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創地帝妃物語  作者: 宮月
45/46

45.婚約の儀

二話投稿の一話目です。

「婚約の儀の準備が整いました。会場へご案内させていただきます。」

 カツキとルーイが部屋に迎えに来てくれました。

「わかった。行こう、粋晶。」

「うん。」

「いってらっしゃいませ。」

 アルに手を引かれ、シェリルに見送られ、部屋を出た。私達のすぐ後ろにカツキとルーイが付いてくる。ううん、ヤバい。今更、緊張してきた。

「あっ、そう言えば、クォーツは何処へ?」

「はぁい。」

 クォーツがポンッと音が出そうな勢いで、私の前に登場。宙に浮いている?

「スイも空飛べるわよ、練習すれば。」

 私の心の声、聞こえているの?

「大丈夫。私はいつもスイの傍にいるわよ。だから、そんなに緊張しないで。」

「ありがとう、クォーツ。」

「じゃあ、私が姿を見せているとマズいから隠れているわね。」

 どうして、マズいの?と聞く前に、消えた。神出鬼没だ。

「大丈夫だ。」

 アルには緊張が届いてしまった。慰めの言葉をありがとう。

「タヌキやキツネと思えばいいんだよ。」

「まぁ、似た様なモノだ。」

 カツキとルーイにも励まされてしまいました。

「ありがとう。」

 よかった、優しい人ばかり。私、大丈夫だね。


 やはり五分は歩きました。そして、立ち止まったのは、一人では開けられない様な大きな両開きの扉の前。見張の兵の方が六人もいらっしゃいます。

「粋晶。」

深呼吸して、自分を落ち着かせようと無駄とも思える足掻きをしていると、すぐ横から声が降ってきました。

「うん?」

 短い返事をして、顔を上げると、アルの瞳が目の前で、ばっちり視線が合いました。

「ん?んん。」

 言葉にさえなっていません。だって、こんな所で行き成りのキス。文句の言葉も吐き出せず、代わりに漏れたのは吐息。

「う、あ。」

 唇が離されても息も切れ切れ。自分の身体を支えるのがやっと。

「粋晶だけを愛している。だから、傍にいてくれ。」

 耳元に届いたのは、アルの甘い声。少し切なそうに聞こえているのは気のせい?

「ずっと傍にいたい。私も愛している。」

 小さな声だったけど、聞こえたみたい。抱き締めてくれる手に少し力が籠った。

「ぐっ、ゴホン。」

 わざとらしい咳払いが耳に届き、アルのぬくもりから解放された。

う、うわぁ、今更だけど、他に人がいたの忘れていた。恥ずかし過ぎるぅ。沸点に達した血が、噴火そうだよ。

皆様、顔を背けながらも、チラチラこちらを見ていらっしゃいます。バッチリ目が合ったルーイは、にやりと口を歪めている。怖いです。で、わざとらしい咳払いをしたカツキは、顔を赤く染め、呆れている?

「王子、口元、拭ってください。紅が付いていますよ。」

 そう言って、アルにティッシュを差し出している。

「よろしいですか?」

 ルーイが確認の問い掛けをすると、アルが私を見てから小さく頷く。

「ファンファンファーン。」

 両扉が四人の見張の方の手で開け放たれると同時に、アル父がラジカセで迎えてくれた音楽の生演奏が流れ出した。

「行くぞ。」

 学校の体育館みたいな大きな講堂に、重臣服を着た人が整列している。

うわぁ、何、この人数。真ん中に白い絨毯が伸びていて、その先にはステージ、いや壇上がある。あそこまで歩くの?

「はい。」

 絨毯の上をアルと腕を組み歩いて行く。

お堅い結婚式?まぁ、婚約の儀だから、似た様なモノかもしれないけど、人が多過ぎない?一様に硬い表情で空気が重苦しいんだけど。祝いの席じゃないのか?足が竦みそうになるけど、隣にアルがいてくれるから、どうにか歩いている。うぅ、大丈夫なの?

「ふぅ。」

 長い長い花道を歩き終え、壇上に上がると小さく息を吐き出した。少しだけ気分が上向きになる。壇上には、アル父とクーちゃん、私の両親とセイがいてくれる。戦場で味方を見つけた気分。

「これより婚約の儀を始めます。」

 会場全体に響くフランツの声で、ざわついていた場が静まり返る。

「まず、アレクサンドル帝子の御相手をご紹介いたします。創地帝妃一色粋晶様です。」

 『創地帝妃』と告げられると、今まで以上にざわめき立つ。嫌な空気。

「創地帝妃?」

「まさか、アレク王子が、あのウィル王子と争い、手に入れたのか?」

「心を掴んだ訳ではないだろう。」

「あぁ、女恐怖症だから、それはないな。」

「どんな手を使ったんだ?ヘンな手を使えば、地帝国側が黙っていないだろう。」

 耳に届く嫌悪しか湧かない声。沸々と怒りが広がってくる。

「スイ、ダメ。」

 耳元に届いたクォーツの声。はっと我に返り、見回すと会場中の物が揺れ、強風が吹き、火の珠の様なモノが空中に浮かんでいる。

「私?」

「粋晶。」

 ぎゅっと横にいるアルにきつく抱き締められる。途端に風が止み、火の珠が消え、おかしな現象は跡形もなく止まっていた。

「大丈夫だ。落ち着け。」

「ごめん、なさい。」

 どうも怒りに任せ、帝力を暴走させてしまったらしい。怪我人が出たり、大きな物が壊れたり、そんな様子はないが、会場全体が唖然としている。

「止めてくれて、ありがとう。」

「あぁ。」

 ぎゅっとアルの背中に手を回し、胸に頬を押し付けた。

「やり過ぎですよ。確かに会場の嫌な空気を換えたかった気持ちはわかりますが、ね。それと、お熱いのはわかっていますが、式に戻りたいので離れてください。」

 フランツが空気を和ませてくれる。ちょっと、後半は余計ですが。

「皆様の心配はわかりますが、この様に帝子と創地帝妃はラブラブです。まぁ、多少、熱過ぎる感はありますけど。」

 会場がドッと笑い声をあげる。

あのぉ、フランツ、やり過ぎです。

赤くなった頬を押さえながら、チラッとアルを見上げると優しく微笑みをくれる。私も思わず頬を緩めながら、大きく頷いた。

「では、婚約の印、婚約指輪の交換をお願いします。」

 婚約指輪の交換?結婚指輪の交換なら、よく聞くけど。

「粋晶。」

「あっ、はい。」

 アルに催促され、左手を差し出す。薬指かと思いきや、中指。うん、やっぱり違うらしい。中指に嵌められたのは、水晶。クリスタルクォーツの様な石が埋め込まれたシンプルなモノ。

「ありがとう。」

 真っ白なリングピローが、にゅっと差し出された。そこには、私がしてもらったのよりちょっとごっつい大きさの同デザインの指輪。

「アレク王子の左中指に嵌めてください。」

 リングピローを差し出した。フランツが小声で教えてくれる。

「はい。」

 指輪を摘まむと、指先が震えている。緊張なのかな?

「アル。」

 緊張に負けては、女が廃る。自分を慰め、アルの左手を自分の左掌に乗せる。大っきな手は、ちょっと重いかも。

「続いて、婚約の印を。」

 婚約の印とは、もしかして、いや、もしかしなくてもキスマークの事よね?

うわぁ、こんな大勢の前で?本当にするの?うん、恥ずかしいけど、一瞬だけだ。よし、頑張ろう。

「じゃあ、粋晶様。恥ずかしがらずにやっちゃってください。」

 フランツ、その言い方止めて。もっと羞恥を誘うから。

「アル。」

 屈んでくれたアルの首筋にゆっくり唇を近付、一気に吸い付く。もう二度目だ。少しは慣れたかな?

「粋晶。」

 私が唇を離し、恥ずかしさに一人悶えていると、アルの低音の声。次の瞬間には首にチクリと痛みが走り、続いてその場所をペロリと舐められた。

「ひゃあぁ。」

 間抜けな声を上げてしまうのは、仕方ないよね?

「おめでとうございます。」

 大きな拍手とお祝いの言葉が会場から湧き上がった。認めて貰えたのかな?私が、その、アルの婚約者だって。


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