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最果てのアスティリア  作者: れいろ
黒と赤の二重奏
1/7

その二人兄妹につき

空を覆い尽くすかのように広がる、木々が生い茂る深い深い森の中。自然豊かで幾つかの果物も実り、動物も生息し独自の生態系を築いているこの森は王都へと向かうには必ず通らなければいけない場所だ。

だから僕ら以外に人がいるのはおかしくないことなのだが……


「逃がさねぇぞ小僧!」


「ちょっ、まっ、死ぬっ!やばいやばいやばい!」


「元はと言えば兄さんのせいでしょこの状況!」


僕の隣を走る少し赤みがかった茶髪サイドテールの妹、紗凪さなはこちらを睨みつけながらも全速力で走っている。対する僕も紗凪に負けないくらい全力で走っているのだが、息も上がりきっており段々と胃がキリキリしてきた。

いつになったらこの鬼ごっこは終わるのだろうとちらりと後ろに視線を向けると、まさに鬼のような形相で怒鳴りながら僕らを追ってきている柄の悪い無精髭を生やした、いかにも盗賊チックな格好をしている男が一人。いや盗賊チックというか明らかに本職の方でした。

本来ならばこんな必死に逃げなくても対処することは可能なのだが、今現在僕らの手持ちに武器はない。というかそもそもそれが王都に向かう最大の理由(・・・・・)でもあるのだが。

兎にも角にも為す術のない僕らはこの盗賊からひたすら逃げ続けることしかできない。


「兄さん、このままでは埒があきません。対策を考えましょう」


「た、対策って何をどうするっていうの!ていうかなんでそんな余裕なの!?」


「兄さん体力なさすぎです」


僕と同じ時間ノンストップで走り続けているというのに汗をかいているだけで息一つ乱れていない紗凪。僕のほうが一つ年上だというのにこの差はなんなのだろうか。若さの差かな。いや違うか。

でも確かに対策を立てなければこの状態を打開することはできない。果ては僕らが捕まるまで続くだろう。そもそもこちらの世界の住人(・・・・・・・・・)と僕らではまず基本的な身体スペックが違う。捕まるのも時間の問題だった。


走りながらも何か使えるものはないかと辺りを見渡し続ける。しかしただの森の中でそう簡単に何かが見つかる筈もなく、ただただ疲労と焦りだけが募っていく。ふと隣の紗凪を見ると息が上がってきたようだ。

本格的にやばい。せめて紗凪だけでも逃さなければ……


「っ……!?兄さん!あれ!」


何かに気付いたかのように声を荒らげ斜め前方へ指をさす紗凪。反射的にその方向に目を向けると馬車を中心に銀の鎧に身を包み警護する者達の姿が。格好から察するに王国の兵士だ。

運が良い。正直馬車移動で、しかもあれだけの数の兵士がいるとなれば王国でも重要な人物の警護に違いない。助けを求めたところで盗賊諸共剣を向けられるかもしれないが今はそれどころではない。僅かにでも可能性があるのならそれに縋るだけだ。


紗凪も考えは同じだったようで、二人で一直線に馬車の方角へと向かう。あと二十メートルもないということで流石に騒がしさに気付いたのか兵士達がこちらに顔を向けた。


「あの!助けてくだ……」


「なんだお前達は!?賊か!?」


一人の兵士の言葉により他の兵士も異常事態だと次々と腰から剣を抜く。向けられる刃の数にどっと恐怖心が膨れ上がるがそれでも構わず駆け寄る。


「僕達盗賊に追われていて!助けてください!」


警戒していた兵士達は僕らの様子とその後ろから迫ってくる盗賊を見て状況を察したみたいだ。すぐさまその剣の矛先を盗賊に向け、僕達を庇うような体制に入った。僕らを追いかけていた盗賊もその様子に気付き、ピタリと止まる。

十を超える兵士の姿に顔色が変わり、その手に持っていたショートソードを無様に構えた。


「なんで王国の兵士がここに!?……仕方ねぇやってやるよこの野郎!!」


無謀にもそう叫び突っ込んできた盗賊に対し、反射的に一番前にいた兵士が迎え撃つ。盗賊の攻撃を躱し、その脇腹に深い一太刀を浴びせる。防ぐ術もなくそれを受けた盗賊は、痛みにうめき声を上げその場に倒れた。追撃をかけようとその兵士が一歩踏み出した瞬間、力強く制止の声がかかる。

馬車に一番近い位置にいた、他の兵士とは少し鎧のデザインや武器の仕様も違う女兵士が一人前に出てきた。燃えたぎるような、肩にかかるしなやかな髪にややつり目。その顔は一般的に美人に分類されるほど綺麗なものだった。雰囲気からこの隊のリーダーなのだろう。女兵士は盗賊に視線を向けると兵士に告げる。


「所詮は賊だ。これ以上は動けない。放っておけ」


「はっ!」


指示に従い敬礼する兵士を余所に、次は僕ら二人に視線を向けた。

助けてもらった身としてはお礼の一つは言ったほうが良いだろうと口を開こうとすると、その前に女兵士が口を開いた。


「そこの二人を捕らえろ」


「なっ……!?待ってください!私達は怪しい者では……」


「見たことのない服装、武装もなしに森を歩いていたことから怪しさ十分。王城にて尋問する」


「そんな……」


女兵士の言葉に落ち込む紗凪。そんな様子の紗凪とは対照に僕は安堵していた。取り敢えず危険は回避した上に、拘束されるとはいえ王都にある意味警護がついて行けるということに。これで王都までは比較的安全に進める。さらにそれだけで心的疲労は大分改善されるわけで、条件的には願っても無いことだ。


大人しく両手を拘束された僕と紗凪は馬車の後ろ、兵士に囲まれゆっくりと歩いていく。未だに意気消沈している紗凪に、周りの兵士にはギリギリ聞こえない声で話しかけた。


「そう暗い顔するな。ポジティブに考えたら一石二鳥な状況だよ」


「……なんで?このままだと尋問されるんだよ私達」


「でもそれまでは比較的安全に王都に向かえる。しかも向かう先は王城。道中今みたいな危険に会うことはないし目的地にも辿り着ける。ね?一石二鳥でしょ?」


「……相変わらず悪知恵だけは働くよね、兄さん」


「機転が利くって言え機転が利くって」


ジト目を向けながら呟く紗凪にちょっとばかり反論するが、いつもの如くやれやれといった感じで溜息をついていた。全く失礼な。


それからというもの、特に危険もなく森を抜けることができた。会話もなく淡々と進んでいくことで、考える余裕が生まれる。

王都に着いてからどう尋問を切り抜けるか。当初の目的を果たすための作。この二つは現段階での絶対条件だ。

だけどもう一つ。この馬車に乗っているのが誰かということ。最初は気付かなかったがあの女兵士の鎧に拳一つ分くらいの大きさで描かれた紋様があった。あれは王国直属の騎士団のものだ。とはいえ直接見たことがあるわけではなく、絵と話による情報でしか知らなかったのだが。

しかし、ということはだ。この馬車にいるのは王城の関係者。そして警護の数。王位継承者、又は王位継承権を持つ者という可能性が高い。絶対条件二つをクリアする鍵になりそうだな。


だが拘束されている今、接触することはおろか近付いただけでも剣を向けられる可能性がある。


「……詰みゲーじゃん」


ぼそりと呟いた声は誰にも聞こえず、そのまま虚空へと消えていった。





「その二人は尋問室へと連れて行け。私はこのまま部屋まで送り届ける」


女兵士はそう言い残し馬車を連れ立ってその場をあとにした。

無事に王都、王城に辿り着いた僕ら兄弟を含めた馬車一行は門を抜けてすぐのところにいた。命令を受けた兵士は僕らを促し王城の中へと入っていく。煌びやかな装飾と高級そうな壺をはじめとした骨董品の数々。初めて見るその光景に僕は目を奪われた。それは紗凪も同じだったようで、先程までの暗い表情は消えその目には感動や好奇心といった感情が滲み出ている。


しばらく感動的な光景が続いたものの、地下へと降りる階段に足を踏み入れてからは代わり映えのない、コンクリートの壁と灯りの蝋燭が永遠と続いていた。螺旋状に作られた石造りの階段を一歩一歩下りていく。

しばらくすると踊り場に出て、先に進むように促される。そうして進んだ先にあったのは鉄で出来た、重厚そうな扉だった。兵士は鍵を開けるとその扉へと僕らを押し込んだ。部屋は石造りで、あるのは木製の椅子と長机。ちなみに壁にかかっている鎖やトゲ付きの鉄球やらは見ないことにした。


兵士の指示通り椅子に腰をかけると、対面に兵士も座る。僕の横に座る紗凪は兵士を睨み付け、頑なにその口を開こうとはしていない。しかし机の下、ぎゅっと僕の手を握るそれは震えていた。


「貴様ら、あの森で何をしていた」


「王都へ向かっていたのです。最も、その手間は省けましたが」


「ここに向かっていた、だと?貴様らもしや帝国からの回し者か!」


「……」


「その沈黙、肯定したと見た。最早話すこともあるまい。ここでその命、散らしてくれよう!」


「っ……兄さん!」


僕が何も言わなかったのは兵士の言葉を肯定したからではない。もうその必要が(・・・・・)なくなったから(・・・・・・・)だ。

椅子を倒して立ち上がり、抜いた剣を勢いよく僕に向けて振り下ろす。紗凪の悲鳴にも似た僕を呼ぶ声を耳にしながらも、その剣から視線を動かさない。


「お止めなさい!!」


透き通るような綺麗な声。にも関わらずどこか力強さを感じさせる制止の声に、僕の頭にあと五センチというところで剣は止まった。

声の方へと視線を向ける兵士は、その主の姿を見て激しく動揺する。

白を基調とした、所々に装飾が施された煌びやかなドレス。光が反射して輝く、流れるような金のロングストレート。端正な顔立ちとその雰囲気は気品を感じさせる。


「セ、セレスティア姫!?何故このような場所に!?」


「先程助けた二人が尋問室へ連れて行かれたと耳にしまして。その二人を客間へと連れてきてください」


「なっ……!?しかしながらセレスティア姫!この二人は帝国からの回し者である疑いが!」


「それは私が自分自身の目で判断します。それに護衛にはカンナが付くので心配ありません」


「……わかりました」


セレスティア姫。ここ、グレセント王国の第二王女であり、その美貌と人柄から国民に多くの支持を得ている人物だ。話に聞いていただけで実際に見るのは初めてだが、その話にも納得がいく。おかげで命の危険を回避できたわけだし。

しかしまぁ絶対条件の一つを一時的にクリアした。取り敢えずは安心していいのだろう。


その後、姫の後に続き兵士は渋々といった感じで僕らを引き連れ再び上へと戻る。その間に会話など一切なく、淡々と歩いていくだけだった。

ちらりと隣を見ると、危機を回避したからか紗凪の表情は安堵しきっていた。


さて。僕としてはすぐにでも街で宿をとって休みたいところだが、まだ王城には用がある。というよりも本来の目的が残っているのだ。しかも都合が良いことに姫がいる。城内の情報を得るにはもってこいの人物だ。


「あなたはもう下がって良いですよ。あとはカンナがいますので」


「……はっ」


姫の言葉にこの場を去る兵士。すると間も開けずに扉の向こうから先程の赤髪の女兵士が現れた。姫の言葉とこの状況から察するに、カンナと呼ばれる人物はこの人なのだろう。


「カンナ。二人の拘束を外してください」


「かしこまりました」


姫の指示でカンナさんは僕ら二人の拘束を解く。拘束されてからそこまで時間は経っていないというのに、物凄い開放感を感じる。

軽く手首を回して調子を確かめると、そのまま姫とカンナさんに続いて部屋へと入る。地下の古めかしい尋問室と比べて天と地ほどの差がある豪華な部屋。まさに王城の一室として相応しい部屋だ。

姫に促されソファーに座ると、対面に同じように姫も座る。カンナさんは兵士としてか、その傍らに立ったままだ。


「先程の兵士のご無礼、お許しください」


「いえ、気にしないでください」


「そうです。元はと言えば兄さんが曖昧な返答しかしないからなので」


「ねぇちょっと待って。なんで僕が悪いみたいになってるのさ」


「事実悪いからじゃん」


この紗凪いもうとは全く、兄をなんだと思っているのか。

そんな僕らのやり取りが面白かったのか、姫はクスクスと口元を押さえながら笑っている。いや面白いこと言った覚えはないんだけどさ。


「仲が良いのですね。やはりあなた方が悪い人には見えませんわ」


「お言葉ではありますがセレスティア様。そう簡単に気を許されるのは如何なものかと」


カンナさんの否定的な言葉にぷっ、と吹き出す紗凪。いやいや、言われてるの僕だけじゃないからね?

それはそうと姫からは僕らへの警戒心が感じられない。カンナさんからはびしびしと感じるけども、目的達成の上でのキーマンになりうる姫からそれがないのは有難い。まぁ問題はどう話を切り出すかなのだが。


ここにあれ(・・)があるのはほぼ確定している。城に来た時からなんとも言えない波動は感じていた。それは紗凪も同じようで、どうでも良いような会話の中でもどう動くかと考えを巡らせているみたいだ。


落ち着いた環境下において紗凪は頭が回る。学年一位の成績は伊達じゃないということだな。

この状況での打開策は紗凪に任せるとして、今はカンナさんの警戒心も出来るだけ解かなければ。


「それはそうと、申し遅れました。僕は如月きさらぎ春翔はるとです」


「妹の如月紗凪です」


「こちらも申し遅れました。グレセント王国第二王女、セレスティア・グレセントです。横にいるのは王国直属、グレセント騎士団第一部隊長カンナ・アルフォードです」


グレセント騎士団。王国直属の騎士団で、この国では名誉ある役職だ。第一から第十まで部隊があり、数字の若い順から最も強い部隊とされている。第一部隊長ともなると、騎士団の中で最強である証と言える。

そんな人が目の前にいると考えるだけで正直背筋が凍るくらい恐ろしいが、敵対しなければ、むしろ味方にすればかなり都合が良いし心強い。

ともなれば尚のこと警戒心を解いておきたいのだが……


「何を見ている」


「……いえ、何でもないです」


最初っからマイナス方向にメーター振り切れ気味のこの状況では絶望的だ。というか紗凪に対しての視線より、僕に対しての視線の方が幾分かきついように感じる。ちょっとこれギャルゲーだったらバッドエンドの未来しか見えないんですけど。


あまりの難易度の高さに頭を抱えそうになる。対して紗凪は考えが纏まったのか、姫に多少の遠慮はあるもののはっきりと僕らの目的について話し始めた。


「実は私達、五日程前に武器を奪われたんです。そしてそれが王都にあると知り、あの森を兄と歩いていたら盗賊に襲われそして現在に至るというわけです」


武器を奪われた、というワードに姫とカンナさんの表情が一瞬だが変わった。僅かな変化だが、僕も紗凪もそれを見逃すほど鈍感ではない。

少し間を空けて沈黙してしまったことに気付いたのか、取り繕うように言葉を発する。


「そっ、それは大変なことですね!よろしければその武器の特徴を教えていただけませんか?何か力になれるかもしれませんので」


「えっとですね、漆黒に染まった剣と、紅に染まった銃なんですけどね。これがまた珍しいのか如何にも盗人っぽいのに持ち去られたんですよ」


「……確かに珍しい色の武器ですね。こちらでも探してみますね」


「それは有難いです」


若干上擦った笑顔の姫に対して、満面の笑みを浮かべる僕。そんな僕をうわぁ……と引いた目で見てくる紗凪。これはちょっと後でお話ししなきゃですねー。


それからは特にこれといった会話もなく、帝国からの回し者という疑いも証拠がないので解けた。誤解とはいえ拘束や兵士の態度など、無礼極まりない行いだったと宿代は王城持ちで一室を手配してもらい、騎士団第一部隊副隊長のツェスタ・フローライさんが案内してくれることになった。

ツェスタさんは明るい茶色の短髪に頬に傷のある三十代くらいの男性で、その風貌とは反して気さくでとても話しやすい。あの人見知り代表である紗凪ですら素に近い状態で会話しているくらいだ。恐るべし、ツェスタさん。


何はともあれ、やっと一休みできるわけだ。手掛かりも得たことだし、武器の場所も紗凪と考えて大体の見当はついた。

動くとしたら明日。それに向けて今は体を休めることに専念しようと思う。下手したら、グレセント騎士団と一戦交えることになるかもしれないからね。





それは、王国の隣にあるターリスという街に訪問した帰りの出来事でした。

王都へ行くためには必ず通らなければいけない森をグレセント騎士団第一部隊の一部の兵士達に護衛されて進んでいきます。その途中のことでした。急に馬車は止まり、外からは兵士の荒らげた声が聞こえます。鉄が擦れるような音から察するに剣も抜いたのでしょう。賊でしょうか。

しかしその疑問はすぐに解けました。


「僕達盗賊に追われていて!助けてください!」


乱れた息で必死にそう叫ぶ男の人の声。その状況にいてもたってもいられなくなった私は馬車を出ようとしました。

それを感じ取ったのでしょうか。出ようと席を立った途端に、外にいるカンナから出ないようにと釘を刺されました。

そうなると音や声で状況を予測することしかできないため、よく耳を澄ませ馬車の外へと意識を向けます。


「見たことのない服装、武装もなしに森を歩いていたことから怪しさ十分。王城にて尋問する」


カンナの言葉を聞き、私は焦りました。

その声音から件の二人は若い男女、私と同い年だと感じました。それに武装もなしに森を歩くなんて、怪しくはありますがそんな危険を冒してまで王都へ向かっているらしいのはよっぽどの大きな理由があるに違いありません。そんな人達を尋問しようなどいくら何でも酷すぎます。

そうは思っても移動中に馬車を降りることはいかなる場合であれ固く禁じられています。それは少しでも私の危険を減らすためからですが、この時ほどそれを惜しんだことはありませんでした。


それからは何事もなく無事にお城に着き、私はカンナ護衛の元、自室へと戻ってきました。しかしながら先程の二人のことが気になり、カンナにお願いして地下にある尋問室へと足を運びました。直前まで渋っていたカンナですが、防御系統の魔法を私にかけることで何とか部屋を出ることができました。


尋問室へ辿り着いた私は、今まさに斬りつけようとしている兵士に制止の声をかけ、拘束されていた二人を客間へと連れて行きます。


客間に着き、二人にソファーに座るように促すと、その姿を正面から見る形となりました。

確かに、この国のものではない服装。かといって帝国の服装でもないように見えますが……。なんというか、何処となく学生服に似ている気がします。


そんな疑問は二人の自己紹介で頭の隅へと追いやられました。

少年は如月春翔。少女は如月紗凪。どうやら兄妹のようで、確かによく見ると幾つか似ているなぁと感じます。それに対してと、私とカンナも挨拶をして事の経緯を尋ねることにしました。


ー武器を奪われた。

その言葉を聞いて、私は全身が固まりました。それはもしかして、あの剣と銃のこと(・・・・・・・・)を言っているのではないか。

いきなりの言葉に動揺して沈黙の時間が流れてしまい、怪しまれる可能性があったのですぐさま会話を繋げました。

それと同時に私が知っているものと同じものなのか、二人に聞くと紗凪が答えてくれました。

漆黒に染まった剣と紅に染まった銃。その珍しい特徴は完璧に私の知りうるものでした。


二人は盗賊に奪われたと証言しており、ここまで来たそうですが一つ疑問が残ります。

何故王都にあると分かったのか、です。

追いかけてきたとは言っても直接その盗賊を追ってきたのか、それとも何か別の要因があったからなのか。


しかしその疑問は宿屋に向かうためにお部屋を出ようとした春翔が思い出したように呟いた言葉で分かってしまいました。


「あぁそうそう。そういや鎧を着た兵士みたいなやつに接触してたみたいなんだけど、一体何処の兵士(・・・・・)なんだろうなぁ(・・・・・・・)


わざとらしく言い残し、その場を後にする春翔と紗凪。もうわかっているのだ。捜し物がこの城の中にあると。

言い残して何も行動しなかったということは、今日は体を休めて万全な状態に整えてくるということなのでしょう。だとすれば彼らが動き出すのは明日ということになります。


正直な話、二人に協力したいのも本音です。少しの間ですが、私が話した二人は全く悪い人には見えず、むしろ面白い人達だな。この二人と友達になれたらな。そういう気持ちが芽生えたのですから。

でも、あれ(・・)を奪われるわけにはいきません。使わなければ、ただ所持するだけならさして問題はありません。ですが使ってしまえば最後、災厄が訪れる。それは使用者のみならず周りにも影響を及ぼしてしまう、そういう代物なのです。適合者でなければ(・・・・・・・・)、ですが。

しかし適合者である確率は限りなく低い。かつてこの二つの武器を使えたのはそれぞれ一人ずつでした。というのも今ではある種、伝説として語り継がれている話です。ですがそれだけ曰くのある武器だということ。あの二人ならなおさら危険な目には合わせられません。


「カンナ、こちらに」


「はっ!……ご用件は?」


「明日、おそらく先程の二人があれを取り返しに再び城を訪れるでしょう。何としても奪われるのを阻止してください」


「かしこまりました。姫の仰せのままに」


片膝をつき、私に対してこうべを垂れるカンナ。

カンナは我が国の騎士団最強です。春翔と紗凪には悪いですが、二人の目的は何としても阻止させていただきます。





ツェスタさんに案内されて、街にある宿屋の一室へと辿り着いた。ゆっくり休んでおけ、と告げ足早に城へと戻っていったツェスタを見送ると紗凪はすぐにベッドへとダイブした。

当たり前か。盗賊から逃げ続けて体力も減り、尋問されかけ精神を削られたのだ。疲労が溜まっていないことの方がおかしい。事実僕も相当参っている。


ふと視線を向けると紗凪はすでに夢の世界へと旅立っていた。いやちょっと早すぎるでしょ流石に。

呆れながらも、紗凪のことを言えないくらい疲れている僕もベッドに腰掛けた。

本当に、この世界に来てから(・・・・・・・・・)怒涛のように色々なことが起こりすぎて無意識に深い溜息を吐く。


そもそも事の始まりは、あの日。僕らがこの世界に来たところまで遡るー

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