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創地帝妃物語  作者: 宮月
35/46

35.スイの告白

 あの茶畑は地位とアルのルックスの良さに惹かれただけだ。私はそう結論付けた。この事を考える事は止めた。もしかして、本気でアルの事って、ちょっとは思ったけど、たぶん錯覚。その事はもういい。本題に頭を移そう。

もう時間がない。誕生日まであと三日。どうする?私。選択肢は二つ。アルと結婚するか、地球に残るか。はっきり言って、色々あり過ぎて、頭はパニック。完全にパーティーの夜の事は、夢としか思えない。

「どう思う?クォーツ。」

 いつもの相談相手のセイがいないのが、痛い。まぁ、夢を話しても仕方ないけど。でも、少なからず気持ちの整理は出来るはず。

「アルくんに直接聞けばいいんじゃない?」

 そうしようと思ったが、今日一日、バタバタしている。茶畑の所から戻ってきてすぐに、キヨちゃん達へのお土産を買ってきて、クーちゃん達とお茶会して、荷物の整理をしたら夕食。そして、今、与えられた部屋でクォーツと二人きり。

「ん?どうして、私、声に出していないのに、何の事かわかるの?」

「三十年弱、スイを見てきたんだよ。何を悩んでいるのかくらい、わかる。」

「ありがとう。」

「じゃあ、行ってらっしゃい。」

「何処へ?」

「今からアルくんの所。」

「えっ、でも、もう寝ているかもしれないし。」

「時間ないでしょ。それにアルくんなら大丈夫。」

 何が大丈夫なんだ?確かに時間ないけど。

「あっちに戻ったら、二人で話す時間ないよ。さっさと行って来い。」

 あの小さなクォーツの何処にこんな力があるんだと聞きたくなる程の強さで背中を押され、アルとこちらの部屋を繋ぐドアの前に。

「トントン。」

「粋晶、入れ。」

 深呼吸を一つして、ドアを開ける。窓際に置かれた机で本を読んでいたらしい。

「どうした?」

「うん。」

 背中に体重を掛け、後ろ手でドアを閉めた。

 うぅ、どうしよう。勢いで来ちゃったけど、言葉が見つからない。

「あ、あのね。何か飲まない?」

「あぁ。」

 完全に逃げているぞ、私。でもまぁ、飲んでいる間に少しは落ち着けるかな?

「お茶でいい?」

「あぁ。」

 部屋の隅にある冷蔵庫から、お茶を出し、グラスに注ぐ。

「そっちで飲むの?」

「いや、ソファーに行く。」

 二つのグラスを持ち、一つをアルに手渡す。

 ど、どうしよう。アルは三人掛けのソファーに座ったけど、私は何処に腰掛ければいい?前の一人掛け?でも、目の前じゃ、話し辛いだろう。

「ほら、座れ。」

「うん。」

 助かったぁ。アルが隣に座るように促してくれたのよ。とりあえず、落ち着こう。冷たいお茶を飲めば、少しは頭が冴えるはず。あぁ、それにしても心臓煩い。

「何か、話があるんだろう。」

 お茶を飲み込んだ後でよかった。口に含んだ状態なら、噴出していたな。

「ど、どうして?」

「ずっと話したそうにしていただろう。」

 見抜かれていましたか。私、わかりやすいのかしら?

「あ、あのね、うんとね。あの時、言ってくれたのって、本当?」

「あの時って?」

 あぁ、確かにこれでわかったら凄いけど、察して欲しいな。

「パ、パーティの夜。」

「あぁ、女性アレルギー?」

「ち、違う。」

 わざと惚けているのか?

「じゃあ、何だ?」

 あぁ、やっぱり夢だったのかな?それとも私の妄想?そう、よくよく考えれば、非現実的だもんね。アルが私の事なんて…。

「ううん、ごめん。何でもない。私、寝るね。」

 どれだけ期待していたんだ?凄い一気に気分が下降していく。こういう時は、フライドポテトとから揚げで一杯、は、無理だから、寝ちゃおう。

「俺が愛しているって、言った事か?」

「…ア…ル?」

 えっ?本当に夢じゃない?妄想じゃない?現実なの?待て、落ち着け。私、舞い上がるのは早いぞ。夢落ちの可能性が残っているぞ。

「バチーン。」

あぁ、痛い。左手で頬を叩いてみると、痛い。このジンジンした痛みは夢じゃないよね?現実だよね?あぁ、痛いけど嬉しい。

「す、粋晶?」

「ねぇ、これは現実だよね?夢じゃないよね?これだけの痛みがあるんだもん。夢じゃ、リアル過ぎるよね?」

 アルが笑い出しました。まぁ、笑いたい気持ちもわかるけど、さぁ。

「私の疑問は無視かい?」

 あっ、やば。声にしてしまった。

「夢じゃない。現実だ。」

「本当?」

 笑い過ぎの涙を拭いながら、右手で私の肩を抱き寄せた。

「そんな嘘を付いて、何の得がある?」

 再びソファーに座るように促されて、素直に従う。

「だって、創地帝妃って、政のお飾りでしょ?」

「創地帝妃だろうが、何だろうが、粋晶以外いらない。」

「でも、私が創地帝妃じゃなければ…。」

「そうだな。創地帝妃じゃなければ、もっと早く迎えに行けた。翌日には迎えに行ったかもな。」

「あの、それって…。」

「あぁ、粋晶が五歳の時だ。」

 翌日?私、五歳でしょ?アルだって、十歳だよ。

「どうして?」

「あの時、笑って、俺に話し掛けてくれただろう。」

「はい?」

 そ、それだけですか?

「後にも先にも俺に純粋な満面の笑みを向けてくれたのは、お前だけだ。皆、王子とか、地球人の血が混じっているとか、歪んだ目でしか見られなかった。俺の身分とかを知っても、粋晶の目は俺自身を見てくれた。」

「だって、アルはアルだもん。」

「粋晶。」

 アルの腕が私を引っ張り、ポスリと抱き締められる。

「ずっと俺の側にいてくれ。俺と結婚してくれ。」

「アル…。」

「粋晶を愛しているんだ。粋晶だけなんだ。」

「私でいいの?私なんかでいいの?」

 私はアルの肩を両手で押し、身体を離した。アルの顔を見たかった。

「私ね、失恋ばっかりだったの。全然、モテなくて、封印のせいもあるんだろうけど、多分、私、女として魅力がないんだと思う。それでもいいの?」

「粋晶がいい。粋晶じゃなければダメだ。それに、粋晶の魅力は俺が知っている。他の男なんて、気にするな。気にする必要はない。」

「アル…。」

 嬉しい。どうしようもなく嬉し過ぎて、信じられない。うぎゃぁ、どうしよう。本当?本当に本当?これって、現実でいいんだよね?夢じゃないよね?

「私もアルがいい。アルじゃなきゃ、ヤダ。」

「結婚してくれるよな?」

「あ、あの、よろしくお願いします。」

「それで、粋晶は俺をどう想って、求婚を受けてくれているんだ?」

 口元がにやりという表現がぴったりの表情に歪む。

う、私、これだけで充分過ぎる程、恥ずかしいので出来れば、これ以上聞いて欲しくないのですが。でも、アルに言わせて、私が言わないのは、不公平だよね?

「アル。」

 ぎゅっとアルに抱き付く。顔を見て言えないよ。驚いたように身体がビクリとしたが、次の瞬間には私を抱きしめ返してくれる。

「あ、愛しているよ。」

「俺も愛しているよ。これからも、ずっと。」

「アル…。」

 うわぁ、凄く幸せ。どうしよう?いいの?こんな幸せで。嫌よ、今更、夢でしたとか、私の妄想でしたとか。

「うへぇ?アル?」

 急に身体が宙に浮いた。いつの間にか、いつもの横抱きです。一体、何?

「まだ、夢心地。半信半疑そうだから、ちゃんとわからせてやるよ。」

「あ、あの、ど、どうやって?」

「わかっているだろう。それに昨夜も一緒だったし、な。」

 あわわわ、何を言い出すんだ?昨夜は五歳の私。今の私じゃないでしょ。

でも、アルとなら。それにいくら私でも現実感、もてるでしょ?

「経験が何もないので、よろしくお願いします。」

 アルの胸に頬を寄せ、暴れているお互いの鼓動を感じる。

私、凄く幸せだよ。



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