20.リリアンナの本音
「創地帝妃様、こちらにお召し替え下さい。」
部屋に入ると、リリアンナさんはすぐに服を出してきた。淡いグリーンのひらひらのついたドレス。
おぉ、これぞ、お姫様。じゃなく、私は言わなくてはいけない事があるんだ。
「リリアンナさん、ごめんなさい。」
「お気に召しませんか?」
「そうじゃないの。服の事ではなくて。私なんかが創地帝妃なんて呼ばれる人物でおこがましいなって。」
「はい?」
「私の事というか、私みたいなのが創地帝妃で気に入らないんでしょう?」
「な、何をおっしゃるのですか?」
美人は図星を付かれ、慌てている姿も美しい。
「私、美人、あっ、ルックスだけじゃなく、騎士団長をしてらっしゃる格好良い女性に憧れるんです。私、あんまり運動神経が発達してなくて、料理とか編み物くらいしか出来なくて、間違っても格好良いとか美人とか言われるルックスしてないし…。とにかく、美人が好きなんです。是非、お友達、親しくなりたいんです。」
「はぁ。」
コイツ、何を言っているのか?と、呆れた返事。でも、挫けない。
「なので、本音で話をして、仲良くなりましょう。」
沈黙。まぁ、わかっていたけど、ちょっと痛いよね。
「ぶ。」
ぶ?ブタさんの鳴き声じゃないよね?もしかして、リリアンナさんの笑い?
「ぶはははは。」
だったみたい。やっぱりカスパーの娘、ウィルの幼馴染。
「し、失礼しました。」
どうにか笑いを収め、真顔になろうとしているが、完全に声に笑いが交じっていますよ。
「やはり父から聞いた通りの方ですね。」
「カスパーは何て?」
「それは本人から聞いてください。」
気になるけど、今はいい。
「行き成り本音トークだけどいいかな?」
「どうぞ。」
「リリアンナさん、ウィルと付き合っているんでしょう?」
「王子と、ですか?いいえ、付き合ってはいません。王子は貴女様と御結婚されるおつもりですよ。そんな他のどなたかとお付き合いするような事はなさいません。」
「ストップ。私、そんな建前を聞きたいわけじゃないの。はっきり言って、創地帝妃との結婚って、政略的な理由ってわかっているから。それと私の事はスイって呼んでね。もう一つ、これはただのガールズトーク。二人だけの内緒話。敬語は止そう。」
「よろしいのですか?」
「もちろん。」
「じゃあ、私の事もリリアンナと呼んで。」
やっとリリアンナさん、リリアンナが騎士団長さんの仮面を取って、笑顔を見せてくれる。
うん、やっぱり美人の笑顔は良い。
「言い方を変えるわ。リリアンナはウィルの事、一人の男性として、好きよね?」
「…でも、王子はもう御結婚されるから。」
「誰と?」
「は?」
「婚約者がいるの?」
「何、言っているの?」
「へ?」
「創地帝妃が。」
「私?私はウィルかアルのどちらかと結婚するらしいけど。」
「アレクサンドル王子を選ぶの?」
「ウィルに婚約者がいるのなら、そうなるでしょうね。」
「だから、その婚約者はスイ、貴女でしょう。」
かなり遠回りでちぐはぐな会話をしてしまった。…私が悪いのかしら?
「そ、その事は置いておいて。リリアンナは、ウィルの事、どう想っているの?」
「スイはどうなのよ?」
「私は、うぅん、はっきり言って、恋はしていないわね。リリアンナは?」
「…王子は、私をそんな風には見ていないわ。」
「それって、つまり、好きって認めるのね。」
リリアンナが頬を染め、頷く。
美人なのに、こんな姿は可愛いなんて、ずるいでしょう。
「ス、スイはアレクサンドル王子を選ぶの?」
「私は、…本当言うとわからない。ウィルもアルも良い所がいっぱいあるし、結婚とか考え出すとますます混乱中。」
「私は、ウィル王子を選んで欲しいな。」
「リリアンナ?」
「スイならウィル王子の事、諦められそう。どっかの重臣の娘とかの綺麗なだけのお嬢様だったら、ゲンメツ。」
「私はリリアンナが似合うと思うけど。」
リリアンナが口元を歪め、苦笑を零す。何処となく淋しそう。
「残念ながら、私は付き合うとか結婚とかの対象ではないらしいの。」
「何か根拠は?」
「ごめん。私の口からは…。」
「そっか。ごめん、私こそ。」
言い辛そうに言葉を濁すには、きっと深い理由がある。
「とりあえず、おしゃべりはこのヘンにして、着替えましょう。」
「あぁ、そうね。」
ううん、本当にリリアンナの一方通行なんだろうか?凄く引っ掛かるのよね。確かにウィルは、私を好きだと言ってくれたけど、リリアンナに会ってから、少し違うなって、思うようになったんだよね。