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第2話-1

 


 夏恋は左脇にオレを抱えたまま、物凄い速度で走っていた。前を走っていた原チャリな

んか簡単に追い越して行きやがる。追い越された原チャリの男が茫然とした顔をしている

のがわかる。

 オレは夏恋がロボットであることを改めて実感した。

「降ろせよ!」

 こんなとこ知ってる奴に見られたらいい笑い者だ。

「いやーよ。だって、翔ちゃん、降ろしたら逃げちゃうもの」

 だが、夏恋はオレを降ろそうとはせず、走り続けた。

「翔ちゃん、イタコって知ってる? イタコっていうのはね、死霊の降霊を行なう巫女の

ことなのよ」

「………」

 オレは無言の抵抗をした。

 そんなオレを見て、夏恋はクスクスと笑いだした。

「翔ちゃんって、ホント子供よねぇ。ま、仕方ないか。多感な年頃の十四才だもんね」

 明らかに小バカにした口調だった。さすが親父が作ったロボットだ。人の神経逆撫です

るようなことしか言わねぇ。

「知ったふうな口きくんじゃねぇよ、ロボットのくせに」

「あら、ロボットだからってバカにしないでくれる? 私の人工知能は桃子さんをデータ

ベースにして作られたんだから」

「母さんはお前みたいにベラベラしゃべる怪力女じゃなかった」

「それは翔ちゃんの思い出が美化されていて、本当の桃子さんを見ようとしてないだけじ

ゃなーい?」

「………」

 図星をつかれたようで、オレは一瞬言葉が出てこなかった。

「ロボットのくせに生意気なんだよ!」

 何とか言葉を吐き出すと、オレはそっぽを向いた。

 夏恋にはオレの心の中を見透かされているようで居心地が悪かった。早く夏恋と離れた

かった。このままだと自分の心の奥に隠している感情までも見透かされてしまいそうな気

がしたからだ。

「忌野神社には本物のイタコがいるんだって」

 夏恋はオレの気持ちを知ってか知らぬか、話を元に戻した。

「私の場合、イタコに関するデータはすべてここに入ってるんだけど」

 夏恋は空いた右手で自分の頭を差した。

「やっぱり実践となるとね、データだけじゃダメなのよ。だから、教授は私に忌野神社で

イタコ修業をさせようとしたってわけ」

「だったら、お前一人で行けばいいだろう」

「それはそうなんだけど。ほら、私って外見はこうだけど」

 夏恋は風になびいている長い茶髪を指に巻きつけ、自分の色気をアピールしてみせた。

見た目は二十才そこらの女と何ら変わらない。

「今朝生まれたばかりで、言わば赤ちゃんと同じなのよ。だから、一人じゃ心細いじゃな

い」

「だったら、親父といっしょに行けばいいだろうが!」

「教授はダメなの」

「何でだよ?」

 夏恋はふてくされているオレの顔を見て、

「ひ・み・つ」

 小悪魔的な笑みを浮かべた。

 ムカツク、この女!

 隙を見つけて胸元の乾電池抜いて必ずぶっ壊してやっからな!

「まあ、いいじゃないの。何事も経験よ、経験」

 そうこう言っているうちに、いつの間にか忌野神社へと続く階段の下まで来ていた。

 自転車なら三十分はかかる距離を、夏恋は五分程度で来ちまっていた。

 夏恋は軽快な足取りで階段を上っていく。

「到着!」

 階段を上り切った鳥居の下で、夏恋はやっとオレを降ろした。オレはとっさに踵を返し

て階段を降りようとした。

 が。

「ここまできて往生際が悪いわよ、翔ちゃん」

 夏恋に右腕をしっかりと掴まれていて、脱出は不可能だった。

 オレは小さく舌打ちした。

 こんな陰気臭い神社、オレみたいな人間が来る所じゃねぇぜ。

 静まり返った境内は社を中心に、左側には小さな池があった。池を取り囲むように咲い

ている桜が風に揺れると、花びらが水面に落ちていく。社から少し離れた右側には古ぼけ

た平屋の一軒家が建っている。どこからか水の流れる音が聞こえてくる。裏山の方にでも

滝があるんだろうな。

「誰もいないのかしら? すいませーん!」

 夏恋が声を上げると、社の裏から竹ぼうきを持った巫女さん姿の女の子が顔をのぞかせ

た。

「はい、ただ今参りますので、少々お待ちください」

 オレたちに気付いた巫女さんは駆け寄って来る。

「あ!」

 慌てていたせいか、巫女さんは袴の裾を踏ん付けて玉砂利の上で見事にすっころんだ。

巫女さんはすぐに飛び起きると、顔を真っ赤にして袴の裾を持ち上げながら歩いてくる。

 おいおい、あんな鈍臭そうなのがイタコっていうんじゃないだろうな。

「おはようございます。口寄せのご依頼でしょうか?」

 笑った顔が幼く見えた。オレと同じ年くらいか。

 長い黒髪を一つに束ねて、巫女さん服着てると多少は大人びて見えたりもするが。

「口寄せの依頼じゃなくて、イタコの修業をさせてもらいたいんでけど」

 夏恋の言葉に巫女さんは大きな双眸をパチパチさせてしばし茫然としていたが、いきな

り瞳にキラキラ星を浮かべた。

「感激です! 私の他にもイタコになりたいって思ってる人がいたなんて」

「じゃあ、あなたも?」

「はい。私、ここでイタコ修業させてもらっている桜木萌花(さくらぎほのか)って言います」

 巫女さん――萌花は礼儀正しくペコリとお辞儀してきた。

「私は夏恋。こっちの目つき悪いのがただ今反抗期中の大河翔くん。よろしくね、萌花ち

ゃん」

 夏恋のぞんざいな自己紹介にも関わらず、萌花は臆することもなくオレに笑顔を向けて

くる。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 世間知らずなお嬢様なのか、頭のネジが二、三本緩んでんのか知んねぇけど、オレの中

で萌花と母さんのイメージが重なった。母さんはどんな時でも笑顔を絶やさなかったから

な。

「お師匠様は今お仕事中ですので、中でお待ちください。どうぞ、こちらです」

 オレたちは萌花に促されて社の中に入った。

 オレはもう逃げられないとこまできちまったのかもしれない。




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