第3話-1
次に通された部屋は、待合室とは比較にならない大きさの部屋だった。
天井には大きな縄が張られている。部屋の上座には、米俵が積み重ねられていて、何や
らお札のようなものが突き立てられていた。
その米俵の前に、白い巫女さん服を着た小柄なばあさんが正座していた。
さっき大声で啖呵切ってたのはこのばあさんか。
萌花は一礼すると、自分の仕事に戻っていった。
オレの頭の中には夏恋の言葉が引っ掛かってしょうがなかった。夏恋はあの後何て言お
うとしたんだ。母さんとこの神社はどんな関係があるんだ。
くそー、またイライラしてきやがった。
「お前かい? イタコになりたいっていうのは」
ばあさんは正座したまま、夏恋を見据えた。まるで獲物を狩るライオンのような、そん
な鋭い眼光を放っていた。しかし、夏恋にそんなもの通じるわけもなく、あいつは笑顔を
返す。
「初めまして、梅子さん。私、夏恋って言います。イタコの修業をさせてください」
このテのばあさんは夏恋みたいなチャラチャラした女は嫌うはずだ。弟子入りなんか許
可するはずがねぇ。
「ダメだね」
やっぱりな。当然の結果だ。
「どうしてなんですか?」
「心を持たない人形がイタコ、つまり神の嫁になれるわけがないだろう」
「………」
オレは唖然とした。このばあさん、只者じゃないと思ってたが、一目見ただけでどうし
て夏恋が人間じゃないってわかったんだ?
だが、夏恋は動じていない。
「さすがは梅子さん。でも、私はAIっていう心をちゃんと持ってるのよ」
「何しに来たんだい? あのからくり好き男の差し金かい? 孫の顔でも見せれば私が許
すとでも思ったのかい?」
からくり好き男って、もしかして親父のことを言ってるのか? だとしたら、孫っての
はもしかして。
「教授はそんなせこいマネするような人じゃないわ。ただ梅子さんに翔ちゃんを会わせた
かっただけよ」
「おい、夏恋! これはどういうことだ?」
オレは夏恋とばあさんの間に割って入った。
「教授はただ二人を会わせたいだけみたいだったけど、私がロボットだってバレちゃった
時点で隠してるわけにもいかなくなちゃったわね。もっとも私はしゃべる気まんまんだっ
たけど」
オレは夏恋の次の言葉を待った。
体が熱い。鼓動が高鳴る。
たった数秒のことがオレにはとてつもなく長い時間に思えた。
「忌野神社はね桃子さんの実家なの。で、目の前にいる人が桃子さんのお母さん。つまり、
翔ちゃんのおばあちゃんってこと」
「………」
オレはばあさんを見た。
この人が母さんの母さん? けど、こんなに近くにいてどうして一度も会わせてくれな
かったんだ? どうして今頃になって会わせる?
親父は何を考えてるんだ。
「どうやらこの子は何も聞かされていないようだね」
ばあさんは呆れた様子で、ゆっくりと立ち上がる。
「お前の父親はね、私の大事な娘を奪った外道なんだよ」
「あら、人聞きの悪い。桃子さんはイタコの道を捨てて教授を選んだだけじゃない。愛に
生きる女性ってステキじゃない」
緊迫したムードそっちのけで、夏恋はロマンチックに浸っていた。
「何が愛だい。あんな男の下へ行かなければ早死にすることもなかったのに」
ばあさんは吐き捨てるように言った。
ばあさんは最愛の一人娘を奪った親父を憎んでるんだ。オレと同じだった。いや、その
憎しみはオレ以上かもしれない。
「だから親父のこと憎んでる者同士一緒に暮らせってことか」
オレは小声で呟いた。
「翔ちゃん、教授のこと誤解しないでほしいの。教授は翔ちゃんに強い子になってもらい
たいの。母親の死を乗り越えて、笑顔を取り戻してもらいたいの」
「そう思うんならてめぇでやればいいだろうが! ロボットなんかに頼りやがって。だい
たいこんな風になったのは誰のせいだと思ってんだよ?」
オレは夏恋に殴りかかっていた。夏恋はよけようとはしなかった。ただ黙ってオレの拳
を真正面から受け止めていた。
くそ。ロボットのくせになんでもお見通しって顔しやがって。
オレを哀れみの目で見るな!
イライラする。相手はどうせロボットだ。殴ったって痛みなんか感じないんだ。
「?」
オレは夏恋の顔を見て、拳を止めた。
夏恋が泣いているように見えたからだ。




