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創地帝妃物語  作者: 宮月
24/46

24.天秤

「随分早いね。あっ、リリアンナは?」

「リリは、朝の訓練。で、その起きる音で目が覚めた。あっ。」

「そうなんだ。」

「あっ、いや、違うんだ。その、ほら、隣の部屋で客間はそんなに広くないから物音が。」

慌てふためいていても、美青年は美青年か。ずるいよね。

「知っているよ。昨夜、ずっとリリアンナと一緒だったんでしょ。」

「どうして?」

「ウィル、自分で言ったでしょ。物音が隣にも聞こえるって。」

「あっ、いや、これには、深い訳が。」

「言い訳しなくてもいいよ。本当は、リリアンナが好きなんでしょ?」

「もちろん、スイの事は愛しているけど。」

「言い訳するな!」

もう、どうして、こうグダグダと誤魔化そうとするかな?

ついつい強い口調になってしまうのは、仕方ないよね。

「もう一度、聞きます。」

「はい。」

力なく垂れた耳と尻尾が見えそうな表情。可愛いかも。思わず、頭をなでなでしたくなってしまう。って、暢気な私。

「リリアンナの事、一人の女性として、あ、愛しているんでしょ?」

何で、ここで私が照れなければいけない?うわぁ、とてつもなく恥ずかしい。

「スイの事も愛している。」

「はい?」

どうして、こう恥ずかしげもなく、愛という言葉を口に出来るの?さすが王子様。

「つまり、どういう事ですか?」

「スイもリリも。」

「はい?」

愛は簡単に言えるのに、どうして、ここでしどろもどろになるんだ?

「つまりさ、スイとは結婚を考えた愛で、リリは他の男に渡したくないだけなんだ。」

「ふへぇ?」

あぁ、そうか。私達は一夫一妻制で育っているから一人に決めろとか思っちゃうけど、ウィルとかは、大奥もとい後宮があるような王子様育ち。別にいいのかな?でも…。

「それって、自分勝手だよね。リリアンナの気持ちとか、周りの事を考えている?」

「それは…。」

「それとも自分は王子様だから、そういうのムシするつもり?」

「違う。僕は絶対にそんな権力を振り翳したいんじゃない。」

「じゃあ、リリアンナには後宮の寵妃になってもらって、お飾りの創地帝妃には奥でただ鎮座して欲しいのかな?」

「なっ。」

「私、二つの愛を同等に持てるほど、器用じゃないと思うんだよね。必ずどちらかに天秤って傾くと思うんだ。違うかな?」

ウィルは唇を噛み締め、きつく掌を握っている。

言い過ぎかな?と思うけど、自分の本当の気持ち、わかって欲しいな。だって、せっかく両想いなんだよ。

「それで、私は思うのよ。ウィルの天秤は明らかにリリアンナに傾いている。多分、私に抱いてくれているのは、友達としての友情と政のお飾り創地帝妃が欲しいって、気持ち。違う?」

「違う。」

まだ、粘るのか?そろそろ、ネタ切れなんだけど。

「創地帝妃だから、スイと一緒にいたいんじゃない。スイ自身、スイだからだよ。」

うわぁ、薔薇背負い笑顔だ。満開だよ。

「で、どうしたいの?」

もう大丈夫だよね?

「……。」

あぁ、沈黙ですか。

「さっさとリリアンナに自分の気持ちを伝えて来い。あ、愛しているとちゃんと告白しろ。男らしくスパッと。」

「ス、スイ?」

そんな唖然とした顔で私を見るな。

「まだ、創地帝妃なんて、お飾りを気にするの?」

「そうじゃない。そんな事をしたら、もう、スイと一緒にはいられないのか?」

首を傾げ、上目遣いは止めて。

男なのに、可愛いと本気で思ってしまうじゃないか。

「私達、友達でしょう。」

「スイって、結構残酷だね。」

「はい?」

ざ、残酷ぅ?な、何で?

「つまり、それって、僕には全然気がないから、さっさと他と纏まって欲しいって事でしょ?それで自分はアレクと幸せになるって。」

な、何か、立場逆転してないか?

「…アルは、私をそんな風には見てくれてないよ。だから、私は、多分、このまま、ずっと、地球に住み続けるかもね。」

「アレクの事を愛していると認めるんだ?」

違う、違う。この気持ちはそうじゃない。

「ス、スイ?」

何よ、急に慌てた声を出して。

「泣くなよ。ごめん、僕が悪かった。だから、泣かないで。」

泣く?泣くって、誰が?って、私か。

「ごめん、泣いてなんていないよ。ほら、これは、目にゴミが入っただけ。」

「スイ…。」

「ごめん、ウィル。私、部屋に戻るね。」

「でも、スイ。」

「ウィルは自分の気持ちと真っ直ぐ向き合っても良いと思うよ。」

「そうじゃなくて、スイ、そっちから部屋に戻れないよ。」

あっちゃあ、やっちゃったよ。私、穴掘って埋まりたいくらい、恥ずかしいんだけど。

あぁ、ウィルってば、身体を二つ折りにして、笑っているよ。まぁ、私も同じ立場なら笑うよね。

「そんなに笑うなぁ。」

「ごめん、ごめん。いや、あんまりにスイが可愛いから。」

「可愛いんじゃなく、お間抜けなんでしょ。」

「ううん、可愛いんだよ。さっ、部屋に戻ろうか。」

ウィルが笑い過ぎて、目元に滲んだ涙を拭きながら、にっこりと笑みを向けてくる。

うっ、悔しいが言い返す言葉が見つからない。

「スイ、僕はスイを愛しているよ。スイが僕を選んでくれるのなら、必ず幸せにする。だから、臆病にならないで。」

「ウィル…。」

「自分の気持ちと真っ直ぐに向き合うべきは、スイだと思うよ。」

ズキンって、胸の奥が痛んだ。

ウィル、その笑みはズルいよ。


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