一粒ぽっちの可能性
日も沈み空は真っ暗に染まる。唯一時折雲に隠れる月が、度々その闇を仄かに明るく照らしてくれる。
そんな暗闇の中で二つ、不自然な影が王都、グレセント城の城壁の裏側に位置する場所で佇んでいた。
言わずもがな僕、如月春翔とその妹の紗凪である。
本当ならジャージみたいな動きやすい服装で来たかったのだが、生憎と持ち物は元々身につけていた制服とスマホしかない。僕はズボンだからまだいいけど紗凪はスカートだ。もしラッキースケベ的なイベントが発生しようものなら例え兄妹とはいえギルティ。もれなく紗凪の顔面ドロップキックが待っている。
「さて、それじゃあ入りますか」
「入りますかって、ここ正門の裏側じゃん。こんな馬鹿でかい城壁あったらどう考えても中に入ることなんてー」
「あー、それは心配ご無用ですよ。これをこうやって、っと」
もっともな疑問を口にした紗凪を適当に流して、整備してないせいか長く生えっぱなしな雑草達を掻き分ける。すると大きな岩が城壁にぴったりとくっついていた。それを迷うことなく横に蹴り転がす僕。すると隠されていた穴、丁度人一人が通れるくらいの穴が出現した。
「え?何これ、兄さんどういうこと?」
「昨日、尋問室に連れて行かれた時あったでしょ?その時に周り見渡してたら偶然見つけたんだよ。まぁもっとも、内側もここら辺はろくに整備されていないのか生えっぱなしな雑草で隠れちゃってるみたいだけど」
「あの状況でこんな発見しているなんて……本当に兄さんて凄いのか馬鹿なのか分からなくなる」
「ねぇ今の僕褒められるところだよね?ね?」
妹に酷いことを言われた挙句に僕の小さな訴えも無視されて僕の心はマッハで削れていく。
が、気を取り直して城の更に裏側へと回っていく。というのもだ。実は昨日、紗凪がツェスタさんと仲良くなった際にさりげなく聞いていたのだ。
ーこれだけお城が大きいと入口一つしかないと大変ですね、と。
それに対してツェスタさんは何の疑いもなく、今僕達がいる裏口のことを話した。普段使う人は少なく、もし使うとしても大体は使用人くらいのものだと。
正直その話は今回の作戦において非常に役に立つ情報ではあるが、どうにも上手く餌を与えられた気がする。
普通初対面で、しかも解放してくれたとはいえ身元の分からない怪しい僕らに、城の内情を言うのか、と。
僕の懸念通り良いように釣られているのか、それともツェスタさんがお人好しの馬鹿なのか。僕としては後者であることを祈りたいけど。
扉が開くのかを確認し、細心の注意を払って中へと入る。流石に夜ということもあってか灯りはついておらず、今では月の明かりと直感を頼りに進むしかなさそうだ。
夜は城内の警備もそこまで厳重ではないらしい。僕らレベルでも下手したら勝てるくらいに見える騎士が、右往左往うろちょろとたまにいるくらいで、目に見えて強そうな奴らはいなかった。
自分達の感覚を頼りに城の中を細心の注意を払って歩いていく。昨日もそうだったのだが、あの武器に適合したからだろうか。不思議な感覚が僕らを包み、武器の在り処がある程度分かるのだ。正直これは願っても無いオプションだった。
今、僕と紗凪の感覚では城の地下、あの尋問室があった部屋の更に地下だ。知らない場所だと城の内図を全く把握していない現状態ではかなりハードだっただろう。しかし尋問室ならば一度行っている。なら、紗凪が忘れるはずがない。
途中から紗凪を先頭にして、見張りの目を掻い潜り、何とか無事に尋問室の前まで辿り着いた。が、問題はこの先にある。ここからはまさに未知の領域だ。絶対に武器の前には監視している騎士がいるはず。目下一番の壁はそこにある。
最悪僕が囮になってる内に紗凪が武器を回収さえしてくれればどうにでもなる。それだけの力をあの武器が秘めていることを、夢で知っている。
「っ……!兄さん」
淡々と下の階まで降りていき、一番下に差し掛かったところで紗凪が僕に小声で制止をかける。壁を背に向こう側を覗く紗凪の後ろから、僕も同じようにして覗く。そこに広がるのは、あの尋問室がある同じ地下とは思えないほど神秘的な空間が広がっていた。壁を静かに流れる水、白を基調とした部屋。その中央の台座には漆黒の剣と紅の銃が置かれていた。このビシビシと伝わる感じ、どうやら本物のようだ。
しかし、一つ違和感が残る。
「……どうして誰一人いない?」
そう。それがおかしいのだ。これだけの代物、誰の警護もなしに無用心に置くだろうか?
もしここに辿り着くはずがないと踏んでいても、これはあからさますぎる。
「ー罠、の可能性が強いね」
「ま、十中八九そうだろうな。何か知ってるだろうかと昨日姫様達に核心に触れるような言葉使いまくったけど、失敗だったかなぁ」
「去り際に余計なこと言うからだよ。絶対に勘付かれてる」
「ですよねー」
とはいえ人の気配を感じないのも事実で、どのみち取り戻さなければいけないのだから例え罠でも行くしかない。
「僕が先に行く。最悪紗凪だけでも武器を取り戻して逃げるんだ」
「……二人でじゃないと嫌だ」
「全く、わがままな妹様だなぁ」
本当に、僕のこと大好きすぎでしょこの子。とか言ったら思いっきりぶち切れられるんだろうけど。
深呼吸をして激しく脈打つ心臓を落ち着かせる。
別に怖がることなんてない。あの守り人と対峙した時に比べれば全然マシだろ。相手はいたとしても人間だ。最悪話せばなんとかなる。
意を決して部屋に一歩、また一歩と足を進める。そしてあっという間に台座の前まで辿り着いた僕と紗凪はそれぞれの武器に手を伸ばす。そしてそれを手にする。
ーはずだった。
触れる直前、突如として現れた赤色の影。反射的にバックステップで躱し、その影に向けて視線を向ける。
他の騎士とは明らかに装飾の違う鎧、剣。その姿は昨日会ったばかりの人物で、今一番会いたくない人物でもあった。
「グレセント騎士団第一部隊長、カンナ・アルフォード……」
「やはり、セレスティア様の言う通りだったな。賊めが」
僕らと台座の間に立ち、その剣先をこちらに向ける。
そこには一切の隙はなく、こちらを見つめる視線は明らかな敵意があった。
セレスティアの言う通り、というのはやはり姫は僕らが今日来ることに気付いていたのだろう。だからこそのこの配役、か。正直予想の一つではあったが、実際にこうなってしまうと己の不幸さを呪わずにはいられない。だが、僕らは戦うことが目的じゃない。
「カンナさん。僕はセレスティア姫は保守派の人間だと踏んだ上で、あなたもそうではないかと考えます。ならば僕達が戦う理由なんてないですよ」
「……確かに、セレスティア様は保守派。仕える私も同じだ。しかし貴様らは盗みに来た賊だ。戦う理由ならある」
「元々は僕らのなんだ。盗むというよりは取り返しに来た、ってとこなんですけど」
「この武器はとてつもない力を秘めている、とても価値のあるものだそうだ。仮に貴様らの話が本当だとして、今はこの城にある。その時点でこちらの所有物だ」
「なんてジャイアニズム……」
どうやらカレンさんはこちらが何を言っても聞く耳を持たないらしい。となれば強引にでも武器を取り戻すしかないということだ。
紗凪と視線だけを交わして合図を取る。流石兄妹、どうやら考えていることは同じらしい。
こちらから動いて隙を見せては確実に切られる。ならばどうするか。
簡単なことだ。カンナさんから動いてもらばいい。
ポケットから出したスマホをカンナさんに向けた瞬間、瞬くフラッシュにほんの少しだけ怯むカンナさん。
すぐにこちらをキッと睨み、今の行動について激しい怒りを見せながら問い質してくる。
「貴様っ……!いったい何をした!?」
「見えますか?これに写っているのはカンナさんです。にしても写真写り良いなぁ。やっぱり美人は何をしようと美人なのか」
「兄さん、話逸れてるよ」
「あー、と。こいつは対象の瞬間の時間を写し取り凍結させる代物。そして、写し撮った対象の心を読むことが出来る」
「まさか魔導具か……!?帝国で作られる希少価値の高いもの……やはり貴様らの帝国のスパイだったのだな!」
えぇ……これは誤算だ。全くのハッタリで動揺を誘い、少しでも剣技を鈍らせてから武器まで突破しようかと思ったのだが。魔導具と呼ばれるやつが敵対視している帝国製のものだとは僕もとことん運がない。
しかしながら好都合かもしれない。昨日と先程までの会話からカンナさんが直情的だと推測している。正直騎士団最強のカンナさんが感情を乱された程度で剣が鈍るとも思えないが、別にそれはそうなればラッキー程度にしか思っていない。
戦いをするんじゃない。武器さえ取り戻せば僕らの勝ちなんだ。
何も言わない僕らに対して、それを肯定と受け取ったのかカンナさんの怒りは更に増していく。
「もう話すことなどない!ここで散るがいい!!」
いきなりのトップギアでの急接近に驚いたが、これくらいの実力は想定済みだ。
斜め上段から空気を切るが如く振り下ろされた剣を紙一重で躱す。勢いに任せて回転し、カンナさんの膝裏に向けて回し蹴りを放った。それを察知したのか高くジャンプして躱したカンナさんは、そのまま着地と同時に剣を振り下ろす。
「っと、危なっ!?」
それを躱した瞬間、間も無く追撃で僕の頭目掛けて鋭い一閃を放ってきた。流石に一瞬死を覚悟したけど問題ない。これだけ時間を稼げれば十分だ。
「なっ……!?これが狙いか!?」
台座に近付く紗凪の姿に気付いたのか、カンナさんは声を荒らげる。魔法を行使しようと片手を紗凪に向けるが、魔法が発動されることはなかった。
そりゃあそうだろうさ。魔法を放てば紗凪だけじゃなくて台座、つまりは武器にも当たってしまう。警護を任されているカンナさんが武器を傷つけることなんてことは有り得ない。だからこの到達直前のタイミングまで僕は台座とカンナさんの距離を空けさせた。そうすることで紗凪が無事に台座まで辿り着く時間を稼ぐと同時に一時的にでもカンナさんが魔法を使えないようにするために。
武器を取り戻した紗凪は二つある内の一方、漆黒の剣を僕に向けて投げつける。
「ーっていやいやいや!流石に危ないってこれ!」
僕の足元に突き刺さった剣を引っこ抜き、牽制の意味を含めて一撃、黒い斬撃をカンナさんに向けて全力で放つ。それを透明な防御壁、魔法により呆気なく防がれたが驚くこともなく紗凪の隣まで下がった。
「紗凪、剣は投げるな!僕を殺す気か!」
「目の前で床にちゃんと突き刺さったじゃん」
「そういう問題じゃないだろ!」
「まぁそれは置いといて。兄さん、どうやって突破するつもり?」
「突破したところですぐに追いつかれると思う。なら、やることは簡単だよ」
そうだ。仮にここを抜けてもあの速さなら、それを物ともせずに僕ら二人に追いつくだろう。逃げれないのなら戦えばいい。
とてつもない力を秘めた、文献にも残る伝説とも称される武器。これを手に入れてから時折見る夢がもし、前の所有者の記憶だとしたらまだまだ武器は僕らの想像を超える力を秘めている。使えこなせないのも事実だが、今持ち得る力の全てを僕と紗凪の二人がかりでぶつければ勝てる可能性はゼロではない。
紗凪も僕の意図を汲み取ったのか、無言でカンナさんに銃口を向ける。それに合わせて僕も剣を構えると、カンナさんも僕らにとって戦う意思があると分かり、再び濃厚な殺気とともに剣を構えた。
僕らが武器を取り戻した時点でもう、カンナさんが魔法を放てない理由はない。つまりこの戦いではあの圧倒的な剣技に加え魔法まで絡んでくる。はっきり言って実力も経験値も雲泥の差があるわけだ。
せめて一撃、しばらくの間は動けなくなる程度の一撃さえ当たれば十分。
戦いは、紗凪が引き金を引いたことが合図となった。
同時に鳴り響く銃声とそれを躱すカンナさん。こちらに一歩踏み出した瞬間に、僕も前へと進む。先程の剣技を見ても見えない速度ではなかった。
カンナさんが剣を振るのに合わせて僕も剣を振り抜く。それは目の前で交差する形で交わり、一度バックステップをして間合いを取る。
しかしそれを逃すほど爪は甘くなく、その間合いすら意味をなさなくする一歩の速さは一瞬だけ反応が遅れてしまった。またも紙一重で一撃を躱し、その隙を取り戻すように鋭い一撃をカンナさんに向けて振る。それを剣で防ぐカンナさんだったが、僕の攻撃はこれで終わりじゃない。
剣と剣が交わったと同時に黒い斬撃を全力で放ち、力の勢いのままに壁に向けてカンナさんを思いっきり吹き飛ばす。壁から轟音が鳴り響き、砂煙と壁が壊れたことで幾つかの破片がパラパラと落ちる。煙のせいで様子は分からないが、おそらくこれで終わりなはずがない。
「兄さん、乱射でもする?時間もらえればどデカイのも撃てるけど」
「いや、どんな魔法があるかも僕らは知らないんだ。まずは確実な一撃を与えていくしかない」
「でもそんなに時間はかけられないと思う。今の音で他の兵士達に気付かれているとしたら増援に来るのも時間の問題。短期決戦で決めないと苦しくなるのは確かだよ」
「痛いところ突くな……まぁ悠長に構えることもできないのも確かだ」
紗凪と会話を交わしていると、すぐに変化は起きた。
砂煙は突如起きた暴風に掻き消され、その風を纏ったカンナさんが姿を現わす。その表情は先程とは違い、冷静そのものであった。こちらを見つめる視線は冷めきっており、殺気は鋭い刃のように研ぎ澄まされ肌にピリピリとそれが伝わってくる。
あぁ、本当にツイていない。完全に本気モードじゃないですかこれ。
「その武器、確かにただの武器ではないようだ。貴様のデタラメな太刀筋でもこの威力だ。過激派の連中が手に入れようとしたことにも納得がいく。気に食わない連中だがな」
「僕らは帝国のスパイじゃありません。ていうか帝国とか知らんし。だから僕らが戦う理由はないし、過激派が気に食わないならこの武器を守る必要もないでしょう?なのでここは一つ見逃してくれまー」
「それは出来ない。貴様らを信用なんぞできないし、何よりセレスティア様からの命令だ。貴様らはここから逃げることは出来ん」
「ですよねー」
苦笑いを浮かべつつ再び剣を強く握る。もうここまできたら会話なんて無意味だ。戦うしか、ない。
僕の雰囲気を察したのか、カンナさんは斜め下で構える。そして瞬きをした瞬間、その姿が消えた。
「はっ……?」
「兄さん後ろ!!」
「ー遅い」
声が聞こえたのと同時に後ろへ振り返ると、目の前には既に刃が迫っていた。咄嗟に剣を盾にするが完全に防ぎきれず遥か後方へと吹き飛ばされる。かろうじて壁に手と足をつき受け身を取るが、その衝撃も吸収しきれずに多少ダメージを受けるが関係ない。背中からいってたら間違えなく大怪我な上に気絶して即終了。身体能力は並程度の紗凪だけ残したところで瞬殺されることなんて目に見えてるし、何より万が一僕は死んでも紗凪だけは死なせることなんて許されない。
僕が無事であることが分かったからか、紗凪は絶え間なくカンナさんに向けて撃ち続ける。弾は魔力な上にリロード不要。連射し続けることなんて造作もないことだが、それはあくまでも魔力がある限りの話だ。
紗凪にも、僕にもどれくらい魔力があるかも分からない状態でこんな無駄撃ちに等しいことをしても意味ないことなんて、紗凪なら当たり前のように分かるはずなのにそれをやめない。
いや、すぐに検討なんてつく。
時間稼ぎだ、僕が体制を整えるまでの。
身体能力、及び喧嘩ごとに関しては数少ない紗凪より秀でているとこだ。現状況でカンナさん相手に無様にもやり合えるのは僕しかいない。
わざわざ魔力を無駄に使いヘイトを稼いで自分に意識を集中させてる妹に、これ以上負担なんてかけれない。
軋む体に鞭を打ち、しっかりと剣を構えてから駆け出す。当たり前のように気付いたカンナさんは魔法で紗凪の弾丸の嵐を防ぎつつも、こちらに向けて走り出しタイミングを合わせて剣を振るってきた。
幾度となく刃を交わし火花を散らせ、お互いの隙を狙っている。
さぁて、時間があればどデカイ一撃が撃てると言った紗凪のためにも、今度は僕が出来るだけ時間を稼いでみせる。
*
いったいどれくらい剣を交えたのだろう。正直いつやられてもおかしくないと考えてはいたのだが、意外にもお互い決定打になる攻撃は与えられず何度も何度も剣を交えたり交わしたりしている。
しかし幾つか躱しきれなかった斬撃を頬や体に受けているから、どちらかと言えば押され気味なのは僕の方だ。
実力差なんてはっきりしているのにカンナさんの攻撃についてこられるのは果たして僕の実力なのか、それともこの剣のおかげなのか。
するとカンナさんの片手に緑っぽい光の粒子が集まっていく。
「ちっ、埒があかんな。【ウィンドカッター】!」
「うわっ……!?」
カンナさんの魔法、無数の風の刃が僕に襲いかかる。それらを躱したり黒い斬撃を飛ばして相殺させ凌ぐも、一つだけ防ぎきれずに脇腹を掠めてしまった。
脇腹からは血が滲み出てくる。出血はそこまで酷くないようだが、少し動くだけでもズキズキとした痛みが脇腹を中心として全身に走る。喧嘩で殴られたり蹴られたりなんて痛みはそこそこ慣れてるつもりだけど、切られたりなんてのには流石に体が堪える。
牽制にと今のカンナさんの魔法を真似て無数の黒い斬撃を痛みを堪えて飛ばす。その間に距離を取るために後ろの紗凪がいる地点まで下がった。
斬撃は当然の如く先程の暴風のような魔法に防がれ、カンナさんは無傷の状態だ。あぁ、本当にこれ詰みゲーでしょ。
こちらは傷を負っているのに向こうは一切の無傷などころか疲れている気配もない。実力差が圧倒的すぎる。手詰まりなこの状況でどう切り抜けようかと思考を巡らせていると、ふいに隣の紗凪が口を開いた。
「兄さん、何かおかしくない?」
「うん、確かにおかしい。無傷な上に疲労皆無とか化け物すぎるでしょあの人」
「そうじゃなくて!あれだけ派手にやっていたのに増援が一人も来ないなんて流石におかしいよ」
「……確かにそうだね。カンナさん程の実力者がいるから必要ないとして来ないのか、あるいはー」
と言いかけた瞬間、遥か上、地上から物凄い爆発音と振動が地下に鳴り響く。
「な、なんだこれは!?貴様らいったい何をした!?」
「私達は何もしてないです。おかしいと思ったんですよ。そちらの増援がいつまで経っても来ないのを。だとしたら理由は二つ。増援の必要がないと判断したか、あるいは私達以外の第三者による襲撃の応戦か」
「第三者、だと?何をふざけたことを……っ!?セレスティア様!」
急に姫の名前呼び顔色を変えたカンナさんは、地上へ上がる階段に振り返り一度止まる。
「私にとってはセレスティア様が第一優先事項。この場は見逃してやるが次、私の前に立ちふさがったときは必ず殺す」
そう言い残し目にも留まらぬ速さで上へ上へと階段を駆け上っていった。一時的にとはいえ命の危機が去ったことで安堵を覚える。
取り敢えずは僕らも地上に出て一刻も早くこの城から抜け出さなければならない。
「行こう、紗凪」
「うん、そだね」
痛む身体を無理矢理に動かし階段を上る。その間にも不規則に爆発音は鳴り響き地面は揺れた。バランスを崩しそうになるも必死に堪えて上へ上へとどんどん進んでいく。尋問室を越えて更に上へと進んでいきやっと地上へと出ることが出来た。
「っ……!?」
地上に出て視界に入ってきた光景に一瞬怯んでしまう。辺り所々に散らばる血痕の数々。騎士団や兵士の鎧に身を包んだものと、この国に来てからは見たことがない、まるでアーマードスーツのようなものに身を包んだ者達の死体。
紗凪もその見慣れない光景に震え、僕の左腕にぴったりとくっついてきた。
なんだよこれ。これじゃあまるで、戦争じゃないか。
おびただしい死体の数々に怯みながらも、我を取り戻した僕は紗凪の手を引いて急いで外へと出る。
しかし外にも幾つかの死体と未だ交戦中の兵士、騎士とアーマードスーツがいた。
「本当になんだよこれ。冗談じゃないっつーの……」
つい溢れ出た言葉は紗凪以外に届くことはなく、虚空へと消えていく。授業で習ったり映画で観たりするのとも違う、実際間近にしてみたそれは僕ら二人の恐怖心を掻き立てるのに充分すぎる光景だった。
夢なら早く覚めてほしいよ、全く。