50話 対モスマン戦
残るモスマンは11匹。最初に9匹やれたのは、今の状況を考えると最上級と言っても良いかもしれない。もし、あそこで半分の5匹しか倒せてなかったら、ハッキリ言って勝ち目は無かった。それだけでも、今の状況は悪くないと思おう。
「……とは言っても、腕が使えない今の状況では勝てない。何とか腕の痺れを無くさないと」
上空に目を向けると、陽の光を浴びて神々しいまでのモスマンたちが、こちらを見下ろしている。今の状況は、神々からの審判の時を待っている心境だ。これじゃ、ダメだ。気持ちで完全に負けている。何とかして、今の状況をひっくり返さないと……。
「使えるのは、両足の浸透だけ。あいつらの攻撃を避けまくって、チャンスがあれば浸透を叩き込んでいくしかないか」
そんな風に考えていると、モスマンが3匹上空から襲い掛かってきた。鱗粉を撒き散らし、羽から尾を引いて向かってくる姿は綺麗だ。だけど、今の俺にとっては、その綺麗な羽は死神の鎌に等しい。あれを、もう一度吸ってしまったら……多分、二度と動けなくなる気がする。
1匹目の突進を、上半身を捻って避ける。続く2匹目の攻撃は逆サイドからの突進、これを紙一重で避ける。最後の1匹は、超低空を飛行して俺の爪先から顎先までを触覚で突き刺すかのように跳ね上がる。
「危ない!」
これも上半身を引いて、スウェーで何とか躱す。見れば、またモスマンたちの表情がこちらをバカにしたように見えてくる。こいつら、人を嬲って遊ぶつもりか。
「とは言え、何とか酸素を確保しないと、すぐにでも殺されそうだ……」
酸素の確保、それはモスマンの鱗粉の範囲から抜け出すことを意味する。だけど、モスマンたちは、巧みに連携して俺を包囲している。このままでは、無駄に時間を使って呼吸困難を起こしそうだ。そして、一度でも鱗粉を吸えば全てが終わる。
鱗粉を避けつつ、酸素の確保……かなり難しい状況なのは間違いない。だけど、それを諦める事は、イコール生きる事を諦めるのと同じだ。俺には、自殺願望なんて無いから、何とか対処しよう。
「ちくしょう……死んでたまるか」
上空から次々と襲い掛かって来るモスマン、それらの攻撃を紙一重で避けつつチャンスを伺う。初めて戦う事になったモスマン。その攻撃方法は、触覚での斬りつけ攻撃……つまり、あいつらもこちらを攻撃するためには、近づかなくてはいけない。そう考えると、少し心に余裕が生まれた。
「……なんだ、あいつらも一緒か。フワフワ飛んでいるから間違えやすいけど、結局は俺と同じ近づかないと攻撃する方法が無いんだ」
その時、ちょうどこちらを攻撃しようと向かって来たモスマンに背を向けて駆けだす。目の前には崩れた建物の壁、すぐ後ろには俺に襲い掛かろうと突っ込んでくるモスマン。こちらを斬りつけようと、しなる触覚をジャンプ一発回避。そのまま壁を蹴って三角飛び。
「キィイィィ!?」
俺を追いかけるのに夢中で、壁の存在を忘れていたモスマン。そのまま頭から突っ込んで壁に激突。三角飛びで上空に逃げていた俺は、そのまま自然落下と共にモスマンの頭を踏み潰す。
グシャッ!
これで1匹、残るモスマンは10匹となった。
「なんとか半分、この調子で全部倒してやる。俺は、ここを凌いで絶対に生き残ってやるぜ!」
1匹がやられたことで動揺したのか、モスマンたちの動きが緩慢になっている。これはチャンスだ、跳躍のスキルを使って上空でホバリングしていた1匹の腹に蹴りを放つ。
「ギィギィィ……」
足の裏に確かな感触を感じ、浸透を発動。その1匹を踏み台に更に跳躍してもう1匹に飛びかかる。やっぱり、こいつらはどれだけ強くても所詮は虫だ。一度想定外の事が起こると、それに合わせて対処するのが難しいのか身体がフリーズする。
「俺がいるのに、そんな風に固まってても良いのか?」
慌てて触覚を俺に打ち込んで来るけど、すでに遅い。左右に振り回された触覚があらぬ方向を攻撃する中、俺の膝蹴りがモスマンの頭を直撃する。
「はあっ!」
浸透をキッチリと発動して、モスマンの身体とともに地面に落下。モスマンの身体がクッションになって、何とか無事地面に着地することができた。これで3匹、残るは後ろで余裕を見せて傍観していた8匹だ。
「そんな単発の攻撃じゃ、俺を倒すことはできないぞ……」
拳をゆっくり閉じる。良かった、少しずつ握力が戻ってきている。これなら、後少しで腕の痺れが取れそうだ。
「さあどうする?そのまま、何もしなければ俺の握力は戻って折角のチャンスを棒に振る事になるぞ?」
残った8匹に指を突き付け、それの人差し指を自分に向けて首を指す。どうだ?欲しいんだろ?だけど、攻めてくるなら覚悟しろ。
「この首、そんなに安くないぞ?」
トントン、自分の首を軽く指の腹で叩いて挑発。それにのってきた2匹のモスマン、その攻撃を余裕をもって回す。最早、お前たちの攻撃は俺に当たる事はない。
触覚の攻撃を回避しながら触覚を掴む。よし、捕まえた。
「あと7匹!」
顔面に銀の籠手がめり込む。それと同時に浸透を発動した、モスマンの命を奪う。今の状況は、あまり良いとは言えない。鱗粉を吸い込んだことで、思うように身体を動かせなくなっている。だけど、少しずつ力も戻り、身体の芯に纏わりつくように感じていた倦怠感。それが無くなりつつあった。モスマンたちは、時間をかける事で俺の体内に毒が浸透するのを待っていた。だけど、時間が進んで有利になるのは、お前たちだけじゃない。
ガンガン!
銀の籠手同士をぶつけて、更にモスマンたちを煽る。鱗粉の毒も、ほぼほぼ抜けたみたいだ。こうなってしまえば、立場は180°逆転する。今まで狩られる側だった俺が、ここからは狩る側になる。それが解っているのか……。
「キィキィ……」
「ギギギ……」
何かを上空で言い合っている。ここまで来れば、何匹いても関係ない。俺の力のすべてで、お前たちを狩り尽してやる。
一斉に襲い掛かって来るモスマン。所詮虫だな、それだけ密集して飛んでいたら、せっかくの高速形態が活かしきれない。お互いの羽がぶつかり合って旋回も難しい、そして……。
「それだけデカい的だと、ホント当てやすいな!」
走り回りつつ、周りの瓦礫から投げられそうなものを見繕う。そして、俺に向かって飛んでくるモスマンに対して……。
「ストライク!」
拾った石が見事命中。羽に穴の開いたモスマンは、そのまま地面に叩きつけられる。すかさず駆け寄って止めを刺す。さっきから、面白いほど良く決まる。モスマンは、基本的に一直線に対象に向かって飛翔する。高速飛行モードになると、旋回性能を犠牲にして速度を出すみたいだ。そうなると、確かに速度が出て避け難いけど直線的に飛んで来る事さえ解っちゃえば、やりようはいくらでもある。それに、高速飛行モードでも多少はあった旋回性を、いっぺんに襲い掛かってくると言う愚行のせいで、更に奪ってしまっている。ここまで来れば、大きな的が自分に向かって飛んで来るだけのボーナスステージだ。
「ほら、もういっちょ!」
走りながら、石を拾い振り向き様に投げつける。それが、面白いように当たる。7匹いたモスマンも、残り2匹まで減っていた。その間、俺は走って石を拾って投げてただけ。全てモスマンたちの自爆みたいなものだ。
「ここらで決着だな。俺も、もう走り回るのに疲れた」
実際、まだまだ疲れは感じないけど、これ以上こいつらと戦っていても時間の無駄だ。早くローザさんやハンナちゃん、エスカちゃんたちの所に戻らないと。それに、別れたアレクとキールも心配だ。あの2人を助けに行くためにも、目の前のこいつらは倒してしまおう。
「行くぜ、ここまで来たら待ったなしだからな!」
モスマンに向かってブーストを使って加速する。俺が、そこまでの速度を出せるとは思っていなかったのか、驚きをその複眼に浮かべてモスマンが固まる。だから、言ったろ……。
「その程度でフリーズしてたら、死ぬぞ!」
ボディに一発、抜き去り際に蹴り倒して壁に叩きつける。目の前の仲間の死角から飛び出してきた俺に気付いたけど、すでにどうすることもできない。折角の空中、高速飛行など人間が苦手な便利機能を持っていたのに、あれじゃ宝の持ち腐れだ。
「これで、終わりだ!」
真正面から、顔面に銀の籠手を叩きつける。
バシュッ!
頭を吹き飛ばされて、地面に落ちる。改めて周りを見回すと、今のが最後の1匹だったみたいだ。動けるモスマンはいない。モスマンを、無事全滅させることができた。
「よし、次はアレク達の救援だ!」
休む間もなく、俺はアレク達が消えていった建物の中に駆け出した。




