4話 ブリーフィング
涼風の乙女リーダーの名前をアマンダに変更しました。
ミランダは烈火の牙のメンバーで重複していました。
大凡今回招集された理由は解った。後は、どうやってスタンピードからリーザスの町を守るかだ。
「ギルマス、そのスタンピードがリーザスを回避する可能性は?」
「限りなく低いな。1万の群れが進行する途上にあった村や町は、全て壊滅させられた。そして、その進路上にリーザスの町がある。何かの拍子に群れの進路が変わらない限り、リーザスが群れに飲み込まれるのは間違いない」
ギルマスのその言葉を聞いて、その場にいた全員が黙り込む。今の話を聞く限りは、スタンピードがリーザスを襲う前提で話を進めないと意味が無さそうだ。
「で、どうやって乗り切るんだ?ハッキリ言って、人の手でどうにかなる数には思えないんだがな」
「……そうだな。緊急招集放棄のペナルティは痛いけど、自分の命と天秤にかける訳にはいかない」
ポツポツと、冒険者たちから意見が出る。って言っても、これは意見じゃないな……できれば戦いたくない。リーザスを放棄して逃げようって後ろ向きな意見だ。確かに生まれがリーザスじゃない冒険者にとっては、今回のスタンピードに命を懸けるのは御免被りたいだろう。
そこで自問してみる。俺はリーザスを助けたいか?答えはイエスだ。ハンナちゃんやローザさん、ノルンさんにダッジさん。ケントさんにマテラさん……他にも守りたい人はたくさんいる。自分が死ぬ可能性があるからって、諦められる人たちじゃない。
俺はこの作戦に参加したい。
だけど、カメリアやアサギはどうだ?アサギは残ってくれそうだ。俺よりもリーザスが長いアサギにとっても、守りたい人はたくさんいるだろう。じゃあカメリアは?あいつには強くなりたいって夢がある。その夢と最近できた知り合いを天秤にかけたときに、カメリアがどちらを選択するか……まあ、なんだかんだ言っても残る方を選んでくれると俺は思いたい。時間的猶予があるなら、戻ってから相談してみよう。だけど、猶予が無いなら……独断になるけど受けようと思う。
「俺はやるぜ!リーザスには思い入れもあるからな」
隣のソウルが一番に名乗りを上げた。こいつは、いつもちゃらんぽらんだけど、こういう時の決断力は抜群だ。
「俺たちもやります!」
次に声を上げたのは烈火の牙のアレク。あいつら、いつもゴブリンでヒィヒィ言ってるのに正義感は人一倍強いからな。こういう時に他のメンバーの言質は必要ないんだろう。
「……あぁ、お前たちの気持ちは嬉しいがな、少し気が逸りすぎだ。なにも、ここで決を取ろうってわけじゃねえ。他の奴らだって、自分の一存では決められない奴らもいるだろう。まずは、俺たちの考えた作戦を聞いて、それをパーティメンバーに持ち帰って検討してみてくれ。その上で、受けるってやつは明日、ギルドにその旨を伝えてくれや」
良かった、本当は俺もソウルみたいにここで決断できれば良かったんだろうけど、アサギとカメリアの命を預かるには、荷が重すぎる。
「ホクトはどうすんだ?」
「……俺としては受けたいと思ってる。だけど、アサギとカメリアと相談だな。2人が拒否するなら……まあ、俺1人の参加になるかな」
そう俺が零すと、ガバッとソウルが肩を組んできた。
「さすがホクトだぜ!俺はお前のそう言うところが好きなんだ」
「何言ってやがる……本当は、俺だってソウルみたいにここで決断したかったんだ。だけど、あの二人の事を考えるとな」
「それで良いんじゃねえの?うちは、普段から俺の一存で決めてるからな。サラもエリスも、俺が決めたことに文句を言った事ねえし。お前んとこだと、アサギさんは残りそうだな……カメリアさんは、まだあんまり話したことねえけど、こういう時に引くような人じゃねえだろ」
「……はは、俺もそう思う」
「だろ?」
二カッと良い笑顔で笑うソウル。ひょっとして、顔に出てたか?こういう何気ない気づかいができるのがソウルのいいところだ。
「俺たちも参加するぞ」
「私たちもよ」
俺とソウルがバカやってる間に、前の方の席で2人の声があがった。俺は知らない人たちだったけど、その二人が参加表明をしたことで周りがザワザワと反応した。
「あの人たちは?」
「……ああ、『竜神の鉾』と『涼風の乙女』だな。どっちもAランクパーティで、願いの塔にも潜ってるリーザスの中でも1,2を争うパーティだ」
俺の疑問にソウルが答えてくれる。竜神の鉾と涼風の乙女か、Aランクパーティなんて初めて見た。普段は願いの塔に潜ってるから、俺が見たことなかったのか。
「グルドにアマンダ、お前たちが参加してくれるのは嬉しいぞ。期待している」
竜神の鉾の人がグルドさんで、涼風の乙女の方がアマンダさんかな。グルドさんは竜神族だよな、頭頂部から生える2本の角に、身体の所々を覆う鱗、それに座っててもわかるデカい身体。アマンダさんの方はAランクパーティ所属とは思えないほど、スラッとした人だ。歳も若く見える、多く見積もっても20代後半くらいじゃないか?軽鎧を纏っているけど、部位単位では余り守る場所が多くない。修敏性を活かした戦闘をするのか?どちらもかなり強そうだ。
「ソウルは知り合いか?」
「いや、あのレベルのパーティになるとCランク程度のパーティなんて眼中にねえよ」
何を不貞腐れてるのか、ソウルがつまらなそうに答える。これは、ソウルの方はガンガンに意識してるって事だな。
「そろそろいいか。ここで参加表明をしてくれるのは有難いが、まずは今回の作戦を説明したいと思う。作戦については、ダッジから説明する。頼んだぜ、ダッジ」
「よし、では注目してくれ」
ギルマスに代わってダッジさんが中央に立つ。って事は、今回の作戦の総指揮はダッジさんになるのか?
「今回の作戦についてだが、大まかには決まっている。他の町からの人出がどれくらい来るかで細かい調整は行うが、基本的にはここで話す内容から大きく離れることは無い。それを踏まえたうえで聞いてくれ」
ダッジさんが話し始めたことで、部屋の中が一斉に静かになった。みんな作戦の内容次第で、参加か不参加かを決めるつもりのようだ。
「まずスタンピードだが、現在リーザスの北西3600キルドの位置にいて、時速15キルド程度の速度でリーザスに向かっている。到着予想日時は、10日後だ」
10日後、これを早いとみればいいのか遅いとみればいいのか……。ある程度の準備ができるだけこちらとしては有難いと思っておこう。
「今回の作戦だが、攻撃部隊とリーザスの防衛部隊の2つに分けるつもりだ。攻撃部隊には、ここから2日ほど進んだ場所にある村を拠点として、そこで魔物たちをできるだけ多く倒してもらう。当然スタンピードに飲み込まれる可能性も高い攻撃部隊には、よりランクの高いチームを当てる予定だ」
「スタンピードに真っ向からぶつかるなんて、そんなの自殺行為じゃない?」
さっき参加表明した涼風の乙女のアマンダさんが声を上げる。ダッジさんの作戦だと、多分自分たちが攻撃部隊に組み込まれると思ったからだろう。
「今回のスタンピードだが、数が異常に多い。だからなのか、全ての魔物が纏まって行動をしていない」
「……一塊になっていないと言う事か?」
「そうだ。大凡7つのグループに分かれている。1グループに1000から2000ってとこだな。当然足の速い奴らが先に来ることになる」
「1つ1つのグループの間隔って、どれくらいあるんですか?」
思い切って俺も聞いてみた。俺の質問に対して、ダッジさんは片眉だけを動かして答えてくれた。
「ざっと2時間ってところだな。あくまで予想だ、当然それよりも早いときもあれば遅いときもある。ただ30分も感覚が空かないって事は無さそうだ」
それなら、最低限の回復と休息は取れるって事か。まあ、俺は防衛組だろうから関係ないだろうけど。
「攻撃部隊がある程度は削ってくれると思っているが、それでも全てを攻撃部隊だけで倒しきることはできない。そこで削り切れなかった魔物を、防衛部隊が町の門から出て迎撃する。防衛部隊は、複数の組に分かれて交代で迎撃に当たる。この際、複数のパーティで組みを作るつもりだが、1つのグループにつき最低1チームは高レベルパーティを入れる予定だ」
「残った魔物がリーザスを無視して素通りする可能性は?」
「わからん。そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。我々は最悪の状況を想定して作戦を考えている。ひょっとしたら、全て無駄になる可能性もある」
まあ、無駄になったらラッキーって感じだな。今までの話を聞く限りでは、かなり低い可能性だけど。
「町に取り付かれた場合、防衛部隊が外に出る隙間が無い可能性がありませんか?下手に門をあけて、魔物に町の中に入られたら目も当てられませんよ」
「その通りだ。そこで、外の魔物の注意を惹いて門の周りからどかす役も考えてある。それでも門からどかない場合は、壁の上からの攻撃でできるだけ魔物を減らすことになるだろう。もっとも、この場合は既にじり貧ってことだがな」
ダッジさんが説明して、それに対して疑問があった人たちが質問する。その疑問にさらにダッジさんが答える形で会議は進んで行った。俺としては、だいたい大まかな流れは解ったんで、後は宿に戻ってアサギたちと相談したいところだ。
「ふぁ~あ、もう良いんじゃねえか?とっとと会議終わらせて帰ろうぜ」
隣のソウルは、早々に聞く気が無くなったようで、ずっと退屈そうにしている。まあ、こいつの場合は攻撃部隊で決まりだろうから、防衛部隊の作戦を聞いても仕方ないってところだろう。
俺も暇になったので、周りに視線を向けてみる。烈火の牙のアレクは真剣にダッジさんと他の冒険者のやり取りを聞いている。時には手元の羊皮紙にメモを書いているようだ。あいつも真面目だな……。
竜神の鉾のグルドさんと涼風の乙女のアマンダさんは、腕を組んで静かにしている。この2人はソウル同様、自分たちは攻撃部隊だと思っているから既に聞くことは無いって事か?あれくらいの余裕が俺にもほしい。
「よし、粗方質問も出尽くしたな。これ以上は、参加メンバーの詳細が分かり次第詰めることにする。みんな、色々と思うところはあるだろうが今日一日考えて答えを出してほしい。最後にギルマスから一言あるそうなので聞いてもらいたい」
ダッジさんは横にはけて、改めてギルマスが中央に来た。
「今回のスタンピードは未曽有の危機だ。今までにない数の魔物の群れ、1万匹の魔物は人の手に余るかもしれない。正直言えば、俺だって怖い。だから……今回の緊急招集に限り、招集を拒否しても罰を与えない事にした」
ザワッ!?
ギルマスの一言で、周りが騒然となる。当然だろう、いざとなったら逃げる算段をしていた人たちもペナルティ覚悟でいたはずだ。それをギルマスはペナルティ無しで逃げていいと言っているんだ。これって、最初から決まってたことなのか?
「へっ、あのおっさん面白いことを言うな」
「ペナルティが無いんじゃ、かなりの冒険者が拒否するんじゃないか?」
「そんな奴、いても足手纏いって事だろ。今回は、そんな足手纏いを抱えて凌げるほど簡単じゃないって事だ」
ソウルは面白がってるけど、大丈夫なのか?あ、ダッジさんが驚いた顔でギルマスを見てる。って事は、この件はギルマスの独断で決めたって事か。
「お前たち冒険者は、色々なしがらみを背負って生きているのは知っている。だから、参加するもしないも自由だ。不参加だった奴について、俺からは何も言わん。だが覚悟だけはしておけ、町の危機に尻尾撒いて逃げ出す奴は戻ってくる場所なんてないぞ?」
つまり逃がすつもりは無いって事か。招集拒否は認めるけど、その結果どうなるかまでは責任取らないぞってことだよな。あんな言い方されたら、誰も拒否れないんじゃないか?
「以上をもって、今回の緊急会議を終了する。参加表明は明日の昼まで受け付ける。それを過ぎたら、自動的に不参加になるから気を付けろよ」
そう言って、ギルマスとダッジさん、ノルンさんは部屋を出て行った。結局ノルンさんは一言も喋らなかったな。
「さて、俺たちも帰ろうか」
「ああ、俺の方はアサギたちに今の説明をしないと……」
「ホクト……」
「なんだよ」
「俺は、お前と一緒に戦えるのが楽しみだぜ。じゃあな!」
言うだけ言ってソウルは部屋を出て行った。まあ、最悪俺だけは参加する訳だから、あいつの言い方も間違ってはいないけどな。
さて、俺もアサギたちの待つ宿屋へ向かうとしますか。




