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第二話 募る想い


「お断りする。」


 にべもなく、断られた。


 父である国王陛下がヴィオレッタの父であるカーベリー公爵を呼び出し、挨拶もそこそこに僕とヴィオレッタの婚約話の“こ”の字を出したときだった。


 断るの、早くない?


「カーベリー公爵、いや、セグルよ、王家と公爵家、なにより親友である我らの子どもたちの婚約だぞ?何に不服がある?」


「不服しかない。まず、お前なぞ親友ではない。ギリギリ悪友だ。いや、心労ばかり増やす友ならむしろいらん。そして、ヴィオレッタは俺の宝だ。なぜ王妃などという重い責を負わさねばならん。ならば辺境伯であるサネガルの息子のところにやるわ。」


 父である国王陛下、ヴィオレッタ嬢の父、セグル=カーベリー、サネガル=ユニー辺境伯は親友だと聞き及んでいる。

 僕たちが15になれば通うだろう学園で出会い、(同じ女性を好きになり喧嘩もし決闘もし貶め合い)、友情を深めて、(命がけのバトルを制したのは父だったがその方はカーベリー公爵を選び)、お互いを認め合い、(いや、お互い認め合ってないだろ今でも!)、交流を深めている仲である。

 お父上は今でこそ母上一筋だが、今でもお亡くなりになったカーベリー公爵夫人の命日の日には、一人で月を眺めながら酒を飲み、彼の人を偲んでいた。

 一年に一度とはいえ、すでに過去の人を母上の前で偲ぶ姿に違和感を覚えなかったではない。

 母に、よいのですか?と聞いたこともある。


「イザベルは私にとっても、素晴らしい人でした。誰にも代わりなど務まらないほどに。こんなことをあなたに伝えるべきではないのでしょうが、彼女……イザベラは本当に美しく、思慮深く、情に深く、私も、彼……陛下も、本当に心からお慕い申し上げていたのですよ。」


 ぎゅっと体を抱きしめられ、僕は嬉しいけれど、どきどきした。

 もう3歳を過ぎた頃から王妃殿下に抱きしめられることなんてなかったから。


 王妃である母上は、父である国王陛下が他の女を偲んでいる事を悲しむでなく、純粋に“イザベル=カーベリー”公爵夫人を喪ったことを哀しんで泣いておられた。

 それほどまでに、魅力的な人だったのだ、と思う。


 父上も母上も、イザベル様の命日ばかりは、お互い一人になって彼女を偲んでいた。


 そんな父母は、この婚約を心から望んでいた。

 イザベル様の愛娘、ヴィオレッタ嬢を我が娘とできる幸福を何が何でも手にしようとしていた。

 それは私よりもずっと強い欲望だった。


 ことあるごとにカーベリー公爵に婚約を打診し、断られた。下手にでることもあれば、国王という権力を持って立ち向かうこともあった。

(二人の間柄を見てると、国王の権力より宰相の権力の方が強そうではあったが。)

 まぁ、数え切れないくらい断られた。


 そうこうしている内に、彼女は社交界にデビューし、すぐに話題のレディとなった。


 彼女は薔薇の蕾がほころぶように、柔らかく、そして美しく、花開いていった。

 日を追うごとに子どもの可愛らしさから少女の美しさへと、羽化し羽を広げていく様子に、誰もが息を呑み、その刹那の美しさに目を奪われ逸らすことなど出来なかった。変わりゆく様を瞬間も見逃したくはないと、彼女が参加するパーティーは盛況を極めた。彼女が大輪の花を咲かせるときを、国王陛下、王妃陛下である父母をはじめ、大人たちも見守っていた。

 開きかけた紅薔薇の話題は各所で大きく取り上げられた。

 そんな彼女の婚約者が、決まっていないのだ。より多くの男どもが彼女に列をなし、求婚した。

 やきもきはしたが、少しだけ安心なのは、あのカーベリー公爵が彼女をそう簡単に手放さないと知っていたからだ。

 僕にも時間はあると思って、焦らず彼女をただ慕っていた。


 彼女が出席する、そして、参加しそうなパーティーにはできる限り出席した。彼女を見つけても、僕は他のご令嬢に捕まってしまい、なかなか彼女と近づくことは出来なかったけれど、それでも彼女に会える(会えても挨拶だけだで、ほとんどが、遠くから眺めるだけだけど。)ことが嬉しかった。

 それで、満足している僕がいた。



「お前、それでいいのか?」


 彼女と会って、そしてカーベリー公爵から婚約を断られ続けて何年経っただろう?

 側近のオースティンから、問われた。普段はおちゃらけてる彼が、真剣なことに気がついて、ちょっとだけ苦笑した。


「そうだね、僕は彼女に会えることが心底嬉しいと感じているし、本当なら言葉を交わしたい。……けれど、もし拒絶されたら、と思い怖いんだよ、オースティン。」


 そんな情けない僕に、オースティンはなんとも言えない顔をして、いつものように騎士たちの訓練場で僕をしごいた。

 情けない僕を彼はいつも鍛えてくれる。

 なんと良い側近に恵まれたものだと、半ば無理矢理、彼の厳しさを嚥下した。

 いや、オースティンをが側近として僕に仕え、鍛えてくれていた幸運は、年を追うごとに感じていくのだが。


 15の年を迎える頃、僕とヴィオレッタ嬢が学園に通うのを前に、ヴィオレッタ嬢との婚約を許された。


 正直にいうと、最初信じられなかったし、夢だと本気で思った。朝起きたらそんな都合の良い話があるかと、その頃から僕に仕えてくれるようになった侍従のアルや、オースティンに苦笑いされるはずだった。

 おつかれですね、と。

 だって、彼女への婚約の申し出は僕と国王、王妃から何十回ではすまず、それこそ何百回という数をカーベリー公爵に伝えていたにも関わらず、須らく断られていたからだ。


 でも、何日もやっぱり夢だよなぁ、とオースティンに問い続け、その都度頬をつねられ現実だと諭された。それを10日程繰り返したら、もしかしたらこれは現実ではないか!?と思うようになっていた。


 現実らしい。

 ……え?本当?


 カーベリー公爵は、列をなした婚約者たちの素性を調べ上げた結果、僕以上によい物件(王家がただの物件扱い……。)はないと、心底嫌そうな顔と明らかに認めていない殺気だった気配を纏わせ、顔はいつもの無表情ながらも握られた手は骨が折れるかというくらいの握力で握りしめながら、僕を婚約者にと認めてくれた。



「ローシェ殿下、なにがあってもヴィオレッタを幸せにしろよ。」


 それが、彼女との婚約の条件だった。

 半ば諦めていた夢が、実を結んで僕は有頂天だった。



 学園に入学する前、初めて婚約者としての彼女と相対する場を設けられた。


「ヴィオレッタ嬢、いや、ヴィオ……と、呼んでも?」


 緊張した面持ちの彼女に、愛称呼びの許可をねだる。


「……はい、殿下。」


「……僕のことも、殿下ではなく、ローシェと呼んでほしい。」


「……ローシェ様。こらから、よろしくお願いいたします。」


 僕は嬉しくて、言葉少なに彼女の横でその感動を味わっていた。

 下手に喋って、彼女に幻滅されるのは避けたかった。

 僕はすっかり、彼女が婚約を受けてくれたことに安心し、彼女の顔が曇るのを気づくことが出来なかった。


 彼女への好意の気持ちは、あの幼い日から彼女を慕い続けた僕には当たり前のもの過ぎて、今更言葉にする必要を考えもしなかった。

 当然伝わっていると、なぜ思えたのだろう?

 はじめての顔合わせで、会話らしい会話はそれだけ。




『ねぇ、君は覚えてる?幼い日の、お茶会を。

 僕と君が初めて会った日のことを。

 君、薔薇園で一人で歌ってたでしょう?

 ふふ、可愛かったな。

 あの日、棘をとってくれて、ありがとう。

 実はあの時のレースのハンカチは、今でも手元にあるんだ。気持ち悪いかな?

 ごめんね、僕の大事な思い出だから、つい、さ。

 一目惚れだったんだ。

 あの日からずっと、君を……』



 紡がれることない君への想いは、僕の心の中だけに響いていた。





短編と思っていたので、あまり登場人物の心情が描けていません。

うう、文章書くの難しい。これからも頑張ります!

ローシェ、初恋を拗らせてないか!?

というかもっと積極的にいけよ王子様!

失敗を恐れている場合じゃないよ、王子様!

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