18.いざ、地帝国へ
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
唯今、土曜日午前九時。地帝国に旅立つ日です。
アル、ウィル、フランツ、カスパー、セイ、私の六人がが出掛けるメンバー。
これは良いのですが、何故見送る側に、キヨちゃんがいるのでしょう?もう臨時アルバイトも終わり、本来の仕事に戻ったはずです。それに両親との会話で旅行の事を聞いたのでしょうが、一体何処へ行くと聞かされているのでしょう?
「お土産、楽しみにしている。」
一体、何を買ってきたら良いのでしょう?まぁ、後でセイと相談しましょう。
「じゃあ、行ってきます。」
大きなバッグを肩に掛け、出発。
それにしても、皆、どうして、そんなに荷物がないの?ウィルとカスパーがほとんど手ぶらなのはわかるけど、アルとフランツ、セイまでもが小さなバッグ一つ。どうやって、着替えとか諸々を仕舞ったのでしょう?
「セイ、どうしてそんなに荷物が少ないの?」
「全て用意してくれるって言うから、下着しか持ってきていない。」
「洋服は?」
「せっかく異世界に行くんだ。あっちの服を着る。用意してあると思うし、コスプレも楽しそうだし、慣れるためにも服は持たない。」
あぁ、そういう考えもあるのね。
「スイは逆に、慣れない服も着辛いし、コスプレも遠慮したいとか思ったんだろ?」
「ううん、はずれ。用意されている事なんて、頭の隅にも浮かばなかった。それに向こうのお金を持っていないから、買う事も出来ないとか考えたら、この量。」
「本当、庶民的な考えだな。」
「何よっ。」
だって、庶民だもん。同じ家で同じ様に育ったのに、何を言うか。
「必要な物があれば、いくらでも僕が買ってあげるよ。安心して、スイ。」
「ダメよ。」
「へ?」
ウィルが甘い言葉をくれるが、惑わされてはいけない。
「働いて得たお金。大切にしなくちゃ。本当に自分に必要な物をきちんと選んで買わなくちゃ、すぐに破産してしまうでしょ。」
「破産はないと思うけど、ね。」
余分な事を呟くセイを横目で睨み付ける。それなのに、何処吹く風。
「行くぞ。」
「ぎゃ。」
背後からお腹に腕を回され、肩に担がれる。
あのぉ、アル。私、荷物じゃないよ。
「セイもフランツにしがみ付け。置いていかれるぞ。」
どうやらドコデモ扉に着いたらしい。それらしき物はないよ。見るのは私達の家の庭。って、近所を一周して、戻ってきたんかい。落ち着け。今はその突っ込みはなしにしよう。
そのドコデモ扉はどれ?目の前にあるのは、小さな頃、セイと上って遊んだ大きな石だけだよ。うん?カスパーがその石に触れ、何かをぶつぶつ言っている。
「消えた。」
フランツの横腹にしがみ付いているセイと、アルに荷物扱いされている私の声。
「アレク、先に行け。」
「あぁ。」
つ、次は私達ですか?どうなっちゃうの?大丈夫なの?あぁ、アルも石に触れ、ぶつぶつ言っているよ。
「うぎゃ。」
世界が一瞬ふにゃりと歪んで、きつく目を閉じた。
「着いたぞ。」
アルの声でゆっくりと目を開けた。
あれ?世界が変わっている。でも、普通の森の中。私、中世のヨーロッパの街並みを考えていたんだけど、なぁ。
「ぎゃあ。」
私に負けないほどの声を発したセイは、ウィルとフランツに挟まれ、まるで命からがら抜け出してきた人みたいに、ぐったりしている。
セイ、安心して。私も同じようだと思うから。
「ふにゃあ。」
アルがお荷物だった私を肩から下ろす。地面に立った感じは同じなのね。でも、ちょっとふらふら。歪みに酔ったかな?
「アル、運んでくれて、ありがとう。でも、出来れば荷物みたいに担がないで欲しいな。」
「どうすればいい?」
先に着いたカスパーと、ウィルとフランツの三人は、木陰にセイを座らせ、何やら話している。
普段は車酔いとかしないけど、この感覚は始めてだもんね。
「あのねぇ、この前、私の部屋からアルの部屋に連れて行ってくれたみたいに、その横抱きというか、お姫様抱っこがいい。」
「こうか?」
「きゃ。」
急に抱き上げないで。びっくりするでしょ。まぁ、びっくりしたのは、私だけじゃなく、木陰にいる四人も目を丸くして、こっちを見ているよ。
「あの、今は別に必要ないかと。」
「膝が笑っているだろう。」
「でも、重いでしょ?」
「まぁ、軽くはないな。でも、粋晶だから、大丈夫だ。」
私だからって、どういう意味?
「ここが抜ければ、すぐです。行きましょう。」
おぉい。平然と歩き始めないで。この状況に何か言わないのか?セイ、ウィル、お願い。何か言って。このまま、スルーされるのは、何故か凄く恥ずかしいのですが。
「アレク、おんぶの方がいいぞ。背中に胸が当たって。」
「セイ!」
いえ、やっぱり、このまま、スルーしてください。それがさっきまでグッタリしていた人の言葉?
「あっ、それなら、僕がするよ。」
「ウィル、無理するな。スイは重いぞ。」
「……やめておこう。」
今、目で体重を測りましたね。乙女に失礼でしょう。
「今日は、力持ちのアレクがいるから、任せよう。」
取って付けたような言い訳するな、バカウィル。
「あの、アル。」
「掴まっていてくれ。歩き辛い。」
「私、歩けるよ。」
「いいから、首に手を回して、掴まれ。」
「はい。」
重いのになぁ。アル、何でもない顔しているから平気なんだよね?
でも、こういうのいいな。凄く大切にされているって気がする。あぁ、嫌だな、私。何を考えている?バカ、みたい。ヘンな期待、期待って何?私は別にアルの事……。
ヤ、ヤメヤメ。もう考えるのはヤメ。いいや、しばらく、アルに甘えよう。そう、これでいいね。