14話 お買い物
ステータスの値を10倍に変更しました。
追記:文末の・・・を……に変更しました。
武具屋を出た2人は、調整が終わるまでの間、近くのカフェでお茶をすることにした。
ちょうど空いていた外のテーブルに二人で座る。店員からメニューを渡されたが、相変わらずなんて書いてあるのか全く読めない。
「注文は任せた」
「任された」
アサギは店員を呼ぶと、流れるように次々と注文をしていった。
「そういえば、ちょっと聞きたいことがあったんだ」
アサギが注文をする様を何となく眺めながら、話しを振ってみた。
「ん?何か食べたいものあった?」
「いや、メニューじゃなくてステータスについてなんだけど」
突然何を言い出すんだとばかりに、キョトンとした表情をこちらに向けてくるアサギ。唐突だったかな、と苦笑しながら続きを話す。
「ああ、装備欄にショートソードがあるんだけど俺のステータスに変動がないんだよ。これってひょっとして……」
「……ああ、うん。たぶんホクトくんが考えてるとおりだと思うよ。
拳闘士が装備できないショートソードだから、持っててもステータスに影響がないんだよ」
やっぱり、そういうことか。恐らく剣士なんかがショートソードを持っていれば、ショートソードの+5がステータスに加算されるんだろう。
「じゃあ、さっき店で買った籠手を装備したら俺の攻撃力が変動するのかな?」
「さあ?それは、装備してみないとわからないよ。装備品の中には、色々な影響を与えるものもあるっていうし……酷い装備品になると能力が下がったりするんだよ」
「え、下がるのか!?それは、嫌だな……」
「まあ、そういう装備っていうのはだいたい呪われてるんだけどね」
アサギが困ったように笑う。この反応は……
「ひょっとしてアサギ……」
「ああ……うん。前に、ね。出先のダンジョンで見つけた杖が呪いの装備品でね。普通は、そんな効果の解らない杖なんて装備しないんだけど、たまたま使ってた杖が戦闘中に壊れちゃってね。背に腹は代えられないから装備したんだよ。……そうしたら魔力が50も下がったんだよ!魔力は魔法使いの生命線なのに!……あの時ほど後悔したことは無かったなぁ」
「その時はどうしたんだ?」
「……そのとき一緒に行動していたパーティメンバーに助けられながら、何とかダンジョンを脱出できたんだけど。完全にお荷物だったから、怒られちゃってね……以来予備の装備は必ず持っていくようにしたの」
「冒険者って厳しいんだな……」
「1人崩壊すると、他のメンバーに迷惑がかかるからね。冒険は自己責任だけど、同じパーティメンバーに迷惑をかけちゃうのは、冒険者としても失格なんだよ」
その時のことを思い出しているのか、アサギは少し寂しそうだ。
「その時のメンバーとは、それっきり?」
「たまに街中で会うと話くらいはするけどね。一緒にパーティを組んだことは、それ以来ないわ」
「そうか……」
だからアサギはソロでやってるんだろうか?森の中で俺を助けてくれた時も独りだったしな。でも、ずっと独りっていうのは……やっぱ寂しいよな。
「少しだけ我慢しててくれよ。俺が早くランクを上げて、アサギと一緒にパーティ組むからさ」
俺が何を言ったのか最初は理解していなかったみたいだけど、徐々に理解したのかちょっとだけ俯いて笑ってくれた。
「もう……ちょっとカッコ付け過ぎだよ」
そう返したアサギの顔は真っ赤だった。
カフェを出て、武具屋に戻った俺たちはおっさんから装備の説明を受けていた。
「どうだ、どこか引っ張られたりしてないか?」
おっさんに言われたとおり、身体を捻じってみたが付け心地は悪くない。その後10分ほどロボットのような動きを繰り返してみたが、思ったよりも軽く感じた。
「なにホクトくん、その動き」
「体操。子供の頃夏になると朝早く起きて友達たちみんなでやるんだよ」
「ええ!?私やだな、なんか可愛くない」
アサギには異世界の体操はお気に召さなかったらしい。伝統ある体操なのに。
「籠手の調子はどうだ?ちゃんと力を入れて握れてるか?」
「初めて付けたけど、違和感なく握れる。ありがとな、おっさn」
ゴキィ!
頭におっさんの拳骨がめり込んだ。
「……いってぇぇ!なにすんだよ」
「ゴドーだ」
しまった……つい、心の中の呼び方を声に出しちゃった。
「ステータスを見てみろ。効果が出てるはずだ」
言われて俺はここの中で『ステータスオープン』と呟いた。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:3
職業:拳闘士(Lv1)
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体力 :170
精神力:100
攻撃力:130(+5)
防御力:150(+6)
敏捷 :230(+3)
知能 :2
魔力 :90
運 :40
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv2)
鷹の目(Lv5)、集中(lv5)
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称号 :
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装備 :
皮の籠手(攻撃力+5)
ショートソード(攻撃力+5)
皮鎧(防御力+6)
グリーブ(敏捷+3)
「おお、攻撃力が上がった!」
「問題ないみたいだな」
「ありがとうなおっ……ゴドーさん」
「フンッ!」
隣でアサギがクスクス笑ってる。よかった……もうカフェでの一件は大丈夫みたいだな。おっさんにお礼を行って、俺とアサギは店を後にした。
「他にも何か買っておいた方が良い物ってあるか?」
「う~ん、小物とか生活必需品かな?」
「生活必需品ってタオルとかか?」
「後は歯ブラシとか、普段着と……」
アサギの視線が下にさがる。釣られて視線を下げると、一点で交わった。
「……おい、痴女」
「ち、違うよ。私は別に……見てないもん!」
「何をだよ」
ジト目でアサギを睨む。
「そもそも、ホクトくんが聞いてきたんでしょ!私はそれに答えただけよ。ホクトくんのエッチ!」
顔を赤くしながら俺を睨んでくるアサギ。尻尾が警戒して膨らんでいる。よっぽど恥ずかしかったんだろうな。
「下着も探さないとな」
「解ってるなら聞かないでよ!」
そんなコントをしながら雑貨屋、服屋をアサギと一緒に見て回る。服は上下とも古着で十分らしい。日本だと古着って買ったことなかったな。まあ、新品の服を買うのに金貨が必要だと言われれば諦めがつくし、そもそも服に拘りは無いから問題ない。歯ブラシも思ったよりもちゃんとしてて安心した。ただ、歯磨き粉はこの世界には存在しないらしい……虫歯にならないそうで怖いな。
「これでだいたい買ったか?」
「そうだね。他のものは後でも良いんじゃない?」
一通り見て回って必要な物を買い揃えた。買い物に問題は無かったけど、またアサギに借金が増えてしまった。町に入るのと合わせて、これで10000ゼムの借金だ。
「気にしなくていいよ。どうせすぐ返ってくるでしょ?」
「お、おう。もちろんだ!」
異世界に来て借金地獄はシャレにならない。一刻も早く返済しなくては。返済を心に誓う俺にアサギが振り向いた。
「さあ、じゃあ宿に行こっか」
「おう……あ、あんまり高くないところでお願いします」
「フフッ、私も泊まってるところだから大丈夫。安い宿じゃないけど、個室もあるし絶対気に入るよ」
「いや、俺安くても良いんだけど……」
「ダメだよ!安過ぎる宿なんて、大部屋に雑魚寝でいつ周りの人に物を取られるか気にしながら過ごすんだから。それじゃ宿にいても気が休まらないでしょ」
確かにプライバシーも無いような空間にいると、寝ることもできなそうだ。
「何度も言ってるけど、しばらくの間の生活費は気にしなくていいから。逆にホクトくんが、そんな安宿に泊まったら狼の群れに羊1匹だよ。私が安心して寝れないもん」
俺は保護対象か……。とはいえ、ここはアサギに甘えるのがお互いのためなのかもしれない。
「わかったよ。悪いな」
「ここは、ありがとう……ね」
「ああ、ありがとうアサギ」
「どういたしまして。さ、早く行こう!」
こうして、買い物を終えた俺とアサギは宿に向かって歩き出した。
「ここよ」
アサギが足を止めたのは、そこそこ立派な作りの宿だった。石造りで2階があるタイプだ。アサギに続いて玄関をくぐる。
「いらっしゃいませ……ああ、アサギお姉ちゃん!おかえりなさーい!」
中に入ると元気な声が出迎えてくれた。
「ただいまハンナちゃん」
カウンターにいた10歳くらいの女の子がアサギを見た途端、その胸に飛び込んだ。おお、あれならどんな衝撃も吸収してくれそうな上質のエアバッグだ。
「アサギお姉ちゃんケガしてない?」
「大丈夫よ。今回も無事依頼達成」
「スゴい!さすがいちりゅうの冒険しゃだね!」
「へへへぇ~。ハンナちゃんをギュッとすると落ち着くなぁ」
アサギのお姉ちゃんセンサーが全力で反応してるな。確かにハンナちゃんは保護欲を掻き立てられる小動物みたいな子だ。いつまでも見ていたい光景なんだけど……これじゃいつまで経っても話が進みそうにない。
「おい、アサギ。俺の紹介もしてくれよ」
アサギに声をかけると、ちょっと驚いたような表情をした。おい、お前俺のこと忘れてたんじゃないのか?
「え?……ああ、ハハハ。ゴメン、忘れてた」
「おい」
「ふえぇ?」
そこで初めてハンナちゃんも俺に気付いたようだ。
「あ、ごめんなさい。おきゃくさまですか?」
「そうなの。私の弟のホクトくんよ」
サラッと嘘をつくアサギ。ダメだ、ハンナちゃんのせいでお姉ちゃんモードから帰ってこない。
「アサギの弟じゃないけどな。ホクト・ミシマだ」
後ろでアサギが抗議してるが、ムシだムシ。
「ああ、はい!いらっしゃいませミシマさん、『羊の夢枕亭』へようこそ。
わたしは、ここのおかみの娘のハンナ・ロドリーです」
元気よく店の紹介をするハンナちゃん。よく見るとハンナちゃんの頭の左右に渦巻き型の角がある。彼女は羊人族なのか。宿屋の名前も、そこから取ったんだろうな。
「よろしく、ハンナちゃん。俺のことはホクトでいいよ」
「ホクト……さん?」
どう呼ぼうか迷っているハンナちゃんにアサギが耳打ちした。途端にハンナちゃんが笑顔になる。
「ホクトお兄ちゃん!」
ズギュン!ああ、何かに撃ち抜かれたみたいだ……『お兄ちゃん』良い響きだなぁ。向うじゃ1人っ子だったから、妹がいたらこんな感じだったのか。
「おう、よろしくな!」
「うん!えへへへ」
「フフッ、ホクトくん顔がにニヤニヤしてるよ?
まさか……ロリk」
「違う!俺兄弟がいなかったから、お兄ちゃんって呼ばれなれてないだけだ」
「ふ~ん……へ~えぇ」
3人でこんなやり取りをしていると、カウンターの奥から女性が現れた。
「なんだい、騒々しいね。……おやアサギ、帰ってたのかい」
「ただいま女将さん。またしばらくお世話になります」
「はいよ。で、そっちの坊やは?」
「おかあさん、ホクトお兄ちゃんお客さん」
「ハンナ、お店では女将さん!だろ」
「うっ、おかみさん。ホクトお兄ちゃんはお客さんなんだって」
「客?」
ジロリと俺を睨んだ後にアサギを見る。そして何やら独りでウンウン頷いている。ああ、このパターンは……
「アサギのコレかい?」
そういうと女将さんは親指を突き出してアサギに突き出した。
「ち、ちちちちっ違います!ホクトくんは弟みたいなもので……」
ああ、アサギがシドロモドロに応えちゃった。こんなのスルーすればいいのに。
「ホクト・ミシマです。今日からお世話になりたいのですが、部屋は空いていますか?」
「……チッ」
「今舌打ちしましたね!?」
「何でもないよ。部屋なら空いてるよ。大部屋2000ゼム、個室なら3500ゼムだ。食事付けんなら、朝晩2色で100ゼムプラスだよ」
金額の話になると、途端に俺は肩身の狭い思いをする羽目になる。
「風呂も付けるなら、更にプラス100ゼムだ」
「え!?風呂があるんですか?」
「そりゃあるさ。この宿は、それが売りみたいなもんだし」
「あれ、ホクトくんお風呂好きなんですか?」
「ああ、俺の世界じゃ……特に俺の国の人間は風呂好きだ。毎日入らないと気持ち悪くなる」
「なんだ、だったらここを選んで正解だったね」
風呂か……久しく入ってないな。リーザスに来るまでは川で水浴びだけだったし。なんとしても風呂に入りたいが……1泊にプラスで100ゼムか、借金生活の俺が贅沢できないよなぁ……。
「女将さん、ホクトくんは個室2食付き風呂付きでお願いします」
すると俺の代わりにアサギが答えた。答えたアサギを驚いた顔で見ていた女将さんが、意地の悪い笑い方をしながらこっちを向いた。
「なぁ~んだ、恋人じゃなくてヒモか。お前さんアサギのヒモなんだ。
いや~、クズだねぇ」
「止めてください。今そんな視線で見られたら、もう……」
「おか……みさん、ヒモってなあに?」
「ハンナ、ヒモっていうのはね……」
「わあ、女将さん止めてください。ホクトくんが真っ白になってます!」
燃え尽きたよ……もう、ゴールしてもいいよね。
「ちぇっ、初心だな。これくらいでダメになるなんて、冒険者舐めてると痛い目見るよ」
アサギが俺に近づいて介抱しつつ
「女将さん、元は凄腕の探索者さんだったのよ」
「え、冒険者じゃなくて探索者?」
「そうなの。おかあさんとおとうさんは探索しゃだったんだよ」
アサギと俺が話していると、ハンナちゃんが加わってきた。
「おかあさんとおとうさんが結婚するから、いんたいしたんだって」
「へぇ、すごいお父さんとお母さんなんだね」
「えへへ、うん!」
子供は元気が一番だな。アサギと微笑ましい物を見るような視線をハンナちゃんに向けていると、女将さんがハンナちゃんに声をかけた。
「こらっ、いつまでも食っちゃべってるんじゃないよ。ハンナ、ここはいいから厨房を手伝いな!」
「は、はい~~」
ハンナちゃんは慌ててカウンターの奥に消えていった。
「で?坊やの分はアサギが払うのかい?」
「はい、しばらくは私が立て替えます」
「そうかい。じゃあ1泊3700ゼムだ」
「では、とりあえず10日分前払いします」
アサギは女将さんに金貨3枚と大銀貨7枚で支払いを済ませた。
ああ、借金が一気に4倍になったよ……トホホ。




