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創地帝妃物語  作者: 宮月
38/46

38.ウィルとデート

 大変な事を思い出してしまった。

今、アルとウィルとセイと四人で店番中。三人は本を読んだり、話をしたりしていて、私はレース編みをしながら、話に混ざるような混ざらないような状態。キヨちゃんは、午後になると、引っ越しの準備だと言って、帰って行った。両親はいちゃつきながらも夕食の準備をしているだろう。

 まぁ、そんな状況説明している場合じゃない。何を思い出したかと言うと、ウィルの、その、告白と言うか、それに対する返事をしなければいかないと言う事だ。さすがに、何だっけ?創地帝妃の決断だっけ?その時だけで済ませるわけにはいかないよね?

「スイ、そろそろ閉店時間だろう。」

「あっ、そっか。そうだよね。」

 時計の針は七時を指している。セイは立ち上がり、さっさとシャッターを閉めてくれる。その間に、簡単にキッチン周りの掃除を済ませる。

「さぁ、飯、飯。」

 セイはさっさと自宅に歩き出し、その後をウィルとアルが付いて行く。

「あの、ウィル。」

 このまま、夕食に雪崩れ込んだら、お風呂とかで話し掛けるタイミングは、見つかりそうにない。ウィルを呼び止めたのに、アルも立ち止まり、私を見ている。心配してくれているのかな?

「話があるんだけど。」

「じゃあ、夕食の後、散歩に行こう。僕、夜のコンビニに行ってみたかったんだよね。」

「あっ、うん。」

「アレクは連れて行かないよ。僕とスイのデートを邪魔しないでよ。」

「あぁ、アイス、買ってきてくれ。」

「アイスゥ?まぁ、いいよ。お風呂上りに冷たいの美味しいからね。」

「頼む。」

 アルもわかっているみたい。うわぁ、どうしよう。緊張してきたかも。何って言えばいいのかしら?どうしよう、こんな時、クォーツが、あれ?

「クォーツは?」

「あぁ、さすがに店に出られないからって。シオコショーといるはずだよ。」

「確かに、ね。」

 店の戸締りを確認して、自宅へ。

あぁ、最近、緊張する事が多いよね。たった一ヶ月前の私じゃ、考えられないわ。一番は、アルとの再会、かな?

「御馳走様でした。」

 はい?いつの間に食事たしたの?えっ、私のお茶碗もカラだし。えっ、私、食べた?全然、記憶にない。すごいねぇ、私。ぼんやりしながらも食べられるんだ。

「スイ、行こう。」

「何処に行くんだ?」

「デート。」

「コンビニ。」

 セイの質問に、ウィルとアルが同時に答えた。セイは堪え切れないとばかりに派手に噴出している。

お腹を抱えて、随分楽しそうですね。私はこんなに緊張しているのに…。

「アイスを買ってくるように頼んだ。」

「じゃあ、頼んだ。」

「私達もお願いします。」

 人数分、買って来る事が、私が口を挟む間もなく決定された。

「じゃあ、行ってきます。」

 半分、ウィルに引き摺られる様に、家を出る。

あのぉ、心の準備が整ってないのですが、どうすればよろしいですか?もうアイスも買って、上の空だったけどちゃんと自分の好きなチョコアイスを手にしたよ。じゃなく、アイスも買ったし、帰り道。家はもう目の前。

うぅん、悩んでいる暇はない。女は度胸が大切だ、よね?

「あの、ウィル。」

「うん。」

「ごめんなさい、私。」

「うん。」

 足が止まってしまった私の横で、ウィルも立ち止まる。どんな顔していいのかわからなくて、俯いたままだ。胸が痛いよ。

「アルと結婚する。やっぱり、アルが好き。」

 一気に言葉を吐き出した。そうじゃないと声が出せなくなりそうだったから。

「そっか、よかったね、スイ。やっとアレクの気持ちがわかったんだ。」

「へ?」

 やけに明るいウィルの声に、拍子抜けした声が零れてしまう。

確かに、暗く落ち込まれたら、それもそれで困るんだけど…。

「おめでとう。幸せになれるよね。やっぱり、スイは笑顔が一番可愛いからね。でも、一つ覚えておいて。僕は本当にスイの事を愛しているんだ。多分、それはずっと変わらない。だから、アレクに泣かされたら、僕の所においで。僕の精一杯で慰めてあげる。」

「ウィル…。」

「今度は僕も勇気を出さないと、ね。リリにちゃんと想いを伝えて、プロポーズするよ。リリもスイも僕の中で一番愛している女性だからね。ねぇ、スイ。もし、リリに振られたら、僕を慰めてね。」

 ウィルの優しさ、痛いくらい嬉しいよ。

「振られる心配より、プロポーズの言葉を考えたら?」

 私がおどけてみせると、ウィルも笑ってくれる。

「じゃあ、スイはどんな風にプロポーズされたの?アレクに。参考までに聞かせてよ。」

「えっ?」

 ピッキーンと身体は凍り付くのに、顔は熱い。

な、何を言い出すんだ、ウィルは。

「ふ、普通だよ。」

「普通って?」

「け、結婚してくれ、って。」

 どんどん声が小さくなり、最後は聞こえてないかも。

「で、昨夜は大丈夫だった?上手くヤれた?まぁ、お互い初めてだし、スイは大変だったと思うけど。」

「セ、セクハラだ。」

「セクハラ?」

 うん?今、何て言った?お互い初めてって言ったよね?誰が何を?あれ?ウィルが言っている事、違うのかな?セクハラと関係ない事?あれ?もしかして、私、とんでもなく恥ずかしい勘違いしている?

「あの、ウィル。」

「うん?」

「何がお互い初めて?」

「もちろん、ベッドで男と女がする事。もっとはっきり言わないとわからないかな?」

「いいえ、わかりましたが…。えぇ?」

「何を驚く?」

 涼しい顔していますが、口にしている事は、二重の意味でとんでもないです。

まず、言わずと知れた、『ベッドで男と女がする事』発言。

それと、お互い初めてって、どうして、そう思う?

まぁ、私はねぇ。封印云々とかあったしわかるかもしれないが、もう一人はあのアルよ?初めてはないでしょ?他は知らないけど、ねぇぇ。わかるよね?言いたい事。

「お互いって、あのぉ。」

「もちろん、スイとアレクでしょ。スイは封印があったし、帝力を取り入れた時点で封印解除になったけど、絶対に初物でしょう。」

 初物って、私は旬の果実か何かですか?

「で、アレクは女性アレルギーなんだからムリでしょ。でも、どうして、スイは最初から平気だったんだろう?不思議なんだよな。」

 あっ、そっか。女性アレルギーだもんね。って、嘘。あれで初めて?私もいっぱいいっぱいだったから、よく覚えていないけど、落ち着いている様に見えたし。…あっ、いや、これ以上はムリです、はい。

「スイ、赤くなっちゃって、可愛いなぁ。やっぱり、アレクには勿体ないよな。今からでも僕にしない?蕩けさせてあげられるよ。」

 …今、私の頭の中に思い出したくない人物が横切りました。このウィルの発言と同じ事を言っていたのは、ウィルの異母兄、ハルンケアさん。カールおじさんに連れられて、旅立ったみたいだけど、途中で焼き豚にされてないかしら?

「ウィル。その発言、ハルンケアさんと同じよ。」

 ウィルがガーンとショック音が聞こえそうな表情しています。これでお返しになったかしら?私をからかうと仕返しされるとわかってもらえた?

「ごめん。これからは気を付ける。」

 うん、反省してくれたみたい。素直でよろしい。

「じゃあ、さっさと帰ろう。アイスが溶けちゃうよ。」

「うん。」

 立ち止まった分を取り戻すように、速足で自宅に向かった。

「ただいま。」

「おかえり。」

 リビングに行くと、待っていましたと差し出される三つの手。

「あれ?アルは?」

「部屋。」

「スイ、呼んで来て。」

「うん。」

 一応、アルと私の分のアイスを冷凍庫に入れてから、アルの部屋へ。

「アル、アイスを食べよう。」

 ノックして、返事を待ってから、ドアを開ける。

「おかえり。」

「ただいま。」

 私の前に立つと、微笑を零し、迎えてくれる。

うわぁ、緊張が一気に解けていく。アルって癒し系?

「粋晶、どうした?もしかして、ウィルに酷い事を言われたのか?」

 何をそんなに慌てている?アルもこんな風に動揺を表立たせるんだ。

「泣くな。ウィルには、俺からきつく言っておくから。」

 泣くな?あれ?私、泣いている、ね。

「違うよ。」

 アルの胸に飛び込み、そっと頬を寄せる。やっぱり安心する。

「アルの顔を見たら、緊張が一気に解けたの。ウィルは笑って、わかってくれたよ。だから、これは敢えて言うのならアルのせい。」

「そうか。」

 落ち着いた声が降ってきて、ぎゅっと抱き締められる。

「粋晶。」

 優しく呼び掛けられ、腕の力が弱まる。ゆっくり顔を上げると、視線が絡まる。

これって、キスだよね?

そっと瞳を閉じ、唇が重なるのを待つ。

「ストップ。」

 後ろから声が飛び込んできて、中途半端な距離で一時停止。

「ウ、ウィル?」

「ドアを開けたままって、不用心だよね。それって、邪魔してくださいと言っているのと同じだよ。まぁ、僕ならドアが閉まっていても、邪魔するけど。」

「邪魔だとわかっているなら、入り込むな。」

「嫌だね。僕の目の前で、スイが他の男とキスするなんて、見たくないから。」

「残念だな。俺だけの粋晶だ。」

「独占欲の強いヤツ。」

 気のせいでしょうか?二人の言葉に棘を感じます。

あの、私、どうすればいい?

「スイ、こんなヤツの何処がいいの?僕に乗り換えない?」

「ムリだな。」

「アレクに聞いてない。ねぇ、スイ。アイスが溶けちゃうよ。向こうに行こう。」

 ウィルに左手首を持たれ、歩く事を強要される。

「あ、あの、アル。」

私は、右手を伸ばし、アルの腕を掴んだ。どうして、そうしたのかわからないけど、そうしなければいけない気がした。

「ふぅ。」

 ウィルが大きく息を吐き出す音が耳に入ってくる。同時に手首が解放された、

「これがスイの答えなんだね。わかっているよ。あぁ、もう。」

「悪いが、そういう事だ。」

「アレク、スイを泣かせるなよ。絶ぇ対に幸せにしろよ。」

「もちろんだ。」

「じゃあ、アイスを食べよう。スイ、アレク。行くよ。」

 何?二人の間で会話は成立したらしいけど、私には全くわからなかった。

「行くぞ、粋晶。」

「あっ、うん。」

 ドカドカ歩くウィルの後を、呆然としながら付いて行く私と、ご機嫌なアル。

「続きは、後で、邪魔が入らない所で、な。」

 ア、アル。耳元で何を言ってくれちゃっているんですか。うわぁ、アイスがますます美味しくなりそうな程、顔が熱いです。



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