11話 冒険者ギルド
追記:文末の・・・を……に変更しました。
「うひょ~!これが、リーザスの町か!」
俺の目に飛び込んでくるのは、日本ではお目にかかれない光景。
建物の作りも、街行く人も、何もかもが違い過ぎてワクワクが止まんない。
「ホクトくん興奮し過ぎ。そんなに珍しい?」
「いや、だって異世界の町だよ。興奮しない方が失礼だ!」
「誰に失礼なのよ……」
呆れた視線を向けてくるアサギには悪いけど、このワクワク感はしばらく治まりそうにない。建物は石造りが多いな、高さも日本の超高層ビルみたいなのは当然無いけど、3階建てくらいまではあるな。
「この辺りは、みんな石で家を作ってるのか?」
「そうね、ダーレン大陸にある街並みは、どこも似たようなものよ」
視線を地面に向けてみる。城門から続くメインストリートは綺麗に整備された石畳だ。脇道に目を向けるとむき出しの地面のところもあるけど、8割方は石畳でカバーされているようだ。
「ホクトくん落ち着いた?だったら、さっさと冒け……」
「お!あれは猫人族か?すげぇ、身体つきは獣なのに二足歩行してる!
あれで歩けるなんて、すげぇなファンタジー!」
「すげぇすげぇ連呼しないの。それと人様に指をささない。
子供の頃に教わらなかった?」
ジト目で俺を睨むアサギを見つめる。
「……な、なに?」
「アサギって、お母さんみたいだな」
「ちょっ!?私はそんな歳じゃないわ!ホクトくんでも怒るからね!」
やばい、興奮しすぎてアサギの地雷を踏み抜いた。
「ごめん、悪かった。ちょっと興奮しすぎて我を忘れてた」
90度に腰を折り曲げ、誠心誠意の平謝り。これでダメなら土下座しよう……。
「本当に反省している?私のこと、どう思ってる?」
視線が痛い……ここで間違った返答をしようものなら、俺の冒険が終わってしまうかもしれない。でも、なんて答えれば、お母さんで怒るってことは、もう少し若く見える答えをすればいいのか?
「アサギは……誰もが振り返るような、美人のお姉さんです」
「…………私はホクトくんの自慢のお姉ちゃん?」
俺のとは一言も言ってないんだが……あれ、よく見るとなんか嬉しそうだ。今の答えで合ってたのか?なんだか分からないけど、ここは畳みかける。
「そうだ、アサギは俺の自慢の姉だ!」
するとどうだろう、アサギが満面の笑顔で俺に笑いかけた。耳もピンと立って、心なしか毛艶が良くなってる。尻尾の方も尋常じゃないくらいワッサワッサしている。これで良かったんだろう……そう思おう。
「しようがないなぁ。ほらホクトくん早く冒険者ギルドに行くよ」
笑いが止められないのか、ちょっと不気味な顔になってるけど言わないでおこう。
「俺場所知らないんだから、アサギが連れて行ってくれよ」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
ああ、完全に姉キャラで行くんですね。どうやらアサギには姉願望があったらしい。俺はスキップして歩き出したアサギを追いかけた。
俺たちは冒険者ギルドに迎いながら遅めの昼飯を取ることにした。
「あまり時間をかけられないから、手早く済ませましょう」
そう言ってアサギが連れてきたのが、メインストリートから続く大きな広場だった。昼を過ぎたのに、結構人が多いな。
「ここは大道芸の一座や、それを目当てにくるお客さん。さらに、そのお客さんを目当てに屋台が多いからいっつも人で賑わってるの」
確かに屋台も色々な種類のものがあるし、大道芸人達も多いな。
「ここの屋台でお昼にしましょう」
そう言ってアサギは1つの屋台に向かっていった。
「おじさん、2つください」
「おお、毎度。今日は2つでいいのかい?」
「わ、わつぁしそんなに食べれないから!」
噛んだ。普段どれだけ食ってるんだ?
「あいよ2つで100ゼムだ」
ゼム、それがこの世界の通貨か。100ゼムってどれくらいなんだろう。
「はい100ゼム、おじさん変なことを言わないでください」
「ははは、毎度あり!」
俺のところに串を2つ持ったアサギが戻ってきた。顔が赤くなってるけど照れてるのか?
「はい、ホクトくん。言っておくけど、私普段からそんなに食べないからね」
「何も聞いてないのに言い訳を始めるってことは、自覚があるんじゃないのか?」
「うぐっ!そんなことを言う人にはあげません」
「それより、ちょっと聞きたいんだけど」
「スルーですか!?私の印象を決める一大事なのに……」
俺はアサギから強引に串を奪い取ってから、肉に齧り付いた。ジャイアント・ボアを食べたときほどではないけど、この肉も美味い。甘辛のタレに肉汁が絡まってたまらない。肉質も良くは無いんだろうけど、歯ごたえがあって十分すぎる美味しさだ。
「なあ、この串1本で50ゼムってことだよな?50ゼムってのは、どれくらいの価値があるんだ?」
俺に無視されたことがショックだったのか、俯いてボソボソと串を齧ってるアサギに声をかけた。声は聞こえてるはずなんだけど、反応がない。見れば耳と尻尾がへにゃっとお通夜状態だ。そんなにショックだったのか?
「今更アサギが食い意地張ってたって、俺は気にしないぞ。そもそも森の中でいっぱい食べるアサギを見てるんだから」
それを聞いて若干復活したのか、アサギが顔を上げて俺を見る。
「……それもそうね、今更取り繕ったって……。よし、復活!」
パンパンと自分の頬を叩いて気合を入れる。
「それで、何を聞きたかったの?」
「串1本50ゼムの価値だ」
「価値とは?」
「俺はこっちの通貨を知らない。だから、50ゼムが高いのか安いのかが分からないんだ」
「ああ、そういうこと。そうね……一般的な4人家族で月に2万ゼムもあれば生活できるわ。3万ゼムあれば、大分楽な暮らしができるかな」
1ゼム=10円でいいのか?そう考えると1本50ゼムは、毎日は無理でもたまの休日に食べるくらいのものか。
「俺アサギに頼りっぱなしだな。さっきの串も金払ってないし……」
「これくらいはいいわよ。私は、そこそこ稼いでいる冒険者なんだし」
「そうはいかないだろう」
「いいの!そんなに気にするなら、いつか私にお腹いっぱい奢ってよ」
やっぱりアサギは良いやつだな。そんなアサギにいつか恩返しができるといいなと思いつつ、残りの肉を平らげた。
「ここが、リーザスの町の冒険者ギルドよ」
アサギに言われた建物を見上げる。他の建物よりも明らかにデカい。3階建ての石造りだけど、外観にも気を使ってるのか装飾が派手にならない程度に施されている。ここは広場に面して立地で、人通りも多い。そんなところに、こんなデカい建物を構えているなんて、冒険者ギルドって儲かってるんだな。
「立派な建物だな」
「リーザスには願いの塔があるからね、探索者や冒険者になりたい人たちが大勢いるのよ。だから探索者ギルドと冒険者ギルドも自然と大きくなるの」
そう説明してくれたアサギに続いて玄関のドアをくぐる。中に入ると、途端に喧騒が響いてきた。正面にはカウンターが並んでいて、今も冒険者と思われる人たちが列を作っている。ただ、思ってたよりは混んでないな。
「てっきり冒険者ギルドにはすごい数の冒険者がひしめいてるかと思ってたよ」
「この時間帯は余り混んでないわ。だいたい早朝か夕方頃がいつも混んでるの。
早朝は依頼を受けるとき、夕方は依頼を達成して報告するときだから結構混むのよ」
なるほど、ギルドにもラッシュアワーがあるんだ。視線を左に向けると壁一面に何かが張り出されていた。
「あれが、依頼書?」
「そうよ。あそこで依頼を見つけてカウンターに持っていくと、依頼が受理されるの。そのあたりは登録した時に教えてくれるよ」
頷きつつ右手に視線を向けると、そこは酒場になっていた。この辺りは小説で読んだ異世界物と大して変わらないな。
「さ、もう少しすると一気に混むから今のうちに登録しましょう」
俺を促したアサギは、比較的人の少ない列に並んだ。仕組みが解ってない俺もアサギに続く。そうしてしばらく待っていると、俺たちの番になった。
「アサギさん、お疲れさまです。今回の依頼はどうでしたか?」
受付の前まで行くと、顔見知りなのか女性の受付担当者がアサギに声をかける。
「ええ、問題なかったわ。これ討伐証明」
「お預かりします。しばらく時間がかかりますが、このままお待ちしますか?」
そう言って別のギルド職員に荷物を渡す。渡された職員は、そのまま奥に消えていった。
「それなら丁度いいわ」
そう言ってアサギは俺へ視線を向ける。自然と受付嬢の視線も俺に向けられる。
「そちらの方は?」
アサギが対応するのかと思っていたら、肘で脇腹を突かれた……俺かよ!?
「えっと……冒険者になりたくて来ました。登録をお願いします」
受付嬢は合点がいったように笑顔になる。
「はい、承りました!私今回あなたの担当をさせていただきますノルン・ウィスパーと申します。あなたは、アサギさんのお知合いですか?」
「ちょっと訳あってね、まあ私の弟みたいなものかな」
何が嬉しいのか全身で喜びを表現しているアサギ。そんなアサギを不思議そうな目で見ながらも、営業スマイルを忘れないノルンさん。彼女は猫人族の獣人だろうか。頭の上のネコミミがピンと立っていて可愛いよりも美人ってイメージだ。ここからでは見えないが、尻尾も生えてるんだろう。制服をビシッと着こなした仕事のできる女性って格好いいよね。
「そうですか。では登録用紙に必要事項を明記してください」
渡された紙を見るが……読めない。そう言えばアサギと普通に会話してたから忘れてたけど、文字はアウトなのか。
「ホクトくん、どうしたの?」
「……字が読めない」
「えっ……会話はできるのに?」
2人でコソコソと話していたら不思議におもったのか、ノルンさんが話しかけてきた。
「もしかして、字が書けませんか?」
「……すいません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。冒険者になりたい方って、結構読めない人多いですから。私が代筆しますのでご安心ください」
あからさまにホッとしてしまったのか、ノルンさんにクスクス笑われてしまった。
「では、まずお名前を教えてください」
「ホクトです。ホクト・ミシマ」
「ホクトさんですね。次に年齢は?」
「17歳です」
「17さ……」
「え!?ホクトくん17だったの!?」
「そうだよ。なんで、そんなに驚いてるんだよ」
「私てっきり14くらいかと……」
「おいおい……」
「私も、それくらいかと……すいません!」
日本人って若く見られるとは言うけど、そんなに若く言われたことないぞ。
「とにかく、俺は17歳だ」
「コホン、失礼しました。ホクトさん17歳ですね」
「あの、繋げて言うの止めてもらえます?」
「は?」
「……いえ、何でもないです」
こっちの人には通じなかったか。そんなこんなで必要事項を口頭で伝えながら用紙を埋めていった。
「はい、これで必要事項は全て埋まりました。これからステータスの発行を行いますので手数料に5000ゼムいただきます」
………………。
「は!?え、手数料かかるの?」
「はい、冒険者になる皆様から頂戴しています」
俺はアサギにジト目を向けながら顔を近づけた。
「おい、アサギ。聞いてないぞ、5000ゼムなんて俺払えないぞ」
「あ、あれぇ?手数料なんて取られた……かしら?」
あ、こいつ絶対忘れてた。
「アサギさんも登録時にはお支払いいただいているはずですよ?」
ノルンさんからもジト目を向けられるアサギ。
「あ、アハハハ……ゴメンねホクトくん」
上目遣いからの寄せて上げてのお願いポーズ……クソッあざといが眼福です。
そんなアサギから何とか視線を引き剥がしてノルンさんに向き直る。
「すいません、今手持ちがないです」
仕方ない、金を貯めてから来よう。
「あ、大丈夫ですよ。手数料の方は依頼料からの天引きができるので、今すぐ全額お支払いいただく必要はありません」
「そ、そうなんですか……よかった」
心底ホッとした俺を見てノルンさんが微笑んでいる。この人、ひょっとしてわざとやってるのか?
「……アサギさん、あの子可愛いですね」
「でしょ、なんかほっとけないのよ」
大人の女性2人がコソコソとなにやら話している。聞こえない……俺には何も聞こえないぞ。
「では、ホクトさん。ステータスを発行してきますね」
そう言ってノルンさんは奥の方へ歩いて行った。
「良かったね、ホクトくん。これでキミも冒険者だよ」
「なんか、もっとスッと登録できそうだったんだけどな」
アサギの顔をジト目で睨みつける。アサギは俺と視線を合わせようとせず、明後日の方を向いたまま俺に話しかける。
「いやいや、気のせいよ気のせい。ほら、無事に登録できたんだから喜んで」
「俺はお前たちのオモチャじゃないぞ」
そんな他愛もないやり取りをしながら時間を潰していると、奥に消えたノルンさんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらがホクトさんのギルドカードになります。
こちらのカードは紛失されますと、再手続きに5000ゼムかかってしまいますのでなくさないでくださいね」
手渡されたギルドカードを受け取り感触を確かめる。近所のレンタルビデオショップの会員証みたいな手触りだ。
「そちらはご本人のみ使用できます。カードを持ったままステータスオープンと念じてみてください」
お、いよいよ俺のステータスが見れるのか!これはテンション上がる。
俺は心の中で『ステータスオープン』と唱えた。
本文中で買い物をしていますが、ここではダーレン大陸の通貨と貨幣について説明します。
ダーレン大陸の通貨は「ゼム」。
紙幣は存在せず、硬貨のみが複数種類ある。
銅貨 =1ゼム
大銅貨 =銅貨10枚(10ゼム)
銀貨 =大銅貨10枚(100ゼム)
大銀貨 =銀貨10枚(1,000ゼム)
金貨 =大銀貨10枚(10,000ゼム)
大金貨 =金貨10枚(100,000ゼム)
白金貨 =大金貨100枚(10,000,000ゼム)
大白金貨 =白金貨100枚(1,000,000,000ゼム)
今後日本の物価と比較することはあまりありません。
硬貨の価値だけ知っていれば何とかなると思います。
ご視聴ありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします。