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2.コート・ロティ4

免疫治療科で二人は担当の研究医を紹介された。彼は三十代後半のセダ星人で、名をローデスと言った。

大柄で少し緑色の勝った肌の色をしている。金色の瞳は、セダ星人特有のもので、不思議な雰囲気をかもし出している。平均寿命二百歳という、宇宙で最も長生きな人種であるセダ星人は、運動能力は低いとされるがそのどちらかと言うと小さ目の頭部に収まる頭脳はどの惑星人より優れているとされる。セトアイラスのカストロワ大公もセダ星人だ。


二人が自己紹介すると、せっかちな感じのローデスは白衣を翻し、早足で歩きながらフロアの説明をし始める。二人は慌てて、小走りについていく。


「ここには免疫症候群を患った様々な惑星の患者たちが入院している。入院患者のカルテには自己免疫疾患、アレルギー疾患、原発性免疫不全症、続発性及びその他が色の違う印で区別されている。ドマネス、君は大学ではなにを研究していた?」

病棟の廊下を進みながらローデスは二人を振り返る。


「はい。私はマクロファージ・樹状細胞のC型レクチンのリガンド分子について、研究しました。」

「ふん。デアストルは?」

「僕は大学ではないですが、ユンイラ因子が続発性免疫不全症に及ぼす影響について、興味を持っています。」

研究したとはいえない。

「大学を出ていないのか?」

怪訝そうな顔のローデス。

「帝国の研究所で教育を受けたものですから。」

そこは本当だが。

「ふん。まあいい。お前は、辺境惑星から来たと聞いたからな。大学などなかったんだろう。」

あきらかに馬鹿にしたような表情の医師にシンカは微笑んだ。

「ええ。」

惑星リュードには大学など存在しない。発電すらできないのだ。文明の違いとはそう言うものだ。だからといってどちらが優れているともいえない。職業柄たくさんの惑星の状況を知るシンカには、セトアイラスや地球の進んだ文明が必ずしも人々を幸せにしているとは思えなかった。


歩きながら、ふと病室からこちらをのぞく少女と目が合った。髪を二つに縛って大きな茶色い瞳が可愛らしい。六歳くらいか。シンカが手を小さく振ると、微笑んでかえしてくる。入院患者なのか白いパジャマ姿だ。

「デアストル、聞いているのか?」

「あ、ハイ。」

慌てて二人に追いつこうと振り向いたとき、隣の部屋から出てきた誰かに突き当たった。

「おっと」

「うわ、すみません」

長身の白衣姿の男性にぶつかった。

慌ててローデスが駆け寄る。男性が落とした書類を拾った。

「大丈夫ですか、ゲーリントン教授。」

「ああ、大丈夫だ。」

「君はやる気があるのか!デアストル。これだから、若い研究生は。」

シンカはローデスに小言を言われながら、ゲーリントン教授を見上げた。シンカより少し高い身長、リドラ星人なのか褐色が勝った肌、彫りの深い高い鼻、黒く鋭い瞳、とがった印象の容貌。短くした白っぽい金髪。年齢は三十と聞いている。天才と呼ばれる一人だ。その漆黒の瞳と目が合った。


「君が、ファルム・シ・デアストルか。」

肩に手を置かれた。


「はい。」

シンカは黒く色を変えた瞳で見つめ返した。

「君には、期待しているよ。」

「……ありがとうございます。」

どうしてそんなことを言うんだろう、と不思議に思いながらもシンカは微笑み返す。自分の正体は学長しか知らないはず。

後ろでローデスとドマネスが苦い表情をしている。


不意に小さなコール音がなる。ローデスの胸に付けた呼び出し専用の小さな装置からだ。医師及び研究医は皆、それをつけている。

「おい、二人ともついて来い。」

ローデスは教授に小さく一礼するとさらに早足で病棟の奥に向かう。

シンカたちも真似た。


「末期の患者だ。十九歳男性。もっとも進行の早い地球型のウィルス性免疫不全症だ。こちらに来てからまだ一週間なんだが、もう遅すぎた。黄熱病を併発している。最初から少しハードだとは思うが覚悟しろよ。」


歩きながらそう話すと、ローデスは集中治療室に入る。傍らの3Dモニターには患者のカルテデータが表示されている。無菌状態にするためのそこには、透明なやわらかいカーテンがかけられている。その前に二人もローデスに習って、殺菌のためのエアカーテンを通り抜ける。使い捨ての薄い防護エプロンを白衣の上から身に付けた。青いどろりとした液体に腕を肘までつけ、抜き取るとそれが薄くぴったりした手袋になる。

そうしている間に傍らの看護師が二人の頭に白いフードを被せた。眼だけが出ているそれの上から透明なぴったりしたゴーグルをつけてくれる。


完全防備。免疫不全症候群を引き起こすウィルスには、空気感染するものはない。しかし、接触感染はある。しかもこの患者は黄熱病まで患っている。通常、こういった患者は隔離病棟に移されるのだが、日が浅いことと重症なことでこの普通病棟の無菌室に入っているのだろう。


患者は地球人だ。

白い肌に赤褐色の斑紋が出ている。力ない手は細く痩せ赤くただれている。

黄熱病c5の末期症状。免疫不全の状態で、ここまで生き長らえていただけでもすごいことだ。高熱、嘔吐、神経障害を引き起こすこの病気で、斑紋が出るまで生きていられることのほうが少ない。通常は神経障害で呼吸困難を起こし死亡する。


シンカはこの病院の治療技術の高さを感じながら、こうなるまで生かしておくことの残酷さも同時に思わずにいられない。


「これは、赤褐色斑からすると、黄熱病ですね。」

ドマネスがローデスに確認する。ローデスは大きくうなずく。

シンカはローデスが助細動装置を準備するための補助をはじめていた。

「デアストル、必要と思うか?」

ローデスは装置を起動させつつ、尋ねる。

「ここまで進行した症例を見ることは初めてです。黄熱病ウィルスが末期の状態で神経細胞にどの程度侵食しているのかは、研究者なら興味あるところでしょうね。僕が患者なら延命拒否を訴えるでしょうけど。」

「ふん。レベル3だ。」にやりと笑って、ローデスは延命治療の指示を続ける。

「はい。」

心停止の小さな警報が鳴り続く。装置の音、ローデスの明確な指示の声。

昼の時間でざわつく病棟に、それらはまぎれていった。


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