは寝室になっていて、大きなベッドが1つ。他にもテーブルに椅子、大きなタンスが目に入る。けど、ここにはアレクの姿は無かった。一度リビングに戻って、2つ目の部屋の扉を開ける。中に入ると、1つ目の部屋よりも大きなキングサイズのベッドが、部屋の中央にデンと置かれていた。そして、そのベッドにアレクが仰向けで寝っ転がっていた。


「おい、アレク!アレク、大丈夫か?」


見れば身体中に切り傷が見える。この建物の中で、どれだけの戦闘が繰り広げられたのか。腰にぶら下げたポーチからポーションを取り出して、アレクに呑ませる。


「……ごっ、がはっ……ゴホッゴホ……ホクトか」


薄っすらと目を開いたアレク。良かった、多少傷ついてはいるけど生きたアレクを見つけることができた。

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