ホタル人間
博士はゲンジホタルとヒトの遺伝子操作による改良を重ねて『ホタル人間』の改造クローンを生み出した。
ホタル人間は青年の姿をしていて、一般人の男との見分けがつかないが、好みの女性を見つけたり驚くなどのショックを受けると尻が光る性質を持っていた。
博士はそれを二十人ほどコピーして造り、それぞれに番号による名前を与えた。そしてさっそくそれぞれのホタル人間たちに監視付きで日常生活を過ごすよう言った。
博士はホタル人間が全員去ると、さっそく助手が質問を投げかけた。
「いったいこんな発明して何の役に立つのでしょう? 人間の尻が光って何の意味があるというのです?」
「なあに。女性は必ずや彼らの美しく光る尻に惹かれるはずだ。そしてホタル人間の交配は広がって人は進化を果たすだろう。そしてわたしはその進化に一石を投じた存在となるのです」
「そんなもんですかねぇ。ぼくは嫌ですけどね。高尚な高級レストランで光る尻を剥き出しにした男は、まさに宝石に投じられた汚物でしょう」
「普通の尻ならそうだろうが、ホタル人間の尻は美しいからな。いずれ日常的な光景になり、やがては理想のシチュエーションとなるだろう」
博士は機嫌よく次の研究に取りかかった。助手も少し肩をすくめて博士の研究を手伝った。
日が沈んだ頃に、博士の携帯電話がうるさく振動をたてた。博士はそれが雇った監視からの通話だと分かり、すぐさま通話に出た。
「わたしだ」
「ホタル人間の七番が捕まりました」
「なんで捕まった? あんたらを雇ったのは彼らが犯罪を行うことを未然に防ぐためでもあるはずだ。だというのにあんたは何をやってたんだ?」
「公然わいせつ罪ですよ! 惚れた女の前で光る尻を出したという実験対象の行動だったので止めるわけにもいかなかったんです!」
「確かに、それなら仕方ないな。いや、疑ってすまなかった」
博士が通話を切ると、メールが多く届いていた。内容は「ホタル人間は公然わいせつ罪で捕まった」が大半だった。「危険が迫った時にズボンを下げることもなかったために、光っても尻がズボンとパンツに光を覆われたままだった」というのが少数あった。
博士は唸った。世間の美的センスの壁の厚さと法律と醜い履き物によって、人より美しいはずの彼ら新人類は淘汰された。