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創地帝妃物語  作者: 宮月
15/46

15.ウィルの謝罪

 私は、そのまま、アルの部屋の布団で朝を迎えた。アルがずっと手を握ってくれ、座ったまま、眠っている。

「アル、ごめんね。」

「起きたか?」

 アルの顔を覗き込み、小さな声で謝罪すると、アルの目が開き、至近距離で目が合ってしまう。

い、息が掛かったよぉ。

「眠れたか?」

「アルのお陰で私は眠れたけど、アルは眠れなかったでしょ?」

「いや、大丈夫だ。昔は木に寄りかかったまま、眠った事も多かった。」

「えっ、どうして?」

「フランツと旅に出た時は、野宿が基本だったからな。」

「旅?何処へ?」

「創帝国を大体一周。民の生活とか国を知るためと心身を鍛えるためと両方の意味で、人工的な乗り物を使わず足の力だけで回った。」

「凄い。どの位、掛かった?」

「一年程だ。それほど、広大ではないからな。」

「ねぇねぇ、その時の話、聞かせて。」

「それはいいが。時間は平気なのか?」

「えっ?時間?」

 柱時計を見ると、五時五分。

「慌てて、そのまま起きるな。これを羽織って、前を隠せ。」

「へ?」

 あぁ、昨夜の破れた服のまま、寝ちゃったのね、私。

「ありがとう。じゃあ、簡単にシャワーを浴びてから、仕込みにいくね。」

「あぁ、俺も手伝いに行く。」

「ありがとう、またね。」

 バタバタと走り、でも、前を押さえる事を忘れず、自分の部屋に。ぐしゃぐしゃだった布団はきちんと整えられ、いつも通り。昨夜の事が夢ならいいのにと思える。

「あっ、早くしないと、キヨちゃんに怒鳴られる。」

 昨日と同じはずなのに、胸に重く垂れ込める苦さ。早くウィルと顔を合わせて、仲直りしたい。昨夜の事、蟠りとして残したくない。でも、少しウィルが怖い。大丈夫、大丈夫だよね。アルがいてくれるもん。

「おはよう。」

「遅刻だ、スイ。寝坊…か。」

 キヨちゃんの動きが途中で止まる。まるで電池切れのロボットみたい。

「スイ。」

 キヨちゃんが私の首根っこを捕まえ、キッチンの片隅へ。犬や猫じゃないぞ。

「シオコショーやセイが帰ってくる前に、それ、どうにかしろ。そうだ、ハイネックの服に着替えて来い。って、どっちだよ。そんな目立つ場所に。注意しておけ。」

「はい?」

「惚けるな。」

「惚けてないってば。」

「まさか、寝ている間に?いやいや、いくらコイツが鈍いからって、それはない。」

「キヨちゃん?」

「キスマークだよ。」

「へ?」

「いいから、早く着替えて来い。」

「はいぃ。」

 キヨちゃんに怒鳴られ、意味をよく理解出来ないまま、小走りでお店を出る。

「一体、何なの?」

 自分の部屋の鏡を見て、叫びそうになる声を無理矢理飲み込んだ。鎖骨の辺りに転々と赤い痣。左右合わせ六個はある。

「足にもケリを入れておけばよかったかな?」

 驚いたけど、昨夜のような恐怖は湧いてこない。さすが割り切りの早い私。

「あっ、そっか。」

 アルからもらったペンダントがない事に気付くと、胸の奥がチクリと痛む。淋しいような物足りないような、そんな痛み。

やっぱり、普段からアクセサリーをつけない私が、毎日、身に着けていたから、こんな気持ちになるのかな?大切にしていたのに…。


 朝食の時間になるとウィルがダイニングに来る。ぐっと堪えるように視線を落としたままで、薔薇背負い笑顔の姿形ない。

「おはよう、ウィル。」

「おはよう、あの、スイ。」

「食事が終わってから話そう。」

 キヨちゃんがいるからの意味を込め、キヨちゃんをチラっと見てから、ウィルに笑いかける。

「あぁ、そうだね。」

 力ない返事。

これって、反省してくれているって事?

「キヨちゃん、何、一人でそんなに頷いているの?首でも痛いの?」

「いや、何でもない。食べよう。」

「いただきます。」

 ウィルの口も重いし、私も何を話していいかわからないし、キヨちゃんは食べる事に忙しく、アルは元々言葉数が多くない。我が家の食卓には珍しく沈黙が光臨しのさばっている。それが堪らなく居心地悪い。

「ご馳走様。じゃあ、俺、先に店に行っているから。」

 私が半分も食べていないのに、キヨちゃんはさっさと出て行ってしまった。まぁ、この空気なら朝の事もあるし、さっさと席を立ちたいでしょうね。

「あの、スイ、ごめん。僕…。」

 キヨちゃんの姿が完全に消え去ると、苦しそうに口を開いたウィル。同時にアルから貰ったペンダントを差し出してきた。

「もう、私の意志を完全に無視した事をしないって、約束して。」

「スイ?」

 顔を上げ、呆然と私の顔を見つめている。

すみません、そんなに見ても私の顔は観賞に耐え得る美しさとかないし、その前に穴が開いてしまいそうです。

「約束出来ない?」

「もちろん、約束する。絶対に破ったりしない。もしかして、許してくれるのか?」

「許すも許さないもないよ。だって、私も…、ハッキリさせないのもいけないんだもん。わかっているけど、もう少し時間ちょうだい。だって、まだ、一週間だよ。あと、三週間位猶予くれてもいいんじゃない?確かに色んな事があって、とても一週間とは思えないけど、時間的余裕って必要でしょう?それじゃなくても、私、一週間前までこんな事、何一つ知らずにいたんだよ。この制度、もう少し考え直した方がいい。絶対、誰でも躊躇うよ。そりゃ、片方が昨日ふんどし一枚で現れた、あの人のように生理的に無理な人なら、悩まずに決められるけど、アルとウィルみたいに、タイプが違って、性格的にも大きな欠点がなくて…。ごめん、暴走した。」

 うわぁ、恥ずかしい。余分な事を口走ってしまった感、半端ないぞ。誰か、穴を掘ってくれ。もしくは、穴を掘るだけの場所と道具をくれ。自分で掘ってでも穴に埋まってしまいたい…。

「で、俺とウィルが何?」

 普通、そういうのはウィルが言う台詞でしょう。

「何でもない。ほら、さっさと食べて、お店に行こう。あっ、ウィル。私、変わらないから、ウィルも変わらないでいて欲しい。」

「ありがとう、スイ。」

「あっ、それと、これと同じ様なペンダントが欲しいのなら、明日にでも買い物に行こうか?両親が帰ってくるから、店番抜けられるし、ねっ。」

「…。」

何で沈黙?

「アル、その時、ジャンボパフェに再チャレンジしよう。今度はチョコバナナね。」

「あぁ。ウィル、どうするんだ?行くのか?」

「行く。行くに決まっている。」

「そうか。」

うん?今、火花が散った?気のせいかな?まぁ、いい。

ウィルにも表情が戻ってきたし、これでいいよね?


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