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第五話 終焉

 



 卒業パーティーは、恙無く進んでいるように見えた。

 先生からのありがたいお言葉も、卒業生代表としての僕の答辞も、卒業を祝う友たちの語らいも、和やかに過ぎていく。


 ダンスが始まる。

 第一王子である僕と、婚約者であるヴィオレッタが最初に踊るのだ。



 ヴィオレッタが、私の前で微笑む。


 誰かが、ヴィオレッタ様はますますお美しくなられたわね、と噂する声が聞こえる。


「殿下。」


 殿下、と彼女は呼んだ。


 婚約者として初めて会ったときに、ヴィオレッタのことをヴィオと呼びたい、そして、殿下ではなくローシェと呼んでほしい、とねだったことをふと、思い出した。


「ヴィオレッタ……。」


 呼んでから、胸が痛んだ。


 いつから、僕は彼女のことをヴィオレッタと呼ぶようになったんだ?


 涙が、にじみそうになった。


「殿下、お考えはまとまりまして?」


「……ああ。」





 いつまでも踊りださない二人の、周りの空気がおかしなことに気がついた者たちが、歓談を止めていく。


 その空気は伝染し、いつしか、楽団の音楽まで、鳴り止んだ。





 誰一人、物音をたてなかった。

 衣擦れの音も、呼吸する音も、外の雪が吸収してしまったようだった。







「殿下。どうぞ、お考えをお話くださいまし。」






 鈴のような高い声で、ヴィオレッタが謳う。





 ああ、と、僕の喉から声が漏れた。









「……ヴィオレッタ、婚約を、解消しよう。」










 それは、どこか遠くで起こっているように、他人事のように、自分の耳に届いた。






 *******




 誰も動けなかった。

 誰一人、言葉を発するものはいなかった。



 どれくらい、時間が過ぎたのだろう。



 ヴィオレッタは、しばらく僕をじっと見つめていた。







 カツン、とヴィオレッタが、歩を進める。高いヒールの鳴る音がした。


 優雅に、ダンスをするために開けた場所を横切っていく。



 まるで何かの劇を見ているようだった。



 軽い足取りで、ヴィオレッタは歩いていく。


 ダンスホールを抜け、出入り口に向かって。


 誰もがヴィオレッタに釘付けられたまま、道をあけていく。




 扉にたどり着くと、彼女はこちらを振り返った。






「悪役令嬢、ヴィオレッタ=カーベリー物語はこれにて終焉とさせていただきます。」





 彼女は、自分の胸に手をあて、そう、口上を述べ始めた。 




「ローシェ殿下、レティシア様、そして皆様の末永い幸せを心よりお祈り申し上げ、ご挨拶に代えさせていただきます。ああ、そうそう。誠に勝手ではございますが、レティシア様を害した罪は、国外追放という形を取らせていただきますわ。」







 誰もが呆気に取られる中。









「それでは皆様、御機嫌よう。」












 悪役令嬢、ヴィオレッタ=カーベリーは、見事なカーテシーを披露して、退場した。







 *********




 ゴツッ、ドサッ……


 僕は殴られて、床に転がっていた。

 やり返すつもりもなく、ただ殴った相手であるカーベリー公爵を見据えた。


「……お前が、幸せにすると言ったから……!」


 その目は血走り、涙が浮かんでいた。



「申し訳ございません。」



 なんの言い訳もできない。


 もう一度、引きずり起こされて殴られる。

 口の中で、鉄の味が広がる。


 カーベリー公爵は、荒い息を吐きながら、部屋を出ていった。




「……ローシェ。」


「……はい。」


 起き上がって、国王陛下の御前に膝をおる。

 ここは、陛下の謁見の間だ。


「ローシェ、オースティンからも話を聞いた。」


「はい。」


「……ヴィオレッタ嬢が誤った道を選んでしまったから、婚約解消という結果になった、それは分かる。」


「はい。」



「……だが、だが、な。だが、……なぜ、なぜあの子が傷つかなければならなかった。

 あの子はお前との婚約をずっと悩んでいた。幼い頃からだ。

 初めてお前とあの子が会ってすぐに、婚約について尋ねた。悲しそうに、『本当はね、殿下のこと好きなの。でもきっと殿下は他に好きな人ができるから』と。

 何度尋ねても、同じだ。『殿下は他の方をきっと好きになるわ』と。

 15のときに、お前の意思が固いと見て、我とセグルは、婚約を整えた。彼女は、不安そうだったが、それでも嬉しそうにしていた。お前に愛称で呼ばれたこと、贈り物をもらったこと、はにかみながら喜んでいた。

 ……なぁ、ローシェ。あの子は泣いていたんだぞ。我らが押し付けた王妃教育も文句も言わず頑張っていた。気丈なあの子が。今まで培った力を、ローシェ、お前のために使いたいのに、私のことは要らないみたいだと。仕事が手伝えないなら、せめて側で笑いあって、少しでもお前の心を支えたい、と。

 ……なのに、お前が手にとったのは、別の令嬢だった……!

 私は要らないの、私では、やっぱりだめだったの、ごめんなさい、と、彼女のせいでもないのに、何度も謝りながら、泣いて……。」




 謁見の間に、沈黙が落ちた。

 王妃のすすり泣く声が夜の闇に、響く。





「……ローシェよ、お前を、第一王子より廃嫡する。ヴィオレッタ嬢の行き過ぎた行動は咎められるところだが、お前が王家と公爵家の縁談を勝手に反故にした件は別件だ。反省し、しばらく自室にこもっておれ。」



「……はい。」









表立ってヴィオがレティを虐めていたわけではないので、学園の生徒や先生は、ぽかん( ゜д゜)です。

置いてきぼりです。悪役令嬢物語ってなんぞや?です。え、ヴィオレッタ様、国外行っちゃうの?なんで?

でも、みんななんとなく空気を読んで立ち回ります。


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