9話 スタンピード開幕
フォレストウルフを倒し、急いでベースキャンプまで戻ってきた俺とシッカ。村の中に入ると、既に準備万端の冒険者たちがいた。
「おう、戻ったか」
指令室になっているテントに入ると、ダッジさんとグルドさん、そしてアマンダさんがいた。彼らは既に装備を整え、いつでも戦いに出れる格好になっている。
「ただいま戻りました」
シッカがダッジさんに報告する。俺はシッカのサポートだから、こういう場合の報告はシッカの役目だ。しっかり報告してもらおう。
「敵魔物の群れを確認しました。小さなフォレストウルフの群れをワーウルフが従えるような形で大きな群れを形成しています。数は目算ですが1000以上はいると思います。恐らく2時間後には、この村まで来ると思われます」
「ご苦労。お前らのお蔭で、貴重な情報が手に入った。今の情報をもとに作戦を詰めるとしよう。お前たちには、手が足りなくなったら遊撃として戦闘に出てもらうが、それまではゆっくりしててくれや」
「ダッジさん、やはり彼は町に帰すべきです」
俺たちがテントを出ようとしたら、アマンダさんがまた俺を帰そうとダッジさんに意見し始めた。なんだろう、ここまで執拗に足手纏い扱いされる理由がわからない。俺以外にもDランク冒険者はいるし、その全てが今回の戦闘で役に立つとは思えないんだけどな。どうしてアマンダさんは、ここまで俺の評価が低いんだ?
「もう諦めろアマンダ。俺が総司令である以上、ホクトは戦力として数える。お前が何を心配しているのか知らないが、さすがにこれ以上は越権行為だ」
「ですが!」
「お言葉ですがアマンダさん、彼は十分に戦力になります。現に私は偵察中に彼に助けられました」
とても居心地の悪い思いをしていると、シッカが俺のフォローをしてくれた。なんか、最近の俺ってちょっと情けないな。
「……どういう事?」
睨むようにシッカに向き直るアマンダさん。
「今回の偵察で、敵魔物の偵察部隊と遭遇しました。数は3。見逃せば敵が我々に奇襲をかける切っ掛けを与えかねない、かと言って戦闘になれば離れた場所にいた群れに気付かれる。ハッキリ言って私は身動きが取れない状況でした。そんな状況を打破したのがホクトです。彼は瞬時に2匹のフォレストウルフを屠り、残りの1匹を私が倒して事なきを得ました。彼は決して足手纏いにはならないと考えます」
「それは、あなたたちDランク冒険者からしたらそうかもしれないけど、肝心なところで足を引っ張られたら周りの迷惑になるのよ?それはわかってるの?」
「アマンダさん、俺を信用できないのは分かりますが、他のDランク冒険者まで一括りに足手纏い扱いをするのは良くないんじゃないですか?」
「あなたが私に意見をしようって言うの?」
まさに売り言葉に買い言葉、このままだとどんどんアマンダさんとの関係が悪くなりそうだ。そう思っていたら……。
「そこまでだ。アマンダもホクトも落ち着け。今俺たちがすることは、すぐにやってくる魔物の群れをより早く、より楽に倒しきる事だ。時間は全然足りねえんだ、こんなところでピーチク囀っていても始まらないだろう」
「……」
それでもアマンダさんは、まだ何かを言いたそうだった。だけど、確かにこれ以上俺たちがここにいると邪魔になりそうなので、そろそろお暇しよう。
「すいませんダッジさん。俺たちはこれで」
「ああ、ゆっくり休めよ」
俺はシッカを伴って、テントを出た。
「一人前の口を叩いたんだもの、戦闘が始まったら覚悟しておくのね」
背中越しにアマンダさんの言葉が聞こえたけど、俺は振り返りもせずその場を後にした。
「まったく、アマンダさんどうかしてるって!」
外に出ると、俺以上にご立腹のシッカがうがーっと叫ぶ。近くにこれだけ怒ってくれる人がいると、俺の方は逆に冷静になれるな。
「偵察で足りないなら、もっと他の方法で見返すしかないな」
「そうそう、俺はお前に期待しているぞ?」
横合いから突然ソウルが出てきて、俺に絡んできた。
「……なんだよ、ソウル突然に」
「いやぁ、お前知ってたか?テントって気密性低いんだぜ?」
つまり、中でのやり取りが丸聞こえだったと……。
「それにしてもあのアマンダって女、人を見る目が無いにもほどがあるな。よりによって、ホクトを雑魚扱いするとはな」
「あ、あの……最短でCランク冒険者になったソウル・スタントさんですか!?わ、私あなたのファンなんです!」
そして突然のシッカのカミングアウト。なんだ、シッカってソウルのファンだったのか。
「それは嬉しいねお姉さん。なんだったら、これからじっくり話でも……」
「後にしろ。後少ししたら魔物の群れがここに来るぞ」
「偵察に行ったのお前ら何だろ?で、どうだったんだよ」
目をキラキラさせながらソウルが聞いて来た。こいつは戦えることが嬉しくで仕方ないんだ。
「フォレストウルフとワーウルフの混成部隊だ。もう少ししたら、ダッジさんが作戦を教えてくれるだろうから、それまで我慢してろ」
「ちぇっ、俺はお前から話を聞きたかったのに……」
「ね、ねえホクト。あなたソウルさんと知り合いなの?」
今度はシッカがキラキラした目で俺を見てくる。さっき、あれだけの数の群れを見てビビってたのに、実はこいつって意外と神経太いんじゃ?
「俺とホクトは親友です!」
「いいから、お前はさっさとサラたちの所に戻れよ。俺たちはダッジさんから少しでも休めって言われてるんだよ!」
「なんだ、お前ら居残りか?だったら、その間に俺が全部魔物を頂いちまうぜ?」
俺たちが雑談に興じていると、テントからダッジさん達が出てきた。やっと作戦が決まったのか、みんなの視線がダッジさんに向けられる。
「よし聞け、お前ら!さっき偵察に出していた奴らが戻ってきた。あと1時間くらいで群れが視認できるところまで近づくだろう。そこで、今回の群れに対しての作戦を伝える」
そこで伝えられた作戦は、単純な物だった。ある程度の数の冒険者で真っ向から受ける。そして群れの進路を塞いで、相手の足が止まったところで両サイドから挟み撃ちにするようだ。なので、この戦いで一番しんどいのが相手の足を止める真ん中のグループ。
「この真ん中のグループには耐久力が高い者たちを置くつもりだ」
「もちろん、私たちのグループもそれに参加する」
そんな気はしてたけど、アマンダさんが喜々として一番しんどいところに俺たちを巻き込んだ。
「ホクト帰ってたのか?」
「カメリア……まあ、さっきな。それより、あのアマンダさんって」
「涼風の乙女って全員女性でしょ?だから、常に舐められないようにああやって一番キツイ仕事を選ぶそうよ」
アサギも近くに寄ってきた。なるほど、女性しかいないから舐められる。舐められないようにするには、常に存在感をアピールする必要があるって事か。
「アタイはなんかやだな。そりゃ個人的には嬉しいけど、今回って涼風の乙女だけじゃなくて他のパーティの連中もいるだろう。それをいくらリーダーだからって、突っ走るってのは気に入らねえな」
「……とりあえずは、お手並み拝見と行こうじゃないか。あの人が、俺たちを使い捨てにするようなら、こっちも好きにやらせてもらうさ」
「……ホクトくん、何かあった?なんか普段と雰囲気が違うけど」
この程度ならまだ耐えられる。だけど、それが度を超すようならオレはパーティを預かるリーダーとして、他の2人を守らなきゃいけなくなる。アマンダさん、そうはならないように頼むよ?
「見えた!スタンピードの群れだ!」
村の外壁近くに建てられた櫓から、見張りについていた冒険者の声が聞こえた。遂に来たんだ、スタンピードが……。
「くぅ、武者震いがするぜ」
すでにカメリアはやる気MAXだ。抑えていないと、今にも飛び出していきそうな雰囲気をしている。
「よし、それでは作戦を開始する。各グループは所定の位置についてくれ」
ダッジさんの号令のもと、挟撃部隊は左右に散っていく。ソウルやアレクの烈火の牙は挟撃部隊だ。そして、その中でも最大火力なのがグルドさん率いる竜神の鉾だろう。それにアマンダさんの仲間たちも、何人かが挟撃部隊に加わっている。
「よし、私たちも行こう。ターツ、カメリア、そしてホクト。あなたたちが前で敵の進行を食い止めて。残りの者は遠距離攻撃とサポートに分かれて、前衛をしっかり支えるのよ」
おっと、いきなり俺が前衛か。最初の自己紹介の時は蚊帳の外だったのに、どういう心境の変化だ?
「アマンダさん、私とホクトはダッジさんから休むことを命じられています。なのに、なぜホクトがいきなり前衛なんですか?」
「あなたが言ったんじゃない、偵察中にホクトがフォレストウルフを倒したって。なら、その実力を使わないのは勿体無いわ。そうでしょ、ホクト」
どこか人を見下したような表情。目は口ほどにものを言う。なんか、ここまでバカにされると楽しくなってきた。
「わかりました。ターツさん、カメリアよろしく。俺たちで敵を釘付けにしよう」
「おう!」
「任せとけ!」
どういうつもりか知らないけど、俺としてはチャンスだ。ここで役に立つことをアピールして、少しでも周りの評価を上げるとしよう。
「ホクトくん、余り気負わないようにね」
「後ろには俺たちがいる。安心して目の前の敵に集中しろ」
アサギとカゲツグも声をかけてくる。
「後ろは任せた。絶対にお前たちの所まで魔物を行かせないさ」
各グループが所定の位置に着いた。俺の位置は特等席も特等席。中央で魔物の群れを押し止めるグループの中でもど真ん中。まさにセンターだ、これでテンションが上がらなきゃ男じゃないな。
「うおぉぉぉ!やってやるぜ!!!」
俺よりテンションが高いのがいるが気にしない。
「私の合図で弓士は弓を引きなさい。魔法使いたちも呪文の詠唱を開始。そしてアサギ、あなたは広範囲殲滅魔法の準備を」
「わかったわ!」
後ろのサポート要員や遠距離攻撃要因が準備を始める。その気配を感じつつ、俺は向かってくる群れを見る。俺の役目は1匹でも多くの魔物を惹き付けて、後ろのアサギやカゲツグの邪魔をさせないこと。
「よし、弓士は弓を。魔法使いは魔法の詠唱を始めて!」
アマンダさんの掛け声とともに魔法使いたちが一斉に呪文の詠唱に入る。その中には、当然アサギもいる。
「……」
アマンダさんは前衛と中衛の間、1.5列目で魔法の詠唱を始めている。この人の職業は魔法剣士、相手との距離があるときは魔法を使って、距離が詰まったら剣を抜くつもりなんだろう。あれだけ見下されたけど、やっぱりAランク冒険者は格が違う。身に纏う魔力が一気に膨れ上がった。
「放て!」
一斉に矢が放たれる。俺たちだけじゃない、他のグループからも一斉に弓が放たれる風景は圧巻の一言だ。
「次、魔法を放て!」
続いて魔法使いたちの魔法が空を飛んでいく。1つ1つは大した威力が無くても、これだけ寄り集まれば十分脅威になりえる。先に放たれた矢が、群れの中央へ殺到した。次々に倒れていく魔物たち。フォレストウルフはすばしっこいのか、多くが避けてるけど、ワーウルフは面白いくらい当たっている。
そして少し進行が遅くなった魔物の群れに、今度は色とりどりの魔法が突き刺さる。その中でもひときわ大きい魔力の塊が着弾、周りにいた者を吹き飛ばした。
「アサギやれ!」
「はい!」
そして極めつけの、アサギの精霊魔法。最近暴れていなかったから、天狐も元気一杯だ。明らかに他の魔法とは毛色の違う天狐の炎が群れの戦闘集団を飲み込む。炎に包まれた魔物たちは、一気にその数を減らしていった。
「ターツ、カメリア、ホクト!次はあなたたちの番よ。魔物たちを押し返せ!」
「「「おおぉぉぉ!!!」」」
いよいよ俺たち前衛組が魔物の群れと接敵する。俺たちに呼応するように、他のグループからも前衛組が飛び出してきた。
ついに俺にとって初めてのスタンピードが始まる。




