表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

雑踏

 視界はぼやけている。

 私の視力の問題ではない、これはそういう作品なのだ。

 見えるのは、揺らぐ水面に映るような街並み、ビルと人々の群れ。

 全てが漠然とした、確かに時の流れる空間だ。

 見渡す限りそういうものなのだろうと、次の部屋へ歩み出してふと、それに気付いた。

 今、何かが見えた。

 待て、あれはなんだ。

 曖昧な視界にほんの僅かに映り込んだ違和感を追う。

 雑踏のような空間をよくよく観察する。

 ……あれだ。

 私が見たものはあれに違いない。

 遠ざかる大小の影。

 辛うじて人とわかる群れと分かたれたそれ。

 大きな影は袋を片手に提げ、小さな影は片手を何やら忙しなく振り回している。

 2つの影のもう一方ずつの手は繋がっていた。

 少し荒れた筋張った細い手が、柔らかな幼い手をしっかりと握っている。

 2つの影が遠ざかるにつれてそれは見え難くなっていった。

 だが確かに、確かな繋がりを私は見た。


 そう、その、繋いだ手が、見えたのだ。

 この曖昧な視界の部屋で。

 それだけにピントが合うように。


 もう一度、雑踏を見渡す。

 ちらほらと、見えるものがあった。


 寄り添う影の、少し緊張したような雰囲気の絡み合う手。

 離れ難いと語り合うような、両手を絡め合い見つめ合う影。

 駆けていく小さな2つの影は片方が片方を引っ張るようで、けれどそれは強引なものではないように見えた。


 ほんの一時だけ重なる手。

 ずっと繋がれた手。

 様々な場面が散らばっていた。


 なるほど、この部屋は、そういう街なのだろう。

 心行くまで鑑賞した。

 どうやら私にとっては興味深い展示会のようだ。

 次の部屋には何があるだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ