第5話
退院したオレは家に戻った。数日ぶりの我が部屋は懐かしいようでもあり逆に新鮮に思
えた。この間まで不快でしかなかったウグイスの鳴き声さえ今は心地よく感じる。
入院中はばあさんや萌花が毎日見舞いに来てくれた。けど、親父はあの日夏恋を研究室
に連れて帰ったきり一度も見舞いに来なかった。
夏恋はどうなったんだろう? オレはロボットのことなんかよくわかんねぇけど、AI
さえ無事なら何とかなるんじゃねえのか?
行ってみっかな、親父の研究室へ。
けど、どのツラ提げて親父に会いに行けばいいんだよ。
ベッドの上で自問自答を繰り返していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「翔くん、いいですか?」
親父の声だった。
「あ、あぁ」
オレの返事を待って、親父が部屋に入ってくる。オレは親父と目を合わすことができな
くてうつむいた。
「傷の具合はどうですか?」
「別に」
オレは親父とどう接したらいいかわからなかった。今更仲良く話なんかできねぇ。
「翔くん、こんなこと言うのは今更ルール違反かもしれませんが」
親父はベッドに座ってくる。
「僕はいくじなしでした。桃子さんの願いを叶えるためだと自分に言い訳して、桃子さん
が死んでからもずっと翔くんのことを放ったらかしにして真正面から向き合おうとしなか
ったんですから」
「親父……」
「そして、今度は夏恋に翔くんのことを押しつけようとしていたのかもしれません」
「あ、親父……その夏恋は」
「翔くん」
オレの質問は親父の言葉にさえぎられた。
「忌野神社に行きませんか?」
断る理由も見つからず、オレは親父と一緒に忌野神社に向かった。
忌野神社へ続く階段を登り鳥居をくぐったオレたちを待っていたのは。
「夏恋?」
境内で掃除をしている巫女さん姿の夏恋だった。オレに気付いた夏恋は竹ぼうきを放り
捨ててこっちに駆け寄ってくる。
「見て見て、翔ちゃん! 似合う?」
夏恋は両手を広げて一回転して巫女さん姿を披露した。
オレは酸欠の金魚みたく口をパクパクさせた。
「梅子さんが弟子入りを許可してくれたのよ」
「か、夏恋……、お前死んだんじゃ?」
オレは親父を見た。
「僕としたことがうっかりしてまして。夏恋の起動時に乾電池がなくて、研究室にあった
時計から拝借したんです。またその電池がアルカリではなくマンガンだったもので」
「早い話が電池切れってことかよ?」
「そういうことです」
親父は悪びれもせずいつもの子供じみた笑顔を振りまきながら説明してくれた。
ったく、何がロボット工学の権威だよ。凡ミスしやがって。
「ばあさんも萌花も見舞いに来てたのに、どうして何も教えてくれなかったんだよ?」
「私が口止めしたの。翔ちゃんを驚かせてやろうと思って」
夏恋はいつもの小悪魔的な笑みを浮かべた。
おいおい、じゃああの時オレが流した涙は一体何だったんだよ?
オレが戸惑っていると、夏恋はオレの右腕に抱きついてくる。
「でも、私うれしかった。翔ちゃんがあんなに私のこと心配してくれるなんて」
「ベタベタしてくんなよ、乳デカ女のくせに!」
オレはテレくさくて悪態をついて、夏恋を振りほどこうとした。が、夏恋は気持ち悪い
くらい満面の笑みを浮かべてオレの腕を離そうとしなかった。
「翔ちゃん、だーい好き!」
夏恋の大きな声が忌野神社に響き渡った。
オレはため息混じりに、口元に小さな笑みを浮かべた。
終わり




