6話 フラグは立っていた
翌日、俺たちは正式にスタンピード鎮圧作戦に参加を表明するため、ギルドに来ていた。
「そうですか、やはりホクトさん達は参加するのですね」
「はい。本当は昨日のうちにキッパリと表明できれば良かったんですけどね」
俺たち3人は、ギルドのカウンターでノルンさんに参加の意思を伝えていた。最初、俺たちが声をかけたノルンさんは疲れからか、暗い表情をしていた。目の前にいるのが俺たちだと解った途端、表情が満面の笑みに変わったのを見れば他の冒険者たちがどのような決断を下したのか透けて見えた。
「やっぱり、状況は芳しくないの?」
「そうですね。昨日集まってもらったパーティのうち、2割から3割は招集を拒否しています。さらにそのうち半分ほどは、既にリーザスの町を去っています」
「けっ、そんな雑魚いなくなってせいせいするぜ。ノルン、あんま気にすんなよ。どうせ残ってたって、旗色悪くなったら逃げるのが見えてるような連中だ」
「そう……なんでしょうね。でも、正直に言って嬉しかったです。これでホクトさんたちまで拒否されていたら……」
やっぱりノルンさんは大分心労が祟っているみたいだ。無理矢理笑顔を作ろうとしているけど、目の下の隈が全てを物語っていた。
「こらホクトくん、女性の顔をそんなにマジマジ見ちゃダメでしょ」
「あ、ごめん。ノルンさんもごめんなさい」
「……ふふ、酷い顔でしょう?すいません、ちょっと顔を洗ってきます。ホクトさん達は中の応接室で待っていてください」
そういってノルンさんは、他の職員に俺たちの事を任せると奥へ消えていった。俺たちは、その職員に誘導されて以前使った応接室に通された。そこでしばらく待っていると、ノルンさんが飲み物を持って戻ってきた。気付かれないように確認したら、薄っすらと化粧の後が見えた。これは、言わないのが礼儀だよな?
「では改めまして。今回は作戦への参加を表明していただきありがとうございます。ここからは、作戦の詳細と担ってもらう仕事の詳細を詰めたいと思います」
そうしてノルンさんから説明を受けた。基本的には昨日説明のあった通りだけど、思ったよりも離脱者が多い事で残った冒険者への負担も多くなっている。
「攻撃部隊と防衛部隊を分けるのは変わらないのね」
「はい、攻撃部隊の人数が減るとは思いますが……そのままの群れをリーザスだけでは受けきることができません。なので、自ずと攻撃部隊にかかる負担が大きくなります」
「他の町からの増援は?」
「数日中にはリーザスに着く予定です。ただ、他の町も自分たちの町を守るためBランク以上の冒険者は増援に含まれていません」
「そうすると、最大でCランク冒険者までね……」
「はい……」
話しを聞く限り、増援に来てくれるのは100名ほどの冒険者で、数自体は想定していたよりも多いとのことだ。ただ、思っていたよりも質は高くなくてCランクまで。それも数人で、殆どがDランク冒険者と言う事だ。
「これは……増援を送ってくれただけ儲けものって思わないとダメね。それに100人もいるとは言え、ほとんどがDランクじゃ攻撃部隊に加えることもできないんじゃない?」
「その通りです。なので、大変申し上げにくいのですが……」
「私たち猛炎の拳は攻撃部隊に組み込まれるのかしら?」
「はい……」
うわぁ、マジかよ……。まさか昨日話していたことがフラグになるなんて。ノルンさんは凄く申し訳なさそうにシュンとしている。あ、この反応は……。
「ひょっとして、俺たちを攻撃部隊に組み込んだのは……ダッジさん?」
「え!?そ、そうです……。よくわかりましたね」
「ええ、まあ……。ダッジさんの考えそうなことだな……と」
ホントにやりやがったよ、あの鬼軍曹!
「アタイは嬉しいけどな!だって、倒しきれないほどの魔物が向かってくるんだろ?願っても無いチャンスじゃねえか」
「はいはい、バトル狂信者は置いておいて……」
カメリアの反応をアサギが軽く流す。それを見て、ノルンさんが苦笑している。アサギにとっては慣れたもので、ひょっとしてカメリアって昔からこんな感じだったのか?
その後も必要な情報をアサギが集めてくれる。ハッキリ言って、俺ではさっぱりだからアサギが色々動いてくれるのは助かる。
「こんなところかな。それで、攻撃部隊って何人くらいになりそう?」
「そうですね、ざっと80人くらいです。そのうち12人がAランク冒険者、22人がBランク冒険者、24人がCランク冒険者になります。残りの22人がDランク冒険者ですね」
「思ったよりもDランク冒険者が多いわね。元々Dランク冒険者って、これくらいを想定していたの?」
「そこは……実は、かなり多いです。もとは10人程度を想定していました。それに仕事の内容も、直接魔物を倒す事よりも他の高ランク冒険者のサポートをすることを想定してたんです」
「……この人数増加が悪い方へ向かわなければいいけど」
アサギが考え込んでしまった。その反応を見てノルンさんも俯いてしまった。部屋の空気が重い……そう思っていたら。
「まあ、なるようになるだろ。今から心配していると、眠れなくなるぞ?ノルンは今だって寝不足だろ?肌の調子が悪そうだ」
1人空気を読まないカメリアがノルンさんを嬲る。おいおい、これ以上ノルンさんを追いつめるなよ。
「カメリア!」
「あ?なんだよ、本当の事だろう?」
「そうだけど……言い方!」
「どんな言葉並べようが、今のノルンが疲れてるのに変わりはねえだろ。だったら、そんな心配しても無駄だ。成功するときはするし、失敗するときはする。それは、ノルンが気に病んだからって変わらねえんだ!だったら、変に心配して肌荒れ起こすだけ無駄だろ?肌荒れは、女の天敵だぜ?」
こいつは、こいつなりにノルンさんを励まそうとしてたみたいだ。まったく、だったらもう少し相手を思いやった言葉をかければいいのに。
「そ、そうですね。私が心配しても結果が変わる訳じゃないですね。カメリアさん、ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」
「そうだよ、そもそも拒否した奴らの事までお前が気に病んでるのがおかしいんだ。これでリーザスの防衛に失敗したら、そいつらを恨んでやればいい!」
「ふふ、ギルド職員としてはダメなんでしょうけど……そう思う事にします」
ノルンさんもカメリアの激励?で少しは気が楽になったようだ。
「俺たちがどれだけ貢献できるか分かりませんけど、周りと協力してリーザスを守りますよ」
「期待していますよホクトさん」
その後は、今後の予定を確認してギルドを出た。
そして、いよいよ攻撃部隊がスタンピード迎撃ポイントへ出発する日がきた。北門から出発して、2日後には目的地に到着予定だ。
「くぅ、早く1万匹の魔物を見てみたいもんだぜ。なあ、ホクト!」
ソウルは早くもテンションが高い。そんなにスタンピードの群れに飛び込むのが嬉しいのか。
「お前元気だな。俺なんて1万人の人すら見たことないから、どれくらいの規模なのか想像もできないわ」
もちろん、こっちの世界に来てからの話だ。日本にいたときは1万人規模のイベントが結構あったし、東京に住んでいれば気にもしない数だな。だけど、こっちの世界で1万人っていう規模は、それこそ大都市とかまで行かないと見れないんじゃないか?
「そんなの俺だって見たことねえよ。だけど、1万だぜ?多分どこ見ても魔物なんじゃねえか?なんか、それを想像しただけでワクワクしてこないか?」
「くるな!すごくワクワクする!」
答えたのはもちろん俺じゃない。うちのバトル狂信者カメリアだ。
「お、やっぱりカメリアさんもイケる口か!」
「おお、アタイは今からでも戦いたくでウズウズしてんだ」
「「はやく戦いてえ!!!」」
まあ、こうなるのは解ってたよ。まさに打てば響く、類友だ。こいつらのことは放っておいて、荷物を馬車に積み込んでいるアサギを手伝う事にした。
「俺も手伝うよ」
「ありがとう。じゃあ、この荷物をお願い」
アサギに言われたものを馬車の中に積み込んで行く。今回はギルドが攻撃部隊用に用意してくれた。その数11台。1台につき8人が乗れる計算だ。残りの1台は食料とかテントとかの輜重用だな。
「よいしょっと」
荷台の後ろの方に積み込んで行く。基本的にチーム単位で馬車に乗り込むことになるので、馬車に予め自分たちの荷物を積むようにギルドから言われている。他にも同じ馬車に乗る冒険者がいるので、貴重品なんかは自分たちで管理することになるけどな。
「ホクト!」
俺が馬車から下りると声がかかった。見ると烈火の牙の面々が近づいてくる。
「アレク!あれ、お前たちも同じ馬車か?」
「そうみたいだな。俺たちもこの馬車に乗れって言われてるんだ」
「あら、ホクトくんの知り合い?」
俺とアレクが話していると、アサギが近づいて来た。すると烈火の牙の連中が固まる。
「ああ、こいつらは烈火の牙ってパーティで何度か助けたことがあるんだ」
「あらそうなの。知ってるかもしれないけど一応自己紹介するわね。私はアサギ、ホクトくんと同じ猛炎の拳の一員よ、よろしく」
「ぞ、存じております……お、俺は烈火の牙リーダーのあ、アレクです!」
アレクが見たことも無いくらいガチガチに緊張してアサギに応対している。なんで、こいつこんなに緊張してんだ?
「どうしたアレク、なんか変だぞ?」
「当たり前だろ、アサギさんと面と向かって話すなんて初めてなんだ。緊張しない方がどうかしてる……」
なんでアサギと話すと緊張するんだ?
「アサギって有名なのか?」
「さあ?私は、ただのCランク魔法使いよ?」
アサギのこれは天然なのか、作っているのか判断に迷うな。アレク以外の他の連中も緊張しながらアサギに話しかけてる。どうも、俺が無知なだけでアサギの知名度は、ここリーザスだと思いのほか高いらしい。
「お兄ちゃん!」
「あれ、ハンナちゃん?今日はやけに千客万来だな」
俺はハンナちゃんに手を振って、最後の荷物を馬車に積み込んだ。馬車から下りるとハンナちゃんはアサギに抱きついているところだった。
「アレク、お前らもさっさと荷物積み込んじゃえよ。いつ出発するか分からないからな」
「あ、ああ。そうだな……よし、みんな荷物を積み込もう」
アサギと話せたことが嬉しかったのか、放心状態の烈火の牙メンバーはノロノロと馬車に乗り込んで行った。
「ハンナちゃん、店は大丈夫か?」
「うん、お客さんも冒険者の人だけになっちゃたし……その冒険者の人たちも色々忙しいみたいで宿には誰もいないの」
「そうか……」
今にも泣き出しそうな表情でハンナちゃんは答えてくれる。ハンナちゃんの表情でわかるように、ギルドはスタンピードの情報を町全体に公表した。これ以上隠し通すと、町から逃げ遅れる人が出てきそうだったことが原因のようだ。もっとも、町の領主代行は最後まで隠し通すつもりだったようで、自分たちはとっとの避難した後だ。
「お兄ちゃん……町は大丈夫かな?」
アサギに抱きついたままのハンナちゃんの頭を撫でる。
「大丈夫だ!ハンナちゃんたちを守るために、俺やアサギが頑張ってくるんだから。なあアサギ」
「そうだよハンナちゃん。私たちが町の人たちのことは守るから心配しないで」
「うん……」
とは言え、そんなことで心配が拭えるなら最初からこんな顔はしていない。だから、今回はとっておきの秘密兵器を用意した。
「ポロン」
ハンナちゃんから少し離れてポロンを呼んだ。
「わう?」
呼んだ?と首を傾げながら、ポロンが俺のところに来て身体に縋り付いてきた。
「ポロン、お前に使命だ」
「わん!」
「見てみろ、ハンナちゃんが心配で泣きそうになってるだろ?お前はハンナちゃんの側でハンナちゃんを守ってやれ」
「……わぅ?」
一緒に行かなくていいの?って顔をしてくるので、頷いてやる。確かに大きくなったポロンは戦力になるけど、今は1人だと不安で仕方ないハンナちゃんを安心させる必要がある。ポロンなら、もう1人の相棒をしっかり守ってくれるだろう。
「……わん!」
しっかり返事をしたポロンは、ハンナちゃんのところまで行ってハンナちゃんに身体を擦り付ける。
「わぁ、どうしたのポロン?」
「ポロンはハンナちゃんを守りたいんだって。だから、今回はお留守番だ」
「え、ポロンお兄ちゃんと一緒に行かないの?」
「わうわう♪」
中腰になってポロンと目線を合わせて尋ねるハンナちゃんの顔を、ポロンは思いっきり舐め回す。
「わぁ♪わ、わかったから落ち着いてポロン~」
今にも泣き出しそうだったハンナちゃんの目じりを重点的に舐め回すポロン。グッジョブだ。
「そろそろ出発するぞ!攻撃部隊の冒険者は、所定の馬車に乗り込め!」
ダッジさんが大声で乗車を促す。さて、いっちょ町を守ってきますか。
「気をつけてねお兄ちゃん、お姉ちゃん」
「任せろ!」
「行ってくるね」
「ポロン、ハンナちゃんを頼むな!」
「わんわん!」
こうして俺たちは、スタンピード鎮圧作戦のため、リーザスの町を離れた。




