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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
1章 冒険者になろう
15/240

15話 試験開始

追記:文末の・・・を……に変更しました。

昨夜は旅の疲れか、部屋に入るなり早々に寝てしまった。仕方ないだろ、だってこの世界に来て初めてのベッドだったんだから。確かに日本のベッドとは比べるのも間違ってるくらいの貧相なベッドだったけどさ、でも今までが野宿だったから尚更耐えられなかったんだよ。……おかげで夕食食べ損ねたけどね!

部屋を出て1階の裏手にある井戸まで顔を洗いに行く。


「くぁっ、冷たい!目が覚める」


キンキンに冷えた井戸水で顔を洗うとシャキッとするな。そのまま歯を磨いてから部屋に戻る。身支度を整えて食堂に行くと、すでにアサギが起きていた。


「おはよー、ホクトくん」


「おはよう」


アサギも俺も朝は強い方だ。森の中でも寝過ごすことは無かったしな。俺が席に着くとハンナちゃんが俺たちのテーブルまでやってきた。


「おはようございます、ホクトお兄ちゃん」


「おはよう、ハンナちゃん」


「夕べはどうしたんですか?ごはんの時間になっても、降りてこなかったけど」


「ああ、ベッドが余りに気持ち良すぎてさっきまで寝てたよ」


「呆れた……。私起こしに行ったんだよ。部屋のドアをノックしても全く反応ないから心配したのよ」


アサギは俺の部屋まで呼びに来てくれたらしい。全然気づかなかったな。


「そいつは悪かった。本当に気付かなかったんだよ」


「ここの食事を1食抜くなんて、ホクトくん人生を損してるね」


「アサギお姉ちゃん、そこまでは……」


アサギにからかわれてワタワタしてるハンナちゃんは可愛いな。


「ハンナちゃん、昨日損したみたいだから今日の朝ご飯はサービスしてよ」


「もうお兄ちゃんまで!朝はみなさんおなじメニューです!」


そう言ってハンナちゃんは厨房に行ってしまった。その後は朝ご飯がくるまでアサギと他愛もない話題で盛り上がった。





昨日買った装備を装着してから宿を出る。


「ホクトお兄ちゃん、いってらっしゃい!」


「今日試験なんだって?ボロボロになって戻ってくるなよ、面倒くさいから」


宿屋の2人に見送られて、俺とアサギは冒険者ギルドへ向かう。道中無言で歩いていたら、アサギが話しかけてきた。


「ひょっとしてホクトくん、緊張してる?」


「どうなんだろうな。緊張してない訳じゃないけど、見てわかるほどか?」


するとアサギが自分の瞼を指で押し上げた。


「なんか、こんな顔してるよ。もっとリラックスしたら?」


いかんいかん、アサギに指摘されるほど顔に出てたなんて……リラックスリラックス。


「ふぅーー、そうだな。今から緊張してたら身が持たないな」


顔の筋肉を指先でほぐしてから、アサギに笑いかけた。釣られてアサギも笑顔になる。会ってから数日しか経ってないのに、この笑顔を見えると自然と落ち着く。俺たちは気持ちも新たに冒険者ギルドへ向かった。





受付で試験を受けることを告げると、昨日のノルンさんとは別の受付嬢が案内してくれた。……なぜかアサギも一緒だ。


「なんでアサギまでいるんだ?」


「新人君の試験は冒険者なら、誰でも観戦できるのよ。パーティにスカウトするつもりの人たちもいるしね」


そうか、俺たちに取っては冒険者ギルドの設ける試験だけど、他の冒険者たちに取っても俺たちの力量を測る場でもあるんだな。そうしてしばらく歩くと開けた場所に出た。ここが訓練場のようだ。


「それでは、あちらにいる方が本日の試験官になります。この後は彼の指示に従ってください」


「わかりました」


案内してくれた受付嬢さんにお礼を言うと、彼女は来た道を戻っていった。アサギも俺から離れて壁際に移動する。


「おう、お前も試験を受けるのか?」


「はい、ホクト・ミシマです。よろしくお願いします」


「ホクト……おう、あったあった。お前もこっちにこい。お前で最後だ」


俺が最後だったか。どうやら今日試験を受けるのは、俺を入れて8人のようだ。


「よし、ではこれより試験を始める。試験内容は受験生同士での模擬戦になる。相手に関しては俺の方で決めるが、文句は受け付けない。誰と当たっても臨機応変に対応できるのかを見させてもらう」


試験官の男は40絡みの渋いおっさんだ。恐らく冒険者ギルドの中でも結構な腕前なんじゃないだろうか?纏ってる雰囲気が半端ない。


「それから、この試験はお前たちの力量がどの程度なのかを測るためのものだ。勝ち負けで何かが変わるわけではない。負けても落ち込む必要はない。よし、では最初にお前とお前でやってもらう」


テンポよく進んでいくな。まあ、試験にいつまでも時間を割いていられないんだろうな。呼ばれた剣士風の男2人が向かい合うように対峙する。


「よ、ホクト」


模擬戦を見ようと思っていたら、横から声をかけられた。見ると、昨日武具屋で会ったソウルが立っていた。


「あれ、ソウル?お前も試験に参加してたのか」


「ああ、俺も昨日この町に来たばっかりだったからな。昨日お前を見たとき、ひょっとしたら試験で一緒になるんじゃないかって期待してたんだよ。だって、誰も知らないより1人でも知ってるやつがいた方が気が楽だろう」


そう言うと、昨日別れ際に見せた屈託のない笑顔を見せた。


「……まあ、そうかもな。俺は知り合いと一緒に来たから、あまり感じてなかったけど」


「知り合い?……おぉ、あれは昨日武具屋にいた美人のお姉さん!」


ソウルの視線を追うと、案の定壁際のアサギことだったみたいだ。アサギも俺たちに見られてると気付いたのか、小さく手を振ってきた。


「おいおい、見たか。今あのお姉さん、俺に手を振ったぞ」


「あれはアサギ、俺の連れだ」


瞬間ソウルが凍り付いた。


「……ほう、ホクト。お前は、あのお姉さんとどんな関係なんだ?」


「怖いよお前。アサギは色々と面倒を見てもらってる……う~ん、友達?なんだよ」


「と・も・だ・ちぃぃ?本当か?」


「……本当だ」


「だったら、なぜ俺の目を見ない」


「…………」


ソウルの視線が痛い。でも、実際アサギは友達のようなものだ。他になんて表現すればいいのか俺でもわからない。そうして俺とソウルがじゃれついていると、1試合目が終わってしまったようだ。


「あ、やべ。試合見れなかった」


「そんなことより、あのお姉さんとの関係を教えろよ」


「しつこいな。わかったよ、試験が終わったらお前のことも紹介するから」


途端に嬉しそうな顔になるソウル。もしかして、こいつ女好きなのか!?


「よし、約束だからな!終わってもさっさと帰るなよ」


「わかった、わかったから背中を叩くな!イタイイタイ」


背中をバシバシ叩かれた。皮とはいえ鎧を付けてるのにめちゃくちゃ痛い。こいつ細く見えるのに、どんなパワーしてんだよ。


「おら、お前たち。他の試合に興味ないなら静かに見てろ」


試験官のおっさんに睨まれた。俺はすぐさま頭を下げたけど、ソウルのやつは知らんぷりを決め込むつもりのようだ。


「フンッ。じゃあ次はお前とお前だ」


次に声をかけられたのはムキムキマッチョの戦士風の男と、細い身体の槍使いの男がやるみたいだ。


「なあ、あれどっちが勝つと思う?」


「うん?細い方」


「……なんで、そう思った?」


「勘。しいて言うなら雰囲気が刀みたいだったから」


「カタナ?」


「え、ああ剣のことだよ」


「剣か……なるほど」


「お前は?」


「あ?俺も細い野郎だ」


「理由は?」


「勘!」


ガクッ。俺はズッコケそうになった。なんだよ、こいつも俺と同じでこっち側の人間か!


「人の事言えないけど、それでいいのかよ」


「いいんだよ!戦いに関しては勘の一言で十分だ」


自信満々のドヤ顔を披露するソウルから無理やり視線をそらして、戦いの方に集中する。開始直後から戦士風の男がずっと攻撃をしている。だが、槍使いはそれをすべて捌いている。


「なあ、ホクト」


「なんだよ」


「あの細マッチョ、戦いが始まってから全く動いてないぞ」


「え?」


ソウルに言われて槍使いの男を観察してみる。確かにあれだけ攻撃されているのに開始位置から全く動いていなかった。


「世の中広いな。あんな奴がいるなんてな」


素人の俺から見ても格の違いがわかる。恐らく相当の力量差があるから、こんなことができるんだろうな。何か学べないかと槍使いの男の動きを追うようになった。しばらく戦士風の男が押していたが、攻撃し続けたからか次第に動きが遅くなっていった。それを見た槍使いの男が一気に攻勢に出る。


「仕掛けた!」


戦士風の男が持つ大斧の攻撃を掻い潜って懐に入り槍を突き出す。喉元に当たると思った瞬間……


「それまで!」


試験官のおっさんの一声で槍が止まる。危なかった、後少し遅かったら槍が喉に突き刺さっていた。


「あの細マッチョ本当に新人か?戦い方が俺の師匠にそっくりだ」


「ソウルの師匠?」


「ああ、俺がどんなに攻撃しても全部捌かれちまう。本気になったところを見たことすらない糞爺だ」


あの人、そんな師匠と比較されるくらいに強いのか。やばいな、レベルが高いぞ。ひょっとしたら俺落ちるんじゃないか……剣も最近まで握ったこともなかった素人だし。


「次、お前とお前だ」


「ホクト、俺たちらしいぞ」


ああ、こんなことならもっとアサギに鍛えてもらえばよかった……。森でもゴブリンを嫌がんないで戦ってれば……。


「おい、ホクト!」


「え!?」


「大丈夫か?俺たちの番だってよ」


急に声をかけてきたソウルを見て、次に試験官のおっさんを見る。その目はじっと俺のことを見ている。


「あ、ああ。わかった」


俺はソウルに続いておっさんの前まで行く。開始位置は4mほど離れていて、向うではソウルが剣を抜いて準備をしている。いかんいかん、これから戦うんだ。俺も気持ちを切り替えて戦う準備を始める。


「両者準備はいいか?」


俺とソウルを見る。俺はおっさんからの視線に力強く頷いた。


「では、はじめ!」


さて、ソウルのお手並みはいk……。その瞬間ソウルが消え、その後に強い衝撃。気付いた時には俺は地面に横たわっていた。


「……あっ?」


「おお、今のを避けるのか。やっぱり強いなホクト」


今まで見たことの無い表情で俺を見下ろすソウル。


「ツッ……今、なにをした?」


「なんだ気付いて避けたんじゃないのかよ」


何をされたかは解りきっている。攻撃されたんだ。だけど、いつ?どんな攻撃を?俺には全く見えなかった。ただ、右肩の付け根に鈍い痛みがある。


「ハハハ、全く見えなかった……」


開始の合図でソウルが消えて、その後強い衝撃……その後がわからないけど多分突きを食らって吹っ飛ばされたんだろう。それを理解した瞬間身体が震えだした。恐怖・恐怖・恐怖。あいつが怖い。あいつの前に立っていたら、遅くない将来に殺される。


「あん?なんだよホクト、お前震えてんのか?」


見下ろすソウルの視線。あの時、森の中でゴブリンが見せたものとは違うが、ゴブリンが見せた殺気混じりの視線よりも尚怖い。視線を試験官に向ける。このままソウルと戦っていたら死んでしまう。一刻も早く試験の中止w……


「戦いの最中に相手から視線を切るなんて、余裕だなホクト」


「え??ガッッ!?」


気付いたら目の前にソウルがいて、また俺は吹っ飛ばされた。脇腹がジンジンする。これ、骨折れてないか?


「ちっ、やっぱりか。ホクト、お前わずかに打点をずらしてるな?震えてるからビビってんのかと思ってたのに、器用なことをするもんだな」


俺が何かしたのか?全然わからない……俺にはお前が見えてないんだぞ!脇腹の痛みに耐えていると、またもソウルが消えた。どこだ?どこにいる!?


「お前に俺は見えてるのか?」


ガキィ!ボクッ!カシィィッ!


「ガッ、グェッ、ガァァ!」


目に見えない三連撃。吹っ飛ばされる瞬間がやけにスローに感じる。あ、アサギが泣きそうな顔をしてる。あいつ乱入してこないよな……。試験生のやつらも驚いた顔で俺たちを見てる。試験官のおっさんも……あれ、おっさんと目があった気がする、そんなはずない……でもおっさんは、ずっと俺を見ている。


ドウゥン、ズシャャー!


地面に背中から落ちて、尚勢いが衰えず吹っ飛ばされる。殴られたところ以外にも全身いてぇ……。まだ終わんないのか、この試験は。他のやつらの時なんか危ない場面では止めてたじゃないか……なんで、俺の時は止めないんだよ。仰向けの状態から上半身を起こす。おっさんの方を見ても試合を止める気配はない。それよりも、やっぱり俺の方を見てる。……何なんだよ、あんた何を待ってるんだ?


「驚いたな、まだ立ってこれるのか?」


ソウルは俺を見下ろしている。さっきよりも眼つきが悪いな。何か言い返そうとしてみたけど、何かが喉につっかえて声が出ない。


「カハァッ!」


思いっきりせき込み、喉の遺物を取り除く。


「お前ばっかり殴りやがって……俺にも手番を回せ」


ヒューヒュー聞こえる呼吸音を聞きながら、ソウルの顔を睨み付ける。


「なあホクト。お前剣でも体術でも稽古ってしたことあるか?」


「あ?なんだいきなり。無いよ、俺は完全無欠のド素人だ」


周りがざわつくのを感じる。


「お前はあんまり驚かないんだな」


「まあ、あれだけ吹っ飛ばされてんのに受け身も取らないからな」


受け身?あれか、柔道の授業でやった前回り受け身とか横受け身とかか……。授業中ふざけてて、まともに練習とかしなかったもんな。


「それがどうした?」


「もうやめないか?お前の根性がすごいのはわかった。これ以上は俺も素人タコ殴りにするだけで後味悪いしな」


「あぁ?」


何言ってんだ、こいつ。ここまでされて、はいここまでとか冗談じゃないぞ。すると、今まで微動だにしなかった試験官のおっさんが俺の方を向いた。


「どうする?まだ続けるか?」


ああ、どいつもこいつも。


「当たり前だ。ここから俺の反撃が始まんのに、止めるとかふざけんな!」


みんな唖然としてる。ぷぷっ、いかんちょっと笑えてくる。殴られた跡に響くから、笑わせんなよ。


「はははは!すげぇ根性だなホクト。なら、お前が気絶するまで手を抜かないぜ!」


「やれるもんなら、やってみろ」


言うや否や、ソウルがまた消えた。見えない攻撃がくる!


ガッ!バシィィ!カッ……


「グゥゥゥ、ガハァッ!」


1発はなんとか籠手で受けれたけど、2発はまともに食らった。でも吹っ飛ばされずに堪えることができた。


「ちきしょう、全く見えねぇ……」


「……」


ソウルの顔が更に険しくなった。なんだ?1発当て損ねて怒ってんのか?


「どういうことだ?見えないのに、なんでガードできる?」


「知らねぇよ。お前がガードの上から殴っただけじゃないのか?」


「……俺はそんなミスはしない」


そんなこと、俺に言われてもわかんないぞ。……でも、確かに1発ガードできたな。あいつのミスじゃないとすると、何か要因があるってことか?


「うらぁぁー!」


ソウル目がけてダッシュして殴りつけた。ソウルは余裕をもって、俺の右拳を避ける。


「頭で考えてもわからん!」


所詮知能2じゃ考えるだけ無駄だ。考えるよりも動いて動いて、あいつよりも多く攻撃する。右フック、左ボディ、右ストレート。


「くぅのぉ、当たれ!」


「そんな攻撃じゃ、いくらやっても当たらねえよ」


そうは言うけど、こっちが攻撃している間はあいつも消えることができないみたいだ。消える隙を与えずに攻撃を繰り返す。ソウルは、こちらの攻撃を掻い潜って剣を振るう。当たれば確かに痛い。でも、無防備で食らうよりは我慢できる。


「お前、本当にタフだな」


「俺のステータスじゃ、今のお前に勝つのは難しいんだろうけど絶対1発は殴る!」


でも人間は無呼吸でいつまでも動くことはできない。ほんのちょっと息を吸ったときにソウルは消えた。右脇腹に強い衝撃!やばい、これは完全に折れた……。


「ゴホッ、カハッ……」


吹っ飛ばされなくはなったけど、やっぱりあいつの攻撃は強烈だ。ちくしょう、あいつのステータスどうなってるんだよ。あの消えるのは間違いなくスキルなんだろうけど対処しようg……あれ?


「?」


思わず俺が棒立ちになったことで、ソウルも虚を突かれたのか攻撃を仕掛けてこない。


「ああ、そうか!」


「な、なんだ!?」


「ああ、いやいや。こっちの話し」


そうだよスキル。俺にもスキルあったじゃん、しかも2つも。俺は自分が持っていた2つのスキルについて初めてまともに考えた。俺が持っているスキルは『鷹の目』と『集中』。とりあえず集中から使ってみるか。


「……ムムム」


「な、なんだよ。」


あれ、なんにも起こらない。集中って心の中で言えば発動するんじゃないのか?集中・集中・集中・集中……。俺が動かなくなったことを契機と捉えたのか、ソウルがまた消えた……ように見えた。


「えっ……」


ソウルは消えてない。確かに動きは速いけど、目でおえない速さじゃなくなった。もしかして、これが集中の効果か!?ソウルは俺の右側に回り込んで、掬い上げるように脇腹に斬りつけた。俺はそれを右の籠手でガードしつつ、左拳を握り込む。

ガキィィィ!


「なっ!?」


驚いたソウルの顔面に左フックをぶち込んだ。


ガシュッ!


「ぐはぁっ!」


今日初めてソウルにダメージが通った。


「ざまぁ見やがれ!!!」


殴られたことがショックだったのか、尻餅をついたソウルを見下ろす。……くぅ~快感!


「どうだ?痛かったか?」


「お前……やっぱり見えてたのか!」


「いや。見えてはなかった」


さっきはまではね。


「でも確かに右の籠手でガードしたろ!」


「もう1回試してみる……か!」


尻餅をついたソウルに蹴りを入れる。でもソウルは読んでいたみたいだ、横に転がって回避した。クソッ、確かに相手の攻撃を受けた後なら、こっちの攻撃も当たるのに、こっちから攻撃しても当たんないな。


「ソウル、当たれ!」


「誰が当たるか!」


ソウルが態勢を整える前に、もう1発ぶち込みたい。さっき集中を使ったから今度は『鷹の目』だ。名前からすると遠くが見えるようになるだけか?あまり期待はしてなかったんだけど、明らかに視界が変わった。こちらの攻撃を避けるソウルの次の動きが良く見える……これって動体視力が上がってんのか!?


「見え見えだぜソウル!」


避けた先に左ボディを置いておく。ソウルは誘われたかのように、フラフラと左ボディに当たりに来た。


ボクゥゥ!


「グゥエェ……」


手応えがあった!ここで畳みかける。右フック、左アッパー、頭をつかんで膝蹴り、ふらついたところに止めの右ストレート!


「ぐぁぁぁぁ!!!!!」


仰向けに倒れるソウル。これは、決まったんじゃないか?というか、決まってくれ。俺もう無理……。膝に手を付いて肩で息をしながら、倒れたソウルを見る。


「起きませんように、起きませんように、起きませんように」


訓練場にいるすべての人たちがソウルを見つめる。


「……くっ、ははは……いてぇ」


「あんだけ食らって、まだ動けんのかよ」


「俺をここまでボコボコしたのは、師匠以外じゃお前が初めてだ」


「お前の師匠何者?」


「化け物だな……」


「一緒にしないでほしい……」


上半身を起こし、なんとか起き上がるソウル。ダメージは受けてるけど、まだまだやれそうだな。


「お前の方が、よっぽどタフじゃねえかよ」


「伊達に毎日師匠にボコられてないぜ」


「このドMが!」


「お前だって似たようなもんだろうが!」


「俺は痛いのはイヤなの!」


「お前たち、やるなら早くしないとここまでにするぞ」


試験官のおっさんが俺たちを睨んできた。ちょっと体力回復するくらい許してほしい。とはいえ、このままって訳にもいかない。ここまできたらソウルに勝ちたい。


「お前のこと、素人って言って悪かった。

 俺をここまでボコれるなら、素人だろうがなんだろうが関係ないな。

 お詫びに、俺も奥の手を使う」


「いいのかよ、そんな負け台詞みたいなこと言って。

 物語じゃ奥の手先にさらした方が負けるってのが常識だぜ」


「え、まじで?」


「ゴッホン!本当にやめさせるぞ」


おっさんがキレそうだ。俺も改めてソウルに目を向ける。ソウルが奥の手って言うくらいなんだから、必殺技の類なんだろうな。なら『集中』でカウンターを取って『鷹の目』で最高の拳をぶち込む。


ドックン……、ドックン……、ドックン……


ソウルが消える。さっきまでと何ら変わらない動きに戸惑いつつも集中発動。ソウルの動きは見えている。真正面から突っ込んでくる、おいおいお前が神風使うのかよ。俺はソウルの動きに合わせて迎撃態勢をとr……突然右から気配がした!


「な!?」


右に視線を向けると、そこにソウルがいた。嘘だろ!?さっきまで正面に……ソウルから突きが繰り出される。とっさに鷹の目を発動してカウンターを狙う。


「あったれぇぇぇ!!!!」


右のアッパーがソウルの顎を掠めた直後、頭へ左から強い衝撃を受けて俺は吹っ飛んだ。


「……え?」


左に視線を向ければ、そこにはソウルが剣を振り切った姿勢のまま止まっていた。身体に感じる強い衝撃。意識が朦朧として、何がなんだか分からなくなった……。視界の先には()()のソウルが立っている。俺は最後の力を振り絞って……


「そんな……の……ありか…………よ」


そして、俺は意識を失った。

ご視聴ありがとうございます。

次回1章エピローグ。

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