9.護るもの2
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らんららの最新作「音の向こうの空」が、「アルファポリス」にて、Pickupコンテンツとして紹介いただけることになりました♪10月3日はサイトのトップページで、以降は「小説、歴史」ジャンルのページで。
よろしければのぞいてやってくださいね♪(←珍しいことなので舞い上がっている…)
では。蒼い星シリーズ。続きをどうぞ!
公邸の広いリビングで、栗色の髪の男が、いらだたしげに歩き回っている。落ち着かず、煙草を先ほどから何本吸ったことか。
ソファーに腰掛けた黒髪のシキは、軍務官が視界を右左に行き交うのを、ちらちらと横目で見ながら、供されたブランデーをなめる。
「何を、そんなに慌てているんですか。レクトさんらしくないですよ。」
「ふん。」
ほとんど答えない。
冷静沈着、恐ろしいほどの洞察力と判断力が魅力の彼が、今はその感情を露にしている。
こと、シンカのことになると、この人は変わる。不思議というか、がっかりするというか。
シンカも、恐いもの無しの大胆な性格をしているが、レクトにはかなわない。
親子、だからか。この二人の間には、他人の入り込めない何かがある。
シキは、煙草をもみ消しながらそんなことを考えていた。
「レクトさん、シンカの居場所はいつでも分かるんじゃなかったですか?」
「ああ。今は、カストロワのところだ。」
「じゃあ、安心じゃないですか。」
じろりとにらまれ、シキは言葉を区切る。
「お前は大公の性格を知らんからな。あれは、男でも女でも、欲しいと思えば手に入れる。」
「・・シンカがみすみす言いなりなるとは思えませんよ。ガキじゃあるまいし。大丈夫です。それより、俺はユージンの行方が気になっているんです。」
「ああ。」気のない返事。
「・・捜索は進んでいますか?」
「・・いや、迦葉が絡んでいるらしい。捜索はそこでやめさせた。」
シキが立ち上がった。
向かい合った二人はほとんど同じ身長で、体格も同じだ。迫力がある。
「どういうことです?」
「迦葉の手引きで連れ出されたと考えている。放っておいても迦葉はシンカの暗殺にユージンを利用する。脅迫が来るかも知れんし、もっと他の手を使うかもしれん。」
「それを待つというのですか?!」
「・・ユージンは、どうなってもかまわん。いっそ、この件で迦葉に殺されてくれたほうが、後の憂いがなくていい。」
栗色の髪の軍神は、苛烈な発言をこともなげに言い放つ。シキは目を見張った。
「どういうことです!」
「・・シンカが振り回されるからだ。」
「それは、あいつが悪い!下手に手を出すから。大体、ユージンがあんなふうになったのも、シンカに責任があるじゃないですか!」
レクトは、煙草をもみ消すと、座った。
立ったままのシキを見上げてにやりと笑う。
「シンカがあんな年上に手を出すわけがないだろう。お前とは違うぜ。バカがつくくらい生真面目だ。」
シキは、納得が行かないのか、黙り込んだままだ。
「まあ、座れ。まさか、お前まで、地球のあんなゴシップ誌に振り回されるとは思わなかったぜ。お前、あいつがどれほどやさしい人間か知っているだろうに。」
シキは、答えない。冴えない表情のまま、レクトの向かいに座った。
レクトはグラスに氷を足す。カランと、きれいな音がした。
シキが黙って、ウイスキーを注ぐ。
「もともと、ユージンは少し、神経質な面があってな、異常なほどの執着ぶりを危惧する声もあった。注意するように言ってあったんだが、文政官アシラのお気に入りでな、そう簡単には解任できなかった。」
「あの仏心街の事件。覚えているか?」
「はい」
「あの時、ユージンがシンカの居場所を突き止めたのは、アシラの認証を使ってシンカの居場所を特定したからだ」
「!それは、機密だと…」
「そうだ。お前だけには知らせてあるが、ユージンはその情報とアシラのIDを盗んだ。それだけじゃない、俺やお前、ミンク。シンカに関わる人間のほとんどを調べている」
「何かの、組織が関わっているんですか?」
そこで、レクトはグラスをあおった。グラスは再び空になる。
「いいや。調べたが、それはない。個人的な興味からだ」
「個人的な、興味?」
「シンカに惚れてる。ただ、それだけの理由だ」
シキは黙った。
それだけの理由で、そんな危険なことをするのか?
「おかしいと思うだろう?」
シキは頷いた。
「そう、おかしいんだ。ユージンは、シンカに偏執している。それは、常軌を逸しているんだ」
「それで、ここまでこじれたのか。そうか」
両腕を頭の後ろで組んで、ソファーで伸びをするシキ。心にかかっていた靄が晴れたような、満足そうな顔だ。それを見ながら、レクトは考えていた。
こいつに入った情報、大公に操作されていたかもしれん。カッツェを使えば、簡単だろう。それで、シンカのそばから引き離されていた。
相変わらず、えげつないことをする。操られる人間は、あたかも、自分の意志で行動したように錯覚する。カッツェも、大公には逆らえないしな。
迦葉については、情報部が別で動いている以上、下手に動けない。そして、それに関して、この男に知らせるわけにはいかない。
レクトが口を開いた。
「しかし、お前が、女に手を出すうんぬんで、シンカを説教するとは思わなかったぜ。人のこと言える立場じゃないだろうが」
「俺は基本的に、誰かさんと同じで一途ですから」
軽く正面の男を睨む。レクトは、そ知らぬ顔をしている。
そうだろう、結局、ロスタネスを今も愛しつづけている。だから、誰とも結婚しないのだ。その、貫き通す一つの想いが、レクトの魅力の一つになっているのかもしれない。
黒髪のシキは、尊敬する上司を、嬉しそうに眺めた。