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最果てのアスティリア  作者: れいろ
黒と赤の二重奏
4/7

刻の理

封印場所まで間近、これでようやくこの遺跡みたいな場所から出られる。そう、思っていたのに。


目の前にいるのは全長十メートルをゆうに越し、身の丈ほどの巨大な剣を持ち、頭から足にかけて鎧のフル装備の騎士。

対して異世界に来て数時間の僕と紗凪。魔法使えるけどここに来るまで数々のドジを踏みまくった頼りないシェスカさん。


「何これ詰みゲーすぎるだろ……」


僕らは早くも絶体絶命の危機に瀕していた。

現状この守り人とかいう騎士に太刀打ちできる術はなく、そもそもまともにやりあうこと自体が馬鹿なことだ。一向に動かない騎士から一度視線を外して二人を見る。紗凪は突然の事に未だ放心状態。シェスカさんはやばいやばいとひたすらに呟きながら焦っている様子。今一番知識を有するのはシェスカさんだ。どうにかしてこの場を切り抜ける案を出すしかない。


「シェスカさん、こいつ襲ってこないんだけどこのまますり抜けて封印場所に行くことは可能?」


「そ、それは無理っす。今はまだこんなんですが封印場所に近付いた瞬間、敵と判断されて攻撃を受けるっす!」


なるほど。相手が守りの領域を侵さない限り攻撃はしない、あくまでも封印の守り人ってことか。

だとしたら尚更厄介だな。向こうからどんどん来てくれるなら怖いし死ぬリスクは高くなるが、隙をついて封印を解き武器を手に入れて守り人を倒すことも可能だろう。しかし向こう側が受け手となると、その難易度は格段と上がってしまう。

ならば、無理矢理にでも封印場所から遠ざけて武器を手に入れに行くしかない。

そして今僕ら三人の中で唯一それが可能なのはシェスカさんだけだ。


「じゃあ魔法で守り人を牽制しつつ少しでも封印場所から離れさせることは?」


「多分できるとは思いますけど……っ!?まさかハルトさん!?」


「うん。隙を突いて封印を解く」


「そんな無茶っすよ!危険すぎます!」


「……兄さん、本気なの?」


先程まで放心していた紗凪も、僕とシェスカさんの会話で正気に戻ったらしい。

紗凪の真剣な問いかけに僕はこくりと頷き、再び視線を目の前に立ちふさがる守り人へと移した。わかっているさ。二人が危惧していること、特に紗凪が考えていることは。

僕と紗凪は異世界に来たばかりな上、知識もなければ力もない。何の変哲もないただの人間なんだ。一歩間違えれば死、あるのみ。


「そっか。……なら、私も行く」


「別に紗凪も来なきゃいけないことは……」


「兄さんだけに無理はさせれない。それに、昔約束したから」


「約束、か……」


思い出すのはまだ幼い頃。真っ白な部屋で二人、約束をしたこと。それは永遠の約束、守らなければいけない僕らのー


「分かったよ。ただし、紗凪も無理するなよ」


「当たり前でしょ、馬鹿」


「……いきなりこんな目に遭ってなんでそんなことできるんすか。異常っすよ!」


「別に怖くないわけじゃないよ。正直逃げ出したくて仕方がない」


「ならっ……!」


「でも、こんなわけもわからずこの世界来て死ぬなんてごめんだ。この窮地を脱する可能性があるならそれに縋るさ」


そうだ。死にたくない。僕は、僕らはあの楽しい日々に、元の世界に戻りたいだけなんだ。

隣に来た紗凪に視線を向けて確認を取る。僅かに微笑みながらこちらを見る紗凪につい笑みが零れた。


ー覚悟は、十分。


紗凪と同時に守り人の左右に駆け出す。その瞬間にシェスカさんが言ったように守り人はその巨体を動かし、僕に狙いを定めて剣を振り下ろす。

巨体のせいかそこまで早くなく視認できるものだった。冷静に着地点を見極めて避ける。僕の後ろを巨大な剣が叩きつけられ、割れた地面から幾つもの破片が無規則に飛び散る。が、すぐさま切り替え紗凪に向けて剣を振り下ろした。


「〜っ!!それならあたしだってお二人を死なせないっすよ!【エアロブラスター】!」


シェスカさんから放たれた魔法は風の圧縮弾のようなもので、守り人の腕を剣ごと吹き飛ばす。

いや、覚悟しといてなんだけどこれならシェスカさんの魔法で勝てるんじゃね?

そう思ったのも束の間、すぐさま守り人はもう片方の腕で剣を持ちそのままシェスカさんに向けて横に一閃を放った。シェスカさんは片手に巻き付いた光の粒子を自分にあてがうと、それは全身を包み込む。剣が当たる直前に普通では考えられないほどの跳躍で躱したシェスカさんを見て、今のが身体能力強化の魔法なのだと理解する。


シェスカさんに助けられ無傷だった紗凪は再び扉に向けて駆け出した。僕もそれを合図に走り出し、扉まで十メートルもない地点で合流した僕らは後ろの存在を気にしつつも扉へ向かう。

その瞬間だった。大きな風切り音と豪風が僕らを襲う。耳が劈くほどの轟音とまばらな大きさの石が降り注ぎ、それを見る。そこにあるのは守り人が投げ飛ばしたであろう剣が僕らの頭上一メートル程で深く壁に突き刺さっていた。理解したと同時に僕ら二人は体が震えるほどの寒気に襲われた。


ーもし、後一歩でも早く上に上がっていたら?


間違いなく、潰されていたのは僕らの頭だ。

恐怖でバランスを崩した紗凪をなんとか片手で抱き留める。大丈夫。後少しで武器が手に入る。シェスカさんの話が本当ならば、凄い力を秘めたものでこの現状を一発で打開出来るに違いない。

僕らの無事を遠目に確認したシェスカさんは再び守り人に向けて魔法を放つ。


「お前の相手はあたしっすよ!【フレイム】!」


連続で同じ炎の魔法を守り人に放ち続けてるおかげで、奴の注意は僕らには向いていない。その割にはあまりダメージを食らっているようには見えないが、今のうちに行かなければシェスカさんの命も危ない。


紗凪とお互いに顔を合わせて頷き、扉に手を伸ばす。重々しい外観とは裏腹に思いの外すんなり開いた向こうには、部屋全面が結晶のようなもので覆われていて、部屋の中央に四方八方から複雑に鎖で繋がれた漆黒の剣と紅の銃があった。

この部屋の雰囲気か、それとも武器自体から発せられているのか、その空気はとても重苦しく感じる。だけど不思議と、嫌な気はしなかった。


「触れれば良いんだよな?」


「うん、シェスカさんはそう言ってたね」


「……まぁ今更躊躇することもない。さっしとあの守り人倒してマルクさんのところ行って異世界から来たこと証明しないとな」


僕の言葉に頷く紗凪。僕は剣に、紗凪は銃に、それぞれ手を伸ばした。そして同時に触れる。


「っ……!?な、にかが……流れ込んで……!?」


剣を手にした瞬間、立ってはいられないほどの膨大な何かが頭の中に流れ込んでくる。これがなんなのかはわからない。でもほんの一瞬だけ、何かが見えた気がした。


辺りを見渡しても広がるのは、葉の一つも生えていないボロボロの老樹と花一つない荒れ果てた荒野。空は闇に覆われて、荒野には砂塵が吹き荒れる。それはさながら世界の終わりと言っても過言ではない。

そんな中、二つの人影があった。一つは黒髪に黒いローブの男、手には漆黒の剣がある。もう一つは赤髪に黒いローブの少女、手には紅の銃がある。


『さーてとっ、この邪魔な砂ぶっ飛ばすか』


『はぁ……本当にーーーはやることが極端ですよ』


『ま、力を示すのも丁度いいし、なっ!』


そう言って男が軽く横に薙ぎ払うように剣を振り抜くと、振り抜いた幅に合わせて黒い斬撃のようなものが飛ぶ。それが通り過ぎた後には、砂塵は消え失せ視界が晴れた。


そしてそこで、映像は途切れた。


「っ……!?なんだよ、今の」


「兄さんも見えたの?」


「てことは紗凪もか」


武器に触れた瞬間に流れてきたそれはいったいなんだったのだろうか。二人の男女の映像で、その二人の手には今僕らの手にある武器があった。だとすればあの映像の人物は、僕ら以前の所有者。シェスカさんの話にあった、アスティリアの到達に最も近いと言われた二人。でもだとしたら何故その二人の映像が……?


思考を巡らせる中、不意に触れていた剣と銃に複雑に絡まっていた鎖が一気に崩れ消え去った。これはつまり封印が解かれた、ということだろうか?


「兄さん!早く行かないとシェスカさんが!」


「ああ、そうだね」


紗凪の声で我に帰り、武器を手にして部屋から出る。

一番に目に入ったのは先程と同じように炎の魔法を放ち牽制しつつも、守り人の攻撃にどんどん追い詰められていく。

正直剣なんて使ったことないけど、取り敢えずだるま落とし見たく足元からぶった切っていけばなんとかなるだろう。


片足の爪先を地面に軽くノックして息を整える。見た目の割にそこまで重さを感じない剣を構え、一気に駆け出した。

牽制していたシェスカさんは僕の手にある剣に気付いて、ふっと笑うと守り人の頭に向けて一番大きな炎の魔法を放った。おそらくは僕がやりやすいようにしてくれたのだと思う。


「しっ!!」


短く息を吐き出し、構えていた剣を勢いよく守り人の足元に向けて振り抜く。まるで豆腐でも切ったかのようにあっさりと剣は通り、片足を切られたことでバランスを崩した守り人は地面に崩れ落ちた。

ーが、体が地面に着く直前に全身を使って回転し、その勢いで剣を僕に向けて振る。咄嗟に防ごうと手にある剣を前に出したが、あんなのこれで受け止められるはずがないと気付き少し後ずさりしてしまう。しかし気付いたところでもう遅い。


「ハルトさん!受け流してください!」


「!?うっ、らぁぁぁ!!」


迫り来る守り人の剣にタイミングを合わせて、持ち前の運動神経を発揮して下段に構えた剣を斜め後ろに向けて受け流す。攻撃を受け流されたことで大きく好きのできた守り人だが、この状態からだと擦りすらしない距離。一瞬諦めかけたが、それと同時に先程の映像が脳裏を過る。

確かあの男は剣から黒い斬撃を出していた。それが今使えれば守り人に一撃を与えられる。


「一か八か!」


両足をしっかりと地面につけて、すぐにバランスを整える。そのまま片手に持った剣を後ろにやって勢いのままに横から振る。

すると思いが通じたのか振った剣から黒い斬撃が守り人に向かって飛んでいく。それを防ぐ術もなく受けた守り人のもう片方の腕は斬り落とされ、両腕をなくした守り人はバランスを取れずそのまま地面に倒れこんだ。


「兄さんそこから離れて!」


後ろから聞こえた紗凪の声に、反射的にその場から離れる。

離れてすぐに聞こえた紅い、レーザーのようなものは見事に守り人の頭を貫通して吹き飛ばす。さらに追い討ちをかけるように飛んできた紅いレーザーは守り人の至る所を貫いていき、やがて守り人はぴくりとも動かなくなり完全に沈黙した。

すると紗凪は僕の元へ駆け寄ってきて、シェスカさんも僕の元へと歩いてくる。三人で守り人がもう動けないことを確認して、紗凪に視線を向ける。


「よく弾なんて撃てたな」


僕の言葉はよく銃を打てたね、ということではない。あのレーザーを見た時に粒子のようなものが僅かに見えた。あの粒子は魔法を行使した時に視認することができたため、レーザーは魔法か、またはそれに準ずる何かだと直感したのだ。異世界に来たばかりの僕らが使えるはずもないのだ。


「なんか打てる気がしたの。なんとなく銃が馴染んでるからなのかは分からないけど」


銃が馴染んでいる、という言葉に僕は思わず止まってしまう。何故なら現に僕自身も感じていたことなのだから。あの黒い斬撃を放てた時、何故だか打てる気がしたというか、剣が僕に上手く馴染んできた気がしたのだ。そしてその疑問は聞いていたシェスカさんの言葉で呆気なく消えていく。


「それはおそらく武器に認められて適合したからっすね」


「適合?」


「はい。誰しもが使える代物じゃないっすからね、それ。適合しなければ災厄を振りまくことになる武器ですから。そのための封印でもあったので」


「……仮に封印解いたとしても適合しなきゃもっと危険な目に遭っていたってことか?」


「まぁ、端的に言えば」


思わず叫びそうになった言葉を飲み込む。今日出会ってまだほんの少しの間だけど、シェスカさんの人となりはある程度理解した。この若干いい加減な感じも慣れたわけではないが、またかよというくらいには落ち着けている。しかし今僕が叫びそうになったのはそこではない。

その危険なことを僕ら二人に、下手したらシェスカさんや村の住人まで巻き込んだかもしれないのに封印を解かせようとしたマルクさんの考えが読めない。


「兄さん。今は考える前に村まで戻ろう。私達の疑問はまず戻らなきゃ解決しないことだし」


「そう、だな。早く戻ろう」


不安や疑問は残りながらも、今は村に戻ることを最優先に足を動かした。





「どうやら本当だったみたいだな」


村に戻るとすぐにマルクさんの元へと向かった。僕達が戻ってきて手元の武器を見たマルクさんは、少し驚いたようにしてそう呟く。

僕ら二人と、ついでにシェスカさんに席に座るように促され、マルクさんの隣にシェスカさん、対面に僕と紗凪という風に座った。


「異世界から来たというのを信じよう。が、しかしだ。先に言っておくと元の世界に戻る術は知らない」


「そんな……」


僕らの言いたいことを勘付いていたのだろうか、マルクさんは無情にも僕らにそう告げる。マルクさんの言葉に紗凪はショックを受けて、項垂れていた。

しかしマルクさんはそのことは話の後に、だがと続ける。


「元の世界に戻れる可能性がないわけじゃあない」


「お二人はあたしが話した最果ての話を覚えていますか?」


「アスティリア、だよな?」


「そうです。アスティリアを目指す者たちの大きな目的は自らの願いを叶えるためなんす」


「願いを、叶える。そういうことができる何かがそこにあって、私達が戻れる可能性があるとしたらそれしかない、ということですか?」


「ま、そういうことだ。その武器は適合した奴しか使えない。つまりお前達以外には使えないわけだ。だから持っていっていい。これからどうするかはお前達で決めろ」


そう言い残すとマルクさんは席を立ち、奥の部屋へと消えていった。

残された僕、紗凪、シェスカさんは誰が何を言うわけでもなく、沈黙した時間が続く。紗凪に関してはおそらく、今後の行動や当面の目的について考えているのだろう。かく言う僕も、それについて考えてはいるが最終的な目的は僕も紗凪も一つしかない。


ー最果てのアスティリアに辿り着くこと。


「兄さん、取り敢えず出来るだけ情報を集めよう。アスティリアについてと、私達が持つ武器についても」


「確かにそれが妥当だろうな。武器に関してもさっきは運良く守り人を倒せたけど、ちゃんと扱えないとアスティリアを目指す際、障害にしかならないからな」


「まずはここからあまり遠くない場所で情報を多く集められる場所に行こう」


「それならおそらく王都に向かわれた方が良いと思いますよ。あそこの大図書館はかなりの本を扱っていますから」


「シェスカさん、ありがとうございます。兄さん、取り敢えず明日にでも王都に向かおう。こういうのは早い方がいいし」


「そうだな。流石に今日は疲れたし」


「ではでは上のお部屋をお使いください。マルクさんにはあたしの方から言っておくっす」


「何から何までありがとう」


「いえいえ!これくらいおやすい御用っすよ」


王都の大図書館に行くという当面の目標が決まった僕と紗凪は、シェスカさんのお言葉に甘えて上にある部屋で休むことにした。

シェスカさん曰く、一番奥にある部屋が客人用の部屋らしくそこを使っていいとのことだった。

紗凪とともにその部屋に入ると、ベッドが二つに机と椅子がそれぞれ一つずつ。あまり広いとは言えないが、僕ら二人にとっては十分すぎる部屋だった。


武器は机の上に置き、僕らはそれぞれのベッドに向かって一直線にダイブする。今日一日で驚くべきほど色々なことがあった。気付いたら異世界来てるわ守り人とかいう馬鹿でかい騎士と戦うわ、ディープすぎて夢でも見てるかのようだ。


「でも、現実なんだよな」


ふと隣のベッドに横になっている紗凪に目を向けると、疲れのせいかすでに寝ているようだ。

幸せそうに眠る姿を見てつい笑みが溢れてしまう。


「せめて紗凪だけは帰してやらないとな」


そう呟いて僕も眠ろうと目を閉じる。僕も相当疲れが溜まっていたのだろう。目を閉じてからそう時間がかからないうちに、どんどん暗闇の中に落ちていく。

そして、僕の意識は途絶えた。





窓から入り込む日の光に、うっすらと目を開ける。未だまどろみの中にある意識をしっかりと覚醒させるために起き上がり、凝り固まった筋肉をほぐすように肩を回したり伸びをした。


「おはよ、兄さん」


「おはよう、紗凪」


すでに起きていた紗凪に挨拶を返し、ベッドから起きる。机に置いてあった剣と銃をそれぞれ取り、下の階へと向かう。

昨日マルクさん達と話した部屋に降りると、シェスカさんがサンドウィッチをテーブルに運んでいた。


「おはようっす!朝食の準備はできてるので食べていってください!」


「シェスカさん、ありがとうございます」


「お腹空いてたし、助かるよ」


「いえいえ!もうこれくらいしかできることないので!」


シェスカさんの言葉に甘えて昨日と同じように席につき、テーブルに用意されたサンドウィッチを手に取り口いっぱいに頬張る。シャキシャキと音のする新鮮な野菜と焼き立てであろうベーコンのようなものがジューシーで、サンドウィッチはあっという間になくなってしまった。

ルベロジュースを一気に飲み干したところで、シェスカさんから声がかかる。


「お二人はもう行くんすか?」


「長居しても時間が勿体無いしな」


「そうですか。なら村の北入口までお送りしますよ」


「色々とありがとうございます、シェスカさん」


北入口までの案内をかって出てくれたシェスカさんについていき、他の村人達に遠目から視線を向けられながらも何事もなく北入口に辿り着いた。

一度マルクさんにも挨拶しようと思ったのだが、シェスカさん曰く僕らが起きてくる少し前に出掛けてしまったらしい。


「この森は王都に行くためには絶対に通らないといけない所っす。特に凶暴な魔物が現れたりするわけでもないので安全っすよ!」


魔物、ね。異世界だから覚悟はしていたけどやっぱりいるんだな。あの守り人は生き物ではなかったから迷わず剣を振るえたけど、漫画やゲームなんかで出てくる動物やら人に近い奴に対して果たして僕は剣を向けることはできるのだろうか。ましてや殺すなんてことが。


「行こ、兄さん」


「ああ、そうだな。それじゃあまたいつか会えたら」


「はい!二人の御武運を祈ってるっす!」


シェスカさんに見送られ、紗凪と二人で森へと足を踏み入れる。なんだかんだで色々とお世話になった。そのうちまた挨拶くらいには来たほうがいいかもな。


「ん?」


森に足を踏み入れて間もなくのことだった。

僕と紗凪の周りを幾つもの光の粒子が突然現れ囲んでいく。僕が急に足を止めたことで紗凪も足を止め、周りをキョロキョロしている僕を怪訝そうな顔で見てくる。

その瞬間のことだった。


「ぁっ、がっ……!?」


「うぅ、くぁっ……!?」


僕と紗凪に視認できるほどに発光した電撃のようなものが容赦なく弾けて当たる。それと連動して僕らの体には激しい痛みと痺れが襲いかかり、体の自由を失った僕らは呆気なくその場に倒れこむ。


「案外楽勝だったな」


「そうだな。さっさと取って渡しちまおう」


朦朧とした意識の中、薄っすらと開けた目にはボロボロのローブを着た盗賊みたいな格好の男二人が僕らの武器を奪ってその場を後にする。後を追いたくても体は動かず、ただその姿を見送ることしかできなかった。


薄れゆく意識の中で最後に覚えているのは、武器を奪った盗賊が遥か先で鎧を着た騎士のような人物にその武器を渡している姿と、見送ってくれたシェスカさんが慌てて駆け寄ってくる声だった。

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