表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

10.変えられるもの、変わらずにいるもの3

さて。これで最終話。

最後は一気に行きますよ〜!!

いつの間に入り込んだのか、処置室の戸口に軍神と呼ばれる男が立っていた。黒一色のスーツ。組んだ手には皮の手袋をしている。仕事なのだ。背後にこちらはいつもどおりの服装で、カストロワ大公もいる。

助手の幾人かが顔を見合わせて、尊敬のまなざしを向けていた。

「レクト!」

「レクトさん!」

シキとゲーリントンは同時に叫んだ。

エドアス・ゲーリントンは薄い唇に神経質な笑みを浮かべた。

「取引は成立ですよ。軍務官。私はあなたの言うとおり、迦葉の情報を流した。その交換条件は飲んでいただけたはずですが?」

「ふざけるな。俺に従う振りをしながらユージンを使っただろうが?」

レクトの切れ長の瞳が教授に怒りをぶつけている。つかつかと歩み寄る。

「レクト、それ?…なに?」

起き上がろうともがくシンカをシキが慌てて押さえた。

「ばか、動くなよ」

「けど・・」

青年は荒い息で苦しそうにシキを見上げた。

「なんだ、知らないのか」

揶揄するように教授は笑い「遺伝子上の父親とはいえ…」呆れたように手を上げたところで遮られる。

「言うな。殺すぞ」

軍務官に白衣をつかまれてもゲーリントンはまだニヤニヤと笑っていた。

「民間人に、乱暴はいけませんね。・・シンカ。私は迦葉に縁があってね、迦葉の情報と引き換えに、君の担当教授になることを許可されたんだよ。それなのに君の採血をしただけで軍務官は私に圧力をかけてきた。それで仕方なくユージンを使ったわけだ。君を迦葉から護る代わりに私を君の専属医師としてもらうためにね。もともと、この男は、自分の手柄のために迦葉を一掃したかっただけなんだ」

「エドアス。それは、違うぞ」

胸元を締め上げられ、教授はピクリと眉を寄せる。それでも楽しそうに続けた。

「隠すこともあるまい。何の理由をつけても結局はシンカを餌に、私と迦葉を操ろうとしたんだ。私との約束はどうなりました?私はあなたとの約束は果たしました。そのうえ、シンカを守ってやったんだ。私がいなかったら彼は死んでいた。感謝されるべきでしょう?あなたが私を傷つける理由はないはずですよ」


「お前は、忘れたのか?」

レクトの表情は冷たい。

教授を突き放すと、スーツの胸元から銃を取り出した。

「レクト、…何するんだよ!?だめだ、ぞ」

大きな蒼い瞳を目一杯広げて、シンカはレクトを見つめた。肩に置かれたシキの手をつかんでいる。


「お前は黙っていろ」

レクトはちらりとシンカに視線を投げかけた。

「レクトさん、あんた、シンカを利用したんですか!?だから、俺やシンカに、迦葉のことを告げなかった!」

シキは黙って目を見開いているシンカの肩に手を置いた。


「だからなんだ?もともと俺は、ゲーリントンは処分する予定だった。シンカ、お前がこの惑星に来ることを決めたときからな」


銃口の先で教授は一歩下がった。

顔面は蒼白だ。

やりかねないのだ、レクトなら。

レクトの何の感情も表さない表情は、嫌味なくらい端正で。ゲーリントンをぞくぞくさせた。

誰もが、身動きできずにレクトを見つめていた。


「いいか、シンカ。こいつは、かつてデイラの研究所にいた。当時二十代前半だったか、赴任すると同時にこいつはお前のことをモルモット扱いし始めた。俺は馬鹿な研究者がお前を傷つけることを恐れて手を回した。こいつは栄転という名の移動で、ここ、セトアイラスに戻った。だが、こいつは俺を憎んでね」


「当たり前だ!そうか、やっぱりあんたが手を回していたんだな!なんだかんだと理由をつけて、あいまいなまま私をシンカから引き離した!私はこの研究を続けたかったのに!」


「ゲーリントン、お前は俺に仕返しするために皇帝に吹き込んだだろう?シンカの細胞を手に入れれば、永遠に生きられるなどと。おかげで皇帝は後継者としてではなく、シンカを自らの材料として捕らえようとした。だから俺はデイラを滅ぼした、シンカを守るためにな。すべての原因はゲーリントン、お前にあった!」


教授とレクトはにらみ合った。


「ちょっと待てよ。……レクトさん、教授も。シンカは人間なんだぞ。レクトさん、あんたデイラでシンカを守ったんだろ?なのにゲーリントンへの復讐のために、利用したのか……?それじゃ、まるで…」

しがみ付くように支えられているシンカに、視線を移して、シキは言葉を選んだ。

「それじゃ、教授と、なんら変わりない…」

「いいよ。シキ。分かってるよ…もう、いい」

シンカの、青白い顔はむしろやさしげな表情を浮かべていた。


「もう、分かってるから。仕方ないんだ、そうだろ?そうやって、生まれてきたんだ。そういう、生き物なんだ」

静かに話していてもシンカが掴むシキの腕には、かすかな震えが伝わる。傷つかないはずはないのだ。シキは唇をかんだ。自分自身も、マリアンヌのために想像しなかったか。シンカが研究に力を貸してくれることを祈らなかったか。


シンカは、すべてを受け入れようとしている。


「シンカ。俺はお前の肩書きを利用する。それがお前の仕事でもある。それをお前が不満に思うのは自由だ。だが、ゲーリントンだけは許さない。もともと、取引などするつもりはないさ。俺が利用したのは、お前じゃない、ゲーリントンなんだ」

軍務官は、哀しそうでもある笑みを、皇帝に見せる。そして、ゲーリントンに冷酷な視線を向けた。

「俺は、ゲーリントン。お前を処分できるこの時を待っていた。お前が前皇帝をたきつけたためにデイラの運命も、そう、宇宙すべての歴史が変わったんだ」


レクトの冷たい声が響いた。彼が自ら破壊した街、そして、その街と運命とともにした愛する女。

ロスタネスの顔が、軍務間の脳裏に浮かんでいるのだろう。

シキはそう思えた。


「何を言う!勝手に行動したのでしょう!リトード五世も、大公もあなたも!私は真実を報告したに過ぎない。私を処分する正当な理由などないはずだ」

「私が、許可したんだ」

カストロワが視線をそらすことができずに震えているシンカの額に手を当てながら言った。


「見込んでいたのだがな。私を裏切っただろう?迦葉をそなたが組織したとは気付けなかった。私の支援は間接的に迦葉を支えていることになった」

レクトがうなずいた。


「教授が、迦葉?」

教授に一番近い助手が、驚いて離れた。シンカも教授を見つめようと、そちらに顔を向けた。

軍務官は続ける。

「迦葉の拠点はすべて、制圧した。悪いな、ゲーリントン」

「何を言っている?私とは関係ない!」

ゲーリントンの顔は青ざめ、皮肉げな口元は引きつるような笑みを浮べる。


「お前は惑星リュードから植物のユンイラを手に入れるために、迦葉を使った。そこから足がついたんだ。迦葉がこの研究所のためだけに危険を冒してユンイラを密猟し、売りつける。いくら高価とはいえ麻薬のような利潤は望めない。普通はそんなビジネスはしないものだ」

「!」

「それに、迦葉が若者を引き込む手口が、まるで大公がコレクションにするような支援の形をとっていたのも以前から気になっていたんだ。ドクター・マクマスも、支援を受けて医者になった。同じような支援の申し出を今回の研究生にもしているだろう?ケイナ・ドマネスがお前から支援の申し出を受けたと証言した。そして、この助手たちの中にも」

見回したレクトの視線に、びくりと肩を振るわせる助手がニ、三人いた。


同時に小さな地響きとともに、床が揺れた。警報が鳴り響く。

「なんだ?」

慌てた様子のゲーリントンに、レクトがにやりと凄みのある笑みを浮かべる。


「ここは、破壊する。迦葉からユンイラを購入していたために襲撃を受けた、そういうことになる。そして、ゲーリントン。お前はその犠牲になるわけだ。大公のコレクションが、迦葉を率いていたなどという、不名誉な事態は避けなければならないのでな」

「きさま!」

「コレクションであるお前を大公が手放す気になってくれて助かったよ。さすがに、帝国情報部も大公のコレクションには手が出せなくてね。ゲーリントン、あきらめるんだな」

カストロワ大公が口元を緩ませる。

おびえる助手たちに向き直って、レクトは続けた。

「さて、君たちの処遇は決めてある。ここで死んだことにして、ブールプールの研究所で別の人間として研究を続けるか、本当にここで死ぬか、だ」


「そんな!私たちはただ、教授に命じられたから、仕方なく!」

一人が不満げに叫んだ。

「仕方なく?」

睨み返す軍神の黒い瞳は、鬼気迫る表情を作る。


「皇帝の血液を採取した時点で、反逆罪、帝国憲法違反、傷害罪、医師法違反、数えればきりがないくらいの罪を犯しているんだ。曲がりなりにも、帝国医師免許を取得して白衣を着ているからにはその責任は重い。誰かの指示だろうと脅されようと、何の理由にもならんな。しかも、皇帝の誘拐を幇助し自由を奪うことに協力している。この場で銃殺されても文句は言えんと思うが」

レーザー銃が助手に向けられた。

「!」

「ただし、この場での出来事は公にはしない。だからこそ、お前たちにも生き残る選択肢を残してやったんだ」

「……」

助手たちはうなだれた。

「もしや、デイラのあいつらも…」

教授が思い当たったようにつぶやく。

「ああ。処分されたことにはなっているがな」

「…私が、悪かった、私もそこで研究を続けさせてくれ!」

ゲーリントンは床に膝をついて頭をたれる。

「研究を続けられるならどこでもいい。どんな名前に変わろうともかまわん!私は、シンカの研究を続けたいのだ!」

そう言ってすがりつくようにレクトの足元にうずくまる。

「おいおい」

その卑屈な態度にシキは呆れ顔だ。

「お前だけは、許さん。二度とシンカに触れさせん。デイラでもそう言ったはずだ。近づくなと」

レクトの苦い表情。デイラで何があったのかは、二人にしか分からない。ゲーリントンの不敵な笑みが、さらに軍務官を怒らせる。

その手の銃が教授を狙う。

その時、不意にシンカの横たわるストレッチャーの電動装置が動いた。

顔を伏せたままにやりと笑う教授の白衣の胸元にそのリモコンがある。寝台がゆっくり下がり、同時に背にした部分が立ち上がりはじめた。上半身を起すための装置だ。シンカは体制を保てずに落ちかける。

「危ない!」

皆がそちらに気を取られた瞬間だった。


ゲーリントンがどこに隠し持っていたのか、身を起しざまに手にした銃で、レクトを撃った。

わき腹を押さえる軍務官にシキが助けようと駆け寄る。

教授から引き離した。

その隙に教授は大公を押しのけて、横たわるシンカを引き摺り下ろす。

「教授、止めて下さい!」

止めようとした助手が一人撃たれた。

皆が同時に動きを止めた。


既に教授の銃は、シンカの額に当てられている。

シンカは苦しそうにうめいた。

後ろから首に腕を巻きつけられ、身動きできずに引きずられて行く。

「ゲーリントン、貴様!」

銃を構えるレクトに教授は勝ち誇ったように叫んだ。

「これは私のものだ!私が研究を続けるのだ!貴様らには渡さん!」

わき腹を押さえ、栗毛の男が冷酷な瞳に怒りを宿しながら、教授に向かって歩き出した。

「レクトさん!」

シキが止めようとする。

その腕を軽く払って、軍務官は長いコートのすそをひらめかせながら、ゲーリントンを追い詰める。

ゲーリントンは、レクトを睨みつけた。

「来るな!シンカを殺すぞ!」

「お前にはできない。研究を続けたいんだろう?その研究材料は、お前にとって何よりも大切だからな」

「・・お前に私の気持ちがわかるものか!軍人などに!」

「いいかげんに気づけよ。お前も同じなんだよ。あの助手たちと」


部屋の隅に追い詰められて、教授は壁を背に留まる。シンカは力の入らない足を何とか引きずって、倒れずにいる。


「ゲーリントン。お前の執着は、ユージンのそれとも似ている。自覚しろ」

「うるさい!私をあんな馬鹿女と一緒にするな!あの女は、シンカに手を出すな、などと私に、この私に説教するんだ!シンカを一番愛しているのは自分だなどと。許せなかったよ。

シンカを最も必要としているのは私だ!その価値を知っているのも」


「あの女はそれをくだらん愛情などと比べやがった!・・だから、薬を打ってやった。シンカ、お前の知っている薬じゃない、麻薬だ。致死量ぎりぎりでね、生かしておいてやったんだ。」

教授は笑っていた。

「面白いくらいに簡単に、狂いやがった!」

神経質な漆黒の瞳は、何を映しているのか。

「教授が、ユージンを!」

シンカの蒼い瞳が大きく見開かれる。全身を貫く痛み以上の何かが、はじける。

足に力を入れ、シンカは背後の男のわき腹に精一杯の力で肘を打ちつけた。

「ぐっ!お前」

銃を持つ手でわき腹を押さえる男の腕を、シンカは崩れるようにすり抜けた。

その直後。


レクトの放った白い一閃が、ゲーリントンの額を貫いた。

助手たちが、息を呑むのが伝わる。

シキが駆け寄る。


シンカは背後で崩れるように横たわる教授を感じながら、痛みに動けずにいた。

シキが座り込んだままのシンカを抱き上げた。


「ユージンは、俺を助けようとしたんだ。……あの夜喧嘩して、俺、ひどいことを言って彼女を拒絶したのに、なのに」

シキが微笑んだ。

「大丈夫。彼女は治るさ。まだ、研究生だけど、いずれ大物になるだろう、立派な医者が。な、ついてるんだろ?」

「シキ」

「私も協力を惜しまないよ。ブールプールの専門の医療機関を手配しよう」

シキの背後に立つカストロワ大公が、めずらしく微笑んだ。

「大公。ありがとうございます」

シンカは何とか微笑んで見せた。

「ついでにマリアンヌもお前が診てやったらどうだ?」

レクトがつまらなそうな顔で言い捨て、部下に指示を与えるために携帯電話を取り出す。

「おいおい、ついでってのはなんじゃないか?」

シキが慌てる。

「なんだよ、俺じゃ、いやなのか?」

痛みに息を切らせながらも拗ねてみせるシンカは真上にあるシキの顔を見つめる。


「マリアンヌが、お前にほれたら困るだろうが!」

二人に背を向けて部下に指示を下していたレクトが、小さく噴出す。

「なんだ、親ばかだ」

笑う若い皇帝をカストロワは目を細めて見つめていた。



この夜、セトアイラスは、この地にその名をつけられたとき以来、初めてといっていいほど、騒がしかった。

市街地を走り回る緊急車両や、軍の飛行艇。この喧騒のさなかに、郊外の研究所の一つが爆発炎上した。その爆発も、コート・ロティ大学病院の事件も、多くの中の一つとして、片付けられた。

情報部が手を回す必要もなかった。

何しろ、全宇宙の主要六惑星で同時に作戦が展開されたのだ。

見事、としか言いようのない結末となった。

迦葉を名乗るすべての組織が、この宇宙から消えた。



三日後。

研修は後一日というところで、やっとシンカはコート・ロティに出勤することを許された。

事件のあった日の翌日には痛みもほとんどなかったのだが、事件の後片付けで病院側が拒否したのだ。

破壊された救急救命室と、怪我をした病院関係者、なにより、皇帝の存在を知ってしまった彼らをどうするのかが学長の悩みだった。

さすがに大学の理事たちには隠しきれず、臨時の役員会で槍玉に挙げられた。結局は帝国の広報との話し合いで、皇帝がセトアイラスを去った後に公表し、皇帝からの正式な感謝の表明と謝罪で病院の面子を保つということで落ち着いた。

カストロワ大公からの病院修復のための多大な寄付金もそれに寄与した。

どちらにしろ、今、各惑星のメディアは迦葉の事について争って記事にすることで忙しく、病院が襲われた理由などにはまだ興味はなさそうだ。



もう、その必要がないということで、シンカは本来の姿で病院に姿を現した。

受付のイランが彼の姿を見つけると、カウンターに肘を着いて書類を見ていた姿勢を慌てて正した。

シンカは笑っていつもどおり挨拶する。

「おはようございます」

「あ、はい」

「・・イラン、変だよ」

青年ににっこり笑われて、なぜか顔を真っ赤にするイランにクリフトが噴出す。

「ほんと、女って奴は。おはよう。ルー」

いつもどおりの挨拶を返してくれるコーディネーターに微笑んで、ルーはロッカーに向かう。最終日。


「ルー兄ちゃん!今日は髪の毛ちがうな!」

そう言って駆け寄る子供を、抱き上げる。

「おはよう。早起きだな」

「おう、俺はめんえきびょうとう子供軍団のリーダーだからな!この前の事件から、朝は病院内を警備する決まりを作ったんだ!」

七歳の男の子は細い腕をふりあげて威張ってみせる。

「ルーも入れてやるよ」

「そうか」

シンカは笑って応える。

「だから研修終わってもちゃんと来るんだぞ!特別に入れてやるんだからな!」

その小さな瞳にほんの少し寂しさを見て、シンカは嬉しくなった。

「了解しました、リーダー」

そんな二人の後姿を看護師たちが見つめていた。


***


ブールプールの春は終わろうとしていた。

少し歩くと汗ばむくらいの日ざしにシンカは目を細める。


帝国病院の庭を彼は歩いている。見舞いの帰りだ。

ユージン・ロートシルトは無邪気な表情で彼を迎えた。知っていてはいけない機密情報とともに、たくさんのことを忘れてしまっていた。ただ愛しい皇帝のことだけをうわごとのように繰り返し話す。

話している相手が皇帝本人であることも分かってはいなかった。

いつか思い出すのかもしれない。


シンカの金色の髪が傾きかけた午後の陽光を弾く。その大きな瞳はやさしく一つ瞬いた。

あどけなく幸せそうに微笑む彼女の表情を思い出していた。


傍らの白い犬は庭に咲く黄色い花に鼻を押し付けてふんふんとやっている。

「まってよ、シンカ!」

こちらも黄色い花に寄り道して、小さい花束を胸に抱えたミンクがシンカに追いつく。銀色の髪がキラキラと揺れた。眩しく感じてシンカは目を細める。


ミンクはシンカの手を握って、赤い大きな瞳が無邪気に見上げる。

「見てみて、かわいいでしょ」

「お前がな」

不意の言葉に真っ赤になるミンクを、シンカは抱きしめる。


地球に戻ってからミンクはユージンについて何も聞かなかった。それどころか、憧れの秘書官が病気になってしまったことを本気で悲しんでいた。

今日もまるでシンカのことを恋人のように繰り返し話すユージンに、いやな顔一つしなかった。ただ哀しそうに見つめていた。


「ありがとう。信じてくれて」

シンカの甘い香りに包まれながらミンクは笑った。

「だって、ユージンの気持ちわかるもの。同じだから」

「ミンク」

赤い瞳がくるりと瞬いた。

「シンカ、愛してる」


ミンクからその言葉を聞いたのは初めてだった。

「今回のね、いろいろと騒がれたことで、ちゃんと言ってなかったって思い出したの。私はユージンみたいに頑張ってない、だから、頑張る」そうミンクは笑い。

頬を真っ赤に染めた。


シンカは腕の中の温かく優しい陽だまりを、もう一度強く抱きしめた。


「ミンク。ちゃんとしてなかったの、俺も同じだ」

「え?」


シンカはレクトの言葉を思い出していた。ミンクは常に近づいてくる死期を感じているはずだ。それがどれほど恐ろしいことか、シンカにも想像できない。

だからこそ、一つでも悲しませる要因は。俺が取り除くべきなんだ。



「結婚しよう。皇妃になってくれ」



うなずいた少女の持つ黄色いブーケが、春風に揺れた。




「蒼い星」シリーズ。どれも長いのにお付き合いくださってありがとうございます!

皆さんの応援クリックのおかげで、「アルファポリス」SF小説部門で頑張っています♪


勢いに乗って。

次回から。シリーズ完結編をお送りします!


シンカくんたちは、生まれた星へと帰ります。変えられない過去と悲しい現実をしっかりと見極めるために。


これまで応援してくださった皆様にはきっと楽しんでいただけるはず!

お楽しみに〜♪


2008.10.12 筆者拝

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ