【3】ネイリストのイズミ
予約したネイルサロンは、藍の住んでいるマンションから徒歩10分ほどの所にあった。
マンションが駅前にあるから、駅からも徒歩10分と、少し離れた場所になる。
周りは住宅地で、まるで隠れ家のように、そのお店はあった。
元々、ふつうの住宅だったのだろう、2階建ての建物の1階部分だけを改装して店舗にしているようだ。
ウッドテイストのデザインに、小さなドア。
そのドアを、若干緊張しながら藍は開ける。
店内から、柑橘系のルームフレグランスの香りと、さわやかな男性の声がした。
「いらっしゃいませ!ご予約のお客様ですか?」
「・・・・・はい、って・・・・えぇっ?!」
(男の人っ?!なんで?!)
予想外の存在に、藍はドアを開けたまま硬直しそうになる。
しかも、ネイルサロンという場所には不釣り合いな、藍の苦手なオシャレ系の男性だ。
どちらかと言えば、服屋のショップ店員とかにいそうな、自分のセンスに自信のあるタイプ。
なんで、ネイルサロンに男?そんな疑問が顔に出ていたのだろう、相手は吹き出しそうな笑顔で訊ねてくる。
「あー、うちのホームページちゃんと見てないで予約した?うち、俺が1人でやってるネイルサロンなんだけど、そんなビックリしなくても・・・」
「は・・・はぁ・・・」
「男がネイリストってそんなに意外?」
「・・・・はい」
思わず、正直にうなづいてしまう。
「はは!正直だねー。でもまあ腕には自信あるから安心して、そちらのお席にどうぞお座りください」
あっけらかんとした笑顔で、相手は藍を促すように正面のソファを案内した。
驚きがまだ消化しきれないまま、ソファに腰を下ろす。
「で?なんかイメージとかある?無いなら見本とかもあるけど・・・」
テーブルを挟んで向かい側の椅子に座ると、彼はネイルチップがいくつか張り付いた見本らしきものを手にとる。
(・・・え?え?・・・なにが、どうなって??)
混乱したまま、藍は見本と相手の顔を見比べる。
白い半そでのTシャツを着た、どちらかと言えば鍛えた体。首にはネックレス。
しかも、ワイルドな感じでヒゲまで生やした男がネイリスト?
自分の脳味噌のキャパシティを超えた事態に、藍は手をグーにして叫んだ。
「・・・ちょっと待った!まずは説明してください!」
「何を?」
「何をって・・・そんなの!あんた、一体なんなのよ!?」
「ネイリストですが?」
「いや!いやいやいや!そうじゃなくてですね!!」
「そうじゃなくて?」
パニックする藍を他所に、相手は余裕の対応だ。むしろ、何か楽しんでいるようにも見える。
「なんで、男がネイリストなんかしてんですか?!」
「んー・・・、したいと思ったから。なんでって言われると、説明できないけど。まあ、いいじゃん」
さらっと、一言でまとめると、サイドテーブルから名刺を出した。
「あ、これが名刺ね。ネイリストのイズミです。どうぞ宜しく」




