1話 色々ありました
2章はじまり
追記:文末の・・・を……に変更しました。
俺が冒険者になって1か月が過ぎた。
その間訓練したり、採取したり、訓練したり、広場の屋台のおっちゃんと仲良くなったり、訓練したり、ソウルに付き合わされたり……おかしい。毎朝アサギやハンナちゃんとも顔を合わせていたはずなのに、男の顔しか浮かんでこない。
「ようホクト!どうした、時化た顔して」
最近のことを思い出していると、その元凶の1人であるソウルが声をかけてきた。
「いや、最近顔を合わせてるのが男のイメージしか湧いてこなくて」
「なら丁度いい。ナンパしに行こうぜ!」
「……ソウル。パーティメンバー募集をナンパと言い切るのは、リーザスの中でもお前だけだよ」
「いいじゃんかよ。それとも、お前男の方が……」
「俺はノーマルだよ!」
こんな感じで、あの試験の時以来ソウルとは悪友と呼ぶに相応しい関係を気付くことになった……まあ、悪い奴じゃないんだけどな。それにソウルはこう見えて、すでにDランクの冒険者だ。
「お前もさ、早く訓練なんか終わらせて一緒に冒険に行こうぜ。
まだ続いてんだろ?ダッジのおっさんの訓練」
「まあな、今日もこれから訓練だよ」
「確かに、この1か月で引き締まったとは思うけどさ。
実戦経験全然積めてないだろ。お前」
そうなのだ。俺はダッジさんの訓練を毎日欠かさず受けているが、ダッジさんからの命令で討伐系の依頼を受けることができないでいた。
「あのおっさん何考えてんだろうな。冒険者なんて実践積んでなんぼだろ」
「さあな、何か考えがあるんだろ。確かに、この1か月の訓練で拳闘士としての戦い方は身についてきてるし」
「お前も変に真面目だね」
「実際厳しいけど、俺は楽しいんだよ」
ダッジのおっさんの訓練は厳しい。いや、厳しいなんて生易しいものじゃない正に地獄の特訓のようなのだ。走り込みなんてのは、地球にいたころからやってたから多少距離が延びるくらいはなんてことない。それよりも今まで使ってこなかった筋肉を酷使しまくるせいで、最初の頃はベッドから起き上がれない日が何日かあった。
それでも1か月続けてこられたのは、ひとえに楽しみがあったからだ。地球ではなかったもの……そう、ステータスの更新!地球にいたころは、これだけやったから幾つ強くなったとか目に見えるものは無かった。でも、この異世界ではステータス画面で自分のパラメータが上がっていくのを見ることができる。+1とか多いと+5とか一気に上がると、筋肉痛で悲鳴をあげそうな時でも楽しくて仕方なかった。
「お前って、結構Mッ気あるんじゃないか?」
「やめろよ、自分でも最近そう思えてきたんだから……」
とはいえ、それも最近では伸び悩んできた。楽しみが減ってくると、継続するためのモチベーションが下がってくる。
「アサギさんは何も言わないのか?」
「ああ、訓練については何も言われてないな」
「でもあの試験の時のメンバーで訓練させられてんのお前だけだろ?
俺の目から見ても、他のやつらとそこまで差があるようには感じないんだけどな」
「まあ、ステータスの値が伸び悩んでることは、それとなく聞いてみるわ」
「おう、じゃあ俺は可愛い子引っかけに行ってくるぜ!」
そう言ってソウルはギルドの中に入っていった。あいつ、着実にハーレムパーティへの道を邁進してるな。実際すでに2人のメンバーを見つけてパーティを組んでいる。1人は騎士職の女性だ。俺たちよりも年上で、結構胸がデカい。装備を付けているときは鎧に押し潰されてるけど、普段着の時の破壊力は半端ない。でも、見た目だけって訳じゃなく能力も高い人だ。代々騎士の家系って言ってたな。もう1人は魔法使いの女の子。俺やソウルと同世代で、この子も可愛い。ただし、地平線の如くまっ平らだけど……いや、どことは言わない。怖いから。
さて、俺も師匠のところに行こう。俺はソウルと別れて訓練場の方へ向かった。
「遅いぞホクト!」
「すいません、入り口で知り合いに会っちゃって」
「ふん、どうせソウルの小僧だろ。あいつはいつもいつも女の尻を追い掛け回して不真面目でいかん」
「そうはいっても、あいつDランクですから」
「まあ、確かに実力は高いな。
……どうした、あいつが羨ましいか?」
羨ましくないと言ったら嘘だ。俺だって討伐依頼が受けれれば、と考えたことは一度や二度じゃない。
「顔に出ているぞ。どうする?お前も討伐依頼受けてみるか?」
「……いえ、ダッジさんが良いと言うまでは今の訓練を続けます」
俺がそう言うと、ダッジさんの視線が若干柔らかくなる。
「よし、では今日の訓練を始める。最後はいつものように模擬戦だ」
「はい、よろしくお願いします」
俺はいつものように訓練を始めた。ダッジさんの訓練は大きく3種類に分かれる。1つ目は体力作り。走り込みや体幹を鍛える訓練、筋力トレーニングなんかがそうだ。特に瞬発力を重点的に鍛えているような気がする。2つ目は攻撃の練習。身体のどの部分をどう使えば良いかを、ダッジさんの経験を踏まえて教えてくれる。最初の頃は足が上がらなくて股割りなんかもやらされた。最近は徐々に自由に身体を使うことができるようになってきた。そして最後は模擬戦。ダッジさんを相手にするんだけど、どちらかと言うとサンドバッグのように一方的に攻撃されて終わる。あのおっさん、マジで反則級に強い。こちらが攻撃しようものなら、隙をついて逆にカウンターを食らうし、だったらとじっくり見ていると、何時まで経っても隙ができない。未だに一度も攻撃を当てたことがない……しかもスキルを使ってても当てらんないんだから完全に詰んでいる。
「ほら、相手の攻撃をよく見てから動け!出鱈目に動いても当たらんぞ」
「そんなことは解ってます!ちくしょう、なんであんなに速いんだよ」
今も最後の模擬戦の最中だけど、すでに1回気絶させられている。
「相手の隙を一瞬で判断して、最大威力の攻撃を当てろ」
おっさんの右側に回り込んで顔面を殴りに行く。俺の動きには付き合わず意識だけを俺に向けている。くそ、やり難い。
「今のお前の一撃の威力ではゴブリンすら殺せん。もっと頭を使え!」
「やってます!」
「それで使ってるのか!さすが知能2だな!」
「知能の話しは止めてください!」
でも、確かに同じことを繰り返していても今までと何も変わらない。せめておっさんを驚かせてみたい。
おっさんは言ってた。今の俺の攻撃力じゃ一撃が軽くてゴブリンも倒せないと。だったら、どうしたらいい?頭を使え三嶋北斗。
「……」
「お、どうした?無闇に動かなくなったな……諦めた訳でもなさそうだが」
おっさんが俺を視線で追う。俺はそれから逃げるように膝を使って上半身を揺らす。さあ行くぞ、集中。
途端に周りの音が小さくなっていく。最近気づいたことだけど、集中を使うと周りの音が聞こえなくなる。試験の時は、そもそも静かだったから効果が出ていることに気付かなかっただけだった。
更に鷹の目発動。これでおっさんの小さな動きすら見逃さない。鷹の目は遠くを見ることに特化したスキルだと思ってたけど、どうも違うようだ。このスキルは相手の小さな動きすらも見逃さず認識できる……例えば身体の筋肉の動き。これが解ると次にどう行動するのか手に取るように理解できる。
「……行くぞ」
おっさんが仕掛けてきた!右肩の筋肉が動く。これは右フック……でも、動きが小さい。右はフェイントだ……本命は左アッパー!
俺はその動作に合わせて、身体をおっさんの右側に滑り込ません。俺の選んだ戦法はカウンター。左アッパーに合わせて右フックを叩き込んでやる。
「いっけぇぇぇ!」
おっさんが左アッパーを打つが、すでに俺はおっさんの横に移動している。これはイケる……そう思った瞬間俺は吹っ飛ばされていた。
「うぅぅ、ゲホッゴホッ……」
「まだまだ詰めが甘いな。行動に起こす勢いは悪くないんだが、後二手三手は読まないとな。だが方向性は悪くない」
「方向性?」
「ああ、お前は格闘の経験値もそうだが、スキルをもっと使え。スキルは使えば使っただけ色々な事がわかる」
「……うっす」
「今日はここまでにしよう」
「ありがとうございました」
起き上がることもできずに終わりの挨拶をする。
「……ああそうだ。ちょっと話があるから、ギルドの中で待っててくれ」
「え、ここでじゃダメなんですか?」
「つべこべ言わずに、さっさと準備しろ!」
そう言うとおっさんは中に入っていった。なんだろう話って……。まあ、気にしてもしようがない。俺は唯一の楽しみであるステータスを見てからギルドに戻ることにした。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:3
職業:拳闘士(Lv1)
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体力 :190 +20↑
精神力:105 +5↑
攻撃力:137 +7↑
防御力:153(+3) +3↑
敏捷 :243(+3) +13↑
知能 :2
魔力 :94 +4↑
運 :40
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv2)
鷹の目(Lv5)、集中(Lv5)
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称号 :
初心者冒険者(体力に小補正)
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装備 :
布の服(防御力+3)
グリーブ(敏捷+3)
最後のステータスアップ値は1か月の成果になります。
1日であれだけ上がるわけではありません。
引き続きよろしくお願いします。




