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創地帝妃物語  作者: 宮月
32/46

32.五歳のスイ(クォーツ視点)

五歳のスイでは、お話が進めるにはムリがありそうなので、代わりに私クォーツが突っ込みを入れたいと思います。よろしく。

と、言う事で、もうすぐ五歳のスイが目覚めるはずなんだけど。

「う…ん。」

さて、アルくんはどんな反応するんだろう?楽しみ。

「粋晶、粋晶。」

「アルくん?」

やっと目を開けたスイだけど、目の前には大きくなったアルくん。五歳までの記憶しかないスイには、別人なのかしら?

「粋晶、よかった。気が付いて。」

「アルくんだぁ。」

行き成り、抱き付くスイ。さすが、五歳のスイだね。

「粋晶?」

あぁ、アルくんが戸惑っていらっしゃいます。

そうだよねぇ。私、未だ何も説明していないもの。

「あれ?アルくんじゃないの?」

スイが泣きそうな声で、いや、目尻に涙を浮かべ、アルくんを見上げています。

アルくん、理性を保ってね。

「スイ、アルくんだよ。でも、理由があって、大きくなっているのよ。スイも大きくなっているでしょう。」

「クォーツ。」

私の事は、わかるのね。偉いぞ、スイ。さすが、私のスイ。

「どういう事だ?」

アルくん、その質問、正解です。

「今のスイの記憶は、アルくんと初めて出会った頃なのよ。」

「は?」

「帝力に記憶を植え付けるのに、手間取っているのよ。セイから聞いているでしょ?アルくんの記憶を消したって。」

「あぁ。」

「その記憶は甦ったんだけど、その後が処理中なの。でも、身体の奥で意識は戻っているから、スイと会話したら、五歳でもいいからって。何でだと思う?」

私はにやりと笑ってみせた。

アルくんにわかるかしら?考える時間なんて与えてあげない。何となく、ムッとするのよね。やっぱり、スイが惚れ込んだ相手だからなのかしら?完全にこれは嫉妬ね。

「アルくんが寝ないで、スイの傍にいるって、言ったのよ。そうしたら、今度はアルくんが倒れちゃうって。」

「あ、あぁ、そうか。」

アルくんが赤くなり、照れ臭そう。ちょっと可愛いかも。

「アルくん、クォーツ。何の話をしてるの?」

スイが二人で話している私達を見て、首を傾げる。

可愛いぃ。自分と同じ顔なんだけど、スイって表情に最大限の魅力が溢れ出しているのよね。

「もう少し待っていてね、スイ。」

「うん。」

本当に子供のように大きく頷き、ベッドに足を下ろし、腰掛けた。足をブラブラさせながらも、真っ直ぐにこちらを見つめ、大人しくしているスイ。

「それで、こんな事、公には出来ないでしょう。だから、アルくん、まぁ、フランツは仕方ないわよね。二人でスイの面倒を見て欲しいのよ。もちろん、私も出来るだけの事はするけど。」

「あ、あぁ、そうだな。」

「でも、安心して。五歳のスイは、一応、身の回りの事は一通り出来るから。お風呂とかも一人で大丈夫だし、もちろん、着替えも出来るわ。」

「それは、よかった。」

アルくんが安堵の溜息を零す。

まぁ、何を考えての事かはわかるけど。

「フランツ。」

アルくんが呼び掛けると、隣の部屋からフランツが現れる。アルくんがフランツに説明している間に、スイの元に。

「お話、終わったの?」

「終わったよ。」

「ねぇ、ここは何処?セイやお母さん達は?」

「ここはアルくんのお家。セイがお熱出しちゃったから、スイはここにいて欲しいんだって。うつったら大変でしょ?」

「セイ、大丈夫?」

「大丈夫よ。二、三日、大人しくしていれば、良くなるって。」

「そっか。じゃあ、私はここで良い子にしていればいいのね?」

「その通り。でも、淋しくないでしょ?大好きなアルくんもいるし。」

「ちょっとは淋しいよ。だって、セイが元気ないんだもん。でも、アルくんがいるから、私は大丈夫だよ。クォーツもいるし。」

「スイは良い子ね。」

髪を撫で撫ですると、スイはくすぐったそうに笑う。

「粋晶。」

「はぁい。何、アルくん。」

私を肩に乗せ、スイはテコテコとアルくんの元に。私を落とさないようにしてくれるのが、歩き方でわかる。

「フランツだ。」

「始めまして、フランツさん。スイです。よろしくお願いします。」

「フランツで良いですよ、スイ。」

「はぁい。フランツ。」

フランツ、気のせいか、頬が緩んで、目尻が下がっていますよ。

「何かお願いしたい事とかあったら、私か王子、アルくんに言ってね。」

「ありがとう。」

いやぁ、五歳のスイは、今のスイにも増して、表情豊かだ。これじゃ、アルくんがメロメロになるはずだよね。

「そろそろ、夕食ですね。こちらで食べますよね。すぐお持ちします。」

フランツが時計を見て、完全独り言の口調を残し、部屋を出て行ってしまう。

「アルくん、窓の外を見ても良い?」

「あぁ。」

スイはアルくんの手を取って、窓際に行く。もちろん、私も肩に乗ったままだ。どうして、アルくんも連れて行くの?

「アルくん、クォーツ。見て。お月様もお星様も綺麗だよ。ほら、あっちにはお陽様も見えるね。

アルくんの手をぎゅっと握ったまま、にっこりと笑顔を向けた。アルくんの頬が赤いのは、気のせいではないですよね?

「お待たせしました。あっ。」

フランツがドアを開けたまま、固まった。確かに、その気持ち、わかるよ。だって、五歳のスイとアルくんの間には、ラブラブオーラ大放出中だもん。

「粋晶、食事にしよう。」

「うん。」

アルくんは、スイをいすに座らせてから、スイの前に腰掛ける。紳士だね。

それにしても、フランツはいつまで呆然とアホ面下げ続けるつもりかしら?いい加減、現実に立ち戻って欲しいわ。

「フランツ、どうした?」

「あっ、いえ。何でもありません。」

急いで表面だけ取り繕ったフランツ。さすが、ね。

「失礼します。」

一礼して、フランツはアルくんの横に座る。

「いただきます。」

声がきれいに揃い、食事開始の合図。

「クォーツ、何、食べる?」

「ごめんね、スイ。私は食べられないの。」

「調子悪いの?」

「元気だけど、食べる事は出来ないの。代わりにスイがたくさん食べてね。」

「うん…。」

私達、従獣(じゅうじゅう)は、主の帝力を生命元にしている。だから、大半の従獣は、必要とされる時に呼び出される。それ以外は、主の身体の中で休息し、帝力の余分な消耗を防いでいる。

が、私の主、スイは別格。有り余る程の帝力が無限に湧き出ていて、従獣に帝力を使わせないと、帝力過多になってしまう。暴走の恐れがあるのだ。お陰で、私は従獣としてはよく動き、スイの役に立てるわけだ。


「アレク王子の部屋にお風呂が用意してありますので、スイもそちらで済ませてください。そちらにスイの着替えもございます。」

「あぁ。」

「ありがとう、フランツ。」

私が他の事を考えている間に、食事は終わったらしい。食器を乗せたワゴンを押し、フランツが出て行ってしまう。

「美味かったか?粋晶。」

「とっても美味しかったよ。」

「そうか。じゃあ、お風呂に入って、早く寝た方が良い。」

「うん。アルくんのお部屋って、何処?」

「そこのドアを開けた所だ。おいで。」

「うん。」

スイはちゃんと私を胸に抱き上げ、アルくんの後を歩き出す。

「アルくんのお家って、凄いね。一つ一つのお部屋が大きいだけじゃなくて、お部屋にお風呂まで付いているんだ。でも、こんな大きなお部屋に一人で淋しくないの?」

「粋晶が一緒にいてくれるんだろ?」

「そっか。二人一緒なら淋しくないよね。」

粋晶がアルくんを見上げ、にっこりと笑う。

「風呂に入って来い。」

「うん。あっ、クォーツ、お風呂は平気?」

「大丈夫よ。」

「じゃあ、一緒に入ろう。」

スイは私を抱えたまま、浴室と言われたドアを開けた。スイは無言のまま、服を脱ぐので、私も無言で洋服を脱ぎ捨てる。

「ねぇ、クォーツ。」

「ん?」

「アルくんと一緒にいると、ここがドキドキするの。」

ふっくら盛り上がった胸を人差し指で指しながら、真っ赤になるスイ。

「一緒にいると楽しいし、ずっと一緒にいたいのに。」

「アルくんと一緒にいて、楽しい?どっちかと言うと、無口でしょう。」

「楽しいよ。そりゃ、セイと違って、そんなに話もしないけど、凄く嬉しい。」

「本当にアルくんの事、大好きなのね。」

「大好きだよ。でも、アルくんはどうなんだろう?よくわかんないけど、セイや他の友達には、こんな感じしないの。アルくんだけなの。どうしてかな?」

スイは自分の身体を洗いながら、憂いを含む表情を零した。

「アルくんも同じ気持ちだと思うよ。」

「そうかな?…はい、次はクォーツの番。」

手をモコモコの泡だらけにして、私の身体を洗ってくれる。

「くすぐったいよ。」

「こら、逃げるな。綺麗綺麗にしないと。」

二人で騒ぎながら、お風呂を済ませる。あの後、スイは笑ってくれる。この笑顔を守りたい。それが、私、従獣の役目だもん。

「アルくん、お先にごめんね。」

お風呂から出ると、アルくんがわざとらしく、本を開いている。

「あぁ、湯冷めする前に寝ろ。」

「うん、おやすみなさい。」

「おやすみ。」

アルくんとスイの部屋を繋いでいるドアをスイがパタンと閉じた。

「寝よう。」

スイが一人で眠るベッドに潜り込む。私はベッド横におかれていた椅子に、ちょこんと座り込んだ。

「おやすみ、スイ。」

「おやすみ、クォーツ。」

しばらくじっと仰向けで目を閉じていたが、ゴソゴソと動き、何度も寝返りを打っている。広いベッドを隅から隅まで移動しただろう。

「クォーツ、眠れない。一緒に寝よう。」

「嫌よ。だって、スイと寝たら、寝返りを打った時に潰される。」

「だって、こんな大きなベッドに一人なんて落ち着かない。」

てへ、良い事、思いついちゃった。

「じゃあ、アルくんと一緒に寝ればいいんじゃない?」

「あっ、そっか。でも…。」

「嫌なら、フランツでもいいんじゃない?」

「アルくんが良い。」

「決まり。アルくんの部屋に行っておいで。」

「クォーツは?」

「私、ちょっと用があるの。」

「こんな遅くに?」

「大丈夫。声掛けてくれれば、すぐスイの所に行くよ。」

「うん。」

スイはもそりと起き上がり、枕を抱え、アルくんの部屋のドアをノックしている。

さて、私は姿を消して、覗き見していよう。ヘンな事したら、止めなきゃね。

「アルくん。一緒に寝てもいい?広過ぎて、眠れないの。」

うわぁ、スイ、上目遣いは反則でしょう。

「クォーツは、どうした?」

「嫌だって。潰されるから。」

アルくん、困っていますねぇ。それはそうよね。中身は五歳でも身体は大人だもん。

「ダメ?」

考え込んでいるアルくんに止めの一撃。

「仕方ないな。」

スイをアルくんのベッドに横にさせると、アルくんはベッド横に椅子を引っ張っていく。

「アルくんも一緒に寝ようよ。ダメだよ。アルくん、疲れた顔しているんだもん。一緒に寝るの。それに、一緒にいようって、約束したばかりでしょ。」

スイが、掛け布団を持ち上げ、アルくんに入るように視線を向けている。アルくんは、仕方ないなとばかりに肩を竦め、ベッドに入り込んだ。

「えへへ、アルくんだぁ。」

スイは嬉しそうに笑いながら、アルくんに抱きつく。男の人の事はよくわからないが、アルくん、辛そうだね。まぁ、今回は諦めてください。

「おやすみなさい、アルくん。」

「おやすみ、粋晶。」

挨拶を交わした一分後、スイはアルくんにくっついたまま、寝息を立て始めた。アルくんは困り顔で苦笑した後、スイを抱き締めなおし、瞳を閉じた。

よし、大丈夫だろう。さて、私はもう一仕事。では、また。


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