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創地帝妃物語  作者: 宮月
25/46

25.足のぶつからないお炬燵

部屋に戻っても、セイは布団に包まれたまま。もぞもぞとお山が動いているので、起きているんだと思うけど。

「おはよう、セイ。」

「おはよう、スイ。何処へ行っていたんだ?」

「朝のお散歩。」

「迷子にならなかったか?」

「なりそうになったけど、ウィルが送ってくれた。」

「ウィルは何だって?」

布団から顔を出し、セイのベッドに浅く腰掛けた私の顔を見つめている。

「自分の気持ちと、真っ直ぐ向き合うべきだって。」

「ウィルもわかっているんだな。」

「何が?」

「鈍感天然スイちゃんがわかっていない事。」

「…さっさと起きて。もうすぐ朝食だよ。」

「あいよ。」

セイがガバッと勢いよく布団を剥ぐ。

「ちょっと!」

その布団は、私を頭から被さってきた。

髪の毛が乱れるでしょ。

「悪い、悪い。」

全然、反省の色が見られない声。

いつも思うけど、全く反省していないよね?

「着替えてくる。」

「うん。あっ、セイ。」

「うん?」

「一緒にいてもいい?」

「スイのエッチ。」

「ち、違う。」

真っ平らな胸を押さえながら振り返るな。

「わぁってるって。冗談だ。話があるんだろう。いいよ。」

「うん。」

何でだろう?凄く不安。胸の奥がモヤモヤしていて、落ち着かない。

「今日、創帝国でパーティーだって。」

「はい?パーティー?」

「私達の歓迎パーティー。」

「ふぅん。」

「でね、フランツに、その間、ずっとアルと一緒にいて欲しいって頼まれたの。」

「だろうな。」

「何でだろう?どんな意味があるのかな?」

「その時になれば、わかるだろう。」

「この頃、セイは意地悪だ。」

唇を突き出し、むくれてみる。これくらいで甘くならないのはわかっているけど、ちょっとした抵抗だ。

「スイが自分でわかるべき事だからだよ。俺が言葉で言っても、スイは本当の意味で理解出来ないからな。」

「…セイはずっと傍にいてくれるよね?」

「当たり前だろう。」

セイがにっこりと笑い、私の頭をポンと優しく叩く。

「さっ、朝食だろう。客広間って所に行こう。」

「うん。」

歩き出すセイの後ろを着いていく。

あぁ、私、本当にブラコンだな。いつもセイに頼って、甘えてばかりだ。いいのかな?

「おはようございます。」

私達が客広間に行くと皆が揃っている。アルとウィル、フランツとカスパー。でも、リリアンナの姿はない。

「おはようございます。」

「朝食は帝王と王妃、帝子母がご同席されるそうです。」

「はい?」

「つまり、ウィル王子のご両親と王妃、ハルンケア様の母上ですね。」

「えぇ。」

ヤダ、何か堅苦しそう。夜のパーティーだけでも憂鬱なのにぃ。

「大丈夫です。ご挨拶だけですから。」

「挨拶ぅ?」

「まぁ、スイ。眠くなる校長の長話だと思って、聞き流せ。」

「はぁい。」

仕方ない。こっちは客だ。もてなしてくれる人に文句は言えまい。

「じゃあ、移動しましょう。アレク王子、スイを。セイはフランツと私で我慢してくださいね。」

「はぁい。」

アルに横抱きしてもらう。

あぁ、凄く幸せ。アルのぬくもりって、安心するんだよね。このままでいたいかも。

「粋晶。」

「うん?」

呼ばれたので、顔を上げるけど近いよね。

「眠れたか?」

「アルは?」

「あぁ。」

「じゃあ、私も眠れたよ。」

「そうか。」

微妙に会話がおかしいけど、意味は通じているよね。

「こちらです。スイ、セイ。もう、大丈夫ですか?」

さすが瞬間移動。あっと言う間だよ。

「ありがとう、アル。」

「あぁ。」

アルのぬくもりから解放されるのは、ちょっと淋しい。

って、私、おかしい。こんな気持ち、間違っているよね?

「よろしいですね。」

確認と言うより、確定の口調のカスパー。

やっぱり帝王様の前は緊張するの?

ドアの横にいる見張りの人に小さく頷くと、ドアがノックされる。

「入れ。」

ドア越しに男性の声。ウィルの父で現帝王様なのかな?

「失礼します。」

ドアが開かれ、カスパーを先頭に、ウィル、セイ、私、アル、フランツが並んで、部屋に通される。

どれだけ大きなドアだと突っ込む暇もなく、目の前に家が一軒入るんじゃないかと思うほど広い部屋に足を踏み入れた。真新しいイグサの香りを残した畳が一面に広がり、真ん中にはこれまた大きな長方形のお炬燵。細長い面には軽く十人は座れそう。これなら、お炬燵の中で足がぶつかる事もないだろうな。

「創地帝妃、一色粋晶様。創地帝妃兄、一色星晶様。創帝国帝子、スカイ創帝子アレクサンドル様、創帝子仕、鉄重臣フランツ様をお連れしました。」

「ご苦労、カスパー。」

声の方向に視線を向けると、微笑みを浮かべるハゲオヤジ、おっと、帝王様がいらっしゃいます。その右隣には目元に厳しさを表すような皺が刻み込まれている濃紫の髪の着飾った女性。左横にはウィルにそっくりだけど、憂いの表情が隠し切れていない女性。

多分、右がハルンケアさんの母で、左がウィルの母。反対だったらビックリ。

「初めまして。創地帝妃様。私、ウィリバルトの父で、地帝王のスカイ地帝王ファインバルトと申します。そして、こちらが正妃、スカイ地帝妃ハルコとウィリバルトの母、黄金帝子母ユリです。」

「初めまして。一色粋晶です。」

どうして、私だけに紹介するんだ?初対面ではセイも同じなのに。

「ぜひ、ウィリバルトを選び、地帝国を今一層の繁栄にお導きください。では、申し訳ないが、これで失礼する。」

あっと言う間に立ち上がり、王妃とウィルの母を連れ、立ち去ってしまう。

本当に挨拶だけ、いや顔見せだけなのね。

「カスパー。」

「はい。」

唖然とした沈黙が流れているのを破ったのは、ウィル。

「ここで食事はしたくない。客広間に用意してもらえるか?」

「わかっております。もう、そのように手配済みです。」

「さすが、カスパーだ。皆、悪いが、それでいいか?」

四人が同時に頷く。まぁ、ウィルの言い分は正しいと思うし、ね。

「ねぇ、ウィル。」

「うん?」

「私、リリアンナともっとお話したいんだけど、一緒に食事って平気?」

「問題ないよ。」

「よかった。」

再び、アルに抱っこされ、客広間へ。

「おかえりなさいませ。」

到着と同時に、リリアンナの声。視線を向けると、思わず一時停止。

何ですか、あれは?首筋にくっきりと赤い痣。ポニーテールだから、首が丸見えだもんねぇ。

「ちょっと、リリアンナ。」

リリアンナの肩を持ち、男達に背を向ける。

「それはさすがにまずいって。」

「何が?」

「首筋。キスマークが目立つよ。カスパーや他の人に知られるのは、マズイでしょう?」

「へ?」

ブワッと音がするかと思うほど、一気にリリアンナの頬が赤に染まる。

左手で首を押さえたけど、反対側の方が多いよ。

「ちょっと席外すね。皆は先に食べていて。」

リリアンナを引き摺るように客広間を出て、私に与えられた部屋へ。

「何なんだ?」

疑問の声が背後から聞こえるけど無視。

「ハイネックのインナーとか持ってない?」

「残念ながら。」

「そっかぁ。ここまでくっきりだとファンデじゃ無理だし。あっ、あった。」

戸惑ったままで呆然としているリリアンナを放っておいて、私のバッグを漁る。

「これ、下に着なよ。」

「えっ、でも。」

「私、横幅があるから、リリアンナでも着られると思うよ。身長は違っても。」

「ありがとう。あの、スイ、これは。」

やっと自分を取り戻してくれたらしい。慌てて、言い訳をしようとしているよ。

「うん、知っている。悪いとは思うけど、聞こえちゃったんだよね。セイの部屋で。」

「いや、あの、そうではなく。私達は、その、身体だけなんだ。きっと、王子は、私に同情してくれているだけで。あっ、後宮がある王宮で育っているから、こういう事に抵抗がないと言うか。とにかく、愛しているのは、スイだけなんだ。」

「リリアンナに告白されちゃった。」

語尾にハートマークを付けてみると、リリアンナが今までで一番慌てる。

「冗談よ、冗談。」

私がくすくすと笑うと、リリアンナが安堵の溜息一つ。

「髪も直した方がいいかもね。ポニーテールよりツインテールかな?あっ、低い位置の方がいいかな。私がやってもいい?」

「スイさえよければ。」

「了解。」

リリアンナを鏡台の前に座らせ、その後ろに立つ。

うわぁ、リリアンナの髪、さらさら。こんなに長いのに、枝毛なんてなさそう。

「ねぇ、リリアンナ。」

「うん?」

「キスマークって、所有印なんだって。」

「はい?」

「友達から聞いた事しか知らないんだけど、自分の大切な人だから、他は手を出すなって気持ちが入っているんだって。つまり、上手く言えないけど、ウィルはリリアンナの事を大切な人だって思って、独占したいんだと思うよ。」

「スイ?」

「だから、リリアンナは諦めないで、頑張ってね。」

「どうしたの?」

「ううん、何でもない。さぁ、これで完璧とは言えないけど、ある程度隠れた。我慢所だと思うんだ。朝食にしよう。」

「ありがとう。」

何でだろう。泣きそうなくらい胸が痛い。


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