10話 リーザスの町
追記:文末の・・・を……に変更しました。
「でっかい壁だな……」
目の前にある大きな壁、これが町をぐるっと囲んでいるらしい。
どれくらい高いんだ?見た感じ3階建てのビルくらいありそうだ。
「町の外壁が、そんなに珍しい?」
壁を眺めていたら、横からアサギが聞いてきた。
彼女にとって、この風景はなんてことない、ごくありふれたものなんだろう。
「町ひとつを囲うような壁ってのは俺の世界には無かったから。
ちょっと圧倒されてた……。すごい迫力だな!」
「そう?ここよりも大きな外壁だってあるから、何にそんなに驚いているのか私にはわからないわ……」
「これよりも大きい壁があるのか!?
……どうやって作ったんだ、これ」
改めて壁に目をやっても、その大きさに圧倒されそうになる。
確かに地球のビルなんかは、これの何倍も高いけど……この見渡す限り壁に囲まれた空間には、ただただ圧倒される。
「土系の魔法使いを何人も使って、何年もかけて作るみたい。
私も作っているところを見たことがないから、あくまで伝聞だけどね」
魔法すげぇな!地球だったら建設現場で引っ張りだこだろうな……。
「さ、いつまでも見惚れてないで中に入ろう」
アサギは門に並ぶ人たちを指さしながら言った。
どうやら町の中に入るのに検問があるらしい。勝手の知らない俺はアサギに言われるままに列の最後尾に並んだ。
「リーザスって何人くらい住んでるんだ?」
「うーん、10万人くらい?」
「へぇ、そんなにいるんだ」
俺がそう答えると、こちらを不思議そうに見つけるアサギと目が合った。
「ん?どうした?」
「あまり驚かないんだね。さっきは外壁の大きさに驚いていたから、てっきり
『10万人もいんのかよ、すっげえ!』みたいなリアクションを期待したのに」
「……今のは俺のマネか?いや数字を言われても今一ピンと来なくて。
10万って数だけみるとすごいんだろうけど……」
確か東京都って1000万人くらいいなかったか?
それと比べるのもあれだけど、他に比較できる町とか市とか知らないしな。
「あのね。リーザスって、この大陸の中でも3番目に大きな町なのよ。
ここ以外に大きいところって王都とかしかないの」
「へえ、リーザスって大きな町なんだな」
素直に感心していると、ジト目のアサギに聞かれた。
「ホクトくんの住んでたところには、どれくらいの人が住んでたの?」
「え、俺の住んでたところ?うちの地域だけってのはわからないな。
俺の住んでたところは日本って国の首都だったんだけど……確か1000万人くらいの人が住んでたと聞いたことがある」
「……は?えっ!?1000万!?」
「あんまり人口とかって気にしたこと無かったから、うろ覚えだけどな」
「どれだけ多いのよ……」
その後も独りでブツブツつぶやくアサギを放っておいて、列の消化を眺めていた。
2時間くらい待たされたか?既に太陽も頂点を過ぎて、やや色付き始めていた。
やっと俺たちの番になった。
「これはアサギさん。今回もご無事の帰還なによりです」
「ありがとう」
町の城門前には2人の兵士?が立っていた。そのうちのひとりにアサギが声をかける。見た目は20歳くらいか、身長も高く身体つきも痩せてはいないけど、それなりに筋肉が付いているように見える。細マッチョだな。
アサギは門番と軽く挨拶を交わして俺の方を見た。門番も釣られて俺を見る。
「アサギさん、そちらの方は?」
「暗闇の森で迷っていたところを保護したの。
聞けば森に入る前の記憶がないらしくて、そのままにもできないから連れてきたのよ」
俺とアサギは、町に入るときに目を付けられるであろう俺の素性について、記憶をなくして森を彷徨っていたことにした。
それを聞いた途端に門番の目が厳しくなった。
「森に入った記憶がない?そんな怪しい者を町に入れるわけにはいきませんよ」
「そこを何とかできないかしら。ここまで数日彼と行動を共にしたけど、悪い人ではないのは私が保証します」
「……いくらアサギさんとはいえ、そう簡単にはいきませんよ。
君、本当に記憶がないのか?」
「証明しろと言われても難しいですね。俺が何を言っても証明にはならないですよね?」
「それは……確かにそうだが」
「俺は気付いたら森の中にいて、いつ、どんな目的があって森に入ったのかも分からないんです。途方に暮れていたところをアサギさんに助けてもらいました」
『さん』付けしたところでアサギの眉がピクッと動いた。今は説明の最中なんだから、それくらい勘弁してほしい。
「……やはり君の証言だけでは判断が付かないな」
「あの、町の住人以外の人たちが町に入る場合はどうしているんですか?
身分証とかあるんですか?」
「そんなことすら忘れているのか……
基本的に町と町を行き来する場合、事前に身分証を作成しておくものだ。
各ギルドが発行しているから、自分にあったギルドで手続きをすれば
身分証は簡単に手に入る」
「身分証を持っていない人はいないんですか?」
「そんなことはない。その場合、町に入るときに手数料の支払いと犯罪をしていない証明をしてもらうことになっている」
「その、犯罪をしていない証明と言うのは?」
「専用の魔道具を使う」
アサギの方を見ると、俺の目を見て頷いてくれた。どうやら今のやり取りで正解だったらしい。視線を門番に戻して
「では、俺の犯罪歴を調べてください。それで問題なければ町に入れますよね?」
「……いいだろう。では君、こっちへ来なさい」
門番に促されるままに後をついていく。アサギも何故か一緒だ……。門番は同僚と思われる男性に声をかけてから、建物の中に入っていく。俺も彼の背中を追って中に入る。
「さあ、これが犯罪歴を調べるための魔道具だ。この水晶に手をのせて」
言われるままに水晶に近づき、右手をのせる。すると淡い光が明滅し始めた。
「しばらくすると、光の色が変わる。今は白だが、犯罪を犯したことがある場合は赤色に、犯したことが無ければ青色に変化する」
俺本人としては、何もした覚えがないんだけど……ここは異世界。地球の道理が通じないこの世界で何かを犯した可能性はある。やばい、ちょっとドキドキしてきた。
「……」
「……」
「……」
3人が無言で見つける中、白く明滅していた光が青く変化していく。
「……よし、問題ないな」
「ハァ~~~」
緊張した……最後の方は息を止めてたよ。横を見るとアサギも深呼吸していた。
「なんでアサギが緊張してるんだよ?」
「こういうのって、自分じゃなくても無駄に緊張しない?」
ああ……わかる。確かに、あれだけ空気が張り詰めていると何もしてなくても緊張するよな。学校の職員室とか入りにくいし。
「疑って悪かった。これで君の身の潔白は証明された」
「いえ、あなたは仕事だったんですから当然ですよ」
「そう言ってもらえると、こちらとしても助かる。
改めて、俺はリーザスの町の警備隊所属ケント・ギリアムだ」
「ホクト・ミシマです。ホクトって呼んでください」
「俺もケントでいいよ。ホクトはしばらくリーザスにいるんだろう?」
「ええ、ここを拠点にしようと思ってます」
「そうか。なら、また顔を合わせることもあるだろう。
これからもよろしくな」
イケメンだなぁ。さわやかだし、仕事に忠実だし。この人はモテそうだ。
「よろしくお願いします!」
こうして俺はリーザスの町に入った。
町に入る手数料はアサギに借りた……。




