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創地帝妃物語  作者: 宮月
23/46

23.女性アレルギー

 と、思っていたのに、セイの寝息が聞こえたなと思ったくらいから、記憶がない。で、気付くと窓の外で鳥の囀る声。起き上がり、隣のベッドを見ると心地良さそうに睡眠を貪るセイの姿。

「さてと。」

さっさとベッドを抜け出し、昨日のドレスに身を包む。日焼け止めだけを塗って、準備は完了。

「おはようございます。眠れましたか?」

そっと廊下に出て、なるべく音を立てないようにドアを閉めると、急に横から声が降ってきた。

「うわぁ。あぁ、フランツか。おはようございます。」

「ビックリさせてしまいましたか。すみません。」

「いえ、一人で勝手にびっくりしただけです。お気にせずに。」

二人でくすりと笑い合う。

うん、今日のフランツはいつも通り。過剰反応フランツじゃないな。

「お散歩ですか?」

「そのつもりです。」

「ご一緒しても?」

「もちろん。迷子になる心配がなくなりました。」

「それはよかった。」

二人で歩き出す。

もちろん、普段から紳士的なフランツは、私の速度に合わせてくれる。

まぁ、アルは気付かなかっただけなんだけど。

「地帝国をご覧になって、どう思いました?」

「地球、特に日本と変わりなくて、ちょっとびっくりしました。まぁ、ここは江戸時代の日本でしたけど。」

「サムライですね。」

「よく知っていますね。」

「少々齧りましたから。」

「それはどうも。」

穏やかだ。

うぅん、例えて言うなら、恩師といる感じ?学生時代の恩師と久しぶりに会って、昔話をしている空気みたいかな?ちょっとの緊張感と程よい親しみが交じり合った静かな穏やかさなのかな?

「創帝国は全然違いますよ。」

「どんな…。あっ、聞きません。だって、楽しみが半減しちゃう。」

フランツが横で笑っている。

まぁ、笑いたい気持ちもわかるよ。

「スイ、一つ面白い話があるのですが、聞きたいですか?」

「面白い話?もちろんです。」

気付けば建物の外。

いつの間に?まぁ、綺麗な晴天。緑に囲まれているから、余計に空気が美味しく感じる事。

「ある男性の話なんですが、彼は女性アレルギーなのですよ。」

「女性アレルギー?」

「そうです。自分に下心を持って近付く女性が、彼の身体に触れると、蕁麻疹が出来てしまうのです。酷い時には、抱き付かれたりなんてしたら、ショックで倒れてしまうほど。」

「下心って?」

うん?これって、アルの事じゃないな。一体、誰の話?フランツじゃないよなぁ。あっ、もしかして、フランツの息子さんとか?

「地位やお金、目当てというところでしょうか。まぁ、ルックスも良いので、純粋な恋心を抱いた方もいたかもしれませんが、地位等が先に付き纏いますからね。」

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「どうぞ。」

「それって、もしかして、フランツの息子さんだったりする?」

「はい?」

あれ、違うの?

あぁ、この眼差し、知っている。セイ曰く、鈍感天然スイちゃんを見る目だ。

良い推理したと思ったんだけどなぁ。

「まぁ、それは置いておいて。話を進めても良いですか?」

ありがとう、そうしてください。

「そんな彼にも身内以外で女性に触れてもアレルギーが出ない方がお一人いたのですよ。それも彼の方から嬉々として、彼女に触れたがったのです。」

「恋したの?」

「いいえ、愛しているのですよ。心の底から、彼女を。」

「余程魅力的な人なんでしょうね。」

「…そうですね。とても魅力的な女性ですよ。」

何ですか?話し出すまでの間は?ゆうに三十秒はあったよ。

「笑顔がとてもチャーミングで、人と真っ直ぐに向き合い、思いやれる。まぁ、かなりズレた所もありますし、この上なく鈍感ですけど、人を惹き付けるモノがあります。」

へぇ、余程魅力的な女性なんでしょうね。あぁ、私もそんな風に言われるようになりたい。

「でも、びっくりしましたよ、あの時は。儀式とはいえ、手の甲に口付けしても何でもないですし、自分から進んで彼女を抱き起こしても、横抱きにして身体を密着させても、倒れる処か、蕁麻疹一つ出ない上、あの蕩けそうな笑顔。もう彼女を見つめた瞳は、愛しいと訴えていますからね。」

「はぁ。」

うん?気のせいかな?彼が彼女にした行為って、わたしもアルにしてもらった記憶があるのとダブるなぁ。まぁ、気のせいだな。

「それで、彼とその彼女は、結ばれたんですよね?」

「はい?」

フランツが口を半開きにしたまま、一時停止。再生ボタンが押されるまで数十秒の沈黙。

再生はフランツの深い溜息から始まった。

「スイ、よく鈍感と言われません?」

今の話と鈍感がどう関係するの?

「セイを先頭に、両親、友達、果てはウィルにまで言われていますけど。それが何か?」

「いえ、確認したかっただけです。」

「何のために?」

「…それで、彼の事ですが。」

明らかに私の質問を流したよね。

「まだ、彼の片想いのようですね。その彼女がとんでもなく鈍感なので。」

「ふぅん。何で、彼は告白しないの?多分、多分だけど、両想いだと思うよ。だってさぁ、彼女、彼に抱きしめられても嫌がらないんでしょう?それって、嫌いではないし、むしろ好意はあるよね。」

「ですよね。」

「でも、それを恋愛として実らせるかどうかは、彼次第じゃないかな?」

「どうしてですか?」

「だって、フランツが言ったじゃない。彼女はとんでもなく鈍感だって。」

「はい。」

「つまり、自分の気持ちにも鈍感な所があるんじゃないかな?だから、少し強引なくらいで彼女の心を引き寄せないといけないわけ。」

フランツが大きく頷く。わかってもらえたらしい。

「ところで話は変わるのですが。」

女性アレルギーの彼ととんでもない鈍感の彼女の話は終わったらしい。

「スイにお願いがあるのです。」

「私に?出来る事なら。」

「今夜、創帝国で歓迎パーティーが開かれるのです。もちろん、スイ達の。」

「私達の?」

「一応、建前的には、アレク王子が一ヶ月の留学に出ている事になっているのですが、そこで仲良くなった友人を連れてくると、重臣には話してあるわけです。」

「あぁ、そう言われれば、前に聞いたわ。創地帝妃の存在は婚約までは内緒って。だから、苗字を言ってはダメって。」

「そう、その通りです。」

あぁ、フランツ。本当に学校の先生みたい。きっと学生に好かれる良い先生だろうな、って、違う。今はそんな事じゃない。

「それで?」

「その時、パーティーの間、アレク王子から離れないでいただきたい。」

「何で?」

「理由は、現時点ではお話出来ません。が、追々わかると思います。」

「別にいいけど、アルは知っているの?」

「もちろん、お話しておきます。」

「でも、そんな事をしてもいいの?」

「何故ですか?」

まぁ、フランツなら知っているよね?本当にそうなら。

「それって、パートナーってヤツでしょ?普通、そういうのは、付き合っている人にやってもらうんじゃないの?」

「はい?」

再び数十秒の沈黙。一体、何?今のフランツは過少反応なの?

「ま、まぁ、パートナーは、確かにそういう立場の方が多いですが。」

「アルにもいるでしょ?そういう人。または、近い立場の人。」

数秒、瞬きをしていたが、次は大笑いを始めてしまった。何なの?

「ア、アレク王子に、ですか?」

そんな笑いながら、息を切らし、言う事?

「もちろん。だって、あのルックスで優し過ぎるほど優しくて、凄く頼りになる性格。いても不思議はないでしょう?まさか、フランツには隠しているとか。あっ、ヤバイ事言っちゃったかな?」

「いいえ、アレク王子には、間違っても他にそのような方はいらっしゃいません。」

他に?って、誰か一人はいるって事?そっか。決まった婚約者がいるんだな。あれ?また、胸が痛い。最初からわかっている事なのに…。

「じゃあ、わかりました。私でよければ、代役、承ります。」

「代役?」

いやぁ、今日のフランツとの会話は、沈黙が多く挟まれるな。何故?

「だって、決まった女性がいるんでしょ?婚約者か、何か。」

「アレク王子の婚約者は貴女ですよ、スイ。」

「私?」

「まぁ、創地帝妃ですから、ウィル王子も貴女の婚約者ですけど。」

こんな会話、昨日もした気がする。もしかしてデジャビュ?って、現実逃避は止めよう。

「ははは。」

引き攣り笑いで誤魔化してみる。

まぁ、フランツは紳士だ。ここで誤魔化すなと突っ込む事はしないだろう。

「まぁ、無理もないですね。一ヶ月にも満たない時間に、異世界や婚約者等、色々な事が起こり過ぎますからね。」

「ありがとう、フランツ。私の気持ち、わかってくれるのね。」

嬉し過ぎて、フランツの両手を握り締めてしまった。

「もちろんです。スイのためなら、努力は惜しみません。」

フランツも私の手を握り返してくれる。いやぁ、本当に良い人だ。

「何してんの?」

二人で感動に浸っていると、横から呆れた声が聞こえる。

「あっ、ウィル。おはよう。」

「おはよう。で、何してんの?」

「見て、わかんない?」

「わからないから、聞いている。」

「フランツの優しい気持ちに感動して、感謝を伝えている場面(シーン)よ。」

「はい?」

「じゃあ、スイ。私はそろそろ戻ります。今夜、お願いしますね。」

「もちろん、了解します。」

フランツと手を放し、敬礼をしながら見送る。ウィルは訳がわからないと言わんばかりの表情している。でも、まぁ、綺麗な顔は崩れていない。美人は得だね。


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