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創地帝妃物語  作者: 宮月
11/46

11.ウィルの告白

 母が不在=夕食を作ってくれる人はいない=私が夕食も作る。

キヨちゃんを抜かし、帰ってきたセイを入れ、男性陣三人に順次、お風呂を済ませてもらい、その間に夕食作り。

今日はうどんと天麩羅。天麩羅は少量揚げようとしても山のように作ってしまうから丁度良いでしょう。


「スイ、閉店作業、終わったよ。」

 午後七時十分過ぎ、キヨちゃんが仕事を頑張ったぞと云わんばかりに肩を鳴らしながら、キッチンに現れた。

「ありがとう、明日もよろしく。」

「じゃなく、夕食は?」

「今、準備中。」

「俺の分もあるよな?スイちゃん。」

 泣きそうな声で訴えないでください。

「あるわよ。」

「さすがスイちゃん。」

 こういう時だけ『スイちゃん』なのね。調子が良い事。


 セイ、アル、ウィルのお風呂が終わり、四人がテレビの前で話している。

いや、よく見ると、セイとアル、ウィルとキヨちゃん、二人ずつで内緒話中らしい。

「夕食だよ。」

「はぁい。」

 途端に四人は話を止め、食卓へ一直線。まるで何日も食べてないような勢い。

「いただきます。」

 平均年齢三十六歳とは思えないほどの男達の食欲。

あれ?セイってこんなに食べる方だった?他の三人に感化されているのかな?

「ご馳走様でした。」

 もう、この時には、山盛り天麩羅は綺麗に消え去っている。お皿以外、残る物はない。

普段、両親とセイと私の四人の時、この量なら翌朝の朝食に天麩羅の煮物が出るのに。

まぁ、食べてくれるのはあり難いけど。

「スイ、片付けしておくよ。お風呂入って、さっぱりしてきていいよ。」

「大丈夫?」

「キヨちゃんもいるし、アレクとウィルは、簡単な手伝いをしてもらうから。」

「じゃあ、お願いしちゃおうかな。天麩羅揚げて、汗掻いちゃったのよね。」

 男四人に片付けを任せ、お風呂に。

やっぱりお風呂は良い。生き返る。薄情な友人達のお陰で午前中はヘンな気を使い、午後は平和かと思えば、ティータイムを楽しむマダム達がウィルを捉まえ、談笑を始めてしまったので、いつもの倍、騒々しかった。

あぁ、いつもの平和で静かな日々が遠くに感じる。

そうだよね、一ヶ月以内に、私、アルかウィル、どちらかと結婚すると決めなければいけないんだよね?私、どうするつもりなんだろう?それに二人は本当に私なんかと結婚しても良いと思っているのかな?あぁ、そっか。美女揃いの後宮があるのか。多分、一応、妃として結婚するから、その後宮の方々に苛められちゃったりするのかな?

「止め、止め。」

 考え事を始めると脱線して、どんどん色々な事を考えてしまう。このままじゃ、逆上せてしまう。

さっ、出ようっと。

「ぷはぁ。」

 お風呂上りのコーヒー牛乳は美味しい。それにしてもキッチンにもリビングにも誰もいない。

誰か一人位、私がお風呂から上がるのを待っていてもいいんじゃない?

「あれ?」

 リビングの電気は消えているのに、窓辺に佇んでいるのは、誰?セイじゃないのは、間違いない。月明かりに照らされる金髪は、ウィルしかいないか。

「ウィル、どうしたの?」

「あっ、スイ。湯上り姿、色っぽいね。」

 キラキラ笑顔の輝きが翳っている。

「もしかして、ホームシック?」

「まさか。」

「飲まない?」

「ありがとう。」

 大の大人が並んでコーヒー牛乳っていうのもどうかと思うが、ウィルにアルコールを呑ませると、翌朝に問題が発生するからね。

「スイは凄いね。」

「私?何が凄いの?」

「スイの事、心配してくれる友達がいて、色々な人に好かれている。」

「ウィルこそモテモテじゃない。」

 華やかな綺麗な顔が憂いを含む苦笑に色取られる。

「僕がモテるのは、表面的なモノ。ルックスとか王子とか、そんな理由。でも、スイは違う。内から出る全てに皆が惹かれる。」

 掌で転がしているのは、コーヒー牛乳の入った何の変哲もないコップなのに、ウィルの手だとクリスタルグラスにさえ見える。なんて事を考えている私って、失礼ね。

「何を言っているのよ。優しくて、明るくて、さり気ない気遣いが出来るウィルだからこそモテるのよ。ルックスとかじゃないでしょ。」

「スイ…。」

 あぁ、私、恥ずかしい事、口にしているわ。でも、落ち込んでいて欲しくない。

「僕に言い寄ってくる女は、王妃を狙っているか、次期帝王を産みたいだけ。僕に惹かれているんじゃない。」

「本当に?一人もウィルに、ウィル自身に惹かれた人がいないの?」

「スイ?」

「こんなに、ウィルは素敵なんだもん。ウィルを知っていけば、ウィル自身に惹かれる人もいるはずだよ。それに、ウィル自身を好きになっている人、今はたくさんいるよ。私もセイもキヨちゃんも、そして、アルも。ウィルの事、好きだよ。私の友達、アイキョウアリも、午後来たマダム達も、ウィル自身に好意を持っているよ。」

 満開まではいかないけど、ウィルの顔に笑みが浮かんだ。

うん、ウィルには、この笑顔の方が似合うね。

「ありがとう、スイ。大好きだよ。」

「あっ、私こそ今日はごめんね。ありがとう。」

「へ?」

 忘れていた、アイキョウアリに嘘を付いてまで庇ってくれた事を謝罪しなきゃね。

「午前中に。」

「あぁ、スイの友達?」

「うん。急に騒々しく現れて、相手までさせて、その上、嘘付いてまで私を守ってくれて。」

「嘘?」

 お願い、とてつもなく恥ずかしいから聞き返さないで、察して。

「僕、嘘なんて付いてないよ。どんな嘘を付いたと思っているの?」

「えっ?」

 あんな甘い台詞を覚えていらっしゃらないのですか?

「まさかとは思うけど、スイを愛しているって、嘘だと思ってないよね?」

 あの、その綺麗なお顔に不敵な笑みを浮かべるのは止めてください。家で一人きりの時、幽霊に会ってしまったような恐怖と逃げ場のなさを感じます。

「…あの…言い過ぎかな…と。」

「言い過ぎ?」

 怖いです。本当に怖いです。右眉だけ動かすような器用な反応は止めて。

「はぁ。」

 肺の中の空気を全てカラにするような深い溜息。

「本当にスイは鈍感なんだね。じゃあ、ちゃんと告白するよ。これは嘘偽りない僕の気持ち。しっかり考えてね。」

「は、はい。」

 思わず姿勢を正し、正座してしまった。だって、こ、告白なんて始めてだもん。

「僕は、スイを愛しているよ。だから、僕を選んで結婚して欲しい。」

「あの、ウィル。」

「ん?何だい?」

 目がくらむ。薔薇背負い込んだ笑顔だ。

「それは…、私が創地帝妃だから、そんな風に言ってくれるの?」

 ピキピキとウィルの顔から笑みが剥がれ落ちていきます。最後まで見てしまったら、家の中で幽霊どころではなく、お風呂で素っ裸の上、目の前に幽霊のアップ、両手を掴まれ、金縛り状態ほどの恐怖に値するよね?でも、逸らしたらもっと怖い目に遭いそうな…。

「確かに、スイが創地帝妃だから、僕達は出会えたよね。それは否定出来ないね。」

 あっ、よかった。どうにか引き攣っているけど、口元に笑みが残った。

全部剥がれ落ちていたら、私、どうなっていたんだろう?くわばら、くわばら。

「僕、創地帝妃だって、魅力がなければ、こんなに真剣に口説いたり、愛を囁いたりしないよ。気のない女性には冷たいって有名なんだよ。だから、創地帝妃だからスイが好きなんじゃなくて、スイって女性だから、スイを愛しているんだよ。」

 …どうしよう。顔から火が出そうです。

こ、こんな情熱的で真っ直ぐな愛の告白なんて、私、どうしたらいいでしょう?

と、とりあえず、落ち着こう。深呼吸、深呼吸。

「あ、あの、ありがとう。でも、私、あのね、失恋経験値ばかり高くて、今、舞い上がっちゃっていて、どうしていいか、わらかないの。それで、あの…。」

「大丈夫。今すぐ返事が欲しいとか言わない。ただ、僕の気持ちも思い切り踏まえて、考えて欲しいだけ。」

「ありがとう。」

「こちらこそ、ありがとう。慰めてくれて。」

「私は、本当の事を言っただけ。」

「さぁ、寝よう。明日も早いんだろう。」

「うん、おやすみ。」

「おやすみ。」

 ウィルが立ち上がり、歩き出す。その背中が見えなくなっても、私は動けない。

ますます、どうしていいのか、わからなくなってしまった。完全に出口のない迷路に迷い込んでしまったような気分に陥っている気がする…。


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