40.仲良しな二人
「ファンファンファーン、ファンファン。」
創帝国に付くと、聞いた事がある音楽に迎えられた。あぁ、アルのお父さんとファーちゃん達かな?
「やっぱり。」
「この出迎えはいつも?」
「そうですね。特別な方がいらっしゃる時には。」
フランツに抱えられているセイの質問に苦笑しながらの返事。
「アレクを選んでくださって、ありがとう。スイさん。」
「本当のお義姉様ですわね。」
「姫の方が年上ですけどね。」
満面の笑みのアル父とファーちゃん。ファーちゃんにツッコミを入れるタッキー。
「こちらこそ、ありがとうございます。」
アルに抱っこされたまま、お辞儀をするが、ちょっとおかしいよね?降ろして欲しいなと、アルに視線を向ける。微笑が返されるだけで、降ろしてくれそうにない。
「あの、アル。もう移動酔いもないし、一人で立てますけど。」
「いや、このままでいい。」
「でも、重いでしょ?」
アルの唇が耳元に寄せられる。
うん?何?
「粋晶のぬくもりを離す方が嫌だ。」
「なっ。」
身体中の血液が沸点に達したかもしれない。熱い、熱いぞ。アルって、こういう甘々な事を言う人だったの?ウィルより凄い破壊力を持っているのは気のせいではないだろう。
「だから、大人しく抱かれていろ。」
最後は命令形ですか?もう、いいです。ちょっと恥ずかしいけど、私もアルのぬくもりが好きだし。って、この考え自体、問題あり?
「熱くないか?」
「えぇ、確かに。」
「あの周りだけ、特に。」
「もう、お兄様もお姉様もラブラブなのですからぁ。」
「若いとは良い事じゃ。」
「王子、キャラが変わっていません?」
「愛する女性には、皆、その様に変わるモノですよ。カツキ。」
「あぁ、そうですか。」
あちらは勝手に盛り上がっていますが?
「それはそうと、シオコショーはどうした?一緒じゃないのか?あぁ、あと、キヨも戻ってくるらしいが。」
「はい、後からこちらに。セイの成人の儀までには来るそうです。」
「そうか。準備の為に、先に来たのだな。」
「はい。」
「では、城に戻ろう。」
アル父の声で、皆が歩き出した。
あのぉ、アル。私、いつまでこのままで?
「アル。」
「うん?」
私の呼び掛けに短い返事なんだけど、何故か降ろす気はないとの意味が含まれている様な…気のせいでしょうか?
「えっと、私は成人の儀ってしないの?」
「粋晶は必要ないだろう。」
「そうよ。もう私がいるんだもの。成人の儀って、従獣の森から自分の従獣を呼び戻す儀式だもの。」
「従獣の森?」
私の小さなバッグから、にゅっとクォーツが顔を出す。アルに抱っこされた時、置いてけぼりにされない様にと、クォーツはバッグに入っていたのだ。
「そう普通の従獣は、帝石と共に眠りに付くの。そのネグラを従獣の森というの。帝力は帝石に閉じ込められた状態だから、恩恵を受けられず、必要最低限の力しか使わないためかな。」
「ふぅん。」
「でも、私は。その必要がなかったから、従獣の森とスイの傍を往復して、楽しんでいたのよ。」
「何で、その必要がないんだ?」
「スイの帝力は、帝石に閉じ込めても、湧き出てしまう無限の泉なの。だから、それを消費していたのよ。ちなみに存命中の人には、そんな帝力を持つ人はいないわね。」
「存命中?」
「亡くなった人や未来の人は、わからないって事。」
ふぅん。自分ではよくわからない。数値とかで示されればいいのに。そうすれば、実感出来るかも。
「では、成人の儀の時まで、少し休んでください。また、その時に。」
そう言い残し、アル父が消えてしまった。
あれ?いつの間に、お城に?いやぁ、自分で歩かないと、この間より近く感じるな。
「では、私達も失礼します。」
次にタッキーに抱っこされたクーちゃんが消える。
「私達も行きましょうか?」
フランツの掛け声で、セイはカツキさんとルーイさんに脇を抱えられた。囚われの宇宙人だ。
セイ、もうちょっとの辛抱だからね。少し笑ってしまうのは見逃して。
「あら?ここは?」
「帝子用客広間です。ただいま、新居改装中のため、しばらく仮住まいですね。それで部屋割りですが、最初にスイとセイが使っていた部屋に王子とスイで。セイは、こちらから二番目の左側を使ってください。あと、スイの警護は、この二人を中心に担当させていただきます。」
「警護?」
「アルと私が同じ部屋?」
セイと私の驚きをたっぷり含んだ声が重なる。フランツは苦笑の後、ゆっくり私に視線を向けてきた。
何か意味深な瞳の輝きを感じるのですが、気のせいですよね?
「婚約者ですから、何の問題もありませんよね。あぁ、それと防音してありますので、ご心配なく。」
問題ないのでしょうか?まぁ、確かに、あんな場面を見られちゃったけど。でもね、あからさまってどうなの?それに防音って…。
「警護も当然ですよね。創帝子の婚約者の上、創地帝妃なのですから。あぁ、紹介させてもらってよろしいですか。」
勝手に話が進んでいくよ。
「鉄重臣克基と申します。」
「一色重臣ルーイと申します。」
「カツキは、私の息子でタツキの弟です。そして、ルーイは、スイとセイの従兄で、胡晶の弟君の長男ですね。」
「えぇ、従兄?」
そうか、そうだよね?従兄ね、従兄がいても不思議はないよね。あぁ、言われてみれば、地球で親戚って聞いた事なかったかも。でも、キヨちゃんはお父さんの従弟なんだよね。
「一色星晶です。初めまして。創地帝妃と言われているスイの双子の兄です。」
「あっ、一色粋晶です。よろしくお願いします。」
セイの声を聞いて、我に返って、急いでご挨拶。
「こちらこそよろしくお願いします。」
うぅん。問題発生かな?カツキさんをカッキーと素直に呼ぶと、タッキーと間違えてしまいそうだし、カッちゃん?でも、兄を綽名で、弟をちゃん付けって、おかしいよね?
「粋晶、カツキは普通にカツキでいいんじゃないか?」
「へ?」
アルは私の考えがわかるの?
「タツキと間違えると考えたんだろう。」
「どうして、わかるの?」
「俺達は、二人が一緒にいる時は、タツとカツキと呼び分けている。」
「あぁ、なるほど。」
「すみませんね。似たような名前を付けて。」
フランツがいじけた口調でぼそりと呟く。
その姿が可愛いって言ったら、怒るかな?私の中に留めておこう。
「それでは、アレク王子とスイは、こちらで軽い昼食を摂ってから、用意をしてください。すぐにシェリルを寄越しますので。そして、セイは部屋で成人の儀の準備をしながら、昼食になりますので、付いてきてください。」
フランツは急に仕事が出来る男の顔になる。オンオフの切り替えが素早い。
「では、私達も成人の儀式場に向かわれる時間になりましたら、お迎えに上がります。」
ドアがパタンと閉まると、二人きり。それなのに、抱っこのままはおかしいよね?
「あの、アル。」
「ん?何だ?」
ソファーに私を抱えたまま、座った。私はアルの腿の上に座らされる。
明らかにヘンですよね?三人掛けのソファーよ。
「重いでしょ?」
「いや、全然。」
「足、痺れちゃうよ。」
「大丈夫だ。」
満面の笑みで返事をされると、言葉に詰まりそうになるけど、ここで挫けてはいけない気がする。
「降ろして…。」
言葉の途中で口封じされました。
私、慣れていないせいでしょうか?一気に身体の力が抜け、抵抗というモノが出来なくなってしまうのですが。
「アル。」
唇が離れても掠れた声しか出てこない。私はおかしいのでしょうか?
「コンコン。」
力が入らず、アルの胸に縋っていると、ノックの音。急いで、態勢を立て直そうともがくが、思うように動けない。
「失礼します。」
入室と同時に一礼して、顔を上げたまま、固まりました。
あのぉ、シェリルさん、どうなさいました?笑みが凍っていますよ。
「シェリルさん?」
「お二人があまりに仲がおよろしいので、見惚れてしまいました。申し訳ございません。すぐに昼食の準備をさせて頂きますね。」
シェリルさんが食事の準備を始めるため、こちらに背を向けると同時に聞こえる溜息。アルを見上げると、しっかり視線が合い、微笑をくれます。アルではないみたい。と、なると該当人物は一人、クォーツ。
「あのねぇ。」
やっぱりクォーツでした。呆れた顔でバッグから這い出てきました。
「スイが大好きなのはわかるけど、くっつき過ぎよ。」
「悪いか?」
アル、開き直りました。
「悪いわ。スイは私の主なの。私がくっつけないじゃない。」
クォーツ、微妙にズレてない?
「クォーツは、粋晶の膝に乗ればいい。」
「あっ、そっか。」
納得してしまいました。それでいいの?いや、良くないでしょう。
「昼食の準備が整いました。こちらへ。」
「あぁ。」
アルの膝から降り、自分で立とうとするが、ひょいと横抱きにされてしまいました。
「王子、スイ様とくっついていたいのはわかりますが、程々になさってください。」
さすが、シェリルさん。そう、その通りよ。
「そうか?」
「そうでございます。」
「仕方がないな。シェリルにそこまで言われては。」
溜息交じりにやっと自力で立つことを許されました。
これから、私、大丈夫かしら?




