表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

【1】28歳最後の日

最低最悪の気分で迎えた、29歳の誕生日。

このままではマズいと、小早川 藍はジタバタする。。。。


「あー・・・明日、誕生日だ」

時間を確かめる為に開いた携帯電話。

そのもうすぐ変わりそうな日付を見て、藍はつぶやいた。

「え?先輩、誕生日なんですか?!」

「・・・いくつになるんですか?って質問は禁止!!」

手に持った携帯をジーンズのポケットに仕舞いこみながら、後輩≪神崎 勇人≫の人懐こい笑顔を睨みつける。

「えぇ~?!いいじゃないですかー。言ってもそんなに年変わらないでしょー」

「あほ!新卒で今年入社したお前と一緒にすんな!こっちは微妙なお年頃なんだよ!」

女とは思えない、男言葉で後輩に毒を吐く。

そんなキャラクターも、大学を卒業して入社7年目となれば馴染んだものだ。

元々、男らしい性格だと学生の頃から言われていた藍も、この会社で働きだしてからそれが悪化したような気がする。


化粧品メーカー『ステイジア』

藍が大学卒業後、新卒入社で入社したこの会社は、世間ではそこそこ名前の通っている大手企業である。

が、、、実際入社してからの仕事内容は、想像してた世界とは大きく違った。

カッコ良く、流行の最先端でテキパキと仕事をしている自分を思い描いていたわけじゃない。

ただ、こんなにも自分の理想と大きく違う未来が待っているとは思わなかったのだ。

化粧品というから、上品でキラキラした世界かと思っていたのに、藍が配属されている店舗サポート部の

仕事は激務で過酷。社内でも有名な3Kの職場だった。

3Kとは、汚い。キツイ。筋肉が鍛えられる、だ。

なんで筋肉かって?

それは、店舗サポート部のメイン業務。店舗陳列応援作業にある。

自分の担当エリアで新しい販売店がオープンしたり、リニューアルするとなれば、その立ち上げからオープン、店舗運営を全力でサポートする。つまり、工事から棚に商品を並べて販売できるまでを、ひたすら裏方で支える仕事なのだ。

部署は勿論、ほとんど男性社員で固められていて、女性である藍がここに配属されたのも謎。

学生の時から部活動をしていて体力に自信はあったが、ここまで肉体労働が待っている部署とは思わなかった。

力仕事が要求される為、部署内では女性の立場は弱いし、お荷物扱いされることも少なくない。

化粧品という商品を扱っているからこそ、売り場立ち上げに女性の感性を求められることもあるが、それが大きな貢献に繋がっているまでの自信は無い。

それよりも、地獄のような重たい荷物運びと、拘束時間の長さに藍は近頃辟易しつつあった。

それは、時に深夜になっても。オープンまでに片付かなければ、決して帰宅することはできないのだ。


と、いうことで、今日も藍と神崎の2人は日付が変わろうとしている今現在、明日オープンの新店舗の陳列作業を行っている真っ最中だった。

この約半月、この新店舗の為に睡眠時間も削って仕事をしてきたのだ。

ナチュラルハイにも誕生日すら忘れる状況にもなっても当たり前だ。


「でもさー先輩。明日が誕生日だってのに、彼氏さんはいいんですか?」

「はぁっ?!」

「本社の商品開発部、一之宮さんと付き合ってるって。こないだ噂で聞いたんですけど・・・・あれ?」

棚に並べる化粧水のボトルを箱から出しながら、神崎がキョトンとした顔で見る。

気遣いで聞いた質問に、藍の眉間にシワがよったからだ。

「え?え?・・・違うんですか??」

「・・・・・・・・・・・・・・・・いや、別に・・・・」

「別にって?」

「・・・・・・・・別れた・・・・・」

「・・・・・!?」

「先週に別れたっつーの!悪いか!!」

最後は藍が耐え切れなくなってキレた。

一之宮 ただし 36歳。

確かに、先週までは藍の彼氏だった男だ。

ただ、ちょっと行き違いがあっただけで・・・・。もう、付き合い続けるのが無理になった。

「ええぇ~っ?!マジ?!だって一之宮さんって、めっちゃ優しくって!そんな誕生日の1週間前にフツー別れます?!・・・先輩ってば、何したんですか?!」

「なんで私が悪いこと前提なんだよ!」

「だって!レディーファーストで有名な一之宮さんですよ!本社の最年少課長!出世間違い無し!」

「だからって、なんで私のせい?」

「つーか、先輩と付き合ってること自体が奇跡なのに!」

「やかましい!」

大騒ぎする神崎の足を思いっきりつねった。

「いてぇ!・・・ほら!ほら、そーゆー乱暴なところ!なんで一之宮さんと付き合えたんだか!ステイジアの奇跡ですよ!」

「うっさい!」

付き合おうと告白してきたのは向こうだ。

勝手に理想を描いて、そして勝手に幻想を抱いて。

彼と別れたことは、藍にとって何の不思議でも無い。むしろ、誕生日前のこの時期に、結論を出したのは藍だった。

・・・・さすがにそれは、神崎にも言えないけれど・・・。


とにかく、彼氏無し。仕事はキツイ。

そんな状況で、29歳の誕生日を迎えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ