表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第一話 出会い


 

 私……いや、あの頃は僕だった。

 僕が君と出会ったのは、王家主催のお茶会だった。

 それはこの国の第一王子であった僕の婚約者候補、また側近候補を集めて相性を見るものだった。

 僕はすぐにどの令嬢より一際美しいヴィオレッタに目を奪われた。

 僕にまとわりつく令嬢は多かったけど、庭園の端の方で静かに佇むその姿は、十にも満たぬ幼い年齢にしては大人びており、挨拶や礼などの立ち振る舞いはすでに大人のレディそのものだった。

 ヴィオレッタを見た瞬間、世界から一瞬音が消えて、彼女の周りだけが色づき、浮き上がって見えた。

 美しい人。


 僕の初恋だった。


 お茶会では他の令嬢たちに阻まれて、彼女に近づくことはできなかったが、ひたすら彼女を見つめ続けた。

 その視線に気がついたのは、すでに側近となるのが決まっていた騎士団長の息子、オースティンだった。


「お前、ああいう女が好みなのか。」


 臣下としてはなっていない言葉遣いだが、彼は所謂幼馴染、気心しれた仲なので構わなかった。

 ニヤニヤとする彼に、弱みを握られたようで内心で舌打ちをする。


 彼女の元に行き話してみたかったが、間が悪いのか僕が近寄ろうとしても他の令嬢、子息たちに話しかけられてしまい、その間に姿が見えなくなっていた。

 何度も彼女を探して、追いかけ、他の令嬢、子息に捕まり見失うを繰り返した。


 終いの時間はもうすぐそこだった。

 まだ、彼女の名前も聞いていないのに。


「おーい、殿下。終わりの挨拶の件で王妃様がよんでらっしゃるぞ。」


 それを聞いて、周りは失礼しますと挨拶して去っていく。


 もう終わりなのか。

 少なくとももう少し時間はあると思ってたのに!

 悲愴感がにじみ出ていたのだろう、オースティンはいつものようにニヤニヤと笑って、小声で嘘だ、と言った。


「王妃様に呼ばれてるなんて、嘘だ。すまん。が、あのご令嬢が気になるんだろう?今、薔薇園の方に行った。行ってこい。」


 僕は顔を上げてオースティンを見つめ、ぽつり、ありがとう、と言って駆け出した。



 薔薇園は、庭園のすぐ近くに作られている。小さな小川を流し、様々な種類の薔薇がアーチを作っている。


 見つけたとき彼女は、彼女の髪色と似た紅色の大輪の薔薇を見つめ微笑んでいた。

 小さく歌を歌い、たくさんの薔薇を愛でながら、先程は見なかったへにゃりと眉を下げて、柔らかく笑いながら歩く。踊っているようも見えた。たまに小川の水に手をつけてはパシャリと空に掬った水をはねさせる。


 その光景が、あまりに美しくて。


 声をかけることすらできなかった。



 見慣れている薔薇の花は、こんなに美しかっただろうか。

 太陽の光は、こんなに優しく降り注ぐものだったろうか。

 水はこんなにキラキラして眩しいものだったろうか。


 光を浴びて透ける彼女の薔薇色の髪が、

 白い肌に少しだけ紅潮してピンクに染まった頬が、

 踊るような彼女の足取りが、

 世界の美しさを知って輝く瞳が、


 なんてきれいなんだと、ただ見ていることしかできなかった。


 触れたら壊れてしまうのではないかと思った。




「おーい、殿下ー?どこいったー?」


 沈黙を破ったのは、オースティンの呼び声だった。

 遠くから僕を探す声に、振り向いた彼女と目があった。

 途端に彼女は顔色を悪くして僕とは反対の方向に走り去っていく。


「あっ、待って……!っ、いたっ!!」


 焦って手を伸ばし、薔薇の棘が刺さった。


「大丈夫ですか!?」


 彼女は僕の手を取り、血が出た手の先に唇を落とした。

 焦る間もなく、思い切り指を吸われて痛み顔を顰めた。棘を抜いてくれたらしい。

 持っていたレースのハンカチで指に当ててくれる。


「大変失礼な真似をいたしました。」


 彼女は淑女の礼をとってすぐに駆け出していく。

 後を追おうと思ったが、オースティンに肩を掴まれて叶わなかった。


「おい、そろそろお開きだ。戻らないとやばい。」


 確かに定刻は過ぎている。

 僕は彼女が去った方向を見つめ、心残りだが会場に戻った。


 彼女の姿は見えなかった。



「少しは話せたか?」


 部屋に戻るまでついていくよ、そう言ったオースティンに、首を振って答える。


「まぁでも、名前くらいは聞けただろう?」


「……いや。」


「はあ?少しは時間あっただろ?何してたんだよ?」


 呆れた声に、僕だってそう思うよ、と項垂れる。


「きれいすぎて、声をかけられなかった。」


 恥ずかしいが、そうなのだ。見惚れて、声をかけるの忘れていたのだ。


 オースティンはため息をつく。


「ヴィオレッタ=カーベリー公爵令嬢だそうだ。お前が捕まっている間に挨拶してきた。彼女は、宰相をされているカーベリー公爵の愛娘さ。」


「ヴィオレッタ嬢……、カーベリー公爵の掌中の珠と言われている、彼女が……。」


「なんだ?しょうちゅうのたまって?」


「とても大切なもののことだよ。カーベリー公爵は亡くなられた愛妻と瓜二つの彼女を心底大切にされているって話だからね。」


 にやり、とオースティンは笑う。


「婚約はなかなか難しそうだな!」


 そうだ、きっと一筋縄では行かないだろう。

 だが、僕は彼女に、婚約を申し出たいと思った。


初恋……(*ノωノ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ