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創地帝妃物語  作者: 宮月
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7.理由のわからない声援

 唐揚げとフライドポテトを肴に呑み始めたら、九十代四人組が止まらなくなり、結局帰るはずだったカスパーとフランツもお泊りになった。それはいい。

私が驚いたのは、ウィルがウワバミだった事。缶ビールを二本呑み、ワインを一本空けても口調一つ変わらず、涼しい顔している。

逆に強そうなアルが弱い。ビールを一本飲んだ時点で真っ赤になり、さっさと寝てしまった。

まぁ、私もあまり強くないから、アルに続いて、部屋に帰ったけど。

一体何時まで呑んで、どの位の量を消費したんだろう?怖いから聞かないけど。


「おはよう。」

「おはよう、アル。早いね。」

 爽やかな朝だ。うん、とても爽やかだ。

一日の始まりにアルの顔を見たから余計にそう感じてしまうかもしれないけど、それは気にしてはいけない気がするので、天気のせいにしておこう。うん、それがいい。

「あぁ、粋晶も。」

「これからケーキを作るの。」

「店に出すためか?」

「そう。アルは何をしているの?」

 家の猫の額程の庭で、指立てしているのはわかるけど…。

「朝のトレーニングだ。本当は走りたいのだけれど。」

「仕込み終わったら付き合うから、今はダメ。迷子になってしまうもの。」

「あぁ。」

 自分でもわかっていたらしい。

「見に行ってもいいか?」

「仕込み?いいわよ。」


 お店の裏口から入ると、両親はきちんと仕事をしていた。

そう、仕込みだけは、いちゃつきながらもサボらない。

「おはよう。」

「おはよう。あっ、アレク王子、早いですね。」

「あぁ、おはよう。」

「アルが仕込みを見たいんだって。いいわよね?」

「もちろんです、どうぞ。」

 キッチンの隅に立ち、アルが物珍しそうにこちらを見ている。

「粋晶、手伝えるなら。」

「ありがとう。じゃあ、私が生クリームをクルってした上に、このイチゴを並べて。」

 三十分ほど大人しく見ていたが、身体がうずくのか、手伝いを申し出てくれる。

意外に器用でやる事が丁寧。それに覚えもいい。

大きな身体を屈めて、一生懸命やる姿、可愛い。

「アル、ありがとう。ケーキ作りは終わり。クッキーを袋詰めしたいんだけど、手伝ってもらえる?」

「あぁ。」

 調理台に、折り畳み椅子を二つ並べ、冷ましておいたクッキーを袋に入れていく。

「どうやって、留めるんだ?」

「あのね、ここをこうやって、クルクルとして、最後に形を整えるの。」

「あぁ。」

 楽しいな。料理学校の先生になったみたい。

あっ、でも、覚えが悪かったり、反抗的な態度だったりすると苛々しちゃうんだろうな。

その点、アルは優秀だ。

「アル。」

 欠けてしまったクッキーを振り向いたアルの口に押し込む。

「どう?美味しい?」

 モグモグと噛み締めながら、大きく頷く。

アル、凄く可愛い。

「スイ、汐美にそっくりだな。」

「はい?」

 お父さんが、しみじみ、いや、つくづく納得したように大きく頷いている。

「何?急に?」

「天然で、鈍感で、そのくせ、魅力的で…。」

「お、お父さん?」

「俺も苦労したよ。半年は掛かったもんな。」

「一体、どうしたの?」

 勝手に自分の世界に入って、ぶつぶつ言い出している。

もしかして、昨夜のアルコールが残っているの?

「アレク王子、頑張ってくれ。」

 突然立ち上がり、アルの肩を叩き、裏口から出て行ってしまった。

開店準備まで終わりにしてくれたから別にいいんだけど、謎の独り言を呟き、理由のわからない声援をして、疑問を残したままなんですけど…。

「アル、わかった?」

 呆れ?戸惑い?苦笑?そんな複雑な顔して、頷かないで。ますます訳がわからない。

「まぁ、いっか。そろそろ朝食だよ。戻ろう。」

「あぁ。」

 クッキーの詰め込み作業は終わったので、とりあえず腹ごしらえ。


「おはよう。」

 食卓には、両親とセイ、カスパーとフランツがいる。

ちょっと辛そうに見えるのは、気のせいかな?特に、カスパーとフランツが。

あれ、ウィルがいない。

「ウィルは?」

「スイ、起こしてきてちょうだい。未だ、部屋から出てこないのよ。」

「はぁい。」

 ウィル、二日酔いかな?それとも朝弱い?あぁ、低血圧っぽい。

「トントン。」

 ウィルに宛がわれた部屋のドアをノックするが、反応なし。

「ウィル、入るよ。」

 声を掛け、ドアを開けるが、これまた反応なし。

あぁ、布団のお山が一つある。未だ、睡眠中?

目覚めさせるには、カーテンを開け、光を入れるのが一番。

唸り声を上げたけど、敵さんは手強い。

布団を被り、光から逃げている。

「ウィル、朝だよ。起きてください。」

 布団の上から軽く叩きながら声を出すが、これじゃ甘っちょろい?

よし、こうなったら、実力行使あるのみ。

「ウィル、起きろぉ。」

 叫びながら、布団を剥ぎ取った。

普通、これで起きるでしょう?しぶとく目を閉じ、睡魔を離そうとはしない。

「ウィル。」

 耳元で叫んでもダメ。

一体、どうすればいい?

腕組みして、見下ろしてみる。

うわぁ、寝顔も綺麗。睫毛、長い。眉間に皺が寄っていても画になるって、詐欺でしょう?

って、そんな感動している場合じゃない。

うん?何しているの?腕を伸ばし、何かを探している。

いやいや、観察している暇はない。

仕方ない、最終手段だ。名付けて、擽って起こすぞ作戦。

やっぱり足の裏でしょう。水虫とかじゃないよね?

足元へ移動、しゃがみ込み準備完了。

えっ、ちょっと、待って、何で?

何かを探していた腕が準備中の私の腕を掴み、引き上げる。

わ、私、布団じゃないよぉ。

「ウィル、起きてよ。お願い、寝惚けないで。」

 聞いてないよ。ウィルがこんなに寝起きが悪いなんて。

「柔らかくて、温かい。」

「き、きゃあ。」

 う、ウィルの手が、わ、私のお尻、撫でた。ぞ、ぞわって、ぞわって、したの。

「うるさぁい。」

 耳元で叫んだ私に不機嫌そうに抗議する。

抗議すべきは私だ。

「ウィル、離して。」

「スイ?スイってば、大胆だね。夜這い?嬉しいな。」

 未だ、半分眠っている声。この状態でここまで話せるって、凄い。

じゃなく、誰が夜這いだ。もう朝。違う、そうじゃない。

「えっ?ぎゃあぁぁぁ。」

 乙女にあるまじき叫び声だと思うよ。でも、それどころじゃないの。

ウィルの手が、私の胸を触ったの。いや、揉んだのぉ。

「粋晶。」

「スイ。」

 廊下から複数の声。

た、助かったぁ。って、待って。誰よ。後ろから荷物のように、乙女のお腹を抱え込むの。

やっと、ウィルの魔の手から逃れ、立たせてもらえた。

あぁ、やっぱり荷物扱いは、筋肉隆々アルね。

「ありがとう。」

 一応、お礼は言うけど、乙女はもう少し優しく扱って。

「やっぱり、スイでもダメでしたか。」

「はい?」

 カスパー、それ、どういう意味?

「ウィル王子は、お酒を呑んだ翌朝は、いつにも増して、寝起きが悪いんです。酷い時には起こしに来たメイドを…いや、これは止めておきましょう。」

「ちょっと、そのメイド、どうしたのよ?」

「そこで止めたら、余計気になるだろう。」

「いや、命に関わるとかではないんですよ。ただねぇ、朝から、こういう話は、出来ませんよ。」

「えっ、それって…。」

「あぁんな事やこぉんな事を?いや、これは、スイには聞かせられない。刺激が強過ぎる。」

…私、かなり危なかったの?って云うか、ウィル、アンタ、どういう寝起きの悪さ?

「何の話をしている?カスパー。」

 さすがのウィルもこの煩さに耐え兼ねたらしい。

「いえ、王子の寝起きの悪さについてです。」

「寝起き?」

「ほら、前にあったじゃないですか。起こしに来たメイドが。」

「あぁ、あれはあっちが誘って、勝手に…。って、何の話をさせるんだ。」

 …ウィル、そういう人なのね。まぁ、確かにこんなに綺麗なら、さぞおモテになるとは思うけど、遊び人だったなんて。

「スイ、違うんだ。僕は…。」

「ご飯よ。さっさと用意して。」

 ショック、なのかな?まぁ、そうだよね。仕方がないよね。

こんなに綺麗なんだし、その上、王子様。女性が放っておいてくれないよ。

アルもそうなのかな?

あぁ、でも、私には関係ない。女性関係に軽くても『友達』としては良いヤツいるもん。『友達』は、そんな事、気にしない。口出しちゃいけないよね。

「スイ?」

「ほら、セイ。ちゃっちゃと歩く。早くしないと遅刻するよ。アルとフランツもご飯にしよう。あぁ、お腹空いた。」

 大きく伸びをしながら、歩く。朝から疲れちゃったよ。

「アレク、頑張れ。」

 うん?セイまで、何故、アルに声援を?まぁ、いいや。考えたくない。

とにかく、朝御飯、食べよう。


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