17.マニアな重臣
「こんばんは。呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン。」
カスパー、九十歳代が使うギャグじゃないと思う。その前にどうして、地球それも日本のこんな情報を知っている?とあるアニメだよ。それもちょっと(かなり?)前。
「早っ。」
そう、本当はそこを驚きたかったのに、すべり気味のギャグに気を取られてしまった。さすが、私。
「そうですか?入り口さえ抜けられれば、徒歩五分以内ですから。」
「入り口を抜ける?」
「こちらにもありますよね?青くて丸いタヌキが『何処でも扉』って。」
どうして、知っている?その前に、タヌキではなくネコ。扉じゃなくドア。
実はオタク?そっか。異世界にも存在するのかぁ。
「それと同じ様なモノです。」
「あれはアニメなので、こちらでは実在しません。」
「あぁ、そうですか。残念。」
カスパーが指を鳴らし、にんまりと笑った。何か深い意味があるの?
「こんばんは。フランツ、参上しました。」
こちらも早い。
うん?フランツは肩にコクヨウを乗せ、一緒に来たけど、カスパーは一人だよね。コハクは?
「ただいま。酷いんだよ、カスパー。コハクを置いて行っちゃうんだよ。」
と、心配していた途端、現れました。それもちゃっかり私の膝の上に乗っている。
「酷いよねぇ、スイ。」
可愛いぃ。ミニチュア美青年で甘えないで。蕩けちゃう。
「俺もいい?スイ。」
イヤァ。コクヨウも可愛い。抱き締めたい衝動と戦いながらも、自然に頬が緩んでしまう。
コクヨウとコハクは、私の膝の上にちょこんと座っている。
その姿が、もう可愛くて可愛くて、どうしてくれよう。
「コハク、もういい。」
「コクヨウ、戻れ。」
ウィルとアルの声がハーモニーを作ると、コハクとコクヨウは消えてしまう。
グスン、こんなに可愛いのにぃ。まぁ、話に集中出来ないから仕方ないよね。
「コハク?コクヨウ?」
フランツとカスパーのハーモニー。意外と重臣コンビも息が合うのね。
「スイが従獣に名前を付けてくれたんだ。」
「私にもぜひお願い致します。」
フランツ、早っ。そんなに力いっぱい言わなくてもいいんじゃないでしょうか?
「私でいいの?」
「ぜひ、いえ、絶対にスイにお願いします。」
「あの、一応、従獣を見せてもらってもいい?呼ばれるのは、その子だから選ぶ権利があると思うの。」
「もちろん、お見せします。いえ、見てください。」
気のせいでしょうか?時々、フランツって過剰反応するよね。原因は一体何?共通する事あった?
「可愛いぃ。」
やっぱり可愛い。うん?カスパーも見てくれているって事は名前を私が付けるって事?
「カスパーも?」
「もちろん、お願いします。スイに名付けてもらえるなんて、王子に付けてもらうより何倍も自慢出来ますから。」
カスパー、それ、どういう意味?ウィルももう反論しなくなっているいいのか?でも、ちょっと残念。フランツだけだったら、小鉄と付けようかなんて。
「えぇっと。」
お願い、ミニチュアフランツとカスパー。そんな期待した目で見ないで。
「フランツの従獣は、カーネリアン。カスパーの従獣はマラカイト。で、どうかしら?カーネリアンは鉄、マラカイトは銅が含まれた石の名前なの。」
「マラカイト、良い響きだ。」
命名マラカイトも納得してくれた様子。
「カーネリアン、素敵です。スイ。」
「ありがとう。一生、大切にします。」
命名カーネリアン、貴方までフランツと同じ過剰反応するんですね。
「終わったか?本題に入ってもいいかな?」
セイ、そんな嫌々な言い草をしなくてもいいんじゃない?
「あっ、はい。すみません。」
「どのような御用で。」
フランツとカスパーの表情が引き締まる。仕事モードね。
「創地両帝国に一度訪れてみたい。可能だろうか?」
「可能です。」
フランツ、即答。前以って、調べていたの?
「過去六人中一人と少ないですが、両帝国を訪れています。ただ、日数は三日以内。王都から出ない。寝泊りは王宮内。交合禁止。まぁ、交合は封印が解かれる成人までどちらにしても無理ですが。等の決まりがあります。」
「はい?」
「フランツ、今、何て言った?」
ウィル、アンタがそれを聞き返しますか?
「ですから、日数は三日以内。王都から。」
「そうじゃない。最後、交合はってところだ。」
「封印が解かれる成人までムリですって事ですか?」
「そうなのか?」
「えぇ、例え、王子でも無理です。本来は婚前交合など王家としてはして欲しくないのですが、婚約後ならと妥協しているわけです。ちなみに五人目の方は、結婚式の際には身籠っておられました。えぇっとですね。この封印が王子でも無理になったのは、三代目以降です。二代目のエリザベート様は、創地帝妃求婚期間中に身籠られました。地帝子が交合を強要したのが原因なのですが、その後、エリザベート様も地帝子を愛し、幸せになられました。ですが、もし、両帝国王子と交合し、身籠られたら困ります。その為、はっきりお心が決まる成人まで王子でも封印が解けないように致しました。」
フランツ、よく知っているね。
「もし、強要しようとしたら?同意でも?」
「無理です。必ず邪魔なり、気持ちが削がれるなり、王子が一時不能になるなり、まぁ、色々な妨害に合いますね。」
ウィルが絶句した。
何も言うまい。つまり、私の身は安全。まぁ、もうしないって約束してくれたけど。
「また、話が逸れた。」
不満な声をあげたのは、セイ。
そうね、さっきから本題が進んでないね。
「つまり、今度の土日月三日で一泊半ずつ両帝国を見たい。もちろん、俺も一緒に行く。」
「かしこまりました。」
「それで必要な物はあるかな?逆に持ち込んではいけない物とか。」
「こちらで全て用意させていただきます。持ち込んではいけない物ですか。電化製品は持ち込んでいただいても使用出来ません。」
「手土産は?」
「スイのクッキーが良いです。」
「はい?」
「そうですね。スイの作った焼き菓子がいいですね。甘い物が苦手のウィル王子も食べられますから、万人に好かれるという事です。」
フランツのも唖然としたが、それに同意するカスパーもカスパーだ。
まぁ、いい。安上がりだ。ちょっと手間だけど、きっとアルが手伝ってくれるし。
「わかりました。そうします。」
「では、前半は地帝国へおいでください。いいですか?フランツ。」
「えぇ、こちらは後半で抜かりない準備をさせていただきます。ところでその時、ウィル王子に付いてカスパーも来てくれますよね。」
「もちろん、そのつもりです。フランツもいらっしゃってくださいね。」
「是非。では、私達はこれで。」
「失礼します。」
フランツとカスパーが仲良く部屋を出て行く。
それにしても一体、何処にドコデモ扉はあるのだろう?
いや、今はそんな事より聞きたい事があるんだ。
「ねぇ、ウィル。」
「な、何かな?」
先程のヤツを引き摺っているの?動揺していますよ。
「カスパーって、アニメオタク?」
「アニメオタク?あぁ、創地帝妃の生活を知るためと言って、汐美にそんなのが映っているのを送ってもらっていたな。」
なるほど。それにしてもお母さんが選んだ物が微妙な気がするんだけど。
「ウィルも見た?」
「スイが小さな頃に見たと言うので、一応は見ているが、カスパーほどではないよ。」
こんな綺麗なウィルがオタクになったらどうなるのか、ちょっと見てみたかったけど。
今度、皆で聖地巡礼に行ったら、カスパー、歓ぶかな?
「ねぇ、アル。」
「うん?」
「えぇっと、フランツって普段からあんな感じなの?」
「あんな感じとは?」
「時々、過剰反応というか、反応が大きいというか、そういうところあるよね?」
「あぁ。」
アルも思い当たるところがあるらしく、少し呆れ気味の返事。
「創地帝妃に過剰反応するんだ。創地帝妃、マニア、か。」
「はい?」
「だから、七人目の創地帝妃である粋晶が生まれた時は、大騒ぎだった。帝子仕えの重臣になったのも創地帝妃に会えるかもしれないと不純な動機だと聞いた。」
「だから、あんなに詳しいの。」
「だろうな。」
世の中には色んなマニアがいるらしい。
「別にそんなに珍しくないよ。創地帝妃マニアなんて。」
「ウィル?」
「街中にたまに過去の創地帝妃の肖像画ほど立派じゃないが似顔絵より芸術的な物が売っているし、創地帝妃の生涯を書いた本とかも出回っている。」
「あ、あの、ま、まさか、と思うけど、わ、私も?」
「スイはまだだよ。婚約の儀までは創地帝妃がいる事さえ内密にしてあるから。良からぬ事を考える輩がいるからね。」
あのぉ、私、一から色々考え直してもいいですか?
そんな皆様に画として買っていただけるほどの美貌もない普通並程度かそれ以下のルックスですし、本に書いてもらうほどの生涯も平々凡々過ぎて、ネタがないと思います。まぁ、哀しいけど、失恋経験だけは多いから、ぐちゃぐちゃと装飾品を付ければ、どうにかなるかもしれませんが、そんな本は売れないでください。お願いします。
「スイ、知る自由がある。諦めろ。営業妨害するなよ。」
「私の人権は?」
「王妃になるんだ。多少は我慢だ。」
セイ、他人事な慰め、ありがとう。
もういい。私が目にしなければ、ないのと同じ。そう思うしかないのかな?