22.鈍感天然スイちゃん
「何、やっているんだ?」
真横から声がして、振り返るとセイが立っていた。
「セ、セイ。ね、寝たんじゃないの?」
「喉渇いたから、何か飲もうと思ってさ。」
「そ、そうなんだ。」
私は何を動揺しているんだ?
「で、アレクが帰っていったドアを見つめて、何をしているんだ?」
セイは性格が悪いのか?
「もう五分は経っているぞ。」
うん、やっぱり性格悪い。
「私も何か飲もうと思って、何にしようか考えていたの。」
「ふぅん。」
ちょっと苦しい言い訳だったかな?でも、自分でもよくわからないんだよね。
「それより、ここの街、東京と変わらなかったね。創帝国の帝都も同じかな?」
「話の逸らし方がわざとらしいな。それだけ動揺しているって事か。」
セイって、こんなにも性格が悪かったかしら?人間、そんなに急に変わらないだろうな。そうだね、悪かったんだよ。
「スイ、そこで何か飲みながら、話そう。」
あぁ、そうですか。このまま、流してはくれませんか。
「ほら。」
冷蔵庫らしき物から、お茶を出し、手渡してくれる。
まぁ、お茶と言っても良いんだろうな。何かの葉から抽出したらしいから。
「ありがとう。」
セイと並んでふっかふっかのソファーに腰掛ける。
うわぁ、身体が沈む。
「それで、お前、どうするか、決めたのか?」
「何が?」
「結婚に決まっているだろう。」
そんなに怒鳴らなくてもいいんじゃない?
「多分、どっちも断る。」
「何で?」
「だって、ウィルにはリリアンナがいるし。」
「アレクは?」
「きっと、いるよ。だって、あのルックスであの性格だよ。それに王子様。いるに決まっている。」
「直接聞いたのか?」
「聞いていないけど、いるでしょう。だって、ウィルだって…。」
さっきからずっと胸が痛い。いつもの私らしくもなく、歯切れも悪いし。
「ウィルとアレクは別だろう。」
「でも…。」
「怖いのか?」
セイの言葉に心臓が跳ね上がった。
「失恋するかもしれないから、逃げるのか?」
「…私は、別にアルの事、アルに恋なんてしていないよ。」
「スイ、いい加減、自分の気持ちを誤魔化すのは止めたら?本当は自分でもわかっているんだろう。」
もう、逃げられないのかな?誤魔化せないかもしれない。
セイに言われると不思議と素直になってしまいそう。でも…。
「まだ、一ヶ月経っていないよ。もう少しね。」
「スイ…。」
「さて、寝よう。セイも早く寝た方がいいよ。」
フッカフッカのソファーから、『ドッコラショ』と掛け声を飲み込みながら、立ち上がる。
本当にふかふか過ぎて、立ち上がり辛いのよ。
「あっ、スイ。」
「うん?」
「そっちの部屋にもベッドが二つあったよな?」
「あるけど。」
「そっちで寝る。」
「はい?」
セイにどんな風が吹いている?
「いや、あの物音が煩くて、さぁ。」
「あぁ、はい、はい。いいよ。」
ウィルとリリアンナも元気だなぁ。
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
窓に近いベッドにセイ。ドアに近い方に私が潜り込んだ。
いやぁ、家のベッドと違って、マットもふわふわだよ。
「なぁ、スイ。」
「何?」
「アレクと結婚しろよ。」
「はい?」
ほとんどない腹筋を使い、あり得ない勢いで起き上がってしまった。
「な、何を言い出すのよ。」
あぁ、私、動揺丸出しだよ。まぁ、セイだからいいや。
「まさかと思うけど、本当に気付いていないのか?」
「何が?」
「あぁ、悪かった。そうだな。鈍感天然スイちゃんだもんな。」
「はい?」
私は鈍感でも天然でもないはずだ。そうだよね?
って、今はそこじゃなくて、何に気付いてないかの問題だ。
「何に気付いていないと言いたいの?」
「それを俺が言うのは違う気がする。」
「はい?」
「自力で気付け。」
何だ、それは?
「自力で気付けないから、何もわからないんでしょう。」
「あぁ、確かにそうだ。」
「ヒントくらいちょうだいよ。」
自分で言っていて、何だけど、クイズかと突っ込みたい。
「ヒントねぇ。あぁ、その前に自分の気持ちはわかっているよな?」
「自分の気持ち?今、腹筋が吊りそうだなって思っているけど。」
そんな深々と溜息をつかないで。確かに誤魔化そうとした苦しい言い逃れだけど。
「わかっているよ。でも、私、この気持ちを認めてしまったら、多分、壊れる。」
「はい?」
膝を引き寄せ、ベッドの上で体育座り。
「今まで、届かない想いばかり重ねてきて、慣れっこのはずなのに、おかしいでしょ?でも、今回はダメ。」
「そんなに好きなのか?」
「絶対に認めないよ。」
自分で重い事を言っている意識がある。だから、微笑で誤魔化す。
「アレクも同じ様に思っているとしたら?」
「まさか。」
「アレクはお前には特別扱いだろう。」
「元々優しい人なんだよ。女性には特に。」
「そう思うのか?」
「そうじゃなければ、お飾りの創地帝妃が欲しいからとしか考えられないでしょう。そんな風には考えたくない。」
あぁ、ついつい溜息を零しちゃったよ。幸せ逃げたのかな?
「もし、告白されたら?」
「…やっぱり未だ怖いと思う。」
「臆病なんだな。」
「まぁ、失恋経験ばかり重ね、女としての自信なんて皆無だからね。」
「スイは女としても魅力的だと思うけどな。」
「優しい慰め、ありがとう。そう言ってくれるのはセイだけだよ。」
「鈍感天然スイちゃんだけある。」
「はい?」
「さぁ、寝るか。明日も早いぞ。」
寝ようとしていたのに起こしたのは、セイでしょう。本当に勝手なんだから。
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
布団にもぐってみたけど、眠れそうにないな。今夜の私。