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創地帝妃物語  作者: 宮月
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12.変質者再び

 よく眠れずに朝になってしまった。いつもなら、さっさと切り替えられる思考回路も失恋経験しかなかった私には、刺激が強過ぎたらしく、スイッチが動いてくれず、色々な事がグルグル回り続けている。


「おはよう。」

 それでもやらなければいけない仕事を代わってくれる人はいない。やっと布団から抜け出し、店のキッチンへ。キヨちゃんとアルが二人同時に振り返った。

「ひでぇ顔だな。」

「調子悪いのか?」

 キヨちゃん、それが乙女に向ける言葉ですか?アルみたいに優しい言葉を掛けてください。お願いだから。

「寝不足なだけ。大丈夫よ。多分、優しいキヨちゃんがランチまで店番してくれると思うから、その間、寝る事にしたし。」

「俺、そんな事、一言も言っていないぞ。」

「こんな酷い顔のまま、お店に出ろと?」

「あぁ、わかった。」

「さすが優しいキヨ兄様。」

「何が、キヨ兄様だ。」

 大丈夫、私はいつも通りだ。昨日と何も変わらない。

「あっ、いけない。今日、セイが出張で早く出るんだ。」

「ほら、コーンパンとアンパンを持っていってもらえ。」

「あと、もう一つ。」

「仕方ない。出血大サービス、ハムサンドだ。」

「ありがとう、キヨちゃん。」

 キヨちゃんからパンを受け取り、自宅のセイの部屋に。

きちんと起きて準備してある。さすが、セイ。

「朝食用のパンを持っていって。」

「おぉ、サンキュー。ところでスイ。アレクとウィルと三人だけで平気か?」

「大丈夫、大丈夫。お店はキヨちゃんがいるし、何の問題があるの?」

「いや、暴走する事はないだろうけど。スイ、寝る時は部屋の鍵を閉めろよ。」

「部屋の鍵?わかった。」

「本当にわかったか?不安だよ。お風呂の時も鍵を閉めるんだぞ。」

「そんな事より早く行かないと遅れるよ。」

「あぁ、じゃあ、行って来る。ちゃんと鍵をして、風呂上りだからって、薄着するなよ。」

「はい、はい。行ってらっしゃい。」

 まったくセイってば、子供じゃないんだから、大丈夫なのに。

あれ?もしかして、子供じゃないからの心配?

えっ、どうしよう。そっか、そういう意味か。セイ、カムバック。

って、もう背中さえ見えないよ。

「大丈夫、大丈夫。二人とも紳士だもん。」

 仕込みの続きをしようとお店のキッチンへ歩き出し、十歩ほど進むと悪寒を感じた。さっきまで立っていた場所に振り向いて確認してはいかないと思わせる存在がいる。

何で気付けるんだろう?いや、気付いてしまったんだろう?

「おい、お前が創地帝妃か。」

 こ、声掛けられちゃった。どうしよう、どうしたらいい?振り向きたくない。

で、でも、創地帝妃を知っているって事は、帝国の人なんだよね?ヘンな格好しているだけで、中身は普通の人なんだよね?

ゆっくり、ゆっくり振り返ってみよう。

「き、きゃあぁ。」

 姿を見た途端、悲鳴を上げていた。

ごめんなさい、ごめんなさい。アルやウィル、フランツやカスパーを変質者扱いして、ごめんなさい。本物の変質者は、こういう人です。

赤いふんどし一丁、プヨプヨのお腹丸出し、ピカッと光る頭。

「粋晶。」

「スイ。」

 キッチンからアルとキヨちゃん。自宅からウィルが転がるように出てきた。私を守るように、前に立ってくれるアルの背中にしがみ付く。

あのぉ、キヨちゃん、ウィル。呆然と見てないで、アルみたいに行動してください。私、本気で危機を感じたんだから。

「ハルンケア。」

 うん?ウィル、何て呟いた?ハルンケア?

あの某医薬品でなく、ウィルと半分血の繋がった兄、正妃の息子のハルンケアさん?

「えぇぇ。」

 似てない。まったく似てない。何一つ似ていない。半分とはいえ、血が繋がっているのに、ここまで似てないものなのか?

よかった、ウィルがあんなんじゃなくて。

「ハルンケアさんなのか?」

 アルも知っているらしいが、アルの知っているハルンケアさんは、こんなんじゃないらしい。

「お前が創地帝妃なんだな。」

 い、いやぁ。お願い。こっち来ないでぇ。

アルの背中にしっかりしがみ付き、守ってもらおうとするが限界があるのよ。

「余と結婚しろ。」

「いやぁ。」

 手首を掴まれた。気持ち悪い。鳥肌が立っている。気絶したいくらい嫌。

「やめてください。嫌がっています。」

 ウィルが彼の手首を掴み、私の手を解放してくれる。ウィルの声が今まで聞いた事ないくらい、低くて怖い。でも、助かったぁ。

「アレク、スイが怖がっている。もう少し向こうへ。」

「あぁ。」

 アルの背中に隠れたまま、キッチンに近いドア横まで歩く。

「余の何が怖いというのだ。コイツ等とは違い正当な王家の血を引いているのじゃぞ。」

「アンタの格好が気持ち悪いんだよ。男の俺達から見たって、見苦しいのに。スイが怖がるのは当たり前だろう。一体、どういう趣味しているんだよ。ウィルとアレクの知り合いらしいから、警察には突き出さないが充分な変質者だ。」

 偉いキヨちゃん、よく言った。

「あっちゃー。」

 聞き覚えのある声が聞こえ、皆の視線が集まる。

そこには大きなボストンバッグを持ったカスパーの姿。

「カスパー、どうして、ハルンケアをここに連れてきた。」

「いや、違うんですよ。俺が飛ぼうとしたら、勝手に入り込んできたんですよ。その上、その格好。で、仕方なしに俺が一度戻って、服を持ち、カールに報告に行ったわけです。」

「じゃあ、ハルンケアは途中から一人で来たのか?」

「ほら、帝力を探すのは得意でしょ。」

「確かに。入り口を開く時だけ帝力を必要とするだけだから。」

「そ、そんな話は後でいいから。」

「さっさと、その変質者に服を着せろ。」

 キヨちゃんと心地良いタッグを組めたが、内容は最悪だ。

それにしても、どうして、次々とヘンなのが現れるの?それも今までで一番の変質者。外見だけじゃなく、中身も最悪なのは、早くもわかってしまった。


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