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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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47話 リーダーの重圧

ハンナちゃんやローザさん達を連れて、街中を隠れるように進む。目的地は、冒険者ギルド。だけど、そこに行くまでには広場を突っ切って町の反対側まで行く必要がある。


「ハンナちゃん大丈夫?疲れてない?」


「うん!全然平気だよ」


ハンナちゃんの顔色を窺ってみるけど、本当に大丈夫そうだ。こんな小さい子が、周りに死が溢れているこの状況でも泣き言ひとつ言わない。本当に強い子だ。


「エスカちゃんも大丈夫か?疲れたら言うんだよ、こんなところで無理しても仕方ないから」


「うん、私も大丈夫」


この世界の子供は、本当に強い。俺が彼女たちの歳で、周りでどんどん人が死んでいったら多分パニックになって泣き喚いていたと思う。確かにお父さんやお母さん、俺やカメリアが周りにいるのも理由の一つなんだろうけど。それでも、泣かないでくれているのは有難い。正直、今の状況で泣かれていたら途方に暮れてたと思う。


「わん!」


「みんな止まれ!」


ポロンが何かを感じたのか、一声鳴いて止まった。なんだ?集音で当たりの音を拾ってみる。すると……。


「……人の声?この辺りのどこからか、人の声が聞こえる」


耳に聞こえてきたのは、助けを呼ぶ声。どこだ?辺りを見回すけど、周りには誰もいない。近くの建物の中なのか?


「ローザさん……」


「今は、お前がリーダーだ。私たち一般人は、お前の指示に従うよ」


ローザさんだけじゃない。ミリアムさんもハンナちゃんも、エスカちゃんも俺の方を向いている。そうだ、今の俺はみんなの命を預かるリーダーなんだ。俺の行動ひとつで、みんなを危険な目に合わせる可能性もある。


「…………」


「ホクト、あんまり深く考えんな」


「カメリア……」


いつものように、軽い口調でカメリアが言ってくる。そうはいってもな、いつもと違って今は一般人の命も預かってるんだ。慎重になってしまうのも仕方ないだろう。


「大丈夫、お兄ちゃんを信じてるから」


ハンナちゃんが笑顔で言ってくれる。ああ、天使の微笑……だけど、今の俺にはそれすらも重い。


「……はぁ、私が言ったからかもしれないけど、本当に気にしなくていいから。お前がどんな判断を下そうが、私たちはそれに従う。それは、別にお前が冒険者でリーダーだからじゃない」


「えっ?」


いつになく真剣な表情をして、ローザさんが俺の顔を見る。見れば、ハンナちゃんやエスカちゃんもこっちを見ている。あれ、何だよこの空気。


「普段のお前を知っていて、いざと言う時に自分の命を預けられると思ってるから、私たちは平気でいられるんだ。お前じゃなきゃ、私は誰にも従わないよ」


それって、つまり……。


「つまり、お母さんは前々からお兄ちゃんの事を信頼してたって事だよ」


ハンナちゃんが、嬉しそうにそう言ってくる。あれ、でも……。


「で、でもさ……普段って、俺、ローザさんからボコボコにされてた記憶しかないんだけど……」


「もう、お兄ちゃんってば……女心がわかってないね」


あれ、10歳の女の子に諭されてる?助けを求めて、周りに目をやると……アレクとキールは、明後日の方を見ている。ダメだ、こいつら俺と同類だ。カメリア……は、ニヤニヤして俺の方を見ている。今、こいつに話を振ったら更に悪い展開になりそうだ。ミリアムさんは……あれ、横を向いて俯いている。見れば、小さく震えている。あれって、笑いを堪えてる。


「……あの、ローザさん」


仕方ないので、本人に聞いてみる事にした。


「う、うるさい!今は、そんな事を気にしてる場合じゃないだろ。ほら、とっとと決めな!」


怒られた。まあいいか、いつものローザさんだ。拳が飛んでこないだけ、良しとしよう。


「ふぁ~う……」


ポロンが、耳の後ろを足で掻きながら欠伸をしている。お前さ、主がピンチなんだから助けろよ。


「と、とにかく!近くに、取り残された人がいるみたいなんで助けます。俺が場所を特定するので、協力してください」


やっと言えた。これを言うだけで、なんでこんなに疲れるんだ。


深呼吸をひとつして、耳に意識を集中する。どこだ……どこにいるんだ?不要な雑音は、耳から除外していく。そして、少しずつ周りが静かになっていく。周りの喧騒が消え、仲間たちの息遣いも消える。風が木の葉をこする音、戦闘の音、それが1つ1つ雑音として意識から外されていく。そして、残った音は……。


「!?左の建物、2階に誰かいる……動けないのかもしれない」


「大変!お兄ちゃん、助けようよ」


もちろん助けたい。さて、今のメンバーに危険が及ばないようにしつつ、動けないであろう人を建物内から救出するのか。動けないって事は、ここから誰かがおぶって行くことになる。


「……よし、ユーリは俺と一緒に来い。カメリアとアレク、キールはここで待機。魔物が来たら無理のない範囲で撃退。無理そうなら、ローザさん達を連れて先に行ってくれ。ローザさん、ハンナちゃん、エスカちゃんはカメリアたちと、ここで待機。そして、ミリアムさんは悪いですが俺と来てもらいます。瓦礫を俺と一緒に撤去してもらうかもしれません」


「……わかった」


「俺達もそれでいい」


「私たちも、それでいい」


みんなから返事が返ってきた。とりあえず、みんな従ってくれるようだ。これで一通りの割り振りは終わった。後は、行動するだけだ。そう思っていたら、ポロンが俺の足に纏わりついてくる。


「解ってるよ、ポロンも俺と一緒に来てくれ。お前の鼻が役に立つかもしれない」


「わん!」


そうして、俺達は二手に別れて行動することになった。





「わう!」


ポロンの若干緊張を孕んだ鳴き声に足を止める。ここは、人がいる事に気づいた地点から見て左側にあった建物の中だ。予定通り俺とミリアムさん、ユーリにポロンと男ばかりのメンバー。


「……何かいるな」


「……俺には、何も感じないな」


ミリアムさんが、周りを見ながら言ってくる。やっぱり一般人と、俺達冒険者だと感じ方も違うのか。明らかに、目の前にあるドアの向うから気配がする。それも、人のではなく……。


「魔物が、あのドアの向うにいます。俺が調べるので、ここで待っててください」


ミリアムさんに、一言声をかけてから扉に近づく。ドアに身体を寄せて、中の音を聞く。1体、ドアからは少し離れてるな。さて、どうやって倒すか。少し思案していると、背中にウナを乗せたポロンが近づいてきた。なんか、可愛いな。


「どうした?」


「わぅ」


「ぴゅぃ」


小声で、こっそり鳴き声をあげる。ダメだ、こんな場面なのに癒される。1匹と1羽の顔を見ると、自分たちにやらせろと言わんばかりにキリッとした表情をしている。ふむ、任せてみるか。


「じゃあ、俺がドアを開けるから、その瞬間中に入ってやっつけてくれるか?」


「ひゃん」


無理に小さく鳴こうとして、余計可愛い声になってるポロン。


「……じゃあ、行くぞ。5……4……3……2……1……」


ドアノブを回して、思いっきり手前に引く。開いたドアの隙間から、背中にウナを乗せたポロンが飛び込んでいく。


「ガゥ!」


「ピュイィィ!」


「ギィギギィィィ!」


ドアの奥で、大きなものが床に落ちる音がした。ポロンたちがやってくれたか?開けたドアから中を覗くと、そこには綺麗な羽根を無残に切り裂かれた蛾?の魔物が床に転がっていた。


「こんなやつ、見たことないな」


「……多分、モスマンだと思います。大きな蛾の魔物で、鱗粉を吸い込むとしばらく動けなくなります」


「へぇ、詳しいなユーリ」


「僕の住んでいた村の近くでもいました。たまに、村の近くまで来ることがあるので、そうなると大人たちが10人くらいで倒してました」


モスマン、聞いたことがあるな。昔プレイしたRPGにも出てきた魔物かな?とにかく、無事魔物を倒すことができた。見れば、ポロンとウナが褒めて欲しそうにこっちを見ている。俺は、ユーリと顔を見合わせて一斉に噴出した。


「わかったわかった。ポロンありがとうな」


身体全体をワシャワシャと撫で回して、感謝を伝える。気持ち良さそうにピクピクして、だらしない顔になっている。ウナの方を見ると、同じようにユーリから褒められて満更でもなさそうなウナ。動物のこういう仕草は、大好きだ。


「とりあえず、1階には何もいなさそうだな」


俺の一声で、一緒に来ていた仲間たちはあからさまにホッとした表情をしている。さて、あんまり遅くなると外に残してきた面々が気になる。


「先を急ごう」


そう言って、建物の奥に歩き出す。2階に通じる階段を見つけ、上にあがると床に倒れて動かない老人がいた。周りの物が落ちて、生き埋めになってしまったようだ。それを見て、ミリアムさんが駆け寄る。


「……大丈夫そうですか?」


「まだ何とも。ただ、ここに放置していくと魔物に襲われそうだな。少しずつ周りを片して掘り返そう」


3人で分担して、内部の清掃をした。最初は気付かなかったけど、動けなくなっていたのはお婆さんだ。初対面……ひょっとしたら街中ですれ違ってたかもしれないな。


「よし、とりあえず当初の目的は達成できた。一刻も早く、下に戻って合流だ。その後は、ギルドに戻って……医務室が使えれば、そこで治療をしよう」


ミリアムさんが、老婆を担ぎ上げて俺の指示を待っている。


「よし、急いで撤収しよう。俺が先に行くから、ミリアムさんとユーリは後から付いて来てくれ」


階段を下りて1階へ。そして、そのまま外に出る。見れば、外で待機していた連中は真面目な奴と、そうじゃない奴でクッキリ分かれた。


「お待たせ、さあ先に進もうか」


みんなの表情を見て、問題なさそうと判断して先を急ぐことにした。


「お父さんが抱っこしている人が、助けた人?」


「ああ、何とか助け出すことができた。ただ、まだ意識を戻さないから危険は危険だ。急いでギルドに向おう」


ハンナちゃんに応えつつ、先を急ぐ。また、1つ背負う命が増えた。こうなったら、できるだけ多くの人を助けつつギルドに向かうとするか。

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