『髪型』と羊達
「なあ、早池峰、その襟足どうにかなんないの?」
おもむろに口を開いたのはユーリだ。
「何がだ」
「だいぶ伸びたじゃん。切るなり結ぶなりすればいいのに」
哭士の襟足を指差す。確かに、ユーリの言うとおり襟足がかなり伸びている。
だが哭士は一度だけ首を振った。
「面倒くさい。このままでいい」
「俺、切ってやろうか? 結構、他の人の髪も切ったりしてたし」
「いらん」
そう言いながら手元の本に視線を戻す哭士。
『私、ヘアゴムならもってますよ。お兄さんの友禅さんも髪を結ってますし、一回お揃いにしてみたらどうでしょう』
色把が哭士の後ろに回り込む。
哭士は肩ごしに色把を一瞬だけ見て、そのまま黙って本を読み続ける。
「あのさぁ、色把……。もしかして不器用なの?」
『え?』
意外そうに振り向いた色把の手元は酷い有様だった。
哭士も髪を引っ張られるたび、身体のどこかしらに力が入っていた。
「早池峰も痛いなら言えよ……。毛からまってるじゃん……」
ユーリも同じく哭士の背後へ回り込む。
「ちょっと代わってみ。こう一回梳いて……」
ユーリの手を煩わしそうに避ける哭士。
「触るな。鬱陶しい」
一瞬、虚を突かれた表情のユーリだったが、次の瞬間にやにやと笑い出す。
「ねえ何で? 何で色把だと怒んねえの? 何で何で?」
「うるさいっ!」
「あれ、どこいくの?」
「便所だ!」
立ち上がり、乱暴に襖を閉め、出て行く哭士。
「あーあ、怒っちゃった」
『ところで、どうして哭士は怒ったんですか?』
「わかってねぇのかよ!」