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創地帝妃物語  作者: 宮月
28/46

28.パーティーとは何をすればいいの?

「う、苦しい。」

「スイ様、よくお似合いですよ。」

唯今、パーティーの準備中です。

シェリルさんにドレスを着せてもらい、化粧や髪型までセットしていただきました。地帝国から来ている淡いグリーンのドレスよりもレースはふんだんに使われ、スカートの広がりは倍じゃないかと思われます。何よりこの胸の強調は不自然だし、ウエストは締め過ぎじゃないでしょうか?それに普段ロクロク化粧しないから、色々塗られた顔が重いし、皮膚呼吸が出来ていない気がする。

「トントン。」

ノックの音がして、シェリルさんが返事をすると、ドアが開いた。

「おっ、スイ。馬子にも衣装だな。」

「何ですか?セイ。」

「いえ、可愛いよ。スイ。」

「お世辞、ありがとう。」

「スイ様、本当にお綺麗なので照れてらっしゃるのですよ、セイ様は。」

シェリルさんは、クスクスと笑っていらっしゃいますが、違うと思います。

私にこのような素敵なドレスは、本当に似合ってないと、私でもわかりますから。着ているではなく、着られていると。

「スイ、客広間までエスコートさせてくれるかな?」

「セイ…。」

何なんだ?急に。でも、ちょっと嬉しい。

「お手をどうぞ。」

「あ、ありがとう。」

とてつもなく照れ臭い。セイってば、本物の紳士みたいに手を差し出すんだよ。

まぁ、私もちょっとノリで淑女のような振る舞いを真似してみるけど。

「いってらっしゃいませ。」

シェリルさんが深々とお辞儀をして、見送ってくれる。

いやぁ、まるでお姫様みたいじゃない?やっぱり、ファンタジーの世界に来ているだけあるのかな。


「おお。」

客広間に入ると、驚きの声で迎えられた。

「スイ、とてもお綺麗ですよ。」

「えぇ、とてもお綺麗です。」

「見違えたよ。」

フランツ、カスパー、手放しの賛辞、ありがとう。

でも、ウィル、見違えたって、引っ掛かる言葉なんですが…。

「アレク、エスコート頼むな。」

セイの手からアルの手に、私の手が渡される。

「あぁ。」

うんうん、冷静な見方をしているのね。

「アレク王子、どうされました?」

「あ、あぁ。」

フランツの声でぼんやりしていたアルが、私を抱えてくれる。

「どうしたの?」

「粋晶、とても綺麗だ。」

「ふへぇ?」

消えそうな声が耳に届くと同時に、瞬間移動のぐにゃり感。もう、いつもの倍はパニック。

今、アル、何って言った?綺麗って褒めてくれたよね?

確認のため、アルの顔を見上げると、赤く染まっているよね?

あっ、ヤバイ。こんな近くで目が合ってしまった。高鳴る鼓動が自分の耳に届くけど、目が逸らせない。アルには聞こえてないよね?

「スイ、アレク、どうした?」

横からセイの声が聞こえると、金縛りから解放される。急いで顔を逸らした。

「二人揃って、赤い顔して熱でもあるのか?」

「気のせいだ。」

冷静なアルの声。

そっか、気のせいか。そうだよね。アルが本気でそれも照れながら、綺麗って褒めてくれて、想い合った者同士みたいに見つめ合うなんて、気のせい以外ないよね。

嫌だな、私。妄想癖あったかしら?

「ありがとう、アル。」

アルに抱っこされたままは、ちょっと辛い。胸がぎゅっと締め付けられているみたい。

「あぁ。」

「うぎゃ。」

いつもと同じようにゆっくり地面に下ろしてもらうけど、慣れないハイヒールを履いているため、着地に失敗。転がると、きつく目を閉じるけど、アルの腕が私を受け止めてくれた。

「あ、ありがとう。ごめん。」

「まだ、ふら付くんだろう?」

「ううん、大丈夫。ちょっと着地失敗しただけ。慣れない靴を履いているから。」

「そうか。じゃあ、転がらないように掴まれ。」

「えっ?」

「ほら。」

アルの左腕に私の右腕が絡まり、これって、完全なエスコートの図。

あぁ、再び、心臓が踊り出しちゃうよぉ。

「お待たせいたしました。こちらからお願いします。」

ステージ裏らしき場所から、会場入りを指図される。

うん?パーティーって、もっと煌びやかな扉から入場するんじゃないの?

「アレク王子とお友達の皆様です。」

「はぁ。」

深々と呆れ果てた溜息を、セイと私以外が零す。

うん?何で?

「行くぞ。」

「あっ、うん。」

アルに引き摺られないように歩き出した途端、眩しい光で目が見えなくなる。

もしかして、敵の来襲?なんて、冗談に思いながら、目が慣れてくるのを待つ。

「はい?」

一段下にドレスやタキシードを着た方が数十人、百人近くいるんじゃないんでしょうか?皆様方が私達を見上げて、大注目されています。

「紹介させていただきます。こちらから、地帝国王子、ウィリバルト様。」

あの、ノリノリで司会をしている人は誰ですか?

蛍光ピンクのタキシード、赤の蝶ネクタイ、淡いピンクのシャツ。何処で買い揃えたのでしょう?

なんて、今の状況を把握出来ない間に、紹介が終わり、パーティーは開会したらしい。

「粋晶、何か食べるか?」

「うん。」

アルの呼び掛けで我に返り、ハイヒールに苦労しながら歩き出す。

「階段あるから、気を付けろ。」

「ありがとう。」

ヨタヨタとアルの手に掴まりながら、やっとステージから降りる。

「あれ?皆は?」

トロトロしている間に、アル以外の姿は遥か遠く。

セイとウィルは、着飾った女性に囲まれているのが、人の隙間から見えた。

フランツとカスパーは、偉そうな人に挨拶回りしているみたい。

「お姉様。」

遠くから近くに視線を戻すと、それはそれは可愛らしいお姿が飛び込んでくる。

「ファーちゃん、可愛いぃ。」

「お姉様こそ、とても綺麗ですわ。」

もうお世辞はいいです。

「王子、姫、スイ。どうぞ。」

タッキーが小さなトレーに四つのドリンクを持ってきてくれる。気が利く。

「ありがとう。」

「これは?」

「もちろん、ジュースです。」

「よかった。」

淡いピンクの透き通った中に、炭酸が弾け、綺麗な色合いで甘酸っぱい。

「美味しい。」

「お姉様から頂いたクッキーもとても美味しかったわ。」

「俺も頂いた。甘さ控え目で美味しかった。」

嬉しくて、アルの顔を見上げると、微笑んで頷いてくれる。

「ありがとう。あれは、アルと一緒に作ったのよ。」

「お兄様とお姉様が。」

「ウィルも一緒に作ろうと思ったんだけど、手を出さずに物珍しそうに見ているだけだったの。今まで調理場なんて入った事なかったんでしょうね。」

「お姉様、素晴らしいわ。」

はい?あぁ、また、ファーちゃんが先輩憧れモードに入っちゃった。

「あんなに品があり、美味しい物をお作りになるなんて。」

「そんなに立派な物じゃないわよ。それに、これで食べているからね。」

「はい?」

「私、パティシエ。ケーキ職人なの。」

「凄いですわ。是非、私にも食べさせてください。お姉様が作ったケーキを。」

「もちろん。一緒に作らない?」

「私にお手伝いなんて出来るでしょうか?」

「大丈夫よ。大切なのは心だから。」

「心?」

「そう。食べてくれる人の事を思って、作っていく。そりゃ、最初は不恰好でも、一生懸命作っていくうちに、形が整うものよ。」

「お姉様、素敵。」

ファーちゃんの瞳がキラキラしています。違う世界を見つめていませんか?

「いやぁ、参ったよ。」

セイが苦笑を零しながら、やってきた。

「おモテになる方はいいですわね。」

「いや、違うと思うぞ。あれは、希少動物扱いだな。本当にモテるというのは、ウィルだろう。」

セイの視線を追いかけると、女性に囲まれながらも、優雅に椅子に腰掛、グラス片手に談笑するウィルの姿。さすが、王子様なのかしら?

「やぁ、クリス。とても可愛いね。」

「ありがとう、セイ様。」

視線を戻すと、セイの姿は同じ場所になく、ちゃっかりファーちゃんとの会話を始めている。リリアンナには声を掛けなかったのに、もしかして、ファーちゃんは好みのタイプなのかも。

「粋晶。」

「うん、何か食べよう。じゃあ、セイ、ファーちゃん、タッキー。またね。」

三人と別れ、食べ物の並ぶ方へ。痛いほどの視線と耳障りな小声の会話が突き刺さる。

「ねぇ、アル。」

捕まらせてもらっているアルの左腕を引っ張ってみる。

「私、アルの隣にいても平気なの?」

「いてもらわないと困る。」

「まぁ、アルがいいのなら、いいけど。あっ、凄い料理ね。」

目の前に現れたのは、パーティー会場の片隅のビュッフェコーナー。煌びやかな料理が並んでおります。

どうしよう、迷っちゃうな。

「アル、お勧め、ある?」

「そこに座っていろ。適当に持ってきてやる。好き嫌いはないよな。」

「うん、ありがとう。」

窓際の椅子を指定され、よろよろと向かい、やっと着席。

一息付く暇もなく、アルが戻ってきてくれる。

「ありがとう。」

お皿を受け取り、並んで食す。

「美味しいぃ、幸せ。」

「粋晶らしい感想だ。」

「いいのよ。こういう小さな幸せを噛み締めなきゃ、大きな幸せなんて何時来るかわからないもの。」

「そうだな。」

本当に、今の私、幸せだよ。隣にアルがいてくれて…。あと少しだけ噛み締めていてもいいよね?

「食べ終わりましたなら、お皿をお下げしますが。」

「あぁ。」

「ありがとう。」

執事服を着た方が、お皿を持っていってくれると、手持ち無沙汰。

さて、どうしよう?ちなみに私にダンスを求められても無理ですからね。


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