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創地帝妃物語  作者: 宮月
34/46

34.驚愕の叫び

「じゃあ、参りましょうか。あっ、クォーツはここに残った方がいいかもしれませんね。」

クォーツを肩に乗せようと伸ばした手が空中で止まってしまった。

あのぉ、この手をどうすればいいのでしょう?

「どうして?」

「地下には帝力封じの石が敷き詰められていますので。」

「あぁ、大丈夫、大丈夫。」

クォーツが余裕の笑い。

「スイの帝力は、帝力封じの石位じゃ、封じ切れないのよ。あっ、これは内緒ね。だから、私が一緒に行っても大丈夫なのよ。」

「クォーツ、気分が悪くなったりしない?」

「それも心配ないわよ。今のスイなら自分の帝力、わかるでしょ?」

「まぁね。大丈夫だと思うけど、帝力封じの石がどの程度かわからないし。」

「辛いと思ったら、スイに戻るから、心配しないで。」

「わかった。」

クォーツは、さっさと私の肩の上に瞬間移動。素早い事。

「行こっか。」

フランツを先頭に、アルと並んで歩く。肩の上にはクォーツ。

それにしても徒歩で移動なんて珍しい。

「地下に続く階段には、瞬間移動が出来ないようになっているのです。」

私の声が聞こえたの?と、驚くほどのタイミングでのフランツの説明。

あぁ、でも、納得。警護とかの関係で必要なんだよね?

「えっ、ここ?」

「そうです。」

別に薄暗いとか汚いとかじゃないけど、入ってはいけない空気が階段から漂っている。もしかして、これが帝力封じの石の力?

「あ、あの、アル。」

「ん?」

「手を繋いでもよろしいでしょうか?」

自分で声にしていて、あれですが、かなり恥ずかしい。それなのに、アルは優しく、私の右手を握ってくれる。私の肩の上でにやけた顔をしているクォーツと目を合わせてはいけない。多分、いや絶対に余分な一言が飛んでくる、はずだ。

「えぇー。」

横から驚きの叫びが聞こえる。

「どうした?」

その声を上げたのは、階段の横にいる見張兵さんらしい。

「いえ、何でもありません。」

「下で護衛の方がお待ちです。」

「あぁ。」

フランツが歩き出したので、アルと手を繋いだまま、付いて行く。

「お気を付けて。」

「ありがとうございます。」

見送りの言葉をくれる優しい見張兵さんに軽くお辞儀。

それにしても何をそんなに驚いたんだろう?

「カツキ、ルーイ、待たせたか?」

長い階段を下りると、目の前には重そうな金属で出来た扉。その前には、アルほどじゃないけど、筋肉が動きそうな二人の男性。

「いえ。」

私達三人に敬礼。私も敬礼を返そうとしたが、右手はアルの手と繋がれ、左肩にはクォーツ。断念、代わりに頭を下げた。

「えぇぇ。」

再び、驚愕の叫び。

何なの?一体。

「さっきから何だと言うんだ?」

アルが短く問い掛けると、上の二人同様、バツが悪そうに肩を竦めてしまう。

「いえ、何でもありません。」

上の二人より息が合う人達らしい。声がピッタリだ。

押し殺しきれない笑いが聞こえ、振り向くとフランツが肩を揺らし笑っている。

「フランツまでどうしたんだ?」

「いえ。何でもありません。」

フランツゥ、笑いがダダ漏れですよ。それじゃ、説得力ゼロです。

「粋晶。」

「私もわかりません。」

アルが私を見下ろし、私はアルを見上げながら、首を横に振る。

そうすると、フランツだけでなく、カツキさんやルーイさんも、堪え切れないとばかりに笑い出した。

「フランツ、カツキ、ルーイ。ちゃんと説明しろ。」

まぁ、そう言いたい気持ちもわかるよ。私も同じ気分だもん。

「いえねぇ。アレク王子とスイがあまりに仲が良いので、ねぇ。」

「はい?」

フランツ、かなりオヤジっぽい。

「何で仲良くしていると、驚かれたり、笑われたりするの?フランツ、私達、前からこんな感じでしょ?」

「それはそうですけど。私は良いんですよ、見慣れていますから。ただ、他の方々はそうではないのですよ。」

うん?異常なのか?普通じゃないのか?

「あの、アル。私、おかしいの?」

「いや、アイツ等がおかしいだけだ。気にするな。」

「はい?」

アルは、理由がわかったらしい。

が、耳まで赤く染まっているよね?そんな恥ずかしい理由なのか?

「スイ、そのヘンにしてあげなよ。」

クォーツまでわかっているらしい。やっぱり、私は天然鈍感スイちゃんなの?

「参りましょう。」

笑いから立ち直ったフランツが、普通の顔付きで言い放った。

私の中には疑問がいっぱいだけど、これ以上の質問は止めることにする。後でクォーツに聞けばいいからね。


「ギィー。」

大きく重そうな扉が音もなく開き、再び同じ扉。

それが開くとテレビとかアニメとかでしか見た事ない『ザ・地下牢』と云うべき風景。石畳が敷き詰められ、頑丈そうな鉄格子が部屋を区切り、仄かな明かりのみの薄暗さ。

「こちらです。」

区切られた部屋を何か所か通り過ぎ、中程で立ち止まった。

通り過ぎた所、全部空っぽだったけど、もしかして、茶畑だけなの?

「何しに来たのよ。」

さっそく噛み付かれました。

結構、ゲッソリしているのを想像していたのに、意外に元気ね。

「貴女と話したくて。」

「物好きね。で、何?」

「どうして、あんな事をしたの?」

ちょっと手を震えてしまう。

頭の中に、真っ白な顔をしたアルとか、手に付いた血の感触。掠れたアルの声。一気に蘇ってくる。

「粋晶。」

アルの手に力が籠められる。私を励ましてくれているのかな?

「大丈夫。ありがとう。」

アルの顔を見上げ、安心させる意味と自分を力付ける意味、両方を込めて、微笑んで見せた。

「王妃になりたいのよ。彼の隣に相応しいのは、私みたいな女よ。綺麗で教養を持ち合わせ、品があって、家柄もしっかりしているわ。それなのに、何でアンタみたいな庶民臭い女が、アレク様の横にいるのよ。」

「まぁ、庶民として暮らしているから、庶民臭いのは仕方ないでしょ。」

アルが横で苦笑を零した。

「それに、その余裕な態度、ムカつくのよ。」

「そうは言われても、こんな感じで、今まで生きてきちゃったし。」

アルの身体が震えているのが、繋がれた手から伝わってくる。顔を上げると、笑いが口元に滲んでいます。

あぁ、私、やっぱりズレているのかしら?フランツとカツキさん、ルーイさんを見回すと、アルと同じご様子。

「それがムカつくのよ。」

「私が死ねば、横に立てると思ったの?」

「そうよ。私が王妃になれたの。」

まぁ、よく言い切れるわね。

「それで、貴女の横に立つべき人を刺して、貴女はどう思ったの?」

「えっ…。」

「どうして、血まみれのアルを置き去りにして、逃げたの?私が貴女を一番許せないのは、そこなのよ。愛しい人が血まみれになって、パニックになるのはわかるわ。でも、死んで欲しくない、絶対に死なせないと思わなかったの?自分が出来る事を何もしないで、逃げるって、どういう事?」

「怖かったの。」

「えぇ、私も怖かったわ。私を庇って、死んでしまうかもしれないって、思ったもの。でも、私は死なせたくなくて、生きていて欲しいから、自分の出来る限りの事をしたわ。まぁ、普通じゃない事をしちゃったけど、ね。それで、逃げ出して、どうしていたの?」

「自宅で震えていたわ。」

「そう、助けも呼ばず、そのままで良いと思ったの?それとも愛しい人ではなかったの。見殺しに出来る程度の気持ちしかなかったのね。」

 静かで重い空気。自分の呼吸の音しか存在しない気分にさせる。

でも、手を握ってくれるアルのぬくもりが私を支えてくれていた。

「ねぇ、貴女、本当は何を求めていたの?王妃の地位?それとも彼に愛される事?」

「わ、私は…。」

「じゃあ、彼の何を好きになったの?」

「…ごめんなさい。」

 ダメだわ。お話にならない。まぁ、半分、わかっていたけど、許せなかった。

 こんな女がいるから、アルはきっと女性アレルギーになったんだと思う。ウィルだって、それで苦しんでいる。最低だ。

「アル、ごめんなさい。」

「粋晶?」

「こんな女に殺されそうになって、アルに傷を負わせてしまった。今も…。」

「全部、粋晶が治してくれただろう。」

 首を横に振るしか返事が出来ない。胸が痛いよ。

「大丈夫だ。」

 ぎゅっとアルが抱き締めてくれる。ぬくもりが優しい。私を許してくれるの?

期待が、余分な期待まで膨らんでしまいそう。

「戻ろう。午後からクリスと茶会するんだろう。それと帰る準備をしないと。ほら、キヨちゃんにお土産を催促されていただろう。」

「ありがとう。」

 顔を上げると、アルが微笑んで私を受け入れてくれる。

「さて、行くか。」

「ちょ、ちょっと、アル?」

 アルに抱き上げられる。いつものお姫様抱っこだ。

「長い階段はきついぞ。」

「ぐ…。アルこそ。」

「別にトレーニングだと思えばいい。」

「私は鉄アレイ?」

「よりは重い。」

「仕方ないから、トレーニングに付き合ってあげる。」

 いつもより近い顔の位置で笑い合う。幸せだぁ。私、ずっとこのままでいたい。

「行くぞ。フランツ、カツキ、ルーイ。」

「は、はい。」

「茶畑エリザベート。刑は後日、言い渡す。」

 アルが捨て台詞とも取れる言葉を吐き捨て、歩き出す。

私は茶畑に振り返りたくなくて、ただ、アルの胸に頬を寄せた。


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