16.セイと内緒話
「おかえり、セイ。」
夕食の少し前、待ちに待ったセイが帰ってきてくれた。嬉し過ぎて、抱きついちゃうのは、私の家族ならでは?
「ただいま、スイ。」
ぎゅっと抱き合い、お互いを確認。
やっぱり、セイがいないと淋しかったよ。
「おい、スイ。お父さんとお母さんが帰ってきた時、そんなに歓ばなかっただろう。」
「セイは超特別なの。ねぇ。」
「ねぇ。」
セイとにっこり笑い合うと、その後ろから呆れた溜息。
「お前等、いい加減、兄妹離れしたら?結婚出来ないぞ。と、スイにはアレクとウィル、二人も婚約者がいて、セイにはいないのか?」
「何人か立候補してくれている人はいるが。」
お父さんが口を濁す理由は、何となくわかる。多分、創地両帝国の女性で、一色家の人間だからとかが理由なんだろうな。だって、セイと面識があって、セイに一目惚れとかはないもんなぁ。
「セイ、夕食の後、独り占めしてもいい?」
「もちろん、スイのためなら。」
「ありがとう、セイ。」
再び、ぎゅっと抱き付き、過剰なスキンシップ。
「アレク、ウィル。羨ましいだろう。これが俺の特権。」
セイってば、私をぎゅっと抱き締めて、鼻を鳴らしている。
羨ましいのか?
「結婚したら、そんな事はさせないから。」
羨ましいらしいです。
でも、ウィルも子供みたいに応戦しないで。
「粋晶、おいで。」
アルが手招きするので、首を捻りながら近くに行くと、アルの逞しい腕に抱き締められてしまった。
「ふにゃ、ほにゃ。」
筋肉が厚いというのは、防音作用を持たすのか?自分が何を言っているのか不明。
「スイ、僕も。」
「アレク、不意打ちはダメだろう。」
「まぁ、騙されるスイも悪いな。」
「アレク王子の中に、スイはすっぽり入っちゃうんだな。」
それぞれが勝手なことをほざいてくれている。
その間もアルの腕の中に囲われている私は、心地良さを覚えてしまっている。何度か、昨夜もだけど、アルのぬくもりって、安心感があるんだよね。何でだろう?
「何、騒いでいるの?夕食よ。」
母の一言でピーチクパーチクと鳴いていた声はやみ、私もアルの腕から解放される。
「アルのバカ。」
抵抗もしないで、大人しくアルのぬくもりを噛み締めてしまった自分が恥ずかしい。
「嫌じゃないんだよな?」
屈んで、私の瞳を覗きこみ、苦笑を零す。
何でだろう?胸の奥が痛い。
「嫌じゃないけど、恥ずかしい。」
「俺は嬉しい。」
どうして、嬉しいの?どうして、嫌じゃないって聞くの?
私、おかしい。こんな気持ち、おかしいよね?
「そんな事があったのか。」
夕食の後、セイの部屋のベッドの上で向かい合い、ウィルの告白とハルンケアさんの事を話した。でも、ウィルの暴走の事は話し辛くて、意見の食い違いがあって喧嘩して、アルに慰めてもらったけど、すぐに仲直りしたとだけ話した。
多分、セイの事だから、何があったか正確に察していそうだけど。
「で、スイはどっちが好きなんだ?」
「両方、好きだよ。ウィルは華やかで優しくて、会話が弾むし、アルはちょっと不器用だけど落ち着いた優しさがあって、傍にいるだけで穏やかになる感じ。」
「ふぅん。じゃなく、結婚。」
「それで困っているから、セイに助けを求めているんでしょ。あっ、でも、アルは…。」
「アレクは?」
まただ。胸の奥にズキンと痛みが走る。
「セイみたいに世話の掛かる妹みたいに思っているのかなって。」
「その根拠は?」
「私をよく見ているの。ちょっと落ち込むと察してくれて、元気付けてくれたり、何度も私を助けてくれたり、そういう所、セイとよく似ている。だから、スキンシップも少し照れ臭いけど嫌じゃないし、心地良いのかなって。」
セイが頭を抱え、大きく息を吐き出した。
それって、私に呆れている溜息なんですか?
「これはしばらく時間が掛かりそうだな。」
「そうだよね。一生の事だもん。しっかり考えなきゃいけないよね。それでね、セイ、三日位、休み取れる?」
「今度、三連休だろう。今のところ、予定はないよ。」
「そっか。じゃあ、創地両帝国に行ってみたいの。で、王宮を見せてもらって、どんな所か参考にしたい。」
「あぁ、それはいいな。よし、フランツとカスパーを呼んでもらって、手配してもらおう。それは必要な事だよな。」
「でしょ。」
セイが急に立ち上がり、ドアに歩いていく。
「セイ?」
「何しているんだよ。アレクとウィルに、フランツとカスパーを、呼び出してもらうんだろう。」
「えっ?今日?今?」
「連絡だけでも、な。」
「あぁ、そうだね。でも、どうやって連絡するんだろう?」
セイも立ち止まり、顎に手を当て考え込む。
「何かあるだろう。」
投げ遣りな返事をありがとう。だったら、一瞬でも考え込むな。
アルとウィルはリビングで両親に掴まっていた。長々と旅行の話を聞かされ、さっそく印刷されたデジカメ写真を山ほど見せられ、完全なる餌食になっている。
さすがのキヨちゃんは、夕食を済ませるとさっさと帰っていったらしい。
「アレクとウィル、借りるよ。」
「あっ、セイ、スイ。良い所に来たわね。写真、見ない?」
「今、ちょっと忙しいんだ。あとでゆっくり見せてもらうよ。」
「そうそう、じゃあ、アル、ウィル。行こう。」
救出成功。とりあえず、セイの部屋に戻り、先程の話をする。
「さっそく従獣に行ってもらおう。」
「あっ、見たい。」
前から思っていたのよ。二人の従獣が見たいって。
二人とも右手を出し、ぶつぶつと何かを唱えると、手の平にミニチュアのアルとウィル。
「可愛い、ねぇ、名前は?名前。」
「名前?普通、付けないよ。」
「えぇ、呼ぶ時、困らない?」
「困った事はない。」
「付けた方がいいよ。だって、自分の分身なんでしょ?仲良くなりたいじゃない。そのためには名前って、重要でしょう。」
「スイ、自分の分身なら元から仲良しなんじゃないか?」
「そっか。」
会話が何処かずれているとわかっているが、いつもの事。気にしてはいけない。
「じゃあ、スイが付けてよ。」
「え?私?」
「あぁ、いいな。」
「本当?私、決めちゃうよ。名付け親になっちゃうよ。気に入らなければ、ちゃんと拒否してね。本当にいいの?」
私の長過ぎる念押しの言葉は軽く流され、二人は大きく頷く。
「アルの従獣はコクヨウ、ウィルの従獣はコハク。」
「なんともスイらしい。」
セイが眉間に皺を寄せ、苦笑を零している。
「意味は?」
「両方、天然石の名前。コクヨウは黒い石、コハクは黄色、金色に近い色の石なの。日本名で響きが良くて、色を大切にしようと思ったら、浮かんできたの。」
「コクヨウ、創帝国に行って、フランツを呼んできてくれ。」
明らかにウィルの従獣よりも大きいけど、小さなアルがにっこり笑い、頷く。
「スイ、ありがとう。行ってくる。」
コクヨウって名前、気に入ってくれたみたい。よかった。
「コハクも地帝国へ行って、カスパーを。」
「かしこまりました。」
大輪の薔薇を一本背負わせたら、薔薇の方が大きそうだけど、小さなウィルが薔薇背負い笑顔を見せてくれる。
「スイ、気に入ったよ。ありがとう。」
コクヨウに続き、コハクも一瞬で姿が消える。
「なぁ、スイ。まさかとは思うが、自分の従獣の名前、決めてないよな?」
「いいえ。決めてあります。」
「クリスタルだろう?」
「それじゃ、まんまじゃない。だから、クォーツ。」
「まんまだろう。クォーツの中にクリスタルも含まれているんだから。」
「まぁね。」
セイと私の会話に、首を捻る二人。
まぁ、パワーストーン好きの人でないと、よくわからない話だからね。
「で、俺のは?」
「ジェイド。翡翠の事よ。私にとって、セイって、緑のイメージなの。」
「あぁ、それはわかる。」
ウィルは声を出し、納得し、アルは無言で頷いた。