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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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17話 戦線崩壊

俺達猛炎の拳が戦場に入って、すでに5時間が経過した。あと1時間もすれば涼風の乙女率いる第1グループと交代することになる。ここまでは、多少の怪我人が出ただけで死者は0。まずまず上手くいっていると言っていいだろう。


「やっと魔物の数が減ってきたな」


隣で槍を振るうカメリアが言う。そう、この戦いの最中にも何度か押し寄せる魔物の数が減少したことがあった。どうも襲い掛かってくる魔物たちには、波があるようで多い時と少ない時があるようだ。そして、今は少ない時。


「この習性が分かっていれば、交代の時間をもうちょっと調整できたかもしれないな」


襲い掛かるオークの攻撃を躱して、膝の皿を踏み砕く。


「ギュピィギィイ!?」


姿勢が崩れたところを、相手の膝を踏み台にして延髄への回し蹴りで仕留める。一撃とはいかないけど、最近は蹴りでも良いダメージを出せるようになってきた。長期戦を想定していることから、浸透を封印しての戦闘になるけど、なんとか敵と渡り合う事ができていた。


「前衛と中衛の距離が詰まっています。中衛の方たちは一旦その場で待機。前衛の方たちは、戦線を押し上げてください!」


アサギからの指示が飛ぶ。3時間を超えたところで、Cランクパーティが抜けて新たに別のCランクパーティが投入されていた。指示出しもそのままCランクパーティ同士で引き継ぐのかと思ったけど、後から入って来たCランクパーティには明確な司令塔がいないみたいなので、アサギが引き継ぐことになった。急な役割変更で若干戸惑ったアサギだったけど、元々経験のあるポストだっただけに順応するのも早かった。


「じゃあ頑張れよホクト。それと、アタイの敵まで倒すなよ」


カメリアからの激励?を受けて、俺も前衛として前打って出る。今前衛として行動しているのは4人。俺以外はフルプレートアーマーの騎士がひとり、後は剣士風の2人だ。


「おらぁよっ!」


「はぁ!」


剣士風の2人は、お互い同じパーティのようで、それなりに連携は取れている。だけど、他の冒険者との足並みを揃える気は無いようで勝手な動きが目立つ。


「おい、お前ら!前に出過ぎだ。それでは、戦線を維持できんぞ!」


全身を甲冑で覆った騎士の冒険者は、顔は見えないけど声からすると俺よりも年上。多分30歳くらいじゃないだろうか。投入されてからずっと、あの剣士の2人と言い合いを続けている。


「うるせぇ!トロいお前が悪いんだろうが」


「俺達について来れないのを、他人のせいにすんなよ!そっちの使えねえ拳闘士もだ。お前ら使えなさすぎ」


言いたい放題のやりたい放題。ここ2時間ほどは、こいつらの尻拭いばかりをさせられている気がする。


「まったく、なんて連中だ。この戦いは防衛線だ、この門を死守しなければいかんのに……あいつらが勝手に動くから、中衛も逃した魔物の対応でまともに機能していない」


「正直、これがこの先も続くと思うとうんざりしますね」


「ああ、すまないな。君に愚痴ったつもりは無かったんだが……」


「気にしないで下さい。俺が思ってことを言ってくれたんで、ちょっとすっとしました」


この人、大分苦労人のようだ。周りの若い連中が好き勝手している現状で、それに腐ることなく自分からフォローに動いている。俺もできるだけ、この人と助け合っていこう。そう思っていると……。


「左右からフォレストウルフとワーウルフの群れきます!数は……およそ50匹」


このタイミングでか!?見れば、さっきの剣士2人は俺達よりも50mは先行して突出している。これじゃ、あいつらを戦力に数える事はできない。


「わたし達で、それぞれ左右を抑えるしかないな。できるか、ホクト君」


「やるしかないでしょう。ったく、あいつら町の命運がかかってるって解ってんのか?」


「無駄口は後だ、行くぞ!」


左右に分かれて待ち受ける。俺の方に向かってきてるのは、フォレストウルフ20にワーウルフが10ってところか?どちらも素早い上に頭も良い。種族が違うのに、これまで何度も良い連携をしてきた奴らだ。


「ここは通さねえ!」


先行して向かってくるフォレストウルフを射程に入れて、両拳に魔力を流す。今の状態で1匹に時間を割くわけにはいかない。ここは浸透で、1匹ずつ確実に仕留めていくしかない。


「まったく、こっちの計画もぶち壊しだ……」


左右から飛びかかって牙を剥くフォレストウルフを、時間差で殴り倒す。飛んでくると分かっていれば、対処は難しくない。左からくるやつを、下からアッパーで掬い上げ右からくる奴は、右足を一歩踏み出して身体を反らし肩を顔に叩きつける。左の1匹は大丈夫、右で怯んだフォレストウルフに蹴りを見舞う。


「うおっ!?」


足元に姿勢を低くして突っ込んできたワーウルフ、それをバックステップで躱して再度前に向かって飛び出す。爪の攻撃を振り上げた隙に、顔面に膝を叩きつける。目まぐるしく動き回る魔物たちを相手に、その場を死守する。浸透は確実に魔物たちの命を刈り取っているけど、さすがに多勢に無勢。何匹か俺をスルーして、後ろの冒険者に向かっていく。それを……。


「弓隊、射かけてください!」


「ギャイン!」


通り抜けようとしたフォレストウルフに向かって、屋の雨が降り注ぐ。アサギが上手くやってくれているようだ。こっちも、1匹でも多く引き付けて後ろの中衛が倒すまでの時間を稼ごう。


「ホクト大丈夫か?」


「俺の事はいい。カメリア、1匹も後ろにやるなよ!」


「任せろ!」


こっちは今の所問題ない。あっちの騎士のおっさんの方は大丈夫か?


「魔法隊、右翼に攻撃を集中してください。このままでは突破されます!」


アサギの逼迫した声が響く。これは騎士のおっさんの方がやばいかもしれない。


「カメリア、こっちは大丈夫だ。お前は右側のおっさんを助けてやってくれ」


「大丈夫なのか?」


「こっちは、まだ何とかなる。それよりも戦線が崩れる方がまずい。だから頼む!」


しばらく無言で槍を振っていたカメリアだったけど、右翼の状況が見えたのか難しい表情をしながらも頷いてくれた。


「いいか、アタイが戻るまで死ぬなよ!すぐに戻ってくるからな!」


「頼んだ……ぜ!」


ワーウルフを蹴り飛ばし、後ろにいたフォレストウルフも巻き込んで下がらせる。さあ、ここからは1人減った状態だ。今まで以上に集中していくぜ。


「お前らの相手は俺だ!よそ見している暇はないぜ!」


集音で動き回るフォレストウルフを補足して、確実に仕留めていく。その間を縫ってくる、速度の違う攻撃。ワーウルフの爪攻撃だ。本当にこいつらの連携は厄介だ。籠手で爪の軌道をそらして、そのままワーウルフの顔面に拳を叩きつける。


「結構倒したけど、どれくらい残ってるんだ?」


ざっと見て、10匹は倒したか?まだまだ残ってるな。


「ホクトくん、援護は必要?」


「こっちよりも右翼を優先させてくれ!」


「右翼は大丈夫、カメリアが入って安定してるわ。だから、今なら魔法で援護できる!」


「なら、頼む!」


減らせるものなら減らしてほしい。狼たちに囲まれながら、その時を待つ。俺の後ろで戦闘中の中衛の冒険者たちも、そろそろ一呼吸おきたいだろう。だから、頼むぜアサギ。


「行きます!」


アサギの声を聞いて、一度下がる。間髪入れずに魔法の散弾が狼たちを打ち倒していく。これは、土魔法か?拳大の石礫が狼たちに襲い掛かる。地面を抉り、その破片を撒き散らす。結構凶悪な魔法だ。そこに更に炎の魔法が来た。


「天狐か?」


目の前が一瞬で燃え上がる。やっぱり天狐の火力は半端ない。これで大丈夫、そう思った俺は油断していたんだろう。近づく影に気づかなかった。


「ガウッ!」


「なっ!?」


左足に激痛が走って、その場に膝をつく。見れば左足の脛にフォレストウルフが齧りついているのが見えた。


「クソッ!」


慌てて脳天に肘を叩き込む。その間に、今度は右側からワーウルフが斬り込んできた。こいつら、いったいどこから?


「ちぃっ、考えるのは後だ!」


膝をついていることで、姿勢が崩れた状態での戦闘を余儀なくされる。振り下ろされる爪の攻撃を籠手でいなすところまでは良かった。だけど、その後の脇腹への蹴りは避けようがなかった。


「ぐぅ……」


鎧のお蔭で、大したダメージにはならずに済んだ。だけど、それだけで攻撃は終わらない。姿勢を整える暇もないまま、ワーウルフに良いように嬲られる。爪が肌に食い込む感触を何度も味わい、その度に鮮血が舞う。


「う、くそっ……がぁ!」


頭目がけて繰り出された蹴りを、咄嗟に躱しながら腕で絡めとる。そのまま勢いに任せて膝の関節を破壊する。


「ギャヒィン!?」


そして、密着した状態からワーウルフのボディに浸透を叩き込む。


「うらぁ!」


浸透を食らったワーウルフは、口から大量の血を吐いて動かなくなる。完全に死んでる事を確認して、立ち上がろうとしたところで炎の向うから飛び込んできた影があった。


「ガァウ!」


そうか、こいつら炎の壁を突き抜けてきたのか。多少の火傷なんて気にもしないで、ただ俺たちに襲い掛かるためだけに……。それに気づけたところで、今の俺にはあの噛みつきを避ける事はできない。無事な左腕を前に持っていって致命傷を回避するのが精一杯だ。


やられる、そう思った瞬間……。


「ピュイィ!」


死角からフォレストウルフに体当たりをした者がいた。そいつは、フォレストウルフに体当たりをした後、上空に逃げていく。


「……鳥?」


「大丈夫ですか?」


その声の方に振り返れば、そこにはギルドで見た少年が立っていた。

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