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守護られ騎士は転生者 ~俺が異世界に求めたもの~   作者: のっちょ
第一章 半魔の少女、閉ざされた願い
5/6

おいでませ!ガレッタ 前編

かなり間が空いて申し訳ありません。別にリアルが忙しかった訳ではなく、純粋にサボりです。後悔はしていないが、反省はしている。


大変申し訳ありませんでした

青く澄んだ快晴の空に燦々と輝く太陽が浮かんでいる。すっかりご機嫌気分な太陽様は座す位置も有頂天、どうやら時間はお昼のようだ。


食料の類はフロウからもらったインベントリには入っていなかったので、すっかり腹が減ってしまった。しかし、俺の第一街人レーダーの反応は歩き始めた時よりかなり強くなっている。異世界初の街まではあと一歩と言ったところだろう。


俺がまだ一人だったなら、心内には不安を煽るような感情が燻っていたかもしれないが、俺にはすでに道中を共にする仲間がいる。


背丈は俺の腹ほどだろうか。淡く蒼に染まった髪の毛は肩ほどまで伸ばし、前髪は眉のあたりで短く斜めに切り揃えられている。なんて髪型なんだそれ。身体つきは漆黒のローブに纏われていてよく分からないが、その漆黒により他者を受け付けないかのような圧迫感を感じさせる。


ここまでくるとその圧迫感も形無しだな...と、俺は繋いだ左手をわずかにニギニギしながら思っていた。


ミラ・ヴェルフィム。それが彼女の名前だ。彼女というほど成熟しているわけではないだろうが、本人を前にしていうと何をされるか分かったものではないので、口には出さない。


今は俺の左手を握りながら、近くの街まで向かっている最中だ。時折、手をつなげて嬉しいのかギュッと繋いだ手を握りしめてくる。その表情は出会った時のように無表情、かと思いきや、口角が僅かに上がっており目元もどこか優しげだ。俺も出会ってからそこまで経ってはいないが、彼女が内心では大はしゃぎなのは間違いないと確信できるほどには、分かりやすく喜びを露わにしている。


「ご機嫌だな、手をつなげるのがそこまで嬉しいのか?」

「...パパは私が産まれてすぐに死んじゃった。男の人は周りにいなかった。男の人と手を繋ぐのはマサトが初めて。...それにー」


俺の左手の感触を確かめるように、ミラは強く握る動作を繰り返す。ミラの手は俺の一回りかそれ以上に小さく、故郷に残してきた妹を思い出してしまう。昔は一緒に手を繋いで出かけたっけか。今はなにしてるんだろうなぁ。


「"半魔"と知っても近くにいてくれたのはマサトだけだから。だから嬉しい...。こうしてずっと手を繋いでいたいと思うほどに」


ミラは"半魔"という存在だ。異世界フロウラントには数多に渡る種族が存在するのだが、そのうち人種と魔人種の混血児のことを半魔という。半魔は両種族共から汚らわしい存在とされており、差別や侮蔑の対象とされる。


ミラは半魔という自身の立場故に、澄んでいた森を他の魔人たちに焼き払われ母と死別。その母の形見を、自身が産まれてすぐに亡くなったという父のもとに届けたいという願いのもと、その父が住んでいた村に向かおうとしていたのだ。その途中で力尽き魔物に襲われそうになっているところを、偶然通りがかった俺が助けたというわけだ。


ずっと一緒にいたいと、遠回しに伝えてくるミラの目は僅かに熱を帯びており、幼い体からは想像できないような妖艶さを醸し出している。俺の左手を胸の中にかき抱きながら、まるで俺を逃がさないと伝えてくるかのように、合わせた視線を少しも外そうとしない。


「まぁ、ずっと一緒にいてやるって言っちまったからな。約束は守るさ。」


ミラの頭を空いているもう片方の手でポンポンと撫でる。妹を撫でるときもこうしてたっけか。懐かしいな。


なんだか微笑ましい気分になりながらも、ミラの頭を撫でる手は止めない。今まで当たり前のように居てくれた心残り拠り所をなくしてしまったんだ。俺がその代わりになってやりたいしな。


「むぅ。マサトはきっと分かってない」

「なにがだよ?」

「...別に?」


プイッと顔を俺から背けてしまうミラ。そう言った所作はやっぱり年相応の子供らしく、微笑ましい気分になる。俺のまるで我が子を見守るかのような雰囲気を感じ取ったのか、ミラは


「マサトは私を子供扱いしすぎ」

「子供扱いって...ミラはまだ子供じゃないか」


どこか不機嫌そうに告げてくるミラにそう言い返す。背丈は俺の腹ほどで、体は隠れているといっても、とても大人の身体つきには見えない。


日本の紳士諸君にミラを見て貰えば、おそらく全員が、Yes ロリータ No タッチと言う言葉を口にするだろう。それほどまでにミラの外見は幼い。


「せいぜいそう思っているといい。待っててね」


その言葉を子供の負け惜しみのようなものと受け取った俺は、特に返事をせず別の話題を振り、街までの道の歩みを進めた。


この後、この言葉の意味を俺は知ることになる。ミラが"魔人種"の血を受け継いでいることの本当の意味を、俺はこの時は知らなかったのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ミラと道中を共にし始めてから数十分。視界を埋め尽くしていた森の終わりが見えてきた。生い茂っている木々の向こうに光が見えてきたのだ。


「どうやら、無事森は抜けられそうだな」

「よかった、早速街に向かおう?」


ミラの言葉に、頷きで同意の意思を表す。初めての街が近づいている、そんな感情に逸る気持ちを抑えながら歩みを進める。


そして森を抜けたその先にはー


これぞ異世界!というような、日本ではまず見られない光景が広がっていた。


はるか向こうまで広がっている平坦な草原。馬車が通った後の残る街道。街の周りを巡回しているのだろうか、鎧に身を包んだ衛兵たち。そして、正面に巨大な石造りの門を携えた、大きな街の姿。


少し、僅かな時間だが、あまりの光景に言葉を失った。そして改めて自分が異世界に転生したのだと思い知らされた。


「マサト?どうしたの...?」


この光景は異世界フロウラントの住民にとっては当たり前なものなのだろう。自身が覚えた興奮を抑えるかのように、俺は拳をグッと握りしめる。


(正直予想以上だ...。ここまで興奮するのは久しぶりだ...。フロウには改めて感謝しないとな...!)


近衛将人という青年はまだ高校二年生だ。少々過酷な生活を送ってきたが故に大人びてはいるものの、まだ子供なことに変わりはない。ましてや生前ゲームなどで経験していた世界に、正に自分が身を投じているのだ。興奮を覚えるのも無理はないだろう。


「行こうぜミラ!まずは宿屋を探さないとな。ああでもギルドにも行ってみたいな。冒険者登録ってできるのかな!」

「マサトご機嫌。私も嬉しい」


フッとミラが微笑む。それはまるで、母親が自分の子供の成長を喜ぶかのような仕草で、俺はそんなミラを見て内心ドキリと心を弾ませるのだった。



「次の者!こっちに来てくれ」


初めての街に興奮を覚え、早速入ろう!と意気揚々に足を進めたのだが、門の前には街に入ろうという人が行列を作っていた。どうやら身分や荷物を、軽くだが検査しているようだ。


そうだよね。そりゃ衛兵はいるもんだよな。街に不審者入ったら大変だしね。うん。


自分に言い聞かせるようにして心を落ち着かせる。自分の前に餌を置かれて、待てと命じられる犬の気持ちが分かったような気がした。ミラが、握っている手をギュッと握ってくる。落ち着いてと言い聞かせるかのように。ああ、子供に世話される俺って...


静かに落ち込んでいる俺に衛兵の声がかかる。三十分ほどだったな。早いようで長かったな。


「この街には何をしに来た?身分証明出来る物は持っているか?」

「冒険者登録しようと思いこの街に来ました。身分を証明出来るものは持っていませんね。なにぶん田舎村出身なものでして...」


兜から顔を覗かせる衛兵は少し若く見える。口調は少し強めだが、衛兵自体からはどこか訪れたものを気遣うかのような雰囲気が感じられた。


「おお!冒険者登録か!それはありがたい。そちらの少女は?」

「こちらは私の妹のミラと申します。村ではなかなか農作物が育たず、村人は痩せこける者が増えていくばかり。食い扶持を減らすために、私たちは村を出てきたのです。」


それっぽい理由をつけながら、なんとか衛兵の質問に答えていく。冒険者登録が、ありがたいってどういうことだろ。なにか大きな事件があって冒険者たちが丁度出払っちゃってるのかな。


「むぅ」


妹、と紹介してからミラは頬をむくらせている気がする。なぜ不機嫌になっているのだろうか。あ、お腹空いてるんだな?


「そうか...それは大変だったな。それなら街に入ったらすぐに冒険者ギルドに行き、冒険者登録すると良い。発行されたギルドカードは身分証明に使えるぞ。その代わり、今回は街に入るのに手数料として三銅貨を払ってもらうことになるが...」

「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」


街に入るのに手数料三千円分は安すぎるのではないかと些か不安になりながらも、衛兵に手数料を手渡す。どうやらミラの分の手数料は取られないようだ。子供は入場料無料みたいな?案外異世界って優しい世界なんだな。


衛兵の手厚い見送りに笑みを浮かべながら、まだ頬を膨らませているミラの手を引き街に入る。いよいよだ!楽しみだな!


俺たちがくぐった門にはこの世界の言葉で


『辺境の街ガレッタ』と書かれていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


街の風景は正に圧巻と言ったところだろう。門の正面から伸びる一本のメインストリートは、左右に小さな商店などを伴っており、遠くに見える大きな建物まで続いている。メインストリートからは左右に細い小道が伸びており、その先は薄暗くなんとなくスラム街という言葉を彷彿とさせる。おそらく住宅街のようなものなのだろうが、喧嘩を囃し立てる声や恵みを求める声など、精神衛生上危険なものも多いようだ。ダメだぞ!ミラの教育にもよくない!


少し目線を上に上げると、街をぐるりと取り囲むかのように防壁のようなものが建っているのが見える。防壁は石のようなもので出来ている。おそらくこの防壁で魔物の攻撃などを防いでいるのだろう。その高さは空を飛ぶことができる魔物でも簡単には超えられないだろう。防壁の上には人が二人並んで歩くことができるほどの幅があり、物見櫓の役割も果たしているようだ。辺境の街の割に守りはしっかりしているみたいだな。いや、辺境だからかな。いやー勉強になったな〜、"へんきょう"だけに!


...すんません。べ、別に初めての街にテンションが上がってつい言っちゃった訳ではないんだからね!むしろこれぐらいじゃ収まらないぐらいワクワクしてるんだからね!


...しょうもな。


何よりも俺を驚かせたのはこの街の喧騒である。


「今日はゴーラシープの肉が沢山仕入れられたぞ!そこの道行く冒険者さん!狩りに出る前に腹ごしらえは必要だろう、うちで食っていきな!」

「生活用品に魔石はいかが?熱を放つフレイムアントの魔石に、水を出すシーガードの魔石。より良い生活にはカローナ魔石店をご贔屓にね!」

「魔物討伐には武器が欠かせねぇ!うちなら無料で武器の手入れをやってるし、何より種類が揃ってる!まずはうちで武器を買って行くのをお勧めするぜ!」

「あぁ〜ん!そこの道行くお、に、い、さ、ん♡あなた良い体してるじゃな〜い。どお?うちでその内から湧き上がるパトス、発散して行かない?」


メインストリートを歩いていると脇から次々と声をかけられる。商売をする上でこの、積極性は欠かせないのだろう。最後の方に聞こえた声の主には是非ともお世話になりたいな。その声がまるで"男のように野太く無かったら"だけどな。


次々かかる声に少し怯えているのだろうか。ミラが俺の後ろにピトッとくっついてくる。くそ、可愛いじゃないか。...じゃない、ミラは人に不慣れなんだ、気を紛らわせないとな。


「まずは衛兵さんに勧められた通り、冒険者ギルドに行ってみるか?先に宿屋に行ってミラには宿で待っててもらっても良いけど」

「...マサトと一緒にいる。それとも私と一緒は、いや?」


首をこてんと倒してミラは上目遣いで俺にそう聞いてくる。身長差がある以上上目遣いは当たり前なのだが、なんだろう、ミラからでるこの色気のようなものは。この子は本当に子供なのかと思ってしまう。まるで狙ってやっているかのような。


「よし、ならギルドに行って冒険者登録をしよう。いよいよだな!ギルドカードもらえるのかぁ」

「ほら、早く行く」


胸の高鳴りを抑えられず、別の意味で異世界トリップしそうな俺の手をミラが引いて行く。あぁん、つれないのね。


適度にじゃれあいつつ俺たちはギルドまでの足を進めた。おそらくメインストリート突き当たり、一番奥に見える建物がギルドなのだろう。大きな看板が掲げられていて、人の出入りが激しいみたいだし。


時折通りかかる人々の中に人種じゃない人がいるようだ。角が頭から生えている人もいれば、頭は爬虫類で、体は人間の二足歩行蛇のような人もいる。とがった耳を持つ翠髪の女性、ってあれはエルフじゃないか!素晴らしい!


魔人種や獣人種なども人の街に入ることは出来るんだな。仲が悪いわけでは無さそうだ。


街の風景と通りかかる人々、初めての体験に目を輝かせつつ歩みを進めること十数分。俺たちは冒険者ギルドに到着した。


見上げても足りないぐらいの大きな建物。剣が二本描かれた看板には『冒険者ギルド』と書かれている。両開きの木製のドアは腰元の高さを覆うほどだけのものだ。あれだ、西部劇とかでみるやつだ。わずかに伺える室内からは男性の笑い声がひっきりなしに聞こえてくる。文面だけでみるとホラーだな。


やっぱり絡まれたりするんだろうか。と少々怯えながらも意を決して扉を開く。


すると、いままで響いていた喧騒がまるで嘘であったかのように静まった。中にいた人たちの視線が一斉に俺たちに集まる。見たことのない男が、いたいけな少女を連れてきてるんだ無理もないだろう。


どうか面倒なことになりませんようにと願いつつ、周りにバレないように視線を巡らせる。


扉の正面にはカウンターがある。そこには一人のお姉さんが座っていて、少し驚いた表情でこちらを見ている。右手の壁には木製の四角形の板が掛けられており、いくつかの紙が貼り付けられている。クエストボードというやつだろうか。おそらくあそこで依頼なりなんなりを確認できるのだろう。そして左手には、件の視線が沢山向けられている原因そのものがあった。そう、酒場だ。ギルドに欠かせないものといえば、冒険者の狩りの疲れを癒すための酒場だ!夢に見たギルド酒場がそこにはあった。


「...マサト。はやく」

「あ、ああ。そうだな」


ゲームの世界の実現に思わず感動してしまったが、ミラが俺を現実に引き戻す。はやく冒険者登録をしないとね。


「ようこそ、ガレッタの冒険者ギルドへ。本日はどのような要件でしょうか。初めて訪れた方とお見受けしますが...」

「冒険者登録したくてきました。実はガレッタに来たのも初めてでして。お恥ずかしながら田舎村の出身なもので」


ギルドのお姉さんは丁寧ながらも気さくに話しかけて来てくれた。肩で切りそろえた金髪のショートカットは彼女の笑顔にぴったりで、まさに輝いているかのように見える。少し童顔のようだが、きっちりとした態度は"お姉さん"を彷彿とさせる。いいね!ギルド娘は美人って相場が決まってるからね!


「そうでしたか。失礼いたしました。辺境の街故に、見知らぬ人を見るのは珍しいものでして。申し遅れました。冒険者ギルドガレッタ支部の受付を担当しています、セラと申します」

「ご丁寧に有難うございます。僕はマサトといいます。この子は妹のミラ。いやぁ、セラさんみたいな美人な人に覚えてもらえるなら光栄ですよ」


思わずナンパまがいなことをしてしまった。まぁ、いいか本音だし。それとミラ、俺の肩に登ってほっぺをつねるのはやめてね。普通に痛いからね。


「フフッ、可愛い妹さんですね。さて、早速冒険者登録をしましょうか。妹さんもご立腹のようなので」

「そうですね、お願いします!」


おそらく他の冒険者にうんざりするほど口説かれているのだろう。俺の言葉にはノーリアクションだ。いいさ、それでこそのギルドの看板娘だ。


ミラを改めて肩車しながら、書類に必要事項を明記していく。書類は非常に簡単なものだった。まとめると、依頼に明記してある条件等を厳守し、依頼を悪用した行動を起こさないこと。冒険者同士の諍いには、基本的にギルドは関知しない事、そして緊急依頼には条件を満たしている場合できる限り参加する事、以上の三つだ。


緊急依頼は魔物の群れなどが街を襲って来た場合などに、出される依頼で、全冒険者が協力して依頼達成を求められるものらしい。なるほど緊急クエストだな。緊急依頼は普段よりも多めの報酬が設定されており、冒険者のランク査定などにも影響するらしい。断ることも可能だが、その場合もランクの査定に悪い影響が出るみたいだ。


揉め事に関知しないはその通りだな。おそらく冒険者同士の言い争いなど日常茶飯事なのだろう。いちいち関知していられないだけのはずだ。ただし、あまりにも大きな揉め事、それこそ大怪我や死人が出るほどのものになると、指名手配などの処置がなされ、重罪人の名を受けることになるみたいだ。そりゃそうだよな。


「記入していただく書類は以上です。妹さんもギルドカードを作られますか?」

「どうする?」

「私も欲しい」


俺の肩の上から、頭をテシテシとかるぅ〜く叩きながら、そうミラは告げる。微笑ましい光景だとセラさんも笑みをこぼす。子供がおもちゃをねだるように受け取ったのか、セラさんも「では早速発行して来ますね」と多くを聞くことはなかった。子供がギルドカードを作ることは珍しいことではないのだろうか。


「少し時間をいただきますので、あちらの椅子にかけてお待ちいただけますか?」

「わっかりました!」


夢のギルドカードが目前に迫り、酔っ払いのような返事をしてしまった。セラさんが俺を見てクスッと笑い、受付の奥の方に姿を消す。ああっ、男らしくないと思われただろうか。ううーん、俺は女性には男らしいと思われたいのだが...どうでもいいね。


すると、


「おいっ!お前見ない顔だなぁ。ちょっとツラ貸せや!」


というまるで荒くれ者だと言わんかのように話しかけてくる男がいた。


うわでたー。と少しニヤニヤする顔を抑えながら声の主に目を向けると、熊のような巨体を持った目つきの悪いハゲ頭がそこにはいた。


「いやぁ、初めてガレッタに来まして。たった今駆け出しの冒険者になろうとしているところなんです。どうかご勘弁願えませんかね」

「アァン!?この鬼殺しのガラン様に楯突くとはいい度胸じゃねぇか!おいてめぇ、てめぇみたいな貧弱な奴がこの辺境で冒険者なんざ無理だ無理!さっさとお家に帰って、ママのおっぱいでも吸ってな!」


ガランと名乗った男は、え?それリアルで言う奴いるの?と思わず問いかけたくなるようなセリフを俺たちに向かって吐き捨てた。ちなみにミラはまだ肩車中だ。シュール。


ギャハハ!と周りの冒険者たちが豪快に笑う。中にはその通りだ!お前にはゴブリンは倒せねぇよ!それじゃあ、ガレッタの冒険者とは認められねぇな!などと宣う輩もいる。


(ゴブリン"は"倒せない?それでは冒険者とは認められない?どういうことだ。ゴブリン"すら"倒せないじゃなくってか。まるでゴブリンを倒すことができれば一端の冒険者と認められるみたいじゃないか。)


周りの冒険者たちの発言に疑問を覚えながらも、自分を馬鹿にした発言には黙秘を決め込む。当然だ。まずこの手のイベントは想定内だ。むしろ初ギルドで揉め事が起こらないはずがない(反語)。さらに目の前には"鬼殺し"と名乗った男がいる。確かにこの巨体なら鬼でも殺せそうだ。無理に反抗したら俺がその鬼になってしまう。


俺が大人の対応で、絡みイベントを乗り切ろうとしていると、肩車をしていたミラが見事に爆弾を落としてくれた。


「むぅ。ハゲ、うるさい」


シーン、と騒がしくなったギルド内を再び静寂が包み込んだ。あまりに予想外の発言だったのか、誰もが目を見開いてミラを凝視している。俺もなんだけどね。


「ミ、ミラ!なんてことを言うんだ!せっかく俺が大人の対応でスルーして、ちゃっちゃとギルドカードだけ貰って帰ろうと思ってたのに。それに、髪の話はしちゃダメだよ!気にしてたらどうするの!おじさん傷ついちゃうよ!」

「でも、ハゲはハゲ」

「なんで急に喧嘩腰なの!?さっき街中では俺の後ろに引っ付いてたじゃん!なんなの?怒ったら性格が変わっちゃう系主人公なの!?」

「でも、あのハゲはマサトを馬鹿にした。マサトは私を助けるためにゴブリンを倒した」

「うん、俺のために怒ってくれたのは嬉しいけどね、お兄さん絶賛ピンチなうで泣いちゃいそうなの。あと、指差してハゲって言うのは流石に気の毒だよ... ほら、ガランおじさんだよ?言ってみな?」

「ハゲ」

「あ、これダメだわ」


頑なに相手を罵倒することをやめないミラに、俺は言葉を改めるように説得する事を早々に諦めた。ミラはどうやら、自分が譲れないことに関してはかなり頑固になるみたいだ。女の子って難しいね。


「おい、あいつ今ゴブリンを倒したって言ったか?」

「なにかの冗談だろ?ガランに勝てないと思って、ホラを吹いただけだろうさ」


周囲の冒険者たちはハッと意識を取り戻したかと思うと、ざわざわと傍にいるもの同士でなにやら話をし始める。


聞こえてるぞ。ホラ吹くのにゴブリンはインパクト弱すぎるだろ。ゲームの主人公が「フッ、俺はあのスライムを倒してきたんだぜ」とかダサすぎるだろ。それに対して周りが「なに!?スライムってあのスライムか!?」とはならんやろ。なんだよ、あのスライムって


そう内心で独りごちる。するとガランの肩がプルプルと震え出して顔をバッと俺たちに向けたかと思うと、こう騒ぎ立てた。


「ば、馬鹿にしやがってこの餓鬼!?こいつがゴブリンを倒しただぁ?俺が鬼殺しと呼ばれる所以となったあのゴブリンをだぁ!?嘘をつくんじゃねぇ!」

「嘘じゃない、マサトは私を倒すために三匹のゴブリンを同時に相手取った。ハゲには出来ない芸当」

「なっ!?三匹だと!あ、あと俺はハゲじゃねぇ!俺の頭は自分で剃ってる!スキンヘッドだ!」


そこかよ。


っていうか、鬼殺しの"鬼"ってゴブリンのことなの?小鬼の間違いじゃん。小鬼殺しだと締まらないか。


周囲の喧騒はより激しくなっていく。「おい!三匹同時にだってよ!お前できるか?」「馬鹿言えよ、昔っからゴブリンは一対一が基本って言われてるだろ。三対一なんて自殺行為だろ」などと言っているのが耳に入ってくる。


一応厳密に言っておくと、俺が直接戦ったのは二対一だ。一体は不意打ちで倒したからな。ま、今の話を聞くと二対一でも驚かれそうだが。


(どうやらこの世界のゴブリンは、雑魚と呼ぶには相応しくないような存在らしいな)


そう頭の中で考える。地味だが重要な情報だ。何も警戒せずゴブリン倒してきましたとギルドに報告すると、どうなったか分かったもんじゃない。気をつけよう。


この将人の考えは正しいものだ。異世界フロウラントでは死に対する恐怖観念が強く、死と常に隣り合わせである冒険者に自らなる者は比較的少ない。よほど自分の実力に自信のある猛者か、己は強いと思い込んでいる、まるで田舎出身のヤンキーのような阿保だけだ。衛兵に関してだが街周囲の巡回は複数人で行われるものであるし、街に魔物が攻め込んでくること自体が稀なのだ。そのため、衛兵が死に近しい職であるという発想はフロウラントの住民にはない。


そのため、冒険者となっただけで周りから一目置かれる存在となる。その上、魔物の代表格であるゴブリンを倒そうものなら村総出で祀りあげるほどだ。故にゴブリンは、冒険者の格付けの一つの指標となる。


フロウは将人の強さを、"一般的な冒険者の強さ"とステータスに紐づけた。そもそも冒険者自体が稀であるこの世界、その中でも"一般的"というのはどの程度の強さなのだろうか。


先ほど述べた通り冒険者の総数が少ない中、確かな実力を持つものと、実力を履き違えたものと、二種類の冒険者がフロウラントには存在する。当然ながら後者は中々実力を伸ばすことができず、自身の活動範囲を広げることもなく、拠点の街に骨を埋めることになるのが常だ。故にフロウラントでは前者のような存在が"一般的"な冒険者となる。確かな実力を持ち、魔物を狩ることに関しての一芸に秀でた者。死への恐怖に打ち勝った彼らに並び立つ実力を、近衛将人は既に持っているというわけだ。


さらに、基本的に冒険者は成人した者しかならない。いや、なれないという表現が正しいだろう。子供が英雄の冒険譚を見て、冒険者になることを志したとしても、周囲が認めるはずもない。死への恐怖というものは確かにこの世界の住民に刷り込まれて降り、それは代々伝えられるものだ。結果大人の冒険者だけが増えていく。


では、その成長とはなんなのだろうか。もちろんただ体つきの話をしているわけではない。


異世界フロウラントではレベルという存在が当たり前のように認知されている。これは冒険者はもちろん、戦いとは無縁の貴族や農民などでも知っていることだ。フロウラントでは、レベルは戦うこと以外でも上昇する。庭で花を育てても、畑で大根を引っこ抜いても、子供たちが鬼ごっこをしているだけでも、どこかで"経験値"なるものを手に入れているということだ。つまり、ただ歳を重ねているだけでレベルは上昇していくということ。しかし、レベルが上昇するとともに、必要な経験値も多くなっていく。これは日本にあったゲームなどと同じだ。大人に近づくにつれてレベルは上がりにくくなっていく。要するにこの世界の者たちは、自分の成長の芽を摘んでから、冒険者になっているということだ。


しかし、将人はレベルが一の状態でこの世界に舞い降りた。言わば、赤子がこの世に生を受けた時点で、大人の力を持っているということだ。さらにレベルは上昇する。また、メインスキルなどもまだ花開いてない状態だ。将人は成長の可能性を最大限残した上で、"一般的"な強さを持っているというわけだ。これでこの青年の異常性をわかって頂けただろう。もっともこの話も人種限定の話ではあるが。


余談ではあるが、普通の生活を送るよりも、魔物を倒した方が、得られる経験値の量は多い。さらに、魔物を倒した際には経験値に加えて"上昇値"なるものが手に入る。これは簡単にいうと、倒した魔物の得意分野であるステータスが、自分のステータスの数値にある程度反映されるというものだ。


例えば、防御力の高い水棲の蟹型の魔物シーガードを倒せば、経験値を得た後に、自身の防御力の数値もある程度伸びるというわけだ。


 「な、なるほど。嬢ちゃんが言うにはこいつは俺よりも強いってことだろ?なら、簡単だ。おいお前!俺と素手で勝負しな!この鬼殺しのガラン様が一撃でのしてやるぜ!」

 「構わない。マサトならハゲなんてヨユー」

  「いや、俺話に参加してないけど!?勝手に決めないで!?」


  思わず叫んでしまった。冗談じゃない。こんな熊みたいな奴と戦えるかよ。てかなんでこいつはこんなに体がでかいんだよ。実は登別出身の転成者じゃないだろうな。


  「や、俺はギルドカードさえ、もらえればそれでいいんで。勝負とかマジ、勘弁なんで」

  「ごちゃごちゃやかましい!いいから勝負しろってんだ!その生意気な鼻っ柱へし折ってやる!」


  俺は一回も挑発してないんだけどね。


  「マサト、やっちゃえ」

  「ミラはちょっと反省しようか」


  ほっぺをギュムーっと伸ばしてから、ミラを肩から下ろす。むぃ〜と口にしながらもミラは素直に降りてくれた。ここまできたらやるしかなさそうだからね。ガランさんも怒り心頭みたいだし。


  やだなぁ、ちょっと痛いぐらいで済めばいいんだけど。無理だろうな。あの巨体だし。俺この世界に来て危ない目にあってばかりじゃないか?レベル上げたらのんびりと物見遊山の旅でもしたいんだけど。


  心の中で愚痴りながらも、見よう見まねで拳を構えてみる。


  「はぁ... ほら、早くかかって来いよ。こうなったら相手してやる」

  「ふんっ、後悔しても知らねえぞ。二度と冒険者になれないような体にしてやる!いくぞっ!」


  ドンッと床を踏みしめて、ガランが一気に踏み込んで来た。体を前方に傾け、右手をおおきく振りかぶっている。顔は鬼のような形相だ。よほどミラに馬鹿にされたのが応えたのだろう。


  そして、俺は一つの疑問を抱く。


  (遅く...ないか?)


  そうガランの動きが遅く見えるのだ。まるでスローモーションになったかのように。一気に踏み込んで来たように見えたその動きは、のっしのっしとゆっくり俺に向かってまるで戯れに来ているように見える。


  (どういうことだ?先のゴブリン戦で俺のレベルが上がったということだろうか)


  こうして頭の中で試行できるほどに、余裕がある自分にも驚いている。まぁ、命のやり取りを二回もしているからな。今更喧嘩程度では動揺はしないか。そこ!喧嘩する前はビビってたとか言わない!俺は無益な殺生は好かんのだ。決してビビってたわけではないのだ。


  「くたばりやがれぇ!」


  俺の眼前まで近づいたガランは、俺にそう叫び拳を振り抜いて来た。しかし、ガランの動きがスローモーションに見える俺にとってその一撃は脅威とはなり得ない。


  (取り敢えず体に一撃ならどうにもならんでしょ。この巨体だし、ちょっと痛い程度でしょうな。)


  そう考えた俺は、ガランの右拳の一撃を左手でいなしてから懐に潜り込み、思いきり振りかぶったカウンターの一撃を、ズンッ!とガランの腹に叩き込んだ。


  すると、


  「ぐえぁっ!?」


  まるで潰された蛙のような声をあげて、ガランは文字通り向かいの壁まで"吹っ飛んだ"。そう、"吹っ飛んだ"のだ。あの巨大がまるで鳥の羽のように、風にさらされた枯れ葉のように、一度も地につかないまま吹っ飛んだのだ。


  壁まで吹き飛んだガランはドゴンッ!ととても人体が無事とは思えない音を立てて、壁に埋まりこんでしまった。幾ばくかの間を挟み、壁からゆっくりとガランの体が抜け落ちて、床にうつ伏せに倒れ伏した。


  ー。


  今日三度目の静寂。冒険者たちは目の前の光景が信じられないかのように目を瞬いている。ゴシゴシと目を拭う動作を取る者もいる始末。しばらくすると、「おい、嘘だろ...?」「あのガランが...?」と静寂を破り始めた。そして、


  「マサトさーん、すみませんお待たせしました。ギルドカードが完成し...へ?」


  発行が終わったギルドカードを持ったセラさんが、ギルド内の惨状を見てどこか間抜けな声をあげてしまう。それに対して俺は、


 

  「...嘘でしょ?」


  と冗談を言っているかの様な調子の声を上げることしか出来なかった。傍にいるミラはどこか満足げではあったが。






勢いで書いているのが丸わかりですね。書いてる最中でも設定が定まってませんから。


・フロウラントでの冒険者の数は少なめ

・戦い以外でも経験値は獲得できる。

・殆どの冒険者はレベルが上がりにくい

段階で冒険者となっている。

・主人公はレベル1で、周りの冒険者と同じ強さ。


こんな感じですね。さらに主人公は適正値も相まってレベル、ステータスが上がりやすく、またスキルの影響もまだ受けてないという訳です。


ただ現時点での一番のチートは魔物に対しての恐怖心を一度打ち破ったというところでしょうかね。


フロウラントの住人もやろうと思えばもっとレベルは上がるんですけどね。恐怖というものは本当に怖いものです。


設定を勢いでつけたので、ミラのレベルが低すぎるかなぁと思いました。よってその部分だけ手直しすると思われます。ご了承ください。

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